そんなはずじゃなかった。そんなつもりはなかった。
………気付いたら僕は、いつも彼女の姿を追い求めるようになっていた。
チャイムが鳴った。気の早い生徒が教科書とノートを片付けている。
まったく。まだ授業は終わってないんだぞ。早く終われって言ってるようなもんじゃないか。失礼しちゃうよなあ。
いつものようにそんなことを考えながら(でも顔には出さないように注意して)、僕は授業を終えることにした。
「じゃあ、今日はここまで。」
そういうと、学級委員の子が号令をかけた。
ふうー、やれやれ、だ。教師になって2年も経ったのに、未だに慣れない。
授業が、じゃない。女の子の前で話すのが、だ。
採用されたときは、まさか自分が女子高に赴任するとは思わなかった。
女の子と話をするのは、得意じゃない。どちらかというと苦手だ。これは、僕の家族、友人はみんな知っている。
だから、僕の赴任先が冬瀬女子高と知ったとき、みんな驚いた。
家族は不安の色を隠さなかったし、悪友たちは、僕がいつ辞表を出すか賭けているらしい(一番早い奴は1週間に賭けたってさ、失礼だよね)。
だけど、僕はまだ教師を続けている。
そりゃあ、女の子に対する苦手意識は、まだ、ある。
でも、それ以上に僕は「教える」ということと「生物」という学問が好きだった。
でも、最近は、どうもそれだけじゃないらしい………。
「山中先生。」
教材を片付けていると、声を掛けられた。
「何、田中さん。」
このクラスの生物の授業担当係をしている、田中詩織さん。
「ちょっといいですか?ここなんですけど。」
「どこ、ちょっと見せて。」
彼女がもってきたのは、問題集だった。どうやら、自分で勉強していて悩んだらしい。
「ああ、それはね、………」
彼女に説明しながら、ちょっとドキドキしている自分に気付く。……うーん、やっぱり、そうなのかなあ。
彼女のことは、一応見たことはあった。でも、名前までは知らなかった。…今年度が始まるまでは。
4月の初めての授業の日、彼女は生物準備室にやってきて、僕を呼んだ。
「はい?」
あれ、誰だっけ?えーっと……。
考えていると、彼女はのんびりとした口調で言った。
「3年5組の生物担当の田中です。よろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
礼儀正しくお辞儀をした彼女を見て、僕も慌てて頭を下げた。
あまり高くない身長、ほわほわした髪…。
僕が彼女に抱いた第一印象は「おっとりした、いいとこのお嬢さん」だった。
「今日の授業は…?」
「えーと、普通に授業をします。」
そういった僕を見て、彼女は「はい」と答えてにっこり笑うと、教室に帰っていった。
その笑顔で僕は、授業があることを一瞬忘れたほど、ほのぼのとした気分になった。
だって、なんていうか………。ほんわりとしているっていうか、あったかみのある笑顔だったんだ。
なんかいいな、ああいう笑顔……。
僕は、久々に安らいだ気持ちになった。
僕は、自慢じゃないが、女の子にモテたことがない。
それはそうだろう。自分で言うのもなんだけど、僕は小学校の頃から内気で、女の子と話ができなかったんだ。
よくいるでしょう、男女とも関係なく話ができて、クラスの人気者って人。
僕は、その反対。男とは話ができるけれども、女の子とは全くダメ。
用事で話し掛けられても、「うん」とか「違う」ぐらいしか言えなかった。
それは、中学、高校、そして大学に入ってもそれほど変わらなかった。
これでも一応は成長したんだよ。なんせ、用事があれば女の子に話し掛けられるようになったんだから。
大学の時は、人並みに女の子と付き合ったこともあるんだ。
まあ、一緒にいても面白い話もできないし、積極的に遊びに連れて行ったりもできなかったから、しばらくしてフラれちゃったけどね………。
だから、女子高に赴任するのが嫌だった。
採用試験に合格したときも、女子高だけは勘弁してくれって願ってた。それが、フタを開けてみれば………。
この2年間、ずっと緊張してきた。だって、周りは女の子ばっかりなんだよ?緊張しないわけないじゃない、この僕が。
授業中はまだマシだけどね。
授業中は、あまり女の子の目を意識しないでいることができた。板書したり、説明しているときはね。
内気な僕だけど、教えているときだけはちょっとだけ積極的になれるんだ。あくまで、ほんのちょっとだけ、だけどね。
だからかなあ、みんな僕の授業を少しつまらなそうに聞いているのは。
うん、まあ、僕の授業はあまり生徒を指したりしないから、緊張感もなくて退屈なんだろう。
居眠りされるのも、僕としては面白くないけれども、まあ仕方ないかもしれない。
でも、彼女、田中さんは違った。
初めての授業のときから、それはそれは熱心だった。
僕が板書を終えて説明しているとき、一生懸命ノートをとっているのが、よくわかる。
説明もきちんと聞いてくれているようだ。
あるとき、授業終了後にノートを提出させた。
みんな「えーっ」って文句を言っていたけど、次の授業のときに返すからと言って彼女に集めてもらった。
夜、家に帰ってから一人一人のノートを点検すると、やっぱり、授業態度が表れていて笑えた。
大多数は普通に書けていたけど、よく寝ている子はそれなりの内容だった。
そんな中で、几帳面な性格なんだろうね、彼女のノートはすごく良く書けていた。
多分、いや間違いなく、僕の高校のときの生物のノートよりも。
なんていうか、ありがたかった。
面白いことも言えず、堅っ苦しくてつまらない授業(うう、自分で言うのも情けないなあ…)をこんなにも一生懸命聞いてくれて。
それから僕は、今までよりもっとがんばって授業をするようになった。
僕の授業を一生懸命聞いてくれている人がいる。そのことがとてもうれしく、心の奥のほうから力が湧いてくる気がした。
こんなことを言うのは恥ずかしいんだけど、本当にそう思ったんだ。
そして、………気が付いたら、彼女を意識していた。
ここ、冬瀬女子高は、教師と生徒が付き合うのが多いっていうのは、聞いたことがあった。
でも、僕は内心「ホントかよ」って思ってた。
だって、テレビを見てると、最近の女子高生ってすごいじゃない?いまどきの女子高生が、教師に興味を持つとは思えなかったんだ。
なんせ、20代後半くらいの人をオジさん扱いしてたりするからね。
でも、今の僕は「ホントだったらいいかも…」と思ってしまっている。
いやいや、そんな馬鹿な。だって、女子高生だよ?犯罪だよ?
そんなことを考えつつ、悶々としていたんだけど…。
僕が普段いる生物準備室の近くに、化学準備室がある。
そこには、化学の教師がいるんだけども…。いや、でもまさか…。
その中の、田代純也先生。彼は、僕と一緒にこの学校に赴任してきた先生だ。
僕の方が1つ年下なんだけどね。
そして、瀬尋祐恭先生。彼は、今年赴任してきた先生だ。僕より1つ、年下。
…やっぱり。彼らは、………生徒と付き合っているのか?
今まで、僕は全く気が付かなかった。田中さんが気になるようにならなければ、これからも気付かなかっただろう。 二人とも、僕と年はほとんど変わらない。 ひょっとしたら、僕にも、大丈夫…?
いやいや、彼らは僕とは全然タイプが違う。
朗らかで、人当たりが良くて、誰とでも話ができて…。彼らはうまくいってても、僕なんか………。
でも、そこであきらめてしまうには、僕は田中さんを好きになりすぎていたようだ。
ついつい、彼女のことを目で追ってしまう。
彼女が他の先生と話していると、どうしても気になる。話の中で笑ったりされると、かなり落ち込む。
ああ、僕はやっぱり彼女が好きらしい。しかも、かなり重症のようだ………。ああ、どうしよう………。
僕は、女の子に告白したことは1回しかない。
そのときは、ホントに勇気を振り絞って告白したんだ。
その時はOKされたから良かったけど、こんなこと僕にはもう二度とできないって思った。
………今度は、前よりもっとハードルが高いんだよ?なんせ、女子高生(うっ)で、教え子(うううっっっ)なんだから。
………彼女なら、僕をフッても、僕に告白されたことを誰にも言わずに今までどおり振舞ってくれるかもしれない。 …いやいや、ダメだ。僕が、彼女の顔を見れなくなる………。
夏休みに入る前の、最後の金曜日。
さんざん悩んだ後、結局僕は、彼女を誘って明日水族館に行こう(何で水族館かって
?いや、僕が好きなんだよ…)と決心した。
決心したんだけども………。
やっぱり、僕と二人じゃあ、来てくれないかなあ………
?うーん………。
相変わらず悶々としていた、そんな時。
ふと思い出した。瀬那さん…。瀬尋先生の彼女(多分)。
いつか、田中さんと仲良く話していたし、………優しい彼女なら、僕の気持ちをわ
かって協力してくれるんじゃないかな。
そんな勝手なことを考えながら向かったのは、化学実験室。
確か、彼女は化学部の副部長をしていた…。
実験室の中を覗くと、あー、やっぱり部活をやってる。
えーっと、瀬那さん、瀬那さん…。
あ、瀬尋先生がいる。思い切って、聞いてみようか………。
「…あ、あの、瀬尋先生」
「え?」
ちょっと驚いた顔をしている。
それはそうだよなあ。今まで、そんなに話をしたことないもの。
「あの…瀬那さん…いますか?」
「ええ…居ますけど。何か?」
…表情が変わった。やっぱり、彼は瀬那さんと付き合っているんだ………。
しまった、まずかったかなあ………。 でも、今更「やっぱり、いいです」って言ってもヘンだよね…。
「あの…少しお借りしたいんですけれど、よろしいですか?」
「……はあ」
良かった、断られるかと思った。彼はそのまま、彼女を呼んでくれた。
相変わらず浮かない顔をしている彼。僕は、彼にお礼を言って彼女をつれて実験室を出た。
「……なんでしょうか?」
瀬那さんは、不思議そうな顔で聞いてきた。それはそうだよね。
胸がドキドキしてきた。もう、後戻りはできない。
僕は「部活中にごめんね」と謝ってから、話を切り出した。
「君と5組の田中詩織さん、仲良いよね。」
「はい、中学校から一緒ですから…。」
あ、そうなんだ。知らなかった…。
「うん、そんな君を見込んでお願いがあるんだ………。」
「え…、なんでしょう…?」
ああ、もう、僕の心臓はドキドキを通り越してバクバクいってる。
「僕、…田中さんが好きなんだ。お付き合いしたいと思ってる。」
言えたっ。とうとう言ったっっ。彼女、すごく驚いた顔をしている。
「えっ…、そうなんですか…。でも、」
多分「それが私とどういう関係が…」って言おうとしたんだろうなあ。
「僕、彼女と水族館に行きたいんだ。でも、恥ずかしくって、直接誘えなくって…。だから、君に誘って欲しいんだ。
彼女がうんって言えば、…君にもついてきて欲しいんだ。」
「え、ええっっ!!」
「頼むよ、お願いしますっ!!入場券は買ってあるから…。」
そう言って僕は、入場券2枚が入った封筒を彼女に手渡した。
いや、彼女の手に押し付けたって言ったほうが正しいかな。
「そんな、困りますっ!!」
彼女が、僕に封筒を返そうとする。それはそうだよね。
誰だって、そんな役を押し付けられたくないもの。
でも僕は、その封筒を押し返しながら、重ねてお願いする。
彼女も必死だろうけど、僕だって必死なんだ。
「お願いしますっ、他に頼める人がいないんだ!!僕、ほら、こんなだから、彼女と何を話していいのかわからないし…。
彼女が、僕が一緒なのを嫌がったら二人で行ってきてくれてかまわないから…。」
そういう僕に、彼女も根負けしたらしい。
「………わかりました。じゃあ、聞いてみます………。」
そう言ってくれた。ありがとう、君は本当にいい子だなあ。
「じゃあ、あの、ごめん、明日、行きたいんだ。…彼女に、都合を聞いてみてくれないかな。」
と言うと、了解してくれた。最後にもう一度お礼を言って、彼女が実験室に戻るのを見送る。
ああ、サイは投げられた。この一世一代の大勝負、吉と出るか、凶と出るか………。
少し(いや、かなり)不安だけど、………ここで勝負に出なかったら、僕はずっと悩み続けるだろう。
吉と凶、どちらが出ても、後悔はしない。
僕が、すっきりした気持ちで渡り廊下を歩いていると、向こうから歩いてくるのは…。
「あ、瀬尋先生」
「…どうも」
なんとなく、歯切れが悪そうだ。
あ、それはそうか…、自分の彼女が他の男と二人っきりで話をしていればなあ………。
「…さっきはすみませんでした」
「いえ、気にしないで下さい」
謝る僕に、彼はそう言ってくれたけれど。
………顔は、決してそう言ってはいなかった。
う、悪いことをしちゃったなあ。…急に罪悪感にかられた僕は、彼に対するお礼の意味もこめて、こう言った。
「…でも、彼女…本当にいい子ですよね」
「……そうですね」
後悔した。
彼の表情がさらに曇ったから。
うう、ま、まずい。こんなつもりじゃなかったのに…。
「あ、それじゃあ。失礼します」
「どうも」
慌ててそっと頭を下げ、早々に立ち去る。
…失敗した。 彼が誤解してなければいいんだけど。
でも、正直に事情を話すことはできなかった。 だって、それはつまり、………僕が、自分一人では女の子をデートに誘えない、意気地なしだってことを告白することだったから。
いくら僕でも、さすがにそれは………。
なんてことを思いながら生物準備室に戻った。僕のほかには、もう誰もいない。
さあ、仕事を片付けるか。僕は、イスに座ってボールペンを握り、書類を作る。
………ダメだ、手につかない。
はあ、とため息をついて背もたれに寄りかかる。
と、その時。ドアをノックする音に続いて、準備室に入ってきたのは、…瀬那さん。
思わず、姿勢を正していた。
「ど、どうだった?」
つい、どもってしまう。そんな僕に、彼女は、………思わず見とれる、極上の笑み。
ああ、瀬尋先生の気持ち、わかるなあ………。
「先生、しーちゃん、来るって!」
「ほ、本当!?良かったー!!ありがとう、瀬那さんのおかげだよ!」
僕は、興奮していた。嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。
…彼女の手をしっかり握り締めているのにも、気付かなかったほど。
彼女のちょっと痛そうな表情を見て、僕は何を握っているのかやっと気が付いた。慌てて手を離す。
「ご、ごめん!痛かったでしょう、大丈夫?ホントにごめんね。」
あせって謝る僕に、微笑んで首を振る彼女。…本当にいい子だなあ。うう、瀬尋先生、ごめんなさい………。
「じゃ、じゃあ、明日、9時30分に駅の改札の前で、どうかな?」
「えっと、いいと思いますけど…。」
水族館の開館は、10時。…1時間もあれば行けるだろう。
「じゃあ、申し訳ないんだけど、また彼女に伝えてもらえるかな?」
「わかりました。じゃあ、また明日。」
そう言って帰ろうとする彼女に、もう一度、心からお礼を言うと、彼女は「晴れると良いですね」と微笑んで帰っていった。
さあ、明日はがんばるぞー!!
そして、翌日。幸いにも晴れ、絶好のデート日和だ。
僕は、少し早めに家を出て、9時に駅についた。だって、男が遅れるのって、カッコ悪いでしょう?
…それに、田中さんを待つのも、楽しかった。
待つのが楽しいなんて、生まれて初めての経験だ。
もっとも、心臓はドキドキしていてちょっと苦しかったけれども。
田中さんは、約束の時間の10分前に階段を上って改札の前に現れた。
僕は、彼女の姿に眼がくぎ付けになる…ううっ、可愛いっ。
彼女の姿を見て、さらに胸が苦しくなる。
「お、おはよう!」
「お、おはようございます。」
「きょ、今日は、来てくれてありがとう。」
「い、いいえ、と、とんでもない。」
あがってカチンコチンになったまま、挨拶をする。
彼女も、あがっているようだ。顔が赤い。 それを見て、ますます話ができなくなる。
お互いに何も言えず、しばらく黙り込んでいたが、意を決して告白することにした。
…瀬那さんが見ている前で告白するのは、僕も彼女も瀬那さんも、あまりにあんまりだ。
「あ、あのっ、きょ、今日は、そのっ。」
「えっ。」
突然、僕が話し始めたので、彼女は驚いたように僕を見た。
その顔はさらに赤くなっていた。
自分もこんなにあがっているのに、その顔を見ると、可愛いなあ、と思う。
そ、そうだ。あがっている場合じゃない。この思いを伝えなきゃ………。
「た、田中さんっ。ぼ、僕と付き合って下さい!」
「は、はいっ!」
しまった!あーあ、まず、好きですって言うはずだったのになあ。
それから、付き合って下さいって申し込むはずだったのに…って。
え!えええっっっ!!
「ほ、ホントにいいの!?」
信じられずに、聞き返す僕。
彼女は、真っ赤になりながら、微笑んでそっと頷いてくれた。
まさに、天国に昇る気分だ。
彼女にお礼を言おうと思っても、のどの奥に引っかかって言葉が出ない。
まるで金魚みたいに、口をパクパクしているだけだ。
そんな僕の様子を見て、彼女は恥ずかしそうに俯いてしまった。
何をどうしていいのかわからない僕は、オロオロしてしまって…。
落ち着かなくてあたりを見回すと、時計が目に入った。
…9時31分。あ、あれ、瀬那さんは?
「せ、瀬那さん、遅いね。ちょ、ちょっと見てくるよ。」
僕はそう言って、階段を駆け下りた。深呼吸をする。
…告白できた。OKしてくれた。………やっと実感が湧いてきた。やった!!
と、そこに瀬那さんが走ってきた。
「お待たせしました」
「あ、おはよう」
「遅くなって、ごめんなさい…。」
「あ、いや、気にしないで。僕がお願いしたんだから。ほら、顔を上げて。」
瀬那さんは、遅くなったことを気にしているようだった。頭を下げられたので、笑って手を振る。
「それじゃ、行こうか」
「はいっ」
僕が促すと、瀬那さんは微笑んでくれた。ああ、君のおかげで本当に助かったよ。
「実はね、君が来る前に、告白、したんだ。」
「えっ!」
一緒に階段を上りながら、そう伝える。驚く彼女。でも、すぐに笑ってこう言ったんだ。
「で、結果はどうだったんですか?」
…ずるいなあ。
「…判ってたの?」
「ええ、昨日、しーちゃんから聞きましたから。」
なーんだ、そういうことか。…ん?待てよ?
「…だったら、昨日のうちに教えてくれればよかったのに。」
「そういうわけにはいきませんよ。女の子にとっては、一大イベントですからね。」
え?なに、それ?何で笑ってるの、瀬那さん?
「何が?」
「告白、ですよ。先生、私が教えてたら、告白しなかったんじゃないですか?」
笑ってあっさり言われ、答えに詰る。…多分、そうだったろうと思う。
僕にとっては、一世一代の大バクチだったんだ。
何も言えずに階段を上ると、田中さんが待っていた。
「羽織ちゃん、おはよう。」
「おはよう、しーちゃん。」
挨拶を交わした後、瀬那さんが田中さんに何か耳打ちした。
その瞬間、彼女の顔がパパッと赤くなった。
…何を言ったのか、なんとなく想像がついた。 僕の顔も、多分、赤くなってる………。
瀬那さんは、そんな僕達を見て、本当に嬉しそうに、笑った………。
今日のデート(いや、瀬那さんもいたからデートじゃないかな)は、とっても楽しかった。
僕も田中さんも、あがっちゃってロクに話もできなかったし、手もつなげなかったけど、そんなことが気にならないくらい楽しかった。
やっぱり、瀬那さんが一緒に来てくれたからだな、うん。
彼女が間に入って色々話題を提供してくれたから、お互いに少しずつでも話ができたんだと思う。
………悪いことしちゃったな。彼女にも、瀬尋先生にも。
僕は、今日の瀬那さんの表情を思い出していた。
僕たちと話をしているときは楽しそうにしていたけど、時折見せた、あの表情。
…瀬尋先生と、一緒に居たかったんだろうなあ。
ごめんなさい、瀬那さん、瀬尋先生。
瀬那さんは、これから寄る所があるという。
僕は田中さんを送ろうと思っていたので、解散する事になった。
「あ、瀬那さん!」
「はい?」
田中さんに「ちょっと待ってて」と言って、瀬那さんを追いかけて呼び止める。
彼女は、怪訝な顔をして振り向いた。
「今日は本当にどうもありがとう。…ごめんなさい。」
「え…。そんなことないですよ。私の方こそ、ありがとうございました。」
そう言ってくれる、瀬那さん。
「寄る所って、…瀬尋先生?」
「えっ!…な、何でですか?」
小声で聞くと、赤くなってうろたえている。…やっぱりね。
「折角の休日に、大事な彼女を借りてしまってごめんなさい。…彼に、そう伝えて下さい。」
僕がそういうと、彼女は真っ赤になってしまった。
そんな彼女に、もう一度お礼を言って、僕は田中さんのところに戻った。
「…どうしたんですか?」
彼女が僕に聞いてきた。…言っちゃっても良いかなあ。
「…彼女、彼氏がいるんだ。彼女達だって、あまり一緒に居られないんだろうと思う。
それなのに、僕達についてきてくれて………。田中さん、いい友達を持ったね…。」
「…はい。」
彼女の家に行く途中、二人きりになった僕達は、やっぱり、うまく話せなかった。
でも、いいんだ。僕達は、今日始まったばかりだ。
まだまだ、先は長いんだから………。
ちなみに、田代先生も、彼女はやっぱり生徒だった。
皆瀬さんって言う、元気のいい女の子(田中さん、瀬那さん、皆瀬さんの3人は、同じ中学校の出身で仲が良かったんだ)。
結果的には、僕が睨んだとおりだったんだけど…。
田代先生と皆瀬さん、従兄弟だって噂が流れてて、学校側もそう信じてるみたいなんだ。
この噂、知らなかったのは、この校内でやっぱり僕だけだったのかな?
たかボンさんから頂いた、小説!
どーしよー!!?
なんとなんとっ。
うちのサイト初の、『昭と詩織』ですよ、あなた!!!
しかもしかも、告白するあの所を書いて下さいました!!
んもー、めっちゃ嬉しい。
ていうか、昭がっ、詩織がッ!!
かーわーいーいぃーー!!
そしてそして、祐恭がやっぱり嫉妬魔(笑
この話は、『眩しいサイン』で、羽織が明に水族館に誘われる、あそこを書いて下さったんですが、
その時は祐恭視点だったので、なんつーか…。
祐恭って、やっぱり分かりやすいのね(笑
と、改めて思ってしまいました。
うっはうはです。
だって、今まで私ですら書かなかった部分を書いて下さったんですよ!?
しかも、凄く二人らしさ&祐恭と羽織らしさが出てて…。
本当にありがとうございました!!
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