「どうしたんですか?」
ソファにもたれてテレビを見ていたら、彼女が顔を覗き込んできた。
別に、これといって考えごとをしていたわけでもないし、彼女の問いかけに答えなかったわけでもない。
ついでに言えば、今日は華の金曜日だし、隣にはこうして彼女がいるし……。
……不機嫌そうにしてたかな。
じぃーっと見つめてくる彼女を見ていたら、ふと……思ってもない言葉が出てきた。
「……何があったと思う?」
「え?」
途端、不安そうな顔になった彼女。
……ちょっと意地悪すぎたかも。
「先生……?」
「羽織ちゃんには、今の俺がいったいどういうふうに見えてるのかなー……と思って」
さらりと指の間を抜ける、彼女の髪。
すくっては逃げられ、なんとも……楽しい。
しかも、そのたびに彼女から甘い匂いがするわけで、どうしても止めようがなかった。
「……なんか……元気ないように見えます」
「そう?」
「……違うんですか?」
「んー……」
相変わらず瞳を見つめたままで、髪を弄っていることには文句も言わない彼女。
その上、じぃっと見透かされそうな瞳を変わらず向けられているわけで。
ついつい、こちらとて目が逸らせなくなる。
「そう見えるんなら、そうなんだよ」
「……えぇ?」
「いーから。ちょっとおいで」
「……もぅ……」
小さく笑って彼女を抱き寄せると、同じように笑ってからもたれてきた。
途端に近くなる、彼女の甘い匂い。
……んー。
「っせ……んせっ……!」
「いや、ほら。元気ないように見えるって言うからさ、慰めてもらおうかと思って」
「だ、だけど! 先生、本当は元気なんでしょ!?」
「とんでもない。元気ないよ? 落ち込んで、ヘコんで、這い上がれないかも」
「ウソ! 先生、そんな顔してませんてば!」
「してるって。……ほら。よーく見てごらん?」
「……ぅ……」
ぐいっと両手で彼女の頬を捉え、しっかりと瞳を合わせてやる。
……こうしてしまえば、あとは時間の問題。
困ったような顔を見せて、頬を染めて――……ほら。
案の定、なんでも言うこと聞いてくれそうな雰囲気になった。
「……元気が出る薬を」
「え……?」
「誰かさんが黙ってうなずいてさえくれれば、俺は元気になるから」
「……もぅ。なんですか、それは」
耳元に唇を寄せて小さく笑うと、彼女がくすぐったそうに笑った。
これはこれで、結構楽しい。
風呂は先ほど一緒に入ったので、あとはもう寝るだけ。
……まぁ、寝るには少し早いけど……。
でも、『彼女とともに寝る』ならば、早い時間だろうと一向に構わないわけで。
文句も言わずに抱きしめられている彼女の髪をなでながら、ふっと堪らなくやらしー笑みが出た。
「……くれる?」
ぽつりと呟いて立ち上がってから、彼女に瞳を合わせてやる。
うっすらと染めた頬のまま瞳を逸らさずに、口を結ぶ彼女からは文句なんて出てこないだろう。
「……ぅん」
……ほらみろ。
視線を外して、本当に小さくではあるが、彼女はしっかりとうなずいてくれた。
…………俺の教育の賜物だな。
彼女がここまで自分の意思を示してくれるようになったことを感謝しつつ、彼女の手を取ってから寝室へ向かうことにした。
「……せんせ……」
「何……?」
淡い光に浮かぶ、彼女の顔を見ながらボタンを外すってのはなかなかイイ。
何がいいって、もちろんこの顔、この瞳。
……そして、この声。
甘くて、少し響きがいつもと違うだけで、どうしたって身体が反応する。
……あーもー、かわいいな。
困ったように見つめる顔は、やっぱり少し赤くなっていて本当に彼女らしい。
……イイよな、やっぱり。
そのまま押し倒しそうになるのを堪えながら、首筋から肩へ両手で触れると、すぐに胸元で手を握ってから視線を落とした。
「ん……っ……」
ちゅ、と小さく音を立てて首筋を舐める。
それだけで、彼女がこう反応することはもちろん知っている。
……だから、それ以上のことをしたくなるんだけど。
「……あっ……ん、せんせ……」
「相変わらず、イイ声……」
「……ん……っあ、や……」
舌で撫でるように胸元へ下りると、緩く首を振って小さな抵抗を見せた。
……ま、彼女が恥らうことなくあっさり『抱いてほしい』なんて素振りを見せるのは、当分先だと思うけど。
でも、こういう彼女を責めていくというのは、もちろん悪い気なんてしないワケで。
……あー、楽しい。
何度となく浮かびそうになる笑みを噛み、そのまま胸へ。
「は、……ぁっ……!」
切なげに眉を寄せて、ぴくんと反応を見せた。
……まだ、直に含んでないにも関わらず。
「う、ん……せんせ……ぇ」
「何?」
「……も……やぁ」
「なんで。……欲しいんじゃないの?」
「っ……いじわる……」
「まぁね」
今さら否定するつもりはないので、軽くうなずいてやる。
すると、やはり彼女は少し照れたようにしながらも、かわいく笑ってくれた。
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