なんでもわかったような顔をされるのって、やっぱりヤダ。
しかもしかも、ちょっと楽しそうに笑われると余計、腹が立つ。
だって、いくら自分の好きな人だろうと……やっぱ、ヤなもんよね。
……まぁ、彼にそんなこと言ったって無理なんだろうなってのはわかるけど。
「…………綜」
「なんだ」
相変わらず、愛想の『あ』の字もないような返答。
……ううん、『ような』じゃなくて、まったくない。
でもさ、もうちょっと、かわいい顔とか優しい顔とかしてくれたっていいじゃない?
それが、どうよ。
彼に関しては、あんまり微笑みかけてもらった記憶ってないんだけど。
私たちは付き合ってて、一応……綜は彼氏で、私が彼女のハズなんだけど……。
ああ、なんかやっぱり、すごく寂しい感じが漂ってるわ。
……うぅ。
相変わらずの、夜。
ソファの肘置きに肘をついて、足組んで、やったら偉そうな格好でソファにもたれている、綜の姿。
「…………」
それにしたって、シャツ好きよね……。
いーかげん、パジャマってものを着てくれる気にはならないのかしら。
彼は普段から、家に居るときもYシャツですごすことが多い。
……アイロンをかけるこっちの身にもなってほしいんだけど。
仕事柄……って、いうのかしら。
別に、教師でも医者でもないんだけど、ヴァイオリニストってこともあって、人前に出るときは当然正装。
だからシャツを大量に持ってるっていうのも、理由にあるとは思うんだけど。
でもね、私思ったのよ。
……っていうか、念願? 希望っていうのかな。
まぁ、どっちでもいいや。
あのね。
そんな、しょっちゅうシャツを着ることが多い彼に、ぜひともパジャマを着せたい……と!
しかもしかも、普通のパジャマじゃ面白く……じゃなくって、ええと……ま、まぁ、いいや。
面白くないじゃない?
なので。
せっかくだから、どうせ着せるんだったら綜にはまったくもって不似合い120%の、かわいい柄つきパジャマがいいと思ったのよ。
それこそ、うさぎ柄とか、クマ柄とか。
「……っぷ」
あはははは!
……ヤバい。
想像しただけで、ものすごく楽しい。
思わず漏れた笑いを必死に口へ手を当てて隠そうとするものの、やっぱり彼は怪訝な顔していた。
でも、綜はどっちかっていうと、シルクのパジャマとか着ちゃいそうなイメージがあるからこそ、余計に笑える。
綿100%の、原色パジャマ。しかも柄つき。
でもなー、これはこれで結構かわいいと思うんだけど。
「…………んふ」
ちなみに、そんなかわいいパジャマは実はもうゲット済みだったりする。
柄は、もちろんさっきも挙げた『クマ』。
紺色の生地に、それはもうめちゃんこかわいい小さなクマの顔が沢山プリントされてるヤツ。
……うん。準備万端。カンペキだわ。
ニヤけそうになるのを堪えながらソファに向かい、何も知らずにテレビを見ている彼の横に座る。
あ。明日は天気いいんだー。
天気予報を彼と同じように眺めながらニヤけていると、ふいに綜が口を開いた。
「……優菜」
「え?」
いきなり名前を呼ばれてそちらを見ると、いつもと同じ彼。
……なんだけど。
なんか、雰囲気が違ってた。
「なに?」
「お前……何か企んでるだろ」
ぎく。
「な……何言ってるのよ。私がそんなことするワケないじゃない!」
ぶんぶんと手を振って、あははと乾いた笑みを漏らす。
だけど、やっぱり綜の顔は変わらなかった。
「そうやって必死に否定するところ、直したほうがいいぞ」
「……へ?」
小さくため息をついてから立ち上がり、綜が先に寝室へと向かう。
そんな彼のあとを追うと、ドアに手をかけてちょっと振り返ってから――……口元だけを緩めた。
「……バレバレなんだよ、お前」
う。
……え、そ、そんなに?
私って、そんなにわかりやすいかな……。
思わず彼の言葉で眉を寄せてから、両頬を手で包む。
…………あ。
いや、だから、綜にはパジャマを着て寝てもらいたいんだってば。
先に寝室に向かったってことは、絶対もう横になってる。
……くそぅ。やられた。
いや、まぁ……別に綜が何かしたってわけじゃなくて、私がちょっと鈍かったんだけど。
「ねぇ、ちょっ……待ってよ!」
慌ててリビングの明りを消してから、あとを追うように寝室へ向か――……やっぱり。
案の定、もう綜は横になってた。
寝る気モード全開。
……うー。
今日こそは、絶対にパジャマ着させようと思ったのに。
自然に漏れたため息をそのままに隣へ身体を滑り込ませ、明りを落とす。
間接照明で浮かび上がる、部屋の輪郭。
私、この淡い色って好きかも。
なんていうか……ホントの暖色なんだよね。
間接照明に映し出されてできる影も、どこか柔らかい感じがするし。
「…………」
ちょっと寝返りを打って、きちんと仰向けに寝ている綜の顔を見てみる。
……んー……寝てるときは、普通なのよね。
キツさがないっていうか、普通の寝顔。
まだ本当に寝ちゃってないからかわいいところなんてないけど、でも、なかなかこれはこれで楽しかった。
――……なんてことを考えていた、ら。
「……寝にくいだろうが。なんなんだ、お前は」
「あ」
キッと、心底迷惑そうに睨まれた。
……うー。
おかしいな、なんでわかったんだろ。私が綜のこと見てるの。
「だって……」
「……なんだよ」
「なんか、かわいくて」
笑みと一緒にそう呟いた瞬間。
これまで見たどんな顔よりも嫌そうな顔を、思いきり見せられた。
……失礼しちゃうわね。
仮にも、愛しい彼女に向かって。
「……何よ」
「何、じゃねぇだろ。男にそういう言葉を遣うな」
「え? なんで?」
「かわいいってのは、女に遣う言葉だろ」
……また出た。
綜の口癖みたいなモンだ。
そりゃあ、言いたいことはわからないでもない。
でも、男の人だって、こう……ぎゅうっと心を鷲掴みにされちゃうような笑顔とか仕草って、見せることあるじゃない?
そういうのって、結構かわいいと思うんだけど。
ましてや、綜みたいに普段からあんまり笑わない人ほど。
「……んー。でもたまーにだけど、綜もかわいい顔するじゃない」
「…………だから。男に遣うな」
「何よー、照れてるの?」
「しつこいぞお前」
うわ。またそうやって不機嫌そうな顔して。
むしろ、家とか楽屋以外ではこういう顔まったく見せないくせに。
……まったくもう。
「ンだよ……」
綜の眉間に、人差し指をつきたててから、ぐりぐりぐりとほぐしてみる。
だけど、やっぱり迷惑そうな顔をした綜は、ぱっと片手で払った。
「そーいう顔しないの! そうじゃなくて、もっと……笑顔見せてよ」
ぽつりと漏れた、小さな言葉。
だけど、どうせ綜は嘲るように笑うんだ。
「…………」
「……え?」
……なのに。
予想した上で覚悟だってしてたにもかかわらず、綜は珍しく何も言ってこなかった。
……あれ? 何?
具合でも悪いとか?
「綜? 大丈――」
一瞬だった。
……綜がこっちに寝返り打ったなぁなんて思っていたら、肩口を押さえ込まれて。
ううん、それだけじゃない。
肩にあるのは片手のはずなのに、しっかりと仰向けにされてて……しかも、もう片方は頬にある。
器用……。
なんて言葉が出そうになるけれど、もちろん無理。
だって、柔らかく……しっかりとキスされてたから。
「ん……っ」
1度顔が離れて、再び。
しっかりと口内を舌で撫でられ、的確にポイントをついてくる。
……こういうときも、やっぱりちょっと悔しい。
だって、なんでも完璧って感じがするんだもん。
「ん、ふ……」
口づけを施されたまま耳に響くのは、キスの濡れた音と、服が擦れる音。
……そして、自分の声だけ。
こういうときっていつもと全然違う声が出るから、やけに恥ずかしくなる。
だけど、そんなこと考えちゃったら……ダメ。
余計、身体が反応を見せるから。
「ぁ……っ……ん!」
柔らかく胸を揉まれると同時に、唇は首筋へ。
体重がかからないようにしてくれるけれど、どうしたって感じる彼の重み。
それが、今こうして起こっていることは現実なんだって、より強く感じることになる。
「ん、んっ……は……ぁん」
肌が露わになり、感じる少し冷たい空気。
だけど、それとはまったく逆の彼の熱い手のひらが肌を滑り、よりリアルなものになっていく。
「綜……っ……」
求めるように伸びる、両手。
指先に彼を感じると、それだけでも結構幸せ。
「……んっぁ……! っふ……」
所々を軽くついばむように吸われながら降りてきた唇が、胸の先端を捉えた。
途端、身体から力が抜ける。
「あ、あっ……んぅ……っ」
優しい愛撫のはず。
だけど、身体はどうしたって優しい反応にはならない。
びりびりと何かが走るように、身体の奥から何かが湧いてくる。
「う……んっ……、ふ……」
ぎゅうっと瞳を閉じて、彼の首に回した腕。
そこに当たる髪の感触すらも、ぞくりとした快感を一層強く煽るものに変わる。
「っぁ……ん!」
身体を簡単に浮かされて、慣れた手つきで服を脱がされた。
ひんやりとした空気を全身で感じ、自分が今どんな状況になっているのかなんて、目を開かなくてもわかるわけで、つい身体を縮こませる。
「……邪魔すんなよ」
「っや……ぅ」
首筋を舐めてから、そのまま耳を甘く噛まれる。
……そんなふうに囁かれたら抵抗なんてできなくなるのに。
うー……。
「っ!! んっ……くぅ……」
「……ギリギリのクセして」
その、なんでもかんでも知ってるような口ぶりが、悔しい。
秘部を指先でなぞってから閉じた太腿に身体を割り込ませられると、簡単に組み敷かれる。
「……ずっ……るい……っ」
「何がだ?」
「……その……余裕たっぷりのところがっ!」
「…………ほぅ」
……いや、だから。
その嫌味たっぷりって感じの笑みも、できればやめてほしいんだけど。
今は、その……その、ねぇ? それこそ、コトの最中ってヤツなわけで。
もっと、愛しげに見つめてくれてもバチは当たらないと思うんだけど。
「ほかには?」
「……ほ……ほか?」
「どうせ、まだあるんだろう?」
……そりゃあ、いっぱいあるわよ。
徐々に落ち着き始めた呼吸だけど、こういう状況下だと……結構キツい。
こっちは裸なのに、相手が服着てるのってすごくすごく悔しくて。
だから、いっつもなんとかがんばって脱がせようとはしてる。
けど……結局、綜が服脱ぐなんてことないんだよね。
とほほ。
私の責めが甘いのかもしれないけど。
「ひぁっ!」
「……何考え込んでるんだ。もう終わりか?」
「まっ……まだだもん。だからねっ、こういうときくらい……優しい顔してよ」
「……お前は何を求めるんだ、俺に」
呆れるようにつかれたため息が、少し……ううん、とっても悔しい。
「…………綜の、そーゆー意地悪じゃない顔で……」
「……顔で?」
うぅ。途端に頬が熱くなる。
だって、こんなことをこんなふうに面と向かって言うのって、すごく照れるんだもん。
今までだって、したことないし。
……きっと、どんな女の子だって同じことを思うはずなのに。
「……意地悪じゃない顔で、愛されてるって実感できると嬉しい……なぁ、って……」
上目遣いで彼を見ると、一瞬視線を外してから、やったら何かを企んでいそうな笑みを浮かべた。
……うわ。
え、何? 今度は何を企んでるわけ?
ぞくっと、快感とはまったく違う何かが身体を走り、違う意味で震えたような気がした。
「じゃあ、お前が俺をその気にさせればいいだろう?」
「…………は?」
「お前が俺に意地悪じゃない顔をさせるように、してみろよ」
……な……何を仰ってるんですか、この人。
前々から思ってたんだけど……何?
え? 私に何を求めるの?
思わず眉を寄せていると、小さく笑ったまま首筋に顔を埋めた。
「んっ……く…」
と同時に、緩やかな手の動きが太腿から徐々に伝い上がる。
ぬるりとした感触をどうしても自分で感じてしまい、再び身体が熱を持ち始めた。
「……や……ぁんっ! ……ふぁ……」
ぐっと中に感じる、指。
さすがに私なんかよりずっと大きい手をしているだけあって、しっかりと結構な深さまで責め立てられる。
普段、ヴァイオリンに宛がわれている手。
それが今こうして私に触れているんだと思うと、なんか、ちょっとえっちな感じ。
……ちょっと、じゃないかな。
かなり、えっちぃ。
緩やかな動きかと思いきや、徐々に責め立ててくる手。
その動きにどうしたって感じてしまうけれど、それすらも彼の思い通りにされている気がして、やっぱり悔しかった。
「あっん……! ん、ん……」
ぎゅうっとシャツを握ると、角度を変えて深くなった。
こっちは結構な限界。
だけど、それをわかっているはずの彼は、一向にやめてくれない。
……確かに、もっと欲しい。
気持ちよくなれるって、知ってるから。
だけど、やっぱり……。
「ん……綜っ……来て…………ぁえ!?」
ぽつりと漏れた言葉。
首を捉えたお陰で近づいた彼の耳元で息をつくと、いきなり――……指が中から消えた。
思わず瞳を開けるも、こちらを見下ろしたまま指を舐める姿に、思わずぱちくりとまばたきを繰り返す。
「や……だぁ。何よぉ……」
「何じゃないだろ。誰のせいだ?」
「……わ……私……? え? 私なの?」
誰のせいってどういう意味。どういうこと?
だけど、だけどねっ。
こうなったのは元はといえば……綜のせいなんだから!
眉を寄せて荒く息をつきながらの、反論。
あと1歩というときに離されたのは、満足なんかとはとてもじゃないけれど言えないのに。
「……だからっ……」
「なんだ」
な……なんだ、じゃないでしょ。
こういうときまで妙に焦らされると、こっちが恥ずかしくなる。
「……え?」
そんなことを考えながら、軽く睨んだとき。
不意に、いたずらっぽく笑った綜が、舐めたその指先で唇に触れた。
濡れた、音と感触。
それを施す、彼の顔。
そのどれもが艶っぽくて、目が離せない。
「どうして欲しいんだ?」
「っ……だ、だから……綜が……」
っていうか、言わなくてもわかるでしょ?
私は、ちゃんと言ったんだから。
来てほしい、って。
「……ん……」
やたら意地悪い顔。
唇を撫でていた指を、そのまま含まされた。
舌先で返しながら彼を見る――……も、やけに色っぽい顔で笑うだけ。
……もぉ……なんなのよぉ……。
「するんじゃなかったのか?」
「……ぷあ……何を……?」
「俺が意地悪じゃない顔をするように」
「っ……それは……」
指が離れ、ようやく喋ることができる。
だけど、眉を寄せて彼を見た……そのとき。
瞳を細めて顔を近づけると、親指の腹でまた唇をなぞった。
「……かわいくおねだりしてみろよ」
「ッ……!」
ぞくっとした何かで背中が粟立ち、喉が鳴る。
……お……おねだり……ですと?
「俺をその気にさせてみればいいだろ?」
「……そ……」
「それとも――……」
「っぅん!」
「……いいのか? こんな中途半端のままで」
「ぁ……や、だぁ……っ」
やっぱり綜は意地悪だ。
だって、すっごい楽しそうな顔してるんだもん。
ゆるゆると指先だけを沈められ、ものすごくもどかしくて腰がひくつく。
……なぶられてる。絶対。
「もぉ……意地悪しないでよ……」
吐息交じりに出た言葉。
だけど、彼は表情を変えない。
柔らかく髪を撫で、耳元に唇を寄せる。
「いいのか……?」
「……やだっ……」
「じゃあ、その気にさせてみろ」
ぺろっと舌先で耳を舐められ、いっそのこと素直にそうしてやろうかという気になってくるから、人間って不思議。
……あー、あれね。
人間って、えっちしてるときと暗闇では素直になるっていう……あんな感じかしら。
――……とりあえず。
おねだりを始める前に、彼の首だけはちゃんと捕まえておく。
「……ちゃんと、して」
「何を?」
「う……だからっ……綜が……欲しい……の」
「俺の、何が欲しいんだ」
「…………馬鹿なのもぉ……」
ぽつりと、そう呟いた瞬間。
――……いきなり、中に指が這入って来た。
「っや……!」
かき乱されるように動き、ぎりぎりのラインで動きを静める。
……や……やっぱり、なぶられてる。
「どうしてほしいって?」
「だっ……からぁ……やっん、んっ……ぅ」
「……欲しくないのか?」
「…………い、じわるっ……! や、ふっ……ぁん………ん!」
「じゃあ、ねだってみろ」
「だ……だから……っ……んんっ!」
1番敏感な場所をしっかりと突かれ、たまらず背が反った。
と同時に、どうしたって涙が滲む。
たまらなく大きな快感のせいで。
「……お……願いだからっ……意地悪しないでよ……」
「意地悪してないだろ」
「してっ……はぁう……んっ……」
ろれつが、うまく回らない。
もう、考えることなんてできる状態じゃないんだもん。
相変わらず、止むことのない責め。
……もう少し加減して……。
ていうか、むしろ――……。
そう考えたら、ぎゅうっと腕に力がこもった。
「……も……お願い……っ。綜が……欲しいの……やなのっ……ちゃんと、きてよ……ぉ」
「ンな曖昧な言葉じゃ、わかんねぇだろ。ちゃんと――」
「綜ぉ……お願い……っ……気持ちよく、させて」
うっすらと開いた瞳での、懇願。
漏れる荒い息をそのままに彼の頬を両手で包み、不器用に唇を塞ぐ。
きっと、私にしてみれば精一杯の『おねだり』だったと思う。
それで綜が応えてくれなかったら――……って思ったけど、もしかしたら単純にキスしたかったのかもしれない。
色っぽい瞳で見られたら、私だってソノ気になる。
「っ!! んっ……ぁあっ……!」
下腹部に感じる、強い感触。
いつの間に支度を整えたのか、ゆっくりと……だけど、しっかり感じる彼自身に、身体が震えた。
「……は……ぁ」
短く首筋で息を吐くと、綜が耳元で息を吐きながら少し笑った。
「やれば……できンじゃねぇか」
「は……ぁん、んっ……綜っ……そ……ぉ」
「……っく……」
苦しげに息をつく姿を見たいとは思う。
だけど、彼以上にこっちはもういっぱいいっぱい。
今までだって何度も止められて、いろいろと限界なんだから。
「ぁ、あんっ……ん、……すごっ……い……気持ちい……」
彼に抱かれていると、ものすごい言葉が平気で口から漏れる。
そのたびにキスをくれるからっていうのも、あるんだけれど。
口では『愛してる』とか『かわいい』とかなんとかって言ってくれることはないけど、綜の場合は態度で主に示してくれる。
柔らかく笑ってくれることより、意地悪そうな笑みを向けられることのほうが圧倒的に多い。
だけど。
……だけど、ぎゅって抱きしめてくれて、こうしてキスをしてくれるときの綜は、いつも優しい。
あたたかくて、ちゃんと私のそばにいてくれる。
いつも……ちゃんと触れてくれてる。
だから、彼に抱かれてるって、愛されてるって……実感が湧いてくるんだ。
「ンっ……! ふぁ、……あう……っん!」
「く……。あんま……締めんな……」
「そんなこと言われてもっ……困る……!」
荒く息をしながら緩く首を振ると、綜が大きく息を吐いた。
こういうとき、ちょっとだけ瞳を開ける。
……だって。
綜の顔が、すごく色っぽいんだもん。
…………どきどきする。
だから、見ていたい。
「……っは……!」
「っ!!」
彼が、短く息をついた瞬間、動きが変わった。
「あ、やっ……ん、んっ……ふ、あん!」
角度を変えて、一気に奥まで突き上げられる。
弱い部分をしっかりと擦り上げられ、たまらず彼に抱きついていた。
速まる律動に、ベッドが緩くきしむ。
と同時に自分の声が短く切れて、よりリアルに切羽詰っている自身を表していた。
「やぁっ……ん! 綜っ、も……っ……ダメぇ……!」
「……っく……!!」
ぎゅうっと、一層強く彼を掻き抱いたとき。
同じように、綜が私を抱きしめた。
余韻のように、無意識のうちに何度も彼を締め付ける自身。
それが綜に今まで与えられていた快感のせいだっていうのは、わかるんだけど……やっぱり、すごくすごく淫らだ。
「……ぅ……んん……」
呼吸が落ち着かないうちにキスをされ、頭がくらくらする。
互いを求めるようにするキスは、もちろん嫌いじゃない。
彼とひとつになったままでするキスは……すごく幸せで。
いろんな意味で、綜を独り占めしてるって感じがするから……やっぱり大好きなんだよね。
「……ねぇ、綜」
下着をつけて、軽く羽織っただけのパジャマ。
そのままで綜にくっついてるのは……なんか、やっぱえっちぃよね。
でも、こうしたくなる。
できるだけ、離れて寝たくない。
……でもね。
「…………なんだ」
「えへへ……」
「……ったく」
やたら不機嫌そうにこちらを向かれても、何を言われても、このときばかりは素直に何も言ったりしない。
だって、おかしいんだもん。
……何が、って?
それは――……。
「ねぇ、綜」
「……だから、なんだ?」
「綜って……優しいよね」
「……は……?」
「綜はわからないかもしれないけど。いいの」
「…………ワケがわからん」
「だから、わかんなくてもいいんだってば」
呆れたようにため息をつく彼にも、自然に笑みが漏れる。
……だってさぁ。
綜ってば、なんだかんだ言うくせに、私がこうしてくっついてるのを何も言わずに許してくれるんだもん。
鬱陶しいだろうし、寝苦しかったりとか、邪魔だなーって思うこともあると思うの。
だけど、こうして愛されたあとだけじゃなくて、私が綜にくっつきたいなぁって思ってそうしてるときは、何も言わずに邪険にしないで受け止めてくれる。
綜がヴァイオリンを持ってるときも、テレビを見てるときも、着替えようとしてるときも。
特別、優しい言葉を言ってくれるわけじゃない。
特別、愛しげに笑みをくれるわけじゃない。
……でも、それでもやっぱりいいんだ。
綜が私に対して持ってくれてるであろう感情を、こうして実感することはできるから。
「……眠たい……」
こうしてくっついてると、あたたかくて……っていうのもあるけど、やっぱり気だるい。
でも、幸せでいっぱいになる。
ふわふわしてて、すごく気持ちいい。
そんなとき、顔にかかっている髪を撫でて払ってくれる綜の手が、好き。
……ちょっと、違うか。
そういう、綜が好き。
全部、好き……。
「……綜……」
名前を呟いて、自然に漏れた笑み。
それを彼がどんな顔して見てるのかはわからないけれど、何も文句言われないからいいとしよう。
明日の朝も、彼は何も言ってこないけど……でも、いいんだ。
もう慣れた。
……って言ったら『ホントに愛されてるの?』って言われるかもしれない。
でもね、私たちだけにわかる形だったら、いいと思う。
おじいちゃんやおばあちゃんが相手に抱く感情みたいな感じ?
何も言わなくても、口にわざわざ出したりしなくても、大丈夫なの。
ホントに好きだから、愛してるから……『愛してる』って言わなくても平気なの。
強がりかもしれない。
私の独りよがりかもしれない。
だけど……。
「……優菜」
「…………っ……ん」
すごくすごく小さくだけど、耳元で名前を呼んでからキスをくれる綜のことは、誰よりも1番信じてるし……わかってるつもりだ。
……えへへ。
ぎゅうって心を鷲掴みにされる笑顔じゃないけど、それでも彼には首ったけ。
……古い言葉かもしれないけど、ね。
態度で『好き』って伝えられるのって、幸せだと思うから。
明日もまた、綜にアレコレ言われるのはわかってるけど……綜がこうして私を許してくれているように、私も許してあげるつもりだ。
それが、私たちの形だから。
んー……でもさぁ?
綜って、やっぱりえっちのときも意地悪だよね。
『おねだりしてみろ』なんて、言われると思わなかったもん。
……ま、まぁ?
たまには、許してあげてもいいけどね。
眠りに落ちる寸前、再び笑みが浮かんだ――……ような気がして、なんともいえない気持ちにはなった。
2004/12/26
るーこのサイト『10万ヒット』企画で、投稿させてもらった「かわいくおねだりしてみろよ」という作品です。
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