「…………」
「……なんで怒ってるの?」
「怒ってないですけど……」
「じゃあ、何?」
「……別に……」
「呆れてるとか?」
「それは……」
「あー、嫌いになったか」
「違っ――!」
 背中に手を当ててわざと呟くと、慌てたように彼女が振り返った。
「……先生、意地悪」
「それは君が1番よく知ってるだろ?」
 俺がにやにや笑っていたのを見て、不機嫌に眉を寄せてからまたこちらに背を向けた。
 ソファにもたれながら、彼女を足の間に座らせているこの状況。
 しっかりと乾かされた髪を撫でていると、結構気持ちいい。
 風呂でしっかりそれなりの分をいただいてから上がってきたワケだが、風呂から出てずっとこの調子。
 ……でも、これまでの21日間を考えれば優しいほうだ。
「……ぁ」
「機嫌直して」
 ちゅ、と頬に口づけをして抱き寄せると、自分と同じシャンプーの匂いがした。
 ……あー。
「……落ち着く」
「……もぅ」
「俺と同じ匂い……」
「ん……くすぐった、い……っ」
 髪に、まぶたに、頬に。
 それぞれ唇を寄せ、耳元で小さく囁く。
 すると、彼女が苦笑を浮かべながら首を振った。
「なんか……えっちぃ」
「えっちとか言わない。しょうがないだろ? 好きだからいろいろしたくなるし、キスして、抱きしめて……それだけじゃ抑え切れなくて、抱きたくなるんだから」
 つ……と首筋に指を当てると、困ったようにこちらを見上げる……んだが。
 そういう顔するから、歯止めが利かなくなるってこと、わかってないな。
「それを、3週間もお預けくわされて、だぞ? しかも理由がとんでもない勘違いで……」
「だ、だからっ! ……それは謝ったじゃないですか」
「でもね……あ、もちろんまだ寝かせないよ?」
「……はい?」
「まだ1週間分ももらってないし」
 にっこりと笑ってやると、ようやく意味がわかったように頬を染めた。
 相変わらず、反応がかわいすぎる。
 こういう顔するって知ってるから、いろいろやりたくなるんだよ。
「なっ……! えっち!」
「だから、えっちとか言わない」
「だって……!」
「じゃあ、何? ……羽織ちゃんは、俺に抱かれるのが嫌なの?」
「……え?」
 ふっと真面目な顔をして彼女を見ると、驚いたように瞳を丸くしてまばたきを見せ、何か言いかけた唇を閉じてから、俯いて小さく首を振った。
「……じゃあ、何?」
「…………私……」
「うん」
 その頬を両手で包んで顔を上げさせると、頬を染めて困ったように眉を寄せる。
 彼女が何を言おうとしているのもちろんわかるが、それでも、やっぱり聞いてみたい。
 彼女の口から。
「……嫌だったら……泊まりにこないもん」
「だよね? じゃあ、いいじゃないか」
「よ、よくないのっ! だって……恥ずかしいし」
「それを見るのがいいんだよ。自分の手で気持ちよくなってる羽織ちゃんの顔を見るのが、すごい楽しい」
「っ……! えっち」
「男はみんなそう」
 ちゅ、と頬に唇を寄せてから、瞳を合わせてやる。
 そして少しいたずらっぽく笑うと、何を察知したのか腕から逃れようと身をよじった。
「ん? どこに行くのかな」
「やっ……! も、もぅっ! 今日は眠いんです!」
「じゃあ明日にする?」
「っ……だ、だから……」
「俺は今すぐ欲しいんだけど」
「なっ……! だって! さっき、お風呂で――」
「あれはあれ。もう1回と言わず、何度でもほしい」
「やぁんっ! えっち!」
「……ったく。さっきからそれしか言わないな」
 小さくため息をついてから彼女の肩を押さえるも、相変わらず何をされるのかと戦々恐々。
 そんな彼女に微笑んでから、少し意地悪っぽく見つめる。
「お預けを食わされっぱなしの犬は、最後にどうすると思う?」
「……え……?」
「今日最後の質問」
「…………えっと……怒る、のかな?」
「ご名答。いくら優しくて大人しいご主人様にだって、噛み付くんだよ?」
 にやりと口角を上げてやると、瞳を丸くして彼女が首を振った。
「何が嫌なのかな?」
「わ、私が悪いんじゃ――」
「君以外に、俺の主人はいないんだけど?」
「そうじゃなくっ……! やぁっ……!?」
「ダメ。今日は離さないって言ったろ?」
「だ、だって……! もう、もたないっ……」
「何を言う。まだ若いだろ? 俺より先に落ちたらダメ」
「やぁだ……っ! もぅ、眠いのっ」
「じゃあ、眠くなくしてあげるよ」
「んっ! ん……っは、ぁっ……」
 首筋に舌を這わせると、ぞくぞくと身体を震わせてしがみついてきた。
 なんだかんだ言って、素直なんだから。
 ふっと小さく笑ってから彼女を抱き寄せ、抱き上げてから寝室に向かる。
 リビングでいただくのも悪くないが、久しぶりだしベッドがいい。
「っ……ん!」
 彼女をそっとベッドへ降ろすと同時に、唇を合わせて倒す。
 首に回された腕に力がこもり、ぎゅっとしがみつく形で懸命に応える彼女。
 舌を絡めとってついばみ、上顎を撫でてやってから歯列をなぞって吸い尽くすように舌を這わせると、すんなり腕から力が抜け落ちた。
「あ……んっ……」
 服越しに胸へ触れ、小さく反応を見せたそれを指で撫でると、ぴくんと背中を反らせた。
 ボタンを片手で外してから手を滑り込ませ、するりと服が滑り落ちて露わになった胸に直接触れる。
 しっとりとした肌が心地よく手のひらに馴染み、気付くと首から腰まで手を這わせていた。
「……んっ」
 こうして彼女の顔を見るのは、結構イイ。
 感じている証拠。
 それを自分の目で実感しながらさらに追いやるというのは、やっぱりそそられる。
 だが、パジャマをすべて脱がしてしまうと、恥ずかしそうに足を閉じて拒まれた。
「……なんで閉じるかな」
「だって……っ」
 うっすらと瞳を開けて恥ずかしそうに視線を合わせた彼女を見ながら、指を下着の隙間から挿し入れる。
「んっ……!」
「……なんだ、もう準備万端じゃないか。それを――」
「やっ……だ……! いじわるっ……」
「羽織ちゃんが悪いんだろ? こんなにして……」
「あ、ゃ……だって……ぇ」
 視線を逸らした彼女を小さく笑ってから足を開かせ、身体を割り込ませる。
 こうしてしまえば、邪魔できまい。
「やっ……!」
「嫌じゃないんだろ? 素直になったほうが、身のためだと思うけど」
「……え……?」
 にやっとした笑みに、少し不思議そうに瞳を開けた彼女。
 そのまま指先で秘部を撫でると、高い声があがった。
「やぁっ、ん……っ!」
「……ほら、こんな……すごい」
「いじわるっ……も、ぅやだぁ」
「だから、ヤダとか言わない。……身体はそうじゃないみたいだし」
「っ……んぁっ」
 指を花弁に沿わせて何度か往復してやると、さらに熱く潤みを帯びた。
 敏感なのはいいことで。
 指を包み込むようにぴったりと吸い付いてくるそこに指を這わせて彼女の顔を見ると、何かに耐えるようにして眉を寄せていた。
 ……こういうのがまた、いいんだけど。
 たまらない、と言ったほうが正しいか。
「んっ……ふぁ」
 硬くしこった胸の先端を舌で舐め上げると、いい声を聞かせてくれる。
 と同時に、新しい蜜が溢れた。
 それをすくって中心を撫でるように指を這わせると、首に回した手に力がこもる。
「あっ、や……っ……ん」
 小さく身体を震わせるのは、いかにも感じている証拠。
 焦らすように少し場所を変えて撫でていると、彼女が小さく首を振った。
「……ん?」
「いじわるっ……」
「なんで?」
「……それじゃ……っや、ぁ」
「…………じゃあどうしてほしい?」
  意地悪っぽく聞いてやると、潤んだ瞳を向けて小さく唇が動いた。
それが、やけに色っぽく目に映る。
「……先生、が……欲しい」
「俺?」
「ん……」
 一瞬戸惑ってから呟かれた言葉。
 彼女にこう言わせるほどにまで成長させた自分を、誇らしく思う。
 にやっと笑ってから頬に唇を寄せ、ベッドの棚からそれを取り出す。
 そして、自身にあてがってから彼女の耳元に唇を寄ると、また自然と口角が上がった。
「……何が欲しい?」
「いじわる……」
「意地悪だよ? 俺」
「……もぉ……」
 背中に手を回しながら撫でられ、そこがぞくりと粟立つ。
 ……しょうがないな。
 まぁ、上等とするか。
 というよりも――……俺自身が、正直もう待ち切れない。
「っん、ぁ……!」
 秘所へ自身をあてがい、ゆっくりと這入り込む。
 呼応するかのように彼女が小さく息をつき、切なげに眉を寄せた。
「……はぁ……」
「あー……気持ちイイ」
「……えっち……」
「まぁね」
 根元まで飲み込まれた所で、口づけをしてやる。
 すると、とろけてしまうような滑らかさだった。
 彼女にしては珍しく、自分から求めるような口づけ。
 内心ほくそ笑みながら唇を深く落とし、ゆっくりと動き出す。
「んっ……はぁ」
 口内に響く彼女の声。
 くぐもったような響きで、淫逸な感じを一層煽った。
 内壁を擦るようにしてやると、ぴくんと反応を見せてすがりつく。
「あ……や……もぅっ」
「嫌? ……嫌なら、やめるけど?」
「やぁっん! それはっ……もっとやだ」
「……我侭だな。どっち?」
「嫌じゃ……ないのっ……」
「でも、嫌って言うじゃない?」
「……だって、変に……んっ……なりそうで……」
「それが、嫌?」
「……嫌……じゃないけどぉっ」
「…………どっちだよ」
 くすくす笑って唇を耳元に寄せてやると、奥に届くのか甘美な声を漏らす。
 あー、たまらない。
 気持ちよすぎて、くらくらする。
「はぁ……っ……すご」
「……すごく、何?」
「………いじわる……っんぁ!」
「感想を聞いてるんだけど?」
「……ふぁ……っ……気持ち、いいっ」
「ん。正直が1番」
「あっ、やっ……んんっ」
 ふっと息を耳元にかけながら、彼女の感じる場所を突いてやる。
 すると、案の定胸に当てた手を震わせて、唇をうっすらと開いた。
「ん、んっ……! ……う、ぁ!」
「……っく……」
「あ、やぁっ……! だ、めっ……ん!」
「……だめとかっ……言わない」
「だ、って……ぇ……あ、あぁっ、い……やぁっ!」
 彼女が高みに差し掛かるのを感じて律動を早めてやると、悩ましげな表情で何かを耐えるように唇を噛んだ。
 ……たまらん。
 などと考えていると、ふいに締め付けが襲ってくる。
「ッく……」
「あんっ……も、だめっ……! せんせ……っ! せん、せ……ぇ!!」
 首に回された手に力がこもり、ぎゅっと抱きつかれた。
 途端、強烈に締め付けられ、ほどなくして自身も果てる。
 ……あー、ヤバい。ものすごい気持ちよかった。
 やっぱり、彼女なしじゃ生きられそうにない。
 もちろん、身体だけじゃなくて、精神的にもだけど。
「……もぉ……えっち」
 汗で額に張り付いた髪を撫でてやりながら頬に唇を寄せると、潤んだ瞳を開いて目を合わせた。
「それは羽織ちゃんも同じ。……あんな声出して……えっち」
「あれはっ……! 先生が、いじわるするから……」
「意地悪じゃないだろ? むしろ、善行」
「違いますっ!」
 少し拗ねたような顔を見て笑ってから、唇を塞ぐ。
 とろけるような口づけは、また彼女をたまらなく欲しくさせるには十分で。
 しばらく休ませて……もう1回、か。
 そんなことを知ってか知らずか、彼女はかわいい顔で微笑んだ。
 ちゅ、と音を立てて頬と首筋に唇を寄せてから、そっと抱きしめる。
 ……やっぱり、彼女が幸せそうな顔をしてくれるのを見るのが、俺にとって何よりの幸せかもしれない。
 この3週間を振り返ると身が切られそうになるが、今手元に彼女があるのは事実。
 ……救われた。
 彼女なしでは生きていけない身体になった自分。
 そんな自分が、少しおかしくもある。
 明日は休みだし……うん。
 この数日で、十分取り戻せそうだな。
 何も知らない彼女を見てから、俺が小さくほくそ笑んだのはいうまでもない。

ひとつ戻る  目次へ