HOLIDAY
「………っってぇぇぇぇ!!」
折角の日曜日。
連日蒸し暑いにも関わらず、今日の朝はいつもより気温が低いせいかスッキリと起きる事ができた。
―――……のに。
ボーっとした頭でテーブルの脚に右足の小指を強打。
激痛で不覚にも涙が出そうになるのを目を力いっぱい閉じて何とか堪える。
無性に腹が立ってくるが、どうにも怒りのやり場が無く、それが更に俺のイライラを上昇させる。
こんな事、実は日常茶飯事だったりするんだけど……。
ほんの少しだけ痛みが治まると、閉じていた目を開く。
何も付けていない俺の目は周りの物をハッキリと映すことは無く、形はおろか、辛うじてその色の判別が出来るくらいだ。
自分の家の中ならば、何処に何が置いてあるかは分かっているからそんな状態でもあまり問題は無い。
無いけど、気を抜くとこんな風にあちこちぶつける事になる。
「ツイてねー……」
じんじんと痛む足を引きずって顔を洗いに洗面台へ向かった。
「………どうしたの?大きな声出して」
顔を洗っていると後ろからサキの声がした。
気持ち良さそうに寝ていた彼女を起こさないように、そっと出てきたつもりだったのにどうやら先程の絶叫で起きて来たらしい。
「あ、おはよ。ゴメンなー起こして」
鏡越しにぼんやりと見えるサキを見て苦笑いした。
「ん。おはよ……はい、タオル」
「ありがと。やっぱ、メガネしてないと不便だなぁ」
目の前に差し出されたタオルで顔を拭くと、そのままそのタオルを頭に巻いてしまう。
「あ…また、ぶつけたの?物凄く目、悪いもんね?史斗」
俺のその言葉だけで全てを察して、サキはくすくすと笑う。
それはそれで何だかカッコ悪いよなぁ。
「史斗はコンタクトにしないの?ウチの学校、結構多いよね?コンタクト」
リビングへ戻りいつもの定位置。
俺はソファに座り、サキはぺたんと床に座ると俺を見上げた。
「……えぇ?ヤダよ。目玉にレンズを貼り付けるんだぞ?異物だぞ?」
「まぁ、そうだけど…でも慣れれば平気って聞くし。仕事するのにも楽かなーって」
「メガネでも全然問題ないしな。それに俺、フレーム選びとか好きだからこのままでいい」
「ふぅん……?」
―――…何て言ってみたけど。本当はちょっと怖い。ゴミとか入ったらすげぇ痛いんだろ?涙とかボロボロ出るんだろ?
そんなの絶対ヤダ。
クラスの子どもにそんな所見られてみろ。「ふみとせんせぇがないてたー」とか言われるに決まってる。
確かに体育の時とかは動くとズレてくるし、夏になると汗が溜まって鬱陶しい。
邪魔くさいと思う時もある。
それでも俺は絶対にコンタクトなんてしないと決めてるんだ。うん。
「サキは俺がコンタクトにした方がいいの?」
テーブルに置いたままのメガネをサキから受け取っていつものように耳に掛けると、何となく聞いてみた。
「そんなことないよ?メガネしてる史斗も、してない史斗もどっちも好きだし」
「え?」
ふにゃっと笑いながら、さらっとそんな事を呟く。
フツーに言われてしまうと、逆にこっちが照れてしまう。
暫く言葉が続かなくなり、足元に座るサキを見つめていた。
―――今の、何だかキたなー。
左手で緩み始めた口元を抑えつつ右手で癖のない柔らかい髪を撫でる。
目を閉じて気持ち良さそうに俺の膝に寄りかかるサキ。
「あ…でもやっぱり史斗はメガネのままでいて?」
ぱっと顔を上げたサキが突然言い出した。
「なんで?」
「なんででも。史斗はやっぱりメガネの方が似合うし」
「えぇ?さっきどっちでも好きって言ったじゃん」
「そ…そうだけど!でも、やっぱりコンタクトはダメ!」
「なんだよ。ダメなのか」
さっきの言い方とは反対に、やけにムキになりそんな事を言う。
少し慌てたような、恥ずかしそうな、そんな表情で。
こういう時のサキを見ていると、何かこう……スイッチが入るというか。
軽く聞き流せばいいものを、やっぱり無視できずにいる俺。
「何かそこまで言われると逆に付けてみたくなるっていうのが、人間の性だよね」
「え。でも史斗、メガネすごく似合うよ?ほ、ほらっ…知的ーって感じで」
「結構いろんな人に言われてんだよね。コンタクトにしないの?って。そういう声に答えていくのもいいんじゃないかと」
「えー……あたしがこんなに言っても、ダメなの?」
「じゃあ何で、急にダメなんて言ったの?」
質問を質問で切り替えした俺に困ったような顔をするサキの腕を取って引き上げると、膝の上に座らせた。
「…はは。寝癖付いてる」
少し目線が高くなった彼女の前髪を指先で撫でながら笑うと、少し恥ずかしそうにサキは前髪に手を当てた。
俺が言ったのが気になったのか、ずっと前髪をいじっている。
起きたばっかりなんだから寝癖くらい当たり前なのにな。
俺なんかサキに寝癖を笑われたって何とも思わないが、女性の場合は違うのかもしれない。
頬を突いて意識をこちらに向かせて無言でじーっと見上げると、数秒視線を合わせた後、目を逸らされた。
「あ。逸らされた」
「だって…何か、じっと見られると…ねぇ?」
「いいじゃん。昨日はふたりとも風呂入った後すぐ寝ちゃったし、昨日の分も見てんの」
「そんな……あぁもう!視線が刺さるの!」
「なに?照れてんの?カワイイねぇ、サキちゃん」
「もう!からかわないでよー…」
「………で。どうしてコンタクトはダメなの?」
「……言わないもん」
「やっぱり何か理由があるんだ?」
「あ」
にやりと笑ってやると、何も言わずゆっくりと離れていこうとするサキ。
その様子が面白くて俺も何も言わず、素早くその腕を取る。
「そ…そういえば、ゴハンまだだったよね?何か作ろうか」
こちらに顔を向けないように離そうとするサキの顎に指をかけてこちらを向かせる。
「あからさまに話逸らそうたって、無駄。素直にならないコにはオシオキしちゃおっかなぁ……」
覗き込むように視線を合わせ言うと、一瞬、サキの体が強張るのが分かる。
それを解す様に指先で体のラインをゆっくりとなぞった。
「……っ…ちょ、…っと」
―――朝から、ってのもアレな気もするけど。こういうサキを見てるとどうしても構いたくなると言うか。
俺の思う通りに反応してくれる彼女。可愛くない訳がないだろう?
まぁ…メガネだろうが、コンタクトだろうが、その程度の事でサキの気持ちがどうこうなるってことはないだろうし。
俺もコンタクトにする気なんて更々無いし。
結局、俺にはどうでもいい事だ。
むしろ…それをネタにサキを構えるっていう所が俺にとって重要だったりするからな。
「ほら。言ってごらんよ。俺がコンタクトしたらマズいの?」
急かす様に唇を親指で撫でると、反応するようにきゅっと閉じられた。
……こういう状態を少しずつ崩していくのもまた楽しいんだよな。
あー…ヤバい。楽しくて笑いそう。
もう少し責めたら、彼女の表情が少しずつ和らいで、ゆったりと俺に体を預けてくれるんだ。
いつもの事ながらそれを思うだけですごく楽しい。
「マズい訳じゃないよ?メガネしてない史斗もカッコイイと思うし……」
唇やら頬やらをゆるゆると撫でる俺の手を取り、少し俯いてサキは呟いた。
―――…もう少し。
「ん?メガネ無しでもヘンじゃない?俺」
そんな事はどうでもいいくせに俺の口からは、サキの言葉を引き出すために言葉が出てくる。
反対の手で抱き寄せると、触れるだけのキスを、彼女の唇に落とした。
「あ…へ、ヘンじゃないよ。あの…むしろ、人の前で外して欲しくないっていうか……」
「どういうこと?」
―――…あと少し。分かっていながらも、どうしても聞きたくなる。
彼女の唇から紡がれる俺に対する気持ちを。
俺の視線から逃れるように俯いたサキ。
肩からさらさらと落ちる髪の毛を耳元からかき上げると仄かに染まった頬が見えた。
「どうして赤くなってるの?」
柔らかい耳朶を口に含みながら囁いてやると、「……いじわるー…」と小さく呟いて肩に置かれた手に力が入るのが分かった。
今日は日曜日。
朝からツイてないなぁなんて思ったけど。
そんな事も忘れるくらい、楽しい思いをさせてくれる彼女がここに居る。
さて。
今日はどうやって彼女で遊ぼうかなー……。
りんさんから頂いた、小説です!
かーわーいいーーー!!!!(*´▽`*)
誰が可愛いって、そりゃああなた!サキ先生が!!
ぐは!可愛いっ!持ち帰りてぇ!!!(笑
というわけで、持ち帰らせていただきましたこのお話。
実は、りんさんに描かせて頂いた、史斗先生のイラストのお礼としていただいたんです。
が。
さし上げたものより、お礼の方がすごい場合はどうすれば・・・!!?(;´Д`)
と、独りどきどきしています(笑
くぅー!史斗先生意地悪だよ!!
でも、そんなあなたに意地悪されてるサキ先生が、物凄く可愛い。
だから、許す!!(偉そう
まさか、こんな素敵な御礼を頂けるとは思わなかったので、かなり幸せです。はい♪
早速飾らせていただきました(笑
本当に、本当にありがとうございました!!(*´▽`*)ノ
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