彼女が声を出すまで、する。
 それが今回の目的だ。
「……っ」
 心の中でほくそ笑んでから、唇をそっと塞ぐ。
 もちろん、キスなんて序の口。
 さすがに、これで声を出させようとは考えていないが、しっかりと味わってやってから唇を離すと、うっとりとした表情を見せた。
 ……これだよ、これ。
 久しくきっちり見れてなかったぶん、ついいたずらっぽく笑みが漏れる。
 そのまま耳に唇を寄せ、彼女の弱い場所をしっかりと舐めてやることにした。
「っ……!!」
 ぴくっと身体を震わせたかと思うと、彼女が慌てて口元に手を当てた。
 手と言っても、ワイシャツの袖で隠れているが。
「……こら」
「え……?」
 眉を寄せて、ぱっとその手を払う。
 それは違反行為だろう。
「それはダメ」
「だ……だって! こうしなきゃ……声出ちゃう……」
「ダメなものはダメ」
「っ……無理ですよ!」
 ふるふると首を振って眉を寄せた彼女に、瞳を細めて顔を近づける。
「無理じゃない。やるんだよ。……わかった?」
「……いじわる……」
「意地悪なんて、今に始まったことじゃないだろ? ほら、手は使わない」
 両手首を掴んで頭の上に追いやると、シャツの裾が上がって下着が目に入った。
「……やらしいな」
「やっ……!? もぅ、先生が悪いんじゃないですかっ!」
「そんな口、いつまで利けるのかな。……せいぜい、がんばって」
「……うぅ」
 にっと笑ってやってから、再び耳元へ。
「……っ……ふ」
 きゅっと結んだ唇から、つらそうに漏れる吐息。
 それがかえって淫らに響く。
 首筋に唇を当て、軽く舐め上げるように吸ってやると、すぐに跡がついた。
 さらに彼女が弱い部分……うなじに近い、あそこへ舌を這わせ、口づける。
 耐えるように眉を寄せる彼女を見てぺろりと舐めると、身体に力を入れて唇を噛んだ。
 ……結構耐えるもんだな。
 普段ならば、絶対に声を漏らす場所。
 だからこそ、ここならば……と思ったのだが、意外とねばる。
 これは、これは。
 やり甲斐ってもんがあるじゃないか。
 小さく口角を上げてからボタンを外し、そのまま胸元へ。
 もちろん、ここでも手は使わない。
 なぜか?
 ……意地、だな。こうなったら。
 マリンに対抗しての、とでも言っておこうか。
 …………どうせ、下らないと失笑されるモノだろうが。
「……っ……はぁ」
 さすがに胸の先を含むと、微妙なラインの吐息を漏らした。
「……今のは声に入らないわけ?」
「はいり、ませ……っん……」
 舌を寄せたまま彼女を見ると、ふるふると首を振って小さく答えた。
 ……ふぅん。
 まあ、いいけど。
「っ……!!」
 シャツを脱がしてやりながら再び舐め上げると、背中を反らして口を結んだ。
 ……結構、強情。
 まぁ、そのほうが落とし甲斐もあるし、さらに励んでくれればそれはそれで楽しい。
 胸から下腹部に沿わせて唇を寄せてやってから、そのままショーツを下ろす。
 すると、小さく身体を震わせて足を閉じた。
「……何」
「だめっ……ぇ……そこは、無理……っ」
「だから、無理じゃないんだって。やるの」
「っ……あ!」
 小さくため息をついて足の間に手を入れ、ショーツを脱がせる。
 いつものクセで、つい指を這わせたくなる衝動を抑えながら、茂みだけをかきわけて――……唇をあてがうと、身体が鋭く反応した。
「っ……ぅあ」
 たまらず漏れた、声。
 ……いいね。
「今、出したよね?」
「出してませっ……!」
 ぶんぶんと首を振りながら耐える、彼女。
 ……まぁ、いいか。
 そのくらいなら許容範囲としてやろう。
 これまで必死に耐えてきたんだしな。
 …………だが、個人的に欲しいのはそんな小さい声じゃない。
 自分で言っておいてなんだが、やっぱり彼女の声は魅力的なわけで。
 我慢、と言っておきながらも、やはり聞きたいものは聞きたい。
 ……というか、出させてやりたい。
 そんなに優しく責めるつもりなんてないし。
 舐めるように舌先を動かすと、ぴくんと足を震わせて反応を見せた。
「……っ……ん」
 ときおり漏れるようになった、声。
 やはり、我慢しきれないらしい。
 ……まぁそれは最初からわかってたけど。
 敢えて問い詰めることはせず、そのまま行為を続けてやる。
 舌先に彼女の蜜を絡めるようにしてやってから、わざと音を立てて舐め上げることを。
「っ……! ん……く……」
 高い声。
 そして、荒い吐息。
 いつもよりずっと感じているのではないかと思わされる、その反応。
 だからこそ、もっと乱してやりたかった。
 耐えられず、いつもより多く声を聞かせるように。
 充血をし始めた花芽を、しゃぶるように舌を這わせる。
 途端に反応が変わり、肩に当ててきた手に力がこもった。
 何かを待つような。
 ……何かに耐えるような。
 彼女が上り詰めつつあるのを感じてさらに責めやると、足を震わせて小さく吐息交じりの喘ぎを漏らした。
「っ……あぁ……ん!」
 泣いてしまいそうな声。
 果てるときの彼女は、そんな声を漏らす。
 今日はいろいろな制約があるからこそ、余計にその色合いが濃い。
 だが――……。
「っ……え……?」
 責めるのをやめ、1度唇を離す。
 途端、拍子抜けしたような彼女の声が聞こえた。
 ふっと瞳を見ると、『どうして?』とでも言わんばかりの、濡れたいい瞳。
 にっと口角だけ上げて笑ってやってから、再び角度を変えて舐め上げる。
「っ……ぅ」
 ぴくんと反応を見せて、恐らく先ほどよりもずっと強い刺激となったそれを耐える姿。
 ……たまらないね。
 果てかけたのを制して再び刺激してやると、ずっと強い衝動になる。
 彼女の場合それが顕著に現れるからこそ、ついつい寸止めしてやりたくなるわけで。
「んっ……ん……ぁ」
 肩に置かれた手にこもる力がさらに強くなる。
 2度目の高みへの前触れ。
 ちゅ、と音を立ててから唇を再び離すと、肩で荒く息をつきながら眉を寄せた。
「……せんせ、ぇ……」
 今にも泣きそうな瞳。
 そして、懇願してくる甘い艶のある声。
「限界?」
「……いじわる……」
 瞳を潤ませて首を振る彼女に小さく笑うと、首に回した腕へ力を込めた。
 ……しょうがないな。
 そろそろ許してやるか。
 泣かすのが目的じゃないし。
「っ……ん、んんあ……っ」
 唾液と彼女自身の蜜で濡れたそこに息を軽くかけてから、少し強めに吸いつく。
 途端彼女が声をあげ、ぴくんと身体を反応させた。
 いつもはしない、責め方。
 それがあるからか、やけに反応がいい。
「やっ、だ、めぇっ……! せんっ……せぇ、や、い、やぁっ……!」
 泣いてしまいそうな声にときおり舌先で撫でながら、さらに責めたてる。
 喘ぎ交じりの吐息を、もっと聞きたかった。
 もっと。
 そう言われているような錯覚に陥り始めていたのかもしれない。
「あ、んっ……! や、……っ……っあ……!! い、やぁっ……ん!」
 ひときわ高く声を響かせたかと思うと同時に、がくがくと彼女が震えを見せた。
 舌を離して彼女を見ると、瞳を閉じて唇をぎゅっと結んでいた。
 瞳の端に、若干涙が見える。
 少し呼吸が落ち着いたところで、今度は秘部へ。
 独特の香りの蜜をすくい、再び含む為に。
「やぁっ……ぅ!」
 びくっと身体を震わせた彼女を解きほぐすように柔らかく舐め上げてから、そっと顔を離して彼女の唇へ。
「……んっ……ん……ぅ」
 彼女を味わった舌を絡め、あえて香りをうつすようにしっかりと口づける。
 最後に唇を舐めてから目を合わせると、俺らしからぬ笑みが漏れた。
「それじゃ、おやすみ」
「え……っ……!?」
 途端、眉を寄せて驚いたような顔を見せた。
 それもそうだろう。
 まさか、彼女もこれで終わりとは思っていなかったろうから。
「や……どうして……?」
「声出したろ? だから、これでおしまい」
「なっ……! だ、だってぇ……無理ですよぅ……」
「言い訳はいらない。それに、嫌だったんだろ? だからおしまい」
 わざと意地悪っぽく笑ってみせると、途端に泣きそうな顔を見せた。
 しどけなく唇を開き、ゆるゆると首を振る。
 ……いいね。
 そういう顔、かなりソソられる。
「や……ぁ」
「どうして? もう意地悪しないんだよ?」
「……そうじゃな、くてっ……」
 ぎゅっと抱きつかれ、早い鼓動を布越しに感じた。
「先生は……いいんですか……?」
「何が?」
「……おしまいで……」
 恐る恐る視線を上げ、こちらの気持ちを聞いてきた。
 ……いいわけないだろ。
 そう言いそうになるのを堪えながら首を縦に振ると、ますます困った顔を見せる。
「……いじわるしないで……ぇ」
「意地悪じゃないだろ? これで終わりにしてあげるって言うんだから」
「それが、いじわる……ですよ……っ」
 よくぞ、彼女にここまで言わせられるようになったな。
 もしこんな事言わせてるなんて彼女の両親にでも知れたら、殺されるかもしれない。
 潤んだ瞳をまっすぐに向けられ、思わず視線が逸れる。
 ……キスしてしまいそうだった。
 そのまま有無を言わせず、抱きそうだった。
 危ない危ない……。
 小さくため息をついてから向き直ると、彼女が何かを言いかけて唇を結んだ。
「……何?」
「やめないで……」
「じゃあ、どうしてほしい?」
「っ……それは……」
 あえてにっこり微笑むと、視線を外してからゆっくりと俺を見上げた。
 この表情は、やっぱりイイ。
「ちゃんと……してください」
「何を?」
「……だからっ……先生も……気持ちよくなってほしいの」
「っ……」
 本当に小さな声で、彼女がそう呟いた。
 濡れた眼差し。
 しどけなく開いた唇。
 ……自覚なしだろ?
 たまらないな。相変わらず。
「んっ……!」
「優しくしてやる自信、ないからな……」
 瞳を細めてそう口走ると、こくんと小さくうなずいた。
 ……ヤバい。
 ちょっと……本気で手加減できないかもしれない。
 迫り来る衝動を感じながら彼女に口づけをし、ベッドの棚へ手を伸ばす。
 これまで2週間我慢させられたということもあったが、それよりも、今の彼女の言葉で一気にタガが外れた。
 ここまで自分が欲するとは思いもしなかっただけに、喉が鳴る。
 支配欲。
 よくいえばそんなところだろう。
 悪くいえば……激情ってところか?
 彼女を乱すこと。
 狂わせること。
 自身を求めさせ、あえて意地悪く反応を見せること。
 それらに、強い快感を得ていたような節があり、思わず笑えた。
 ……それでも。つい、したくなるんだ。
 彼女を抱きしめ、口づけをするのと同じくらいに。


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