「頼むから……そんな顔しないでくれ」
「……え……?」
少しやつれたような雰囲気のある、表情。
だが、うっすらと開いた唇は、どうしたってそのまま――……と、なりそうで危うい。
「……不謹慎だってことはよくわかってるんだけど……。でも、1週間……こうして抱きしめてないだろ? だから、その……」
しどろもどろにしか出てこない言葉に、心底情けなくなる。
……もっとしっかりした男だと思っていたんだが。
やっぱり、いろいろと弱い部分が露呈してきたな。
もちろん、彼女の前では――……だが。
「私は平気……」
「……そんなこと言わない」
緩く首を振って胸元へ擦り寄ってきた彼女に軽く眉を寄せるも、相変わらず瞳を逸らそうとしなかった。
それどころか、さらに……腕を回してべったりとされそうな気配さえする。
「ううん……だって、寂しい……っていうか……。……そばにいてほしくて……」
「……ちゃんとそばにいるよ。ずっと、こうしてる。だから――」
「違うの……っ………いつもみたいに……して?」
「……いつもみたいって……」
何を言い出すのかと思いきや……そんなこと言われたら、いいように解釈しちゃうだろ?
澄んだ潤んでいる瞳でそんなことを言われたら、それこそ本当にタガが外れる。
彼女から逃れるよう瞳を閉じて髪を撫でてやると、腕の中の彼女が小さく動いた。
「……な……」
「寝かせて……ほしいの」
囁かれた、言葉。
弾かれるように瞳を開けると、やけに色っぽい彼女が目の前にいた。
まじまじと、俺の瞳と唇とを見比べ、つやっぽい表情でぽつぽつと語る。
それがあまりにも強くて、目を見張っていた。
「ね……先生……私のこと、ちゃんと……抱いてください……」
「っ……どこで覚えたんだよ、そんな言葉」
「ダメ……ですか?」
わざと俺を揺さぶって試しているんじゃないかと、激しく思う。
だが、まっすぐに俺の瞳から外そうとしない、視線。
やけに熱っぽくて……いや、熱があるんだけど。
朦朧とした感じではなく明らかに彼女の意図を感じて、吸い寄せられそうになる。
「……何言ってるんだよ。今は熱があるんだぞ? そんなことしたら、それこそ――」
「それでも……いいの……触ってほしいの……ぎゅって……してて……」
「っ……」
たしなめるつもりが、逆に丸め込まれた。
気付いたときには、ときすでに遅く。
――……かき抱くように、彼女を身体の下へ捉えていた。
「……あ……ぁ」
首筋に唇を寄せ、普段よりずっと熱い肌を舐める。
……熱が高いな。
手よりも微差を感じ取れる、舌。
だが、甘い声をわずかとはいえ聞かせられ、喉も身体も動いた。
「……いいの……?」
「ん……いいのっ……ちゃんと……きて……っ」
こくん、と瞳を閉じたままうなずいたあと、伸ばした腕で首を絡め取られた。
それが――……これまで俺を縛っていたタガを、外し切った。
あくまで身体に負担をかけないように、そっと手のひらを進めていく。
もちろん体重なんてかけないように、注意しながら。
ボタンを外しきると、熱を帯びてしっとりと潤おう肌に触れた。
いつもよりずっと熱くて、こっちが熱を吸収しそうだ。
「……ん……ん……っ」
漏れる、甘い声。
それすらも、ずっと熱を帯びて今にも溶けてしまいそうで。
無理をさせるつもりはない。
……なんて、今の状況ではひどく滑稽な言葉にしか聞こえないが。
「あ……ぅ、んん、……ふぁ……」
柔らかく胸を手のひらで包みながら首筋に唇を寄せれば、舌に得る熱い感覚。
確かに、免疫力が上がるという話はある。
だが、しっかり熱が出ているこの状況で効力が発揮されるかどうかは……謎。
……早くよくなってほしいが、今、彼女を抱いて悪化したらと思うと、どうしても手が止まる。
「っ……や……ぁ」
だが、その途端。
まるで察しでもしたかのように、彼女がぎゅうっと抱きついてきた。
「ちゃんと……最後まで、して……」
「っ……」
うっすらと潤んだ瞳でまっすぐに言葉を突きつけられ、思わず喉が鳴る。
「……無理するなよ……? 具合が悪くなったら、いつでもすぐに言って。……わかった?」
「……ん……わかった、から……ぁ」
髪を撫でながら囁くと、1度瞳を閉じてから小さくうなずいた。
そんな彼女の頬に軽く口づけをしてから、再び首筋から……胸元へと舌を這わせる。
「っん……んぁ」
撫でるたびにあがる、甘い声。
いつもよりずっと感じているんじゃないかと思えるほど……甘美だ。
柔らかく揉みしだきながら、先を尖らせた先端を含む。
「んっぁ! あ……ふぁ、あっ」
熱を帯びた手のひらが、首筋から肩へと回る。
胸を口内に迎えたままで舌で転がすと、切なそうに手のひらが震えた。
もう片方を指先で弄ってから、そのままズボンへ。
布団を全部剥ぐのはさすがに阻まれるので、あえてかけたままでしているのだが……それがある意味ヤラシク思える。
互いの熱がこもり、ひどく暑い。
寒い場所より、こうした暖かい場所のほうが感度は上がる。
彼女自身、熱があるうえに……こうした今の状況。
イイ声が出ないワケがない。
……だからこそ、余計煽られてヤバいんだけど。
ショーツごと脱がせて太腿を撫でるように上へ手を進めると、彼女からは小さな喘ぎが漏れた。
「っあ……あ、ぁ……っん」
秘部に指が届いた途端、彼女が腕を首に絡めた。
指先に感じるのは、いつもよりずっと熱い蜜。
熱があるからかしらないが、普段よりずっと潤いきっていた。
……思わず、喉が鳴る。
彼女がいつもより感じている事実を知ってしまうと、どうしてもすぐにだって這入りたくなるワケで。
「あん……っ!」
彼女の肩を抱いたまま中へ指を進めると、やたら熱い胎内に包まれた。
「ん、んっ……はぁ、あ」
荒く息をしながらも、しっかり締め付けてくれる。
……ヤバい。
こんな彼女を味わったら、それこそ……すぐに根負けだろう。
普段の彼女でさえ危ないというのに、こんな……だろ?
「…………」
だが、ここまで来て大人しく引き下がれるわけもなく。
1度指を抜き、体重をかけないように身体を起こしてから自身の準備を終える。
ちゅ、と音を立てて頬へ口づけてから手のひらを当てると、うっすらと濡れた瞳を開いた。
「……いい?」
「ん……。きて……」
普段の彼女ならば、こんな言葉言わないはず。
だから、余計に色っぽいというか……ヤバいんだ。
「っふぁ……ああっ……!」
「……ッ……」
予想以上の、熱さだった。
何もしないというかできないというか……最後まで這入れないかも。
1度動きを止め、まるで初めて彼女に這入るときのように騙し騙し押し広げる。
「ん、ふっ……あ……ん」
「……ヤバい」
ようやく這入りきってから荒く息をついて軽くもたれると、慰めてくれるかのように彼女が髪を撫でた。
「すごい……気持ちいい……」
「っ……」
甘い、今にも溶けそうな顔。
そんな顔でうっとりと呟かれたら、自制なんぞ利かなくなる。
「っ! ん、……はぁ……、あ、あっ……も、っと……して……」
「……っく……」
いつもならば漏れるであろう、拒む言葉。
それが今日はどうだ。
正反対。
むしろ求められ、その甘美な声といったら……狂いそうだ。
「っく……!」
律動を送るも、かなりキてる。
熱があるときは、するもんじゃないな……。
今さらながら、そんな後悔がじわじわと湧いてきた。
……が。
「あ、ああっ……もっと……は、ぁんっ!」
こんな中途半端で終わらせることができるワケない。
……せめて、1度……彼女を上りつめさせたい。
そういう馬鹿な考えを抱きながらも、やっぱり屈しそうになる。
…………くそ。なんだ、この気持ちよさ。
「あ、あっ……ん、く……」
「……そろそろ……イこうか……」
動きを緩めて彼女の身体に手を這わせると、涙を瞳の端に浮かべてから……柔らかくうなずいた。
その顔が『欲しい』と言っているようで、乱してやりたくなる。
……無論、最初からそのつもりなんだが。
「っ! あ、あんっ……! せんせ……ぇっ……ん、んっ……は……」
「……っく……ヤバ……」
「せんせ……、あ、んんっ……もぉっ……イっちゃ……ぅ!」
ぎゅっと締め付けられ、たまらずイきそうになる。
だがそれは彼女の同じだったようで、律動を早めながら抱きしめると、すぐに声が変わった。
「あぁっ……! んっ、んっ……い、っちゃう……ッ! せんせっ……せんせぇっ……!!」
「っ……羽織……!」
ひときわ強く突いて彼女を抱きしめると、ほぼ同時に果てがきた。
耳元で聞こえる彼女の甘い声が、やたらと心地いい。
何度となく締め付けが襲い、そのたびに自身も脈打つ。
「……あぁ……っ……」
大きく息を吸い込んだ彼女が、たまらなく淫らな声を漏らした。
呼吸が整う前のことで、たまらず――……彼女の唇を求め、何度となく深く味わう。
彼女の風邪なら、うつっても構わない。
「……ね」
唇を舐めてやってから涙を拭うと、それはそれは嬉しそうに彼女が笑った。
「……大好き……」
「っ……」
溶けてしまいそうな、はにかんだ笑み。
この一瞬だけは、彼女が普段と一緒だったように思えた。
腕の中で瞳を閉じた彼女に軽く口づけてから、腕に力を込める。
すると、無意識かどうかはわからないが、彼女がすり寄ってきた。
ほどなくして、呼吸が整い始め徐々に静かになっていく。
……ふと目に映った寝顔は、先ほどまでとは違ってどこか安心しきっているように見えた。
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