「6週目に入ったところですよ」
「……え?」
 きれいな病院だった。
 産婦人科って聞くと、すごく……なんていうのかな。
 私はあんまりいいイメージがなくて。
 怖いとか……あんまりきれいじゃないとか。
 なんか、そんなイメージを抱いてた。
 だけど、ここは違う。
 待合室もそうだったけれど、すごく温かみのある雰囲気が漂っていて。
 ……壁紙のせいなのかな。
 あとは、置かれている小物なんかの演出でもあると思うけれど。
「6週……ですか?」
「ええ。2ヶ月、ということですね」
 テーブルに向き合って座っているのは、お医者様だ。
 ……年は多分、お医者様の中ではまだ若いんだと思う。
 実際の年齢はわからないけれど、すごく……なんかねぇ、ヤバいのよ。
 そんじょそこらのモデルよりも、ずっとずっとカッコよくて、色っぽくて……せくすぃ。
 うん。
 この先生の顔を見たら、いろんなモノが納得できた。
 どうりで、受付で先生の指名をしてる患者さんがいるなと思ったのよ。
 しかも、同じ先生ばっかり。
 ……なるほどね。指名制ですか。
 そんな中、順番通り待ってたら診てくれた先生が、この御方。
 あぁ私って、もしかしたら結構運がいいのかもしれない。
「あの」
「え? はい?」
「何か?」
「え」
 これまでカルテに何かを書き込んでいたその手が止まったと思いきや、訝しげに彼に見つめられた。
 ひょえー。
「い、いえっ。何も……! すみません……」
 慌てて首を振り、乾いた笑いで誤魔化しておく。
 ……アヤシイ患者だなぁ、私って。
 だけど、その先生はそれ以上何も言わなかった。
 もしかしたら、私みたいな人を見るのが初めてじゃないからかもしれない。
「これから、徐々にさまざまなな症状が出てくると思います。駄目な匂いや味など……いわゆる、『つわり』という症状ですね」
「……あ。なるほど……」
「何も食べれないようでしたら、無理に召しあがらなくても構いませんよ。今はまだ、お母さんの母体にある栄養で十分足りる時期ですから」
「へぇ……そうなんですか」
 どれもこれも、私にとっては当然ながら初めてのことばかり。
 ……それにしても……『お母さん』かぁ。
 そうよ。
 そうなんだよね。
 私……お母さん、なんだ。
「…………」
 そう思ったら、すごくすごく嬉しくなった。
 このお腹に、間違いなく赤ちゃんがいる。
 この際、性別なんてどっちでもいいんだ。
 元気に生まれてきてさえくれれば、言うことなんて何もないもん。
「それでは、次の検診は2週間後に」
「あ、はい。わかりました」
 トン、と字を書き終えた先生が、にっこりとほほ笑む。
「ありがとうございました」
「お気をつけて」
 椅子から立ち上がり、ぺこっと頭を下げてドアに向かう。
 するとそのとき、何かを思い出したかのように、彼が声をかけた。
「え?」
「そうそう。これを。まだ渡してませんでしたね」
 振り返ると、テーブルの上に小さなポラロイド写真みたいな物があった。
「……? なんですか?」
「どうぞ」
 言われるままに手に取り、まじまじと見てみる。
 手に取ると、それは感熱紙みたいな薄い物で。
 そこには、なんだかよくわからないけれど、小さなマメみたいな物が映っていた。
 ……なんだろ、これ。
 まったく想像つかないからこそ眉が寄る。
 その答えを、先生に……と思ったとき。
 彼は、先に答えを出してくれた。

「赤ちゃんですよ、それ」

「…………」
「…………」
「へっ?」
 一瞬、何を言われたかわからなかった。
 ……あ……あか、ちゃん?
 うそ。
 嘘っ……!
「えっ!? これがですか!?」
「ええ。まだ、大分小さいので、ご存知の姿からは遠いかもしれませんが」
 あまりにも思いっきり露骨な態度を示したからか、彼はくすくすと笑いながらうなずいた。
 ……そうなんだ。
 この、うにょうにょっとした、なんか……マメみたいな、おたまじゃくしみたいな……そんなのが、赤ちゃん、かぁ。
「…………」
 あまりにも想像から逸脱しすぎてて、びっくりだわ。
 いや、ホントに。
 …………。
 ………………ん?
「あの、先生……」
「はい?」
 写真を凝視したまま、彼に声をかける。
 ……まじまじと見てたら……ふと、ある疑問が頭に浮かんだ。
 写真に写っているもの。
 これに関する――ある意味重要な疑問が。
「双子の赤ちゃんですが、まだ性別はわかりませんよ?」
「え? あ、いえ、そういうことじ……」
「では、なんでしょう?」
「……え……」
「…………はい?」
「……と……」
「……『と』……?」
 しばしの沈黙。







「……ふ……双子!?」









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