昨日の夜。
俺は、まさに“ガラでもない”ことをした。
……それが、コレ。
この――……写真を枕の下へ忍ばせたこと、だ。
……24年間生きてきて、こんなことをしたのは初めて。
だけど、それでも……したかった。
記念すべき、今日という日のために。
…………どうだ?
ここまで言ったんだ、もうこれ以上言う必要はないだろう?
大方、俺がなんでそんな事したのか、なんて予想は付いただろうし。
本日の天気は、晴れ。
そして、日本全国的に――……今日は休み。
いや、恐らく明日までは休みだろう。
――……そう。
今日は、正月真っ最中の1月2日だ。
昨日は孝之たちと麻雀をやって半日潰れてしまったが、そのあとしっかりと実家へも顔を出した。
相変わらず俺が車を運転するという状況をわかってないお袋は酒を勧めてくるし、涼や紗那は未だに小遣いせびってくるし。
……本当に、イイ元旦なんて口が裂けても言えない状況だった。
せめてもの救いといえば、隣に彼女がいてくれたことだけ。
……だから。
だから、俺は写真を枕に入れたんだ。
そんな鬱陶しいヤツらじゃない、たったひとりの俺の大切な彼女が欲しくて。
ほかの奴らに邪魔されずに、いいモノが拝めるようにという願いを込めて。
……そう。
俺は、どうしても彼女が出てくる初夢が見たかった。
よく、世間では『1富士、2鷹、3なすび』とか言うが、あんなモンは別にいらないというのが正直なところ。
俺が見たいと願った夢は、そんな縁起のいいモノがまったく出てこなかろうとも、たったひとり彼女が出てきてさえくれればイイというモノだった。
……そこで、考えた。
1年の始まりである初夢に、彼女が出てくるにはどうしたらいいか。
それを考えた結果の――……行為、だったんだが。
「……はぁ」
……なのに、どうだ?
結果は、散々。
まったく予想だにしていない展開になった。
そりゃあ、確かに……彼女は夢に出てきたぞ?
出てはきたが……。
「…………参った」
額に手を当てたまま、瞳を閉じる。
出てくるのは、安堵からか精神的疲労からか…………いや、そのどちらもだな。
そのふたつからくるため息ばかり。
……もしも。
もしも、これまで見ていた彼女がホンモノだとしたら――……俺はきっと、こんな穏やかな朝を迎えられてないだろう。
夢での彼女は、本当にいろんな意味で“強い人”だった。
誰かに怯えたりせずに、どんなときも自分を信じて自分を1番護る人。
……だけど。
だけどそれでも、やっぱりホンモノの彼女らしい部分があって。
だからきっと、俺は最後まで夢を見続けたんだと思う。
「…………」
ふと隣を見れば、かわいい顔をして眠っている彼女がいる。
この姿も、声も、仕草も、性格も……何もかもが嘘で塗り固められたものなんかだとしたら……たまんねぇな。ホント。
夢の中の俺みたいには、落ち着いて対処なんかできないだろう。
「ぅ……ん……」
腕を伸ばして抱き寄せれば、鼻先に香る甘い髪の匂い。
……はー。
今、目の前にいる彼女が……彼女で本当によかった。
写真を裏返しに入れたからかどうだかしらないが、とんでもない展開だった。
俺がこれまで見て体感した姿ではなく、まるで正反対のような姿。
そりゃ、彼女がああでもきっと……受け入れようと努力するだろうとは思う。
だけど、そううまくいくのか?
なんでも自分の思い通りにいく夢とは違う、この、リアルな世界で。
これまでずっと見ていて、ずっと信じていた彼女に裏切られていたという結果。
それはやっぱりどんなことよりもつらくて、きっと俺は夢の中の俺以上に立ち直れないんじゃないだろうか。
「…………」
髪を撫でてからすくい、口元へ運ぶ。
……俺はただ、初夢で彼女の姿が見たいだけだったのに。
「…………」
…………それにしても。
こうして本当に安らかに眠っている彼女を見ていると、いったいどうしてあんな彼女ができ上がってしまったのかはなはだ疑問でしかない。
……なぜだ。
どうして、あんなことになった?
写真を裏返しに入れたからという理由は、それこそ“あとづけ”でしかなくて。
……こんなに、純粋で素直でかわいい彼女なのに。
これまでに、1度たりともあんな……したたかな部分なんて、見聞きはおろか、想像すらしたことなかったのに。
…………謎だ。
これが、1番の。
「…………」
きっと……この夢はこれからもずっと背負っていくんだろうな。
正月がくるたび、ベッドへ入るたびに……きっと。
――……で、だ。
相変わらず素直に眠っている彼女よりも先に起きたので……せっかくだから、俺なりに検証を行おうかと思うんだが、いかがなものだろうか。
……なんて、ふと頭に浮かんだ。
検証。
それは、『目の前の彼女は、夢の中の彼女とどれだけ違うか』ということ。
そして、『これまでともに歩んだ彼女の本性は、どんな感じなのか』。
……やり方?
そんなモン、簡単だ。
なんせ、俺が1番得意とする――……彼女で遊んでみることなんだから。
それからすぐ複雑な思いなんて消え失せ、ついついいつもの俺らしい笑みが浮かんだんだが――……それはまた、別の機会にでも。
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