「もーっ、お兄ちゃんったら。自分のHPなんだから、自分で管理してよね」
 日曜日。せっかく先生の家にいるのに、私は一人書斎の机に向かっていた。
 事の発端は、出がけに兄の孝之から手渡された一枚のフロッピーディスク。
「羽織ー。コイツの中にデータ入ってるから、HP更新しといてくれ」
「はぁ? 何で私が。しかも今出かけるとこ」
「どうせ祐恭の家だろ? 暇な時にちゃちゃっとやっといてくれよ。何なら奴に手伝わせてもいいから」
「どうして自分でやるって選択肢がないのかしら……」
「ほら、俺も多忙の身でね。おぅ、いかん。時間に遅れる。じゃ、頼んだぜ――」
 忙しいってどうせパチンコでしょ。あんな銀の玉えんえんと打ち続けるだけで何が楽しいんだろ……。
 そういう訳で、先生がスカパーで映画を見ている間に彼のVAIOを借りて作業しているのだ。
 文句を言いながらも、几帳面にやるところが自分らしい……古月のプリン3つというのはきっと労働に対しての当然の報酬だと思うの、うん。
 何はともあれ、作業作業。さっさと終わらせて先生と過ごすんだから。
「えーっと、トップ画像を張り替えて、あとは雑文? ……あ、コラムか。これを――
 何よ、これ。brタグが全部btになってるじゃない。しょうがないなぁ」
 でも、お兄ちゃんのコラムって来場者からの評判がいいんだよね。鋭いところついてると言うか。
 かくいう私も読んでたりする。
 今回のテーマは……『新海の泡と魚群に関する奇跡について』。
「……さっきの言葉、やっぱなし」

 FTPソフト(FD内にしっかり添付してあった。用意周到)でアップロードしてネット上で確認。
 リンク切れ、画像表示、更新漏れ……ないよね。
「よーし、完成っと!」
 凝り固まった体を大きく伸びをしてほぐしていく。
 今の気持ちを掲示板にでもカキコしておこうか。
 『こんな事ばかりしているといつか天罰がくだるよー』とか?
 半分本気に思いつつ、ウインドウを閉じようと、マウスカーソルを滑らせ、ふと止める。
 履歴。
 そういえば、先生ってどんなHP見てるんだろう。
 勝手に見るのはいかがなものかと頭をよぎったが、知的探求心には勝てず、クリックしてみる。
 予想通り、ニュースのサイトが大半。
 他は研究所や論文、科学関係のHP。いくつか覗いてみても専門的な言葉、記号が並んで、ちんぷんかんぷん。すぐに閲覧を断念してしまう。
 そんなさかのぼっていく中で、辿り着いた一つのHP。
 今までとは明らかに毛色の違う、パステルカラーに彩られたトップページ。創作小説サイトのようだ。
「へ〜、先生もこういうの読むんだ。意外かも……」
 いつものクールな表情とのギャップに顔をゆるませながら、試しに新作でアップされていた小説を読んでみることにした。
「わ。女の先生と男子生徒とのラブストーリーなんだ」
 性別こそ違えど、自分と近い境遇に感じるものがあったか、私は次第に話に引き込まれていった。

『だめよ。祐真ゆうまくん。私達、やっぱり年が離れすぎてるわ』
『なんだよ! 菜織なおり先生、お互い好きあってるならそれでいいだろっ』

 ……うんうん。やっぱり考えるよねぇ、年の差ってさ。
 自分が子供っぽいとか、ただのわがままなんじゃないのか、とかとか。
 男子生徒の祐真くんの苦悩する姿に感情移入しながら次のページへ進む。
「『夕暮れの放課後、教室に菜織を呼び出した祐真は思いが募って――』……ぅええっ!?」
 私は驚いてのけぞった。
 この先ってあ、あのシーンじゃ!?
 何でいきなり……あ、ページの隅っこに「この文章には性的表現が含まれます」って……字が小さいよっ!
 うう……でも、続きが気になるし。
 そ、それに私達の行為って客観的に見たらどう写ってるのかな、なんて。
「うあー、なんで自分に言い訳してるのよぉ」
 頭を抱える私。それでも読むのをやめるという賢明な判断には結局至らなかった。

「羽織ちゃーん。そろそろ三時だよ。一休みしてお茶にしない?」
「……」
「熱心だねぇ。何やってるの(ふっ)」
「うわ――ぎゃ!?」
 余りにも小説に没頭していた私は、彼が真後ろに立つまでその存在すら気がつかなかった。
 急に耳に息を吹きかけられ、びっくりして椅子から転げ落ちてしまう。
「いたた……もぅ、ひどいですよ、先生」
 だが、彼の目は私に向いていない。視線の先にはディスプレイ。
「ほほぅ、羽織ちゃん。こういうの趣味なんだ」
「違っ。……それはあの先生の履歴から」
「だからって、勝手に見るのはプライバシーの侵害なんじゃ? 親しき仲にも礼儀は必要じゃない」
「うう……ごめんなさい」
「んじゃ、貸し一つね。早速権利発動」
 先生の口角が危険な角度につり上がる。
「そんなに夢中になるほどの小説、俺にも読み聞かせて」
「読むって、これ……ええっ!?」
 私が狼狽えている間にひょいと持ち上げられ、彼の膝の上、しっかりと抱きすくめられる。
「それじゃ、このページの頭から、瀬名さん、お願いします」
 やわらかい口調の中にも、どこか強制的な力を感じる。
「――……まは、……なおりの、その……を……」
「聞こえませーん。もっと大きな声でお願いしまーす」
 無慈悲な一言に、恨めしそうに後ろを振り返っても、彼は平然とした顔。
 ……こういうときの先生って、どうしてこんなに楽しそうなんだろ。
 私は観念して、文章を読み始めた。
「……祐真は服の上から菜織の胸を揉みしだき始めた――っ!?」
 彼の手が私の胸をやんわりと愛撫する。
「先生っ、何を」
「いや、臨場感を出そうかと」
「そんな盛り上げいらないよぉ」
「でも、先の方固くなってるよ」
「なっ!?」
「小説だよ、小説。ホラ」
 あうぅ、もう何がなんだか。
 促されるまま、続きを読む。
「『違っ!』 振り向き様、菜織の唇を祐真は奪う――んんっ」
 先生のキス。
 いつもと違う、濃厚で乱暴なそれ。野獣のような瞳に魅入られ、私は為すがまま。
 ようやく解放されても、彼は唾液の糸を切らすことなく、舌を滑らせ、頬、そして耳と蹂躙していく。
「……ふぁ」
「続けて」
 耳元のささやき。
「……耳を弄びながら、祐真の右手はゆるゆると下がっていき、彼女のスカートの中へ」
 先生の手が文章を忠実にトレースする。
「っ、う、内ももの感触を楽しみ、やがてっ……んくっ、下着の上から秘裂を指でなぞる――ひぅん!」
『すごい。ここ、熱くなってる』
 シンクロする言葉。
 どちらが仮想で、どちらが現実か。その境がどんどんあやふやになっていく。
 ショーツを下ろされ、彼の指が水音を立てて、私の中に埋没していく。
 その潤いに我が意を得たりとばかりに乱暴にかき回される。
「あんっ、あう、うあっ!」
「『彼女の声は自然と高くなっていった』と。ふむふむ」
 心も、身体も、これでもかという位に追いつめられ、私は半泣きの表情で彼に懇願する。
「せんせぇ……お願いぃ、もう……」
「んー? まだ小説は途中だよ?」
 わかってるくせにぃ……。
 私は下唇をかみつつ、小さく首を振る。
「私、もうがまんできない……先生の、祐恭さんのが欲しい……のぉ」

 机を頼りに彼の方に向かって立たされる。
 膝で絡まっていたショーツがすとんと床まで落ちる。
「服も濡れちゃうね。端っこ、くわえてて」
 ……はむっ。
 スカートをくわえさせられて、彼の前に全てを晒す恥辱的な格好にも、今の私は素直に従っていた。
「うわ、膝下まで垂れてきてる」
 彼の舌がふき取るようにそこから上るように舐めていく。そして――
「……ぅふぅんっ」
 指とは違う、ざらついた刺激がダイレクトに脳まで届く。
 口に物があるため、私は声を出すことも許されず、鼻から息をもらすことしかできない。
 そんな様子の私にとどめとばかりに花芽に歯を立てられ、頭の中がスパークする。
「んああっ……やあっ!」
 くずれるように、彼の頭にしがみつき、快楽の波が収まるのをじっと堪える。
「軽く、イっちゃった?」
「……うん」
 意地悪な質問に彼だけ聞こえるように消え入る声でぽつりと答えた。
「服、邪魔じゃない? 脱いだら」
「……上だけでいい」
 トレーナーとその下ですっかり乱されていたブラをもどかしげに脱ぎ捨てると、すでに準備を済ませ、椅子に座っている彼の上にまたがる。
「ん」
 中へと満ちていく独特の感覚。
 それもこの体勢のため、自重で一気に最奥まで届いてしまう。
「ふあっ!?」
 いきなりの強い刺激に息が詰まる。彼はそんな私が落ち着くのを辛抱強く待っていてくれた。
「祐恭さん、もうだいじょぶ……」
「じゃ、動くよ」
 ゆっくりとしたペースで彼が上下に律動すると、キシキシと椅子が鳴った。
 始めはただ揺られるだけだった私も徐々にコツをつかんだようで、彼に動きを合わせていく。
 ……あ、コレって自分で角度とかペースを調節できるんだ。
 そんな事を思って、ふと見下ろすと、目があった。
「なん……ですか?」
「いや、可愛いなぁと見とれてた」
 言われると、急に羞恥心が戻ってくる。
「やだっ……可愛くなんて……ない」
「そうかな?」
「んんっ!!」
 胸の頂を舌で転がされ、眉根が寄る。
「その切なげな表情がまたそそるね」
「祐恭さん。セリフ、えっちぃです」
「当たり前、えっちしてんだから。……っそろそろ本気で行くよ」
 彼の突き上げがより強いものに変わる。
 私は振り落とされないようにするだけで精一杯。
「羽織っ、俺の目、見てっ」
「あっ、祐恭さんっ、うきょお……さぁん!」
 潤んだ瞳に互いの姿が映る。
 どちらからともなく唇を求め、舌を絡ませる。
「んっんっ……ぷはっ、あっ、や、もうダメっ。あっあぅん!」
「は、おりっ」
 瞬間、熱い迸りが私の奥に広がっていく。
 私はそれを全て受け止めようと、しっかりと彼の身体を抱きしめていた。

 後始末を済ませ、私はおぼつかない足取りでベッドに倒れ込んだ。
「はふぅ……」
「いやー、満足。羽織ちゃんが官能小説にあそこまで反応してくれるとはね」
「うう……先生こそあーゆーの趣味なんですか?」
 顔は伏せたまま、私はつけっ放しのディスプレイを指す。
「あれ、は確か……そうそう。いつぞやの孝之からのメールにアドレスリンクが貼ってあって。
 『このページのキャラたちってお前らみたいじゃね? ウケケ』とか一言あって」
「お兄ちゃん……」
「ちらっと見てつまんないから読まなかったんだけど、今日活用できたから奴にも礼を言わなきゃな。
 そうだ。このままお気に入りに追加して、新作が出る度に羽織ちゃんに読んでもらうことにしようか」
「や、やだやだ。絶対やだっ!」
 毎回、こんなハードに責められたら身も心も持たない。
「んー? それとも映像メディアの方がお好み??」
「もー、知らないーっ!!」
 私はついに、ベッドのシーツをひっつかむと、その中にくるまって、引きこもった。
 ……先生の笑い声がとってもイヤミだったからっ!
 あのHPは後で即刻削除しよ。あと居間にあるあのDVDも絶対。
「それと――」

 後日。
 古月のプリンが3つから6つになり、さらにゴディバのチョコタルト1ホール、風月堂のドラ焼きが12個追加されたのは、当然の報酬……なのだろうか?
「おいおい、羽織。ゴディバに加えて風月堂までとはちょっとボったくり過ぎやしないか?
 ていうかお前何そんなに怒ってんだって……待て。兄に向かってその握り拳は何だ。
 おわっ、話せば分かる――」
「天罰だもんっ」
 ごすん。


早馬師匠に頂いた、羽織と祐恭のらぶ話その2。
うきょーー!!!何してんですかー!!
と思いながらも、顔が笑っているのは勿論の事(笑
なんて、シチュですか!!
っていうか、祐恭一人でおいし過ぎ。
何を一人でいい思いしてるの!?
ていうか、孝之はどうしてそのサイトを発見したんだ!?(笑
素敵過ぎ。
羽織さん、あなた素敵過ぎ(笑
何もかもが、二人っぽくて「ああ、祐恭ならやらせてそうだなぁ」とか思いながら拝読させていただきました。
そうかそうか。
天罰は、オイシイ思いだけした祐恭じゃなくて、完全にとばっちりな孝之に下すのね(笑
素敵。
本当にありがとうございました!!
菜織先生の話、みてぇー
っていうか、羽織のひとりツッコミが激しくツボです(笑

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