彼女の誘惑に、俺が勝てるわけないじゃないか。


*        *        *


「佐倉センセーーー??」
「いないの?先生が来いって呼び出したくせに、不在ってどういうことー?」

ドア越しに、何人かの女生徒の声が聞こえる。
ぱたぱたと音が聞こえるのは、ちょっとおかしな女子高生特有の歩き方。
あたしはそれを薄れていく意識の中で聞き取るのが精一杯だった。


「しまった、最初っから呼び出すんじゃなかった・・・・・」

そう言いながらも全然しまったなんて表情なんかしてない男が、あたしの上に跨っている。
しまったどころか、むしろ楽しそうにあたしを見下ろす瞳はキラキラと輝いていて。

「苦しい?大丈夫?」

あたしにネクタイをを咥えさせて声が漏れないようにさせてるのは、先生。
英語教官室、しかも昼休みにこんな情事が行われているなんて、世の中どうかしている。
しかもあたしがその張本人なんて。

心地よい風が肌を掠めて、あたしと先生の意識をさらに奪っていく。

「窓、開いてるから声聞こえちゃうかもね?」
楽しくて仕方がない。そう全身で言っているような先生にあたしは唖然とした。
(・・・・・・どうして、このひとはこう・・・・・)
ついたため息さえも、風に奪われてゆく。




--------------こんなことになったコトの発端は、ほんの数分前のこと。




「なぁに?これ・・・・・」

過ごしやすい季節となり、クーラーなどに頼らなくてもいい束の間の日々。
徐々に秋めいてきた外の風景に、学生たちも同じように落ち着きの色が見えだした。

あたしはメールで先生に呼び出されて、昼休みにここ、英語教官室に来ている。
4時間目が早く終わったので、たくさん一緒に居られる、なんて胸を弾ませながら。
そもそも、それが間違っていたのかもしれない。

英語教官室に置いてある古いふたりがけのソファ。
そこにあたしが腰掛けるのを見ると、先生は鍵を閉めて。
テーブルには、小さな箱がのっていた。
「ケーキボックス?」
有名パティシエのケーキ専門店の箱。美味しくって、そしてすんごく高くって有名なところ。
「どうしたの、これ?」
明らかにひとつかふたつしか入っていないような、小さな箱。

「買ってきて貰ったんだよ。」
瑛里花さん----先生のお兄さんの婚約者に頼んだら、なんとすぐ買ってきて学校まで届けてくれたというのだ。
仕事じゃないんだからそんな急がなくても、わざわざ学校にまで持って来なくても、と先生は呆れていた。

「葵はショートケーキが好きだろ?」

そう優しい目で見つめられたら、たとえ好きじゃなくっても大きく頷いてしまうだろう。
そのくらい、あたしをすべて吸い込んでいくような笑顔だった。
「好きだけど・・・・・どうして知ってるの?あたし、別にひとこともそんなこと言ってないのに・・・」
「さぁ?なんでだろうね?」
「なにそれ。すっごく気になる・・・・・」
楽しんでいる先生に拗ねてねだってっても無駄。そんなのとうにわかってるけど、あたしはねばって先生に答えを求める。

「とにかく食べてみれば?なにか思い出すかもよ?」

美味しそうにあたしを誘惑するショートケーキに罪はない。
あたしは観念してフォークを手に取り、ひとくちケーキを口に運んだ。
(・・・・・・・・・・・っっ!!)

「せんせっ、これ、すっごい美味しいよ!?うわーこんな美味しいケーキ初めて食べたよ・・・・」

そっか、よかったと微笑んでくれる先生。
あたしのために買ってきてくれたんだよね?先生は食べないのになんだか申し訳ない。
「ケーキに美味しいもなにもあるのが信じられないな・・・・・ぜんぶ甘いじゃねーか・・・・」
美味しそうに食べてるあたしを見て、先生が苦笑した。
でもこれ、ホント美味しい。
クリームの舌触りがすごく滑らかで、スポンジもふわふわしているのに厚みがあって、苺も素材が本当にいいって分かるくらい甘い。

「葵ってば、ついてる。」

先生が苦笑して、ココ、と自分の唇の脇に指をあてて教えてくれる。
「え、ついてる?」
確かに自分の指を滑らせると、クリームがついていた。あたしはそれを掬うとぺろ、と舐めた。
そのとき、昔と変わらないな、と笑った先生の顔が固まった。
「先生?どうしたの?」
なんにもない、と顔を逸らす先生。
なんにもないわけないじゃない。先生がそうなることなんて、滅多にないのだから。
・・・・・そうだ。
「・・・・・ねぇ、先生も少し食べない?甘さ控えめで、美味しいよ?」

だってこんな高級ケーキだもん。一度くらい食べなきゃ損だよ。
ね?と渋る先生にフォークでひとくち掬って、食べさせてあげる。
その光景がなんだか新婚夫婦みたいで、あたしは自分からしときながら真っ赤になってしまった。

「確かに。うまいな。・・・・・・・・・やっぱり俺は食べられないけど・・・」
先生はひとくち、いやひとくちの3分の1くらいしか口に含んでないのに顔を歪めた。
「俺はいいから、葵に食べさせてやるよ。・・・・・・ね?勝手に恥ずかしがってる葵ちゃん?」
「んなっ!!」
そんなことない!!と勢いよく顔をあげると、にやり、とイジワルな微笑みを浮かべた先生が居た。
「ほら、口あけて。食べられないでしょ?」

先生の綺麗な顔が目の前にあって、その瞳から溢れ出るような色気にあたしはくらりときた。
まるでその目線だけに洗脳されたかのように、あたしの唇は抵抗もなくひらく。

「甘い・・・・」

英語教官室に聞こえるのは、風の音。
ただ、それだけ。
先生は無言であたしにケーキを食べさせる。あたしは無言でそれを咥内に入れる。
なんだかその無音の空間が、フランス映画のような官能的な雰囲気を醸し出していて、あたしの心臓はどんどん鼓動を速める。

「せんせ・・・・」

あたしが食べ終わるのを見ると、先生はあたしを抱きかかえて先生の片付いたデスクの上に座らせた。


「次は俺にも食べさせて。」

先生はそう言うなり、荒々しく唇を重ねてきた。
どんどんと熱く、深くなっていくキスにあたしは声を抑えることが出来ない。
・・・・・もしかして、あたしっていつもそんなに声を出していたの!?
堪えきれない漏れ出す声を聞いて、先生は楽しそうに笑った。

プリントで散らかっている他の先生の机やダンボールが置きっぱなしの床、
そして窓からで遊んでいる生徒たちの声が窓から漏れてきて、背徳感を感じさせる。
そんな中、先生の手があたしのブラウスへと差し掛かり、あたしはぎょっとなる。
「ちょっ・・・ここ、学校だよ?センセ・・・・・」
先生はそんなことお構いなしなようで、楽しそうな笑顔を浮かべたままあたしのブラウスのボタンを器用にはずしていく。

「耳、澄ましてごらん?外の声、廊下の声が聞こえてきて燃えるから。」

さらりとそう言った先生に、あたしは唖然として声も出なかった。
(ちょっ・・・・本当にココでする気!?)
観音開きにさせられたあたしの上半身を、先生の熱い手が這う。
ブラのホックもなんなく外され、洋服の頼りなさを実感させられる。

「・・・・・・・・葵は俺を、煽りすぎ。」

先生の熱い手が、あたしの感じる箇所に、次々と火を点していく。
もう戻れないように。ただ、求め合うように。
あたしの身体は、先生の手によって変えられていくんだ。

「クリームを舐めたとき、見えた赤い舌に誘われた。」

(な、なにそれっ!?)

先生の手は、あたしのスカートの中に入れられて、太腿を優しく撫であげている。
ゆっくりと、円を描くような動きにあたしは身を捩じらせてしまう。

「食べさせてあげたとき、潤んだ目で上目遣いされた。」

下着越しに先生があたしの感じるところを撫でる。
ぞくり、とする快感のしらせに、あたしは鳥肌がたった。こんなところで感じてしまうなんて。
「・・・・・・・あんっっ」
漏れてしまう、あたしの声。
自分の声とは思えないくらい、いやらしいくて甘い、女の吐息に驚いてしまう。

先生はあたしの下着を取り払い、そこに舌を這わせてきた。
敏感になったあたしの蕾が、電流を走らせたかのようにびく、と感じてしまう。
ぴちゃ、ぴちゃとわざと音をさせている先生。
静かな教官室に、湿った音がふたつ、響いている。
ひとつは繋がった唇から漏れている音。もうひとつは、先生にねっとりと愛撫されたあたしから漏れた、音。
どうしようもないくらい官能的なその光景に、あたしは羞恥心を隠せない。


「・・・・・・・・・・ね、俺も脱がせて?」


(・・・・・・・・・・・・脱がせて?)
離れた唇から、誘うように漏れた甘い囁き。
声だけで、あたしの腰に響いてあたしはおかしくなってしまいそう。

もう何も考えられなくなってきたあたしは、言われるがままにネクタイを緩め、先生のYシャツのボタンをはずしていく。
だんだんと露になっていく先生の逞しい胸が、あたしの鼓動をどんどんと煽る。

緩めることを知らない先生の手が、ふっと止まる。
あたしが不安になって先生を見上げると、そこには優しくあたしを見つめる愛しい人の顔。

「そろそろひとつになろうか?葵?」

くらり、と脳天に響くような甘い誘惑にあたしが勝てるはずもない。
先生はズボンから財布を取り出すと、そこから出てきたのは薄っぺらい正方形のもの。
「なな、なんで持ってるのっ・・?」
「いつでも葵と出来るようにするためだよ。」
(それって・・・・・・っ!?)
絶句しているあたしをさも楽しそうに見下ろしながら、先生が言った。

「俺としては窓が開いてる方が燃えるから閉めたくないんだけど、声が漏れそうだったらこのネクタイ、噛んで。」
抵抗する気も失せて一気に脱力してしまったあたしのナカに、先生はゆっくり押し進めてきた。

「そそられるね、この状況。」
先生はゆっくり腰を動かしつつ、甘く息を漏らした。

「学校。しかも昼休み。廊下では生徒が騒いでいて、外では生徒が遊んでる。
それが嘘みたいに静かなこの英語教官室では、生徒と先生の情事が繰り広げられていて。」
くちゅり、と繋がった部分から卑猥な音が漏れて、恥ずかしくて仕方がない。
滴る溢れた液が、先生の身体も濡らす。

「声を抑えて涙目で必死に俺のネクタイを噛んでる葵。」
「・・・・・・んんっ・・・・くぅっ・・・」
「制服も半分着たままだし・・・・・ホント、いやらしいな。」
「あっ・・・・あんっ・・・はっ・・・・」

がくがく、と崩れ落ちるような快感を矢次に与えられて、あたしの意識は遠のいてしまいそう。
「葵・・・・・・・あおい・・・・」
先生に何度も優しく呼びかけられ、あたしは夢の中を彷徨っているみたい。
脱ぎかけのYシャツからちらりと見える胸元がセクシーで、あたしは目を逸らせない。

「葵、愛してる・・・・・・・ずっと、繋がっていたい・・・・」

先生の眼が切なく細められて、あたしはこれ以上ないってくらいドキドキしてしまう。
こんなにあたしのココロを攫っているんだよ?
こんなにもあたしは先生の虜なんだよ?
ねぇ、ちゃんとわかってくれてる?

「ごめ・・・・・もう持たないかも・・・・激しくしていい?」
「・・・・・・ん・・・・」
声にならなくて、あたしはこくこくと頷く。
先生が、欲しいの。
抱きしめて。連れていって。遠くまで。
そんな非現実めいたことしかあたしの頭には浮かばない。

「葵・・・・・・あお・・・・いっっ・・・!!!」
先生があたしの身体の奥深くに、何度も腰を打ち付けて、あたしも先生も大きな渦に飲み込まれていった。




「せんせいのばか・・・・・」

もうホント、ひどい。
5時間目を知らせるチャイムの音。でも、あたしは授業に出席することが出来ない。

・・・・・・・・・・・・腰が立たない、から。

「・・・・・・そんなやりすぎたわけでもないのに。・・・・この状況に、感じちゃった?」
先生が冷たいお茶を入れてくれて、あたしはソファに腰掛けたままそれを受け取る。

「〜っもう、信じられないっ!!!」

ぷいっと先生から顔を逸らすと、その大きな先生の両手に挟まれた。

「葵は、もう俺から逃げられないんだよ?」

流すような目線で見つめられ、あたしの顔は真っ赤に染まる。
さっきまでと同じ甘い声で囁かれたら、あたしが反論できないの知っていて。




危険な男の虜となってしまったあたしは、抜け出せられる道なんて選んだりしない。
こんな甘い罠、きっと半世紀かかっても見つけられないもの。


------------------相手が先生なら、あたしは進んでその手をとるから。





れいあさんから頂いた、リンク記念の小説です!
すげぇ嬉しいんですけど!!!
だって、だって!!
恭平先生、エロいんだもん!!(待て
っていうか、まさかこんな素敵シチュになるとは・・・。
お願いしたのは、『ケーキ食べさせて悶える恭平先生』だったんですが、
まさか、こんなにおいしすぎる展開になるとは思っておりませんでした。
素敵(*´▽`*)
やっぱり、学校はいいよねー(何が
と、一人でにやけてしまいましたわっっ!!!
こんな素敵なお話、本当に本当にありがとうございました!!!


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