「……は……ぁ」
 器用に上着を脱がされ、彷徨うように撫で上げる手のひら。
 自分よりずっと大きくて、しっかりしてて。
 いかにも男を感じるから……どうしても、ドキドキする。
 もちろん、好き。
「んっ、ん……」
 胸元を撫でるようにしてから、柔らかく揉まれる。
 ぞくりとしたモノが背中を伝わり、余計身体が敏感になっていった。
「あ、や……っ……ん」
 すくわれるように胸に触れたかと思いきや、そのまま先を尖らせた先端を含まれた。
 熱い舌が絡んで、どうしたって声が漏れる。
 いつも思うんだけど……こういうときに、男が脱がないのってなんか悔しい。
 だから、私はなんとかして脱がせるんだけど。
「……何してんだよ……」
「っん……! だ、って……」
「邪魔すんな」
「するっ」
「……しつこいぞ、お前は。大人しくしてろって」
「やっ……」
 ボタンを外そうと手をかけたら、早速捕まった。
 くるっと器用に手首をまとめられて、そのまま頭の上へと追いやられてしまう。
「んっ……ぁや……」
 何度となく与えられる、快感。
 だけど、もっと欲しい……って、無意識のうちに腕が純也の首を捉える。
「……純也……ぁ」
 ときどき漏れる、自分でもびっくりするくらいの甘い声。
 そのたびに純也が柔らかく髪を撫でてくれて、やっぱりそれは嬉しかった。
 嬉しい……っていうか、安心するっていうか……。
 やっぱり、好きなのよね。
「んっ!」
 まだズボンも下着もつけたままなのに、秘所に感じる……純也の指。
 いつの間に!
「やだっ……えっち!」
「えっちはないだろ。……つーか、お前が――」
「やぁっん……! や、ちょっ……んん」
 耳元で囁きながらの、愛撫。
 指先だけなのに、随分とダイレクトに身体に響いた。
「はぁ……あっ……ん、……ふぁ」
 ゆるゆると動きながら、響かせる濡れた音。
 それが自分の身体だと自覚すると、いっそう快感が大きくなってしまう。
「……やだ……もっ……んぁ……ふ」
 くちゅくちゅという音だけでも、おかしくなりそうだ。
「あ、あっ……」
 求めるように純也に抱きつくと、同時に指が中へ這入ってきた。
「ん……ふぅ……ぁ」
 奥まで探られ、たまらず声が漏れる。
 だって、そんな……。
「ちょ……待って、も……ダメだってば……」
「ダメ? 何がダメなんだよ。まだ平気」
「んっ! へ……いきじゃないっ……から……」
 言うと同時に弱い部分を突かれ、背中が反る。
 ふと瞳を開けると、やけに楽しそうにしている純也と目が合った。
 ……何よ……すごい楽しそう。
 それが、悔しい。
 しかも……なんか、やけに色っぽいのよね。
 こういうときの顔って。
「やっ……ちょ……んんっ」
 手から力が抜けてしまう。
 変わりに、大きくなる喘ぎ。
 荒く息をついてベッドに身体を預けると、純也が覆いかぶさるように唇を頬に寄せた。
「……イキたいか?」
「なんてこと……っ……聞くのよ……」
「いや、俺はもう這入りたいんだけど」
「っ……えっち」
 なんつーことを言い出すのかと思う。
 眉を軽く寄せて純也を見ると、苦笑を浮かべて軽く唇にキスをくれた。
 ……ったく。
「……きて……」
 ぎゅっと首に腕を絡め、近づいた耳元に唇を寄せる。
 ……耳弱いでしょ。
 それを知っているから、ついついこうしてやりたくなってしまう。
 ちゅ、と小さく音を響かせて耳たぶを甘噛みすると、純也がちょっとだけ力を抜いた。
「っ……何し、てんだよ……」
「私もする」
「……手加減しないからな」
「いつ、手加減なんてしてくれたことあるのよ」
 純也の言葉に言い返すと、思わず笑いが出てきた。
「……それも、そうか」
 瞳を合わせ、彼も同じように笑う。
 ……ったく。
 くすくすと笑い合う小さな声も、なんだか秘密めいたことをしているようで好きだ。
「……いいか?」
「ん。……来て」
 こくん、とうなずいて彼に手を伸ばす。
「んっ……ぅ」
「……は……ぁ」
 ゆるゆるとした動きながらも、しっかりと感じる純也自身。
 早い脈を中で感じると、なんだか幸せ。
 こういうときの純也の顔を見れるのも、結構嬉しい。
 すごく……色っぽくて、うっすらと開いた唇にキスしたくなるし。
 じぃっと見つめていると、自然に瞳が合う。
 そっと髪を撫でてから柔らかく笑う――……けど。
「あ、んっ……ん!」
 いつも、そうだ。
 どうしたって、こっちが優位になることはできない。
 翻弄されると同時に与えられ続ける、快感。
 おかしくなりそう……。
 毎回毎回思うけど、やっぱり……このときはいい。
 すごく近くに、彼を感じられるから。
「ぁんっ……く……ぁ、純也っ……ぁ」
「……すげぇ……気持ちいい」
「っん……ぅ」
 荒い息とともに囁かれると、ぞくっと背中が粟立つ。
 それは……もちろん、嫌いじゃない。
「あ、あっ……んん、ダメっ……」
「ダメじゃないだろ……ここがっ……いいんじゃないのか……?」
「……や、だっ……意地悪ッ……!」
 ぐいぐいとした突き上げに、ベッドがきしむ。
 弱い部分をしっかりと擦り上げられて、果てが近づいてきた。
「んっ、んっ……純也っ……やだ……ダメって、ばぁっ……!」
「っく……ダメじゃないだろっ……て……」
 こちらの限界を感じたのか、彼が自然に動きを速めた。
 同時に、奥までしっかりと突き上げられる。
「ふぁあ、あっ」
 ぞくぞくと広がる快感に、声がどんどんと溢れていく。
 それはすごく淫らで、イヤラシイ。
 だけど、もっと……欲しくて。
 無意識のうちに抱きついた。
「っく……ふぁ、ダメっ……も……っ! いや、やっ……イっちゃ……ぅんっ!」
 身体が強張って、つま先まで悦が走り抜ける。
 びくびくと彼自身を何度となく締め付け、彼を捉えていた手に力がこもった。
「! ぁ……ふっ……んん、や……っ」
 果てたばかりの身体で悦を与えられると、すぐにまた無意識に締め付けてしまう。
 すると、律動が早まったかと思った途端、ほどなくして純也自身ももたれてきた。
「……っは……ぁ」
 熱い吐息がかかって、すごくすごく愛しさが込み上げてくる。
「……純也」
 瞳を閉じ、彼に抱きついたままで、そっと名前を呼ぶ。
 すると、毎回決まって……彼はキスをくれる。
 優しい子どもをあやすようなものじゃなくて……私をひとりの女として求めてくれる、荒っぽい口づけ。
 だけど、やっぱりこうしてくれるのはすごく好き。
 繋がったままでするキスは、満たされた気持ちになるし。
「……大好き……」
 抱きしめられたままで呟く言葉は、大抵彼の胸元でだ。
 そんなときの純也の反応がかわいくもあり、嬉しくて……自然に笑みが漏れた。
 こうして愛されたときは、やっぱりくっついていたくなる。
 そばにいて、朝起きたときにも近くにいてほしいと願う。
 いつもならば『くっつくな』なんてからかう純也も、このときばかりは何も言わないし。
 むしろ、しっかり自分のそばに腕があって……嬉しい。
「……なんだよ」
「別に?」
「ったく……」
 そっぽを向きながらも、ちょっと頬が赤い。
 なんだかんだ言って、お互いさまなのよね。私たちって。
 お互い強がって、つっぱって生きてきた者同士。
 だから……磁石みたいに、ぴったりくっつくことができたのかもしれない。
 今は、すごく幸せ。
 ずっと探していた自分のパーツが見つかったみたいな感じだから。
 ……月曜日、羽織に会ったら感謝しなくちゃ。
 『おかげで、楽しかった』って。
 そう言ったときの羽織の嬉しそうな顔が思い浮かんで、自然に顔がほころんだ。
「…………」
 たまには、いいかもしれない。
 こうして、いつもと違った時間の使い方をするのも。
 明日も……ちょっと考えてみようかしら。
 そんなことを考えながら、純也にちょっとだけ寄り添うようにして、瞳を閉じていた。

「……とまぁ、そんなわけよ」
「へぇー。よかったね、絵里」
「……なんでそうなるのよ」
「え? だって、そういうことでしょ?」
 SHRが終わったあと羽織に報告したら、にこにこと笑ったまま『よかったね』ばかりを繰り返された。
 ……何よ、その顔。
 アンタらしくないわよ? それ。
「たまには、デートするのも悪くないでしょ?」
「………まぁ……。それは、うん」
「絵里、かわいかったんだろうなぁ」
「かわいくないわよ」
 何やら、2倍も3倍も膨らませて想像しているような顔をした羽織の目の前で、ぱたぱたと手を振ってやると、ようやくこちらに気付いて笑みを見せた。
「だいたい、かわいい格好して彼氏に食われるのは、アンタの担当でしょ?」
「っ……なんでそうなるの?」
「だって、ホントのことじゃない」
「違うもん!」
 にやぁっと笑って頬杖をつくと、慌てたように彼女が首を振った。
 でもね、羽織。
 そんなに顔を赤くしたままで否定したって、迫力も説得力もないんだから。
 ……そんでもって、これだけ強く否定するってことは――……やっぱり図星なんでしょアンタ。
「そんなんじゃないもん……」
「わかったわかった。そういうことにしておいてあげる」
「……ホントだもん」
「…………どうだか?」
「絵里っ!」
 やっぱり、彼女に対して出てしまう意地悪な面。
 羽織が目の前でいじめられたりしていたら、なんとしてでも救い出そうと思う。
 だけど、ついついいじめたくなるのよねー。この子って。
 ……あらヤダ。
 もしかして、私ってば先生と似てる?
 でも、気持ちがわかるからしょーがない。
 こういうふうに一生懸命否定する子って、非常に弄り甲斐があるというかなんというか……。
 ……くふ。
 相変わらず顔を赤くして困っている羽織を見ていたら、自然と性格が悪そうな笑みが漏れた。
「ま、今回は羽織に感謝しよう」
「え?」
「結構楽しかったからね、デートも」
「……うんっ」
 にっと笑って彼女を見ると、すぐに満面の笑みを見せた。
 彼女のこういう部分は、私も見習わなければならない点だ。
 他人の幸せを、自分のことのように感じて素直に喜べること。
 多くの人々がすんなりできないという寂しい世の中だからこそ、彼女のような存在が増えなければならないと思う。
 ……私も、もう少し見習って素直になろうかしら。
 にこにこと素直に自分の感情を表現している羽織を見ていたら、自然とそんな思いが湧き上がった。
 ――……結局。
 やっぱり、純也の前じゃ微妙に素直になることはできなかったんだけどね。
 ……でもまぁ、それが私っていう人格だ……ってことにするしかないでしょ。うん。


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