───孝之サイド

らしくねえ、とは思うんだ。
俺らしくねえ・・・って。

でもあいつにだけは。
俺の気持ちをきちんと伝えたいと思ってるんだ。

自分でも分かってる。
分かってるんだけど。

あいつの泣く顔だけは二度と見たくない。
でも俺の気持ちだけは分かって欲しくて。
こんなやり方でしか伝えることが出来ない俺は
やっぱり天邪鬼なんだろう。

だから今回だけ。
今回だけ。
俺らしくない、けど天邪鬼な行動をすることにした。

1回だけならいいだろう?
俺らしくない俺であっても。

なあ、いいだろ・・・?
葉月・・・。


「たーくん?」
我に返ると葉月が俺の顔を覗き込んでいる。
か、顔が近いっ。
「ヒトの顔ジッとみてんじゃねーよ。」
ついつい語気が荒くなる。
いつものごとくぶっきらぼうに答えた。
「・・・?でもおかしいよ?たーくん。」
「何でそう思うんだ。」
「何でって・・・だって・・・。」
「だって何だ。」

葉月は俺の手元をじーっと見てポソリと呟く。
「だってたーくん、大好きなプリンあんまり手、付けてないじゃない・・・。」

そう、確かに葉月の言うとおり、リビングのテーブルには
あまり、いや、ほとんど手の付いてない俺の大好きなプリンが鎮座している。

うっ。
痛いトコをつくな、葉月。
俺だってちょっとは・・・その・・・なんだ・・・。
緊張してるんだ・・・。
緊張しすぎてヘンな汗が出そうだ。

これから俺が葉月にしようとしてること・・・に対してだ。
俺は誤魔化すかのように
「な、なんでもねーよっ。」
とだけ言って残りのプリンを残らず平らげ。

「ほれ。これ、お前にやるよ。」
とそれ以上何も言わず葉月にCDーRを1枚手渡した。
それを見た葉月は目を丸くし
渡したCD−Rをしげしげと眺める。

「何?これ。」
「見りゃ分かるだろ。CD−Rだよ。」
「何が入ってるの?」
「何って・・・。歌が入ってるんだよ。お前の好きそうなの選んで焼いてみたんだ。」
「へえ・・・ってまさか・・・たーくんお金取るんじゃ・・・?」
「取らねえよ!」
「なーんか裏がありそうなんだよねえ・・・。」
葉月がジト目でこっちの様子を伺ってる。
「何もねえよ。ちょっと俺サマの気が向いたから焼いてみたんだ。文句あるか。」
「ふーん・・・?」
葉月はまだ疑いのまなざしをこちらに向けている。

まあ、気持ちは分からんでもないが。
今だけは何も気が付いてくれるな。
黙って受け取っておけ。
そう心の中で呟きながら

「ま、とりあえず聴けよ。確かに渡したからなっ!」

席を立ち、ああ、それとな、と俺は付け加えた。
「いいか、絶対羽織には言うなよ?ああ、あとあいつ、祐恭にも絶対言うなよ!」
「う・・・うん・・・分かった。」

返事を確認した俺は俯き加減で階段を駆け上がり
大学へ向かう為部屋で準備を始めた。
今の俺の顔、絶対真っ赤になってそうだな・・・。
・・・。
あぁっ!!やっぱり慣れねえ事なんざするもんじゃねーな・・・。
部屋に入って頭をガシガシとかきむしる。
なるようになれ!
俺は一発気合を入れ、大学に向かった。



───葉月サイド

「で・・・。これ何・・・?」
「たーくんに貰ったCD−Rなんだけど・・・。」
「これってただのCD−Rにしか見えないわよね。」
たーくんには絶対言うなとは言われたけれど
やっぱり何か企んでるんじゃないか?
という不安に襲われた私は
結局羽織に相談することにした。


事は数十分前に遡る。
たーくんからCD−Rを貰ったは良いけれど羽織に相談せずにいられなくて
彼女の居る部屋をノックした。
「羽織、居る?入るよー?」
「居るよーどうぞー。」
ドアを開けつつ
「ちょっと相談したいことがあるんだけど・・・。」
と中に入ったら。
何故か絵里ちゃんがいた。
興味津々な顔をこちらに向けて、ニッコリと笑って手を振ってくれた。
「絵里ちゃんこんにちはー。」
手を振りつつ答えると
「葉月ちゃん久しぶりー。で・・・その手に持ってる物は・・・?」
「あー・・えと・・・これのことで羽織にちょっと相談が・・・あって・・・。」
語尾が小さくなる。

それに気づいた絵里ちゃんは何か察したのだろうか。
彼女の『きゅぴーん!面白センサー探知しました!』
なんて音が聞こえてきそうでちょっと冷や汗をかいた。
でも、時はすでに遅し。
「あらー。相談事って何ぃ?そしてその手に持ってるCD−Rは何かしらぁ?
おねーさんでよければ相談に乗るわよ〜。」と
不敵な笑みを浮かべながら絵里ちゃんにCD−Rを奪われてしまった。



で、今に至るという訳で・・・。

「とりあえず、孝之さんが歌を入れたって言ってるんでしょ?」
「う・・・うん・・・。」
「なら試しに聴いてみればいいのよ、うん!」
ウンウン、そうよ聴けばいいのよ。と絵里ちゃんが頷くので
羽織と私も顔を見合わせ
「確かにそうよね・・・。」
「そうだね・・・。」

じゃあお願い、と羽織に頼んでCD−Rをコンポに入れて
プレイボタンを押して貰ったのはいいけれど・・・。

・・・・・・・・・。
何も聴こえない。
入っているであろう歌が聴こえてこない。

「な・・何も聴こえないね・・・。」
困ったように羽織が言い
「そ・・・そうね・・・。」
と相槌を打つ絵里ちゃん。
何が入ってるんだろうと期待していたのに拍子抜けてしまった。

たーくんが何でこんなものくれたのか
ますます分からなくなる。

3人で暫く考えてみたけれど何も思い浮かぶこともなく時間は過ぎ・・・。

「もーわかんないからこの話はおしまーい!」って
絵里ちゃんが言い出したのをいいことに
3人のそれぞれの恋愛話で盛り上がって
そのことは結局夜になるまで忘れたままだった。

その日の夜。

羽織におやすみを言って部屋に戻った私はPCのスイッチを入れ
メールチェックをしてる最中に
たーくんがくれたCD−Rが目に入った。
「・・・。」
(データだったり・・・とか?まさか・・・ねえ・・・?)
と思いつつCD−Rを手に取り、
PCのDVDドライブにCD−Rを放り込んだ。

そこで目にしたものは。
いくつかのフォルダに分けられている
MP3で入っている歌の数々だった。

なるほど。
MP3だったら普通にコンポで聴ける訳がないよね・・・。
フォルダの名前を順に見ていく。
すると・・・。
葉月01 葉月02 孝之01 孝之02 最初に読め。.txt
の5つがあった。

なんだろう・・・最初に読めって・・・。
最初に読め。.txtを開いてみるとそこには
こんな言葉が書いてあった。

葉月01 葉月02 孝之01 孝之02の順に歌を流すように。

とだけ書かれていた。

なんだろうと思いつつも
たーくんの指示通りに曲を聴いてみることにした。
夜中なのでヘッドフォンをして。
本を読みつつ聴いた。
変な曲も何曲かあったけれど
それなりに色んな時代の曲とか入ってて
とてもよかった。
どのぐらいの時間が経ったのか、
お気に入りの曲が何曲かあったので
曲名を見ようとクリックしたときだった。

何気なく曲名を眺めていて・・・。


ぽろん・・・、と涙が出てきた。


何でこんなことたーくんは
思いつくんだろうって思った。
何気に見た曲名・・・。

上からずーっと眺めてただけなのに。

曲名の頭文字を読んでいくと
一つの言葉になっていた。

葉月01のフォルダには
いつもはるな(お)泣かせているけどもう泣かせない
葉月02のフォルダには
おまえに誓うよ 大切にしたい 好きだ 愛してる だから

そこで途切れていた。
続きがあるのかと
孝之01のフォルダを開けてみる。

すると・・・。

いつかきっと

の1曲だけ。

もう一つの孝之02のフォルダも開けてみる。

こっちのフォルダにも1曲だけ。

結婚しようね だった。

最後の2曲は意図的なんだろうか。

いつか、きっと

結婚しようね

って・・・。

涙が止まらなかった。

たーくんから欲しかった言葉。
待ってた言葉。

こんな伝え方をするなんて
たーくんらしい。
不器用で天邪鬼で・・・。
私に言う言葉はぶっきらぼう。
だけど私の事
大切に、大切に思ってくれてるんだね。

うん。

私、たーくんと一緒にいたい。
一緒に笑って
一緒に泣いて
一緒に喧嘩して
一緒に仲直りして・・・。
一緒に色んな思いを分かち合って
ずっと一緒に過ごして生きたい。


だから明日。

とびっきりの笑顔でたーくんに言おうって決めた。

「よろしくお願いします。未来の旦那さま。」って。

きっとたーくんは
「は?何のことだか。」って
とぼけるかもしれない。

けれど、信じたい。

このCD−Rを私の為に焼いてくれた。
この言葉だけを私に伝える為に。って。
END
 


美晴さんから頂いた、小説です。
ぎゃあ!ぎゃあぎゃあぎゃーーー!!!!(*ノノ)
なんだかもう、なんですか!らぶらぶじゃん!2人とも!!!(笑
思わず、読んでるこちらが途中から恥ずかしくなってきました。 めっさ。めっさ恥ずかしいよ、ちょっと!
いやん、もー、孝之さん!ちょっとアンタ!!
何!?めっちゃ手の込んだ伝え方を・・・!!
ニクいあんちきしょうですね、まさに(何
いやん(*´▽`*)
そしてそして、葉月。
彼女もまた、ニクい事をしてくれますねv
旦那様・・・!!きゃーーーvvv
言われた瞬間の孝之は、そらあもう、さぞや真っ赤になりながら
「な……何の事だかな。…ッハ」
とか、テレまくりでしょう。うわー。
赤面してそっぽ向く彼が、目に浮かびます!鮮明に!!(笑
何て言うかもう、本当に美晴さんの書かれるお話は、
ひたすら愛がこもってますよねv
らぶらぶ。ほのぼの。
非常に、雰囲気が良くて大好きです。
すんごい、温かい。
ああもう、ああもうーー!!!
本当にありがとうございました!!
やったな、孝之!あんた、男だったよ!!!
ウチのヘタレと違って、とても素敵な孝之にーさんを、ありがとうございました!
・・・それにしても、やっぱり絵里は絵里なのね(笑
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