「だから、短パンもそうだけど上着も丈が短いんだよ」
「……もぉ……そう言われても困りますっ」
腕枕を強要して目の前の彼女に眉を寄せると、何度目かのため息を見せた。
愚痴というよりは、素直な意見。
ただまぁ、いち教師としてというよりは、あきらかに個人的な私情が大きく挟み込まれている。
「だいたい、下着が見えてる子だって結構いたんだぞ? てことは、羽織ちゃんだって見えるってことだろ?」
「……でも、私は見えないように少し下で履いてるから……」
「下?」
「腰の、ちょっと下」
「この辺か」
「!! っや、だっ!」
腰、より少し下。
そこを確認するために触ったのに、怒ることはないだろ?
この時期、裸のままというのは少し寒いかもしれない。
が、間接照明のこのオレンジの光に照らされている彼女を見るのが、たまらなく好きで。
……なんてことを言っても、きっと理解はしてもらえない。
パジャマは手の届かない場所へ放っておいて正解だった。
まぁ、もちろん俺はしっかりとパジャマを着ているので、彼女にしてみればものすごくズルく思えるだろうが。
「あ」
「……あ?」
今の今まで俺を睨んでいた彼女が、何かを思い出したらしく口を開けた。
かと思いきや、拗ねたときの顔を見せる。
「……先生、ほかの子の下着見たんですね」
「え?」
「だって見えたってことは、視線を向けてなきゃ見れないでしょ?」
「…………あのね」
何を言い出すかと思えば、盛大な勘違いをしてるらしい。
拗ねたような顔の彼女に瞳を細めると、大きくため息が漏れた。
当然のように不愉快さを前面に押し出して。
「俺が興味ない子の下着見て、喜ぶような変態だとでも思ってんの?」
「そ……うは言ってません」
「俺は、誰かさんの下着が見えてから調子狂いっぱなしなんだけど」
「……下着? で、でも私……」
「ワザとか? やっぱり」
こつ、と額を合わせて見つめると、眉を寄せていた彼女が目を丸くした。
「え!? 私の、見えてました?」
「見えたんだよ。一瞬! 下着っつっても、こっちじゃなくて、こっち」
「ひゃあ!?」
「いい? それで、バドは勝てなかったんだからな」
「も、もぅ! どこを触ってるんですかっ……うぅ、えっち!」
「しょうがないだろ? ほかの子と違って、どうしたって目が行くんだから」
「っ……」
背中に回していた手をするりと胸元へ回すと、ひくんっと身体を震わせて慌てたように胸を抱いた。
――……かと思いきや、まじまじと俺を見つめたまま、くすくす笑い出す。
失礼な反応だぞ、それは。
「……何笑ってる?」
「あ。えっと、別に……」
「そういや、ほかの先生と楽しそうに話してたろ」
「……うぇ!? そうでした?」
「そうだよ。にやにや笑いやがって……この口め」
「にょあ! ……ふぇ、ふぇんふぇえ!」
「何話してたんだよ! コラ!」
「ひやにゃいーっ」
両手で頬をつまみながら顔を近づけると、ぶんぶん首を振って困ったような顔をした。
かわいいね、その顔も。
やばい。だんだん楽しくなってきた。
さて。次はじゃあ、どうしてやろうか。
「……っぷぁ! もぅっ! 遊ばないでください!」
「いや、かわいいから」
「……嘘つき」
「失礼だな。1日中いろんなかわいい姿を拝めて、結構楽しかったんだけど」
「……え……ホントに?」
「嘘」
「っ……! っ……もう! 知りません!!」
「ごめん。冗談」
「先生の意地悪!」
くるんっと背を向けてしまった彼女に手を伸ばし、後ろ向きに抱きしめる。
素肌の感触は、素肌で楽しむのがいちばん気持ちいい。
このときは少しだけ、パジャマを着てしまったことを後悔した。
「怒った?」
「……怒ってます」
「ふぅん」
いつもより低い声を精一杯だそうとしているあたりを、努力と呼んでもいいだろうか。
何もかもがかわいく思えてつい笑ってしまいそうになるが、それをしたらきっと彼女は怒るだろう。
しかたなく表情を崩さないように注意しながら耳元へ唇を寄せると、そこではうっかり頬が緩んだ。
「……許して」
「…………だめだもん」
「しょうがないな。キスしてあげるから」
「………………やだもん」
「今、考えたろ」
「か、考えてないですよっ!」
「ほら、こっち向いて」
「やっ! もう知らないの!」
一瞬の間が生まれたのは、間違いない。
だが、ふるふると首を振って精一杯の強がりを見せている彼女の耳元へ息がかかるように身体をずらすと、くすぐったそうに首をすぼめた。
「ねぇ羽織。こっち向いて?」
「っ……いじわる……」
「ん。素直だね」
普段は口にしないからこそ、効果はかなり高い。
もしかしたら、こういうときのことを考えて、『ちゃん』付けをとらないのかもしれないな。
だとしたら、俺の無意識は相当優秀かもしれない。
あっさり身体の向きを変えてこちらに向き直った彼女へ満足げに笑うと、先ほどまでとは違って、ふにゃんと柔らかい表情になっていた。
どうやら、もうがんばりタイムは終了したらしい。
「……じゃあ、ご褒美」
「ん……っ」
吐息をたっぷり含んで囁いてから、柔らかい唇に少し長めの口づけ。
舌先で唇を舐め、ちゅ、という音とともに離れる瞬間に見れる名残惜しげな表情は、たまらなくイイ。
本人は、そこまでわかってないんだろうな。
この顔で、俺がすごくゾクゾクしてるってこと。
「……もぉ」
「ん。いい顔」
「…………えっち」
「まぁね」
ぎゅっと抱きついてくるあたり、彼女らしい素直な反応だ。
よしよしと頭を撫でると、嬉しそうに笑う。
かわいいね、ホントに。
願わくばどうか――……このまま、自分が裸でいることを朝まで忘れてくれますように。
さわさわと背中から腰に手を這わせながら、また口角が上がった。
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