Dr.青のとある一日

産婦人科は、妊娠・出産や、女性の体に関することすべてを診る専門の場所だ。
 体に関するちょっとした悩みなども気軽に相談してもらいたいと、
 過ごしやすく落ち着ける空間を心がけている。
 インストゥルメンタルの音楽、淡い色で統一された内装、壁に立てかけられた絵画。
 忙しない雰囲気の病院内において、この産婦人科だけは切り離された異空間のようだ。
自宅と同様に過ごしてもらえるようにと病室も比較的広い。
 個室なので、プライバシーも守られる。
受付も他の科とは別に設けられている。
 ひっきりなしに開かれる扉と看護師の声。
 藤城総合病院の産婦人科には男性である看護士はいない。
 もちろん、他の科には女性に混じって働く男性看護士の姿がある。  カルテを書きこんで、閉じる。
 その時デスクの上の電話が鳴った。
「分かりました」
 帝王切開のオペが入った。
 他の医師も手が空いておらずお呼びがかかったのだ。
 電話を切ると、椅子から立ち上がる。
 白衣を翻して診察室から出て行く。
 静かに扉が閉じる。
 扉には、看護師の手によって不在の札がかけられた。
 


 オペが終わり自分の診察室に戻る。
 椅子に深く腰掛けた。
 さりげなく差し出されたコーヒーに、感謝をする。
「ありがとう」
 早速カップに口をつけて礼を言う。
 見上げると目が合った。
 場を離れる看護師は、扉に向かう。
 不在の札を下げ、戻ってきて開口一番こう言った。
「青先生も罪な方ですね」
 40代も半ばと思われる産婦人科の婦長は、笑みを浮かべている。
 歳の離れた弟のような気分なのだろうか。
 院長との区別で下の名前で呼ばれているのだが、
 黙認している。言われて不快を感じる人ではない。
 いつも世話になっていて頭が上がらない部分もある。
「若いお母さんが、熱心に診察を待ってらっしゃったらしいですよ。
 それはいつものことですけど、今日の方は特に熱が入ってて。
 受付でオペが入って先生が診察できなくなったことを
 お伝えしたら、かなりショックを受けてらしたようなんです。
 こう、雷に打たれたみたいな」
「面白おかしく伝えなくていいですよ」
 身振り手振りまで加えて話す陽気な婦長に、苦笑する。
 本当にこの年代の女性はかしましい。
「さすがに指名はできませんものね。
 別の先生の診察を受けられたんですけど、帰る背中が寂しそうで
 受付の子も気の毒に感じたんですって。
 こればかりは残念としか言いようがないですが、
 先生もこんなに熱烈なファンがいて幸せですね」
「芸能人じゃないんですから」
「いえいえ、先生が来てから、若い患者さんが
 増えた気がしますし、何より病院全体も活気づいてます。
 新しい時代が来たってことですかね。
 私も他の科の看護師と会うたびに羨ましがられてて」
 頬を染める婦長に笑みかければ、おほほと笑った。
「誠心誠意、患者さんに尽くしているだけですよ。
 取り立てて他の医師と違うこともない」
「看護師にも人気があるじゃないですか」
「……はあ」
 一体どんな反応をすればいいのだろう。
 まだまだ院長の足元にも及ばないし、病院内にも信頼が厚い医師は多い。
 この産婦人科婦長も男女問わず人気がある。
 よく喋るのがたまにキズだが、世話好きで親しみやすい人柄だからだ。
「今日午前から待ってくれていた方というのは?」
「受付で尋ねてみて下さい」
「そうですね。分かりました」
 微笑んだ婦長に頷く。
 一言、手紙でも書いて受付に渡しておこう。
 帰り際なら時間も取れる。
 病院だし、都合がつく医師が診るのだからそこまでする必要はないのかもしれないが、
 一期一会の出会いは大切にしたい。ここが病院といえども。
 ぜひ次は直接診察する機会があればと思う。
 いつも自分が診察できるとも限らないけれど。


今日も一日目まぐるしく過ぎた。
 毎日思うが、色々な患者さんがいる。
 ひとりひとりと目を見て話す。
 治療のみではなく、話をすることは重要だ。
 診療を終えて、合図をすると看護士が次の患者を呼ぶ。
 それが繰り返され。
 日が沈み、部屋には照明がつけられている。
 受付で例の若い女性の患者さんの名前を聞くとデスクに向かった。
 ペン立てから万年筆を取り、デスクの引き出しから
 ルーズリーフを取り出す。
 かわいい便箋がよかったのかもしれないが、あいにくそんなものは用意していなかった。
 センスも何もないルーズリーフにペンを滑らせる。
『芹沢さん、緊急手術が入ってしまったもので、申し訳ない。
 女性にとって妊娠・出産は人生の上でもっとも重大な出来事のひとつだと思います。
 その大切な時期に藤城総合病院を選んで来てくれたことは何よりの喜びです。
 信頼を得られている何よりの証なのですから。
 もちろん患者の方のお顔とお名前は一人一人覚えています。
 次回は必ず診察させて頂きたいと思っていますが、
 もし都合がつかなかった際はご了承ください。

 お大事になさってくださいね。
 十分な栄養と適度な運動は不可欠ですよ』
 ルーズリーフに横型の白封筒。宛名に芹沢さんへと書いた。
「今度お見えになった時にお渡しして下さい」
 受付に手渡すと急いで病院を出た。
 随分走り書きになってしまったが気持ちが伝わったらと願う。
 喜んでもらえたら何よりなのだが。


と……ととととととというわけで!!
ちょ! ど、どうですかコレ!! これーー!!!!
ぎゃー!!
なんとなんと、先日勝手に書かせていただいた『勝手にコラボ』の話を、
青さん視点で書いていただきました!!
いーやぁーー!!!
なんて罪深いの!(ノ□`)
智美さん、本当に本当にありがとうございます!!
宝ですよ! 宝!
このサイトに改めてまたひとつ、光り輝く宝が……!

本当に、ありがとうございましたvv
これからも、精進させていただきます!



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