───手を伸ばせば君がいる距離。

それがたまらなく嬉しくて、君を手に入れた喜びが、日々の活力になる。

どうしてもっと気付かなかったんだろう?

君を愛する気持ち、君を愛しいと思う気持ち…─────


「───……」


MDコンポから流れる絵里お薦めのアーティスト─「Feathers」の新曲をベットの上で聴いていると、その歌詞に共感していた。
ピアノの伴奏から始まり、次第とアップテンポになる曲なのだが、歌い手から聞き手の心にしっとりと伝わってくる歌詞の流れと曲に、クッションを抱きしめ思わず聞き惚れていた。
「手を伸ばせば君がいる距離」の一節を聴くと、彼のことを思い出す。
想いが通じ合うよりも先に、一緒にいる彼のこと。
背徳を感じるべき「恋」にも関わらず、どうしても彼との「恋」をとってしまった。

──秘密の恋──

に、酔いしれてるわけじゃない、けれど、この緊張感のある関係が心地よくて、毎日一緒にいられることが前以上に嬉しくなった。

「…お兄ちゃん…」

そっと小さく呟いてやると、心の中がふんわり暖かくなった。
スポンジケーキを抱いているような気分になると、体中が甘くなったような気がする。
ふふふ、と「恋」という甘い香りで、幸せに緩む頬を隠すため、クッションに顔を押しつけた。
それでも顔は緩むのを止めずに、私の顔をだらしなくさせた。

「…すき…」

幸せな甘い香りを抱きしめたまま、ぽつりと呟くとさらに甘い香りが沸き立った。
コンポからは相変わらず恋の歌が流れていて、自分の気持ちを高める歌詞ばかりが耳に入ってくるようだ。

「…だぁいすき…」

もっともっと、あふれ出る気持ちを言葉で言ってやる。
彼と一緒にいても、なにをしても満足することの出来なかった私の「甘い気持ち」。こうしてクッションという受け身を作って、クッションに向かって言うといくらか楽になった。
「王様の耳はロバの耳」という童話に出てくる帽子屋のような気分。
言いたいんだけど言えない、そんな「秘密」を共有している私たちを「幸せ」だと罵って欲しい。

「……うぅー…、駄目だぁ…」

自分の「幸せ」が絶頂を迎えた時に、ぽろりと呟いた言葉。
その拍子にクッションから顔を上げた瞬間、────意地悪な笑顔が見えた。



「なにが駄目なんだ? 羽織」



優しくて甘い笑顔で、初めて私を愛した時と同じような彼の瞳が、ベットの前にいた。
一瞬驚いた私が「幸せ」の元凶を見つめると、彼は仄かに笑う。

「…お、…にいちゃ…!!」
「ん?」
「い、いつからそこに…?」
「いつからって…。あー…、内緒」
「やだやだやだやだぁ! 出てってよー、ノックもなしに入るなんて酷い!!」
「酷くないよ。俺はノックだってしたし、何回か羽織を呼んだ」

───心の中で。
目の前の彼が心の中でそんなことを思ってるなんて知らず、私はその言葉を信じて前言を撤回した。

「…ご、ごめんなさい…」
「ん」

素直に謝った私の傍に腰を下ろしたお兄ちゃんは、満足げに横から私を抱きしめた。

「わわっ…」

急に遮られた視界に驚きの声をあげながらも、お兄ちゃんの優しい温もりを感じると、先ほどまで抱いていたスポンジケーキがもう一個焼き上がったように甘い香りがする。

「……へへ」

夜中の0時過ぎだというのに兄が自分の部屋に遊びに来て、こうして抱きしめてくれるのが嬉しい。
ちょうど、私も彼に会いたいと思ったところだった。

「…なに?」
「…し、幸せだなーって…」
「俺だってそうだよ」
「本当?」
「嘘付いてどうする。俺は何年我慢したと思ってるんだ」
「……何年?」
「ずっと」
「狡い、答えになってない」
「いいや、これも処世術だ」
「…………お兄ちゃんの意地悪」
「羽織の、天然」
「…なにが?」

急にわけの解らないことを言い出されると、兄がなにを考えているのか解らなくなる。
もう一度、瞳を合わせながら聴いてみる。

「…だから、羽織の天然って言ったの」
「天然???」
「………秋口だからって、Tシャツ一枚で寝るっていうのはどういうこと?」
「どういうって…、まだ少し暑いし…」
「俺だけじゃなくて、孝之も男なんだぞ?」
「でもお兄ちゃんじゃない」
「じゃぁ俺は?」
「……え?」
「俺のことは、お兄ちゃんだと思ってるの?」

彼がなにを言ってるのか解らないが、真剣になにかを私から引き出したいのは解った。
でも、兄は兄のままで、私にとってお兄ちゃんは「男」でも血の繋がり方からしてはやっぱり「兄」という存在になる。

「……血の繋がりは、お兄ちゃんだと思う…」
「羽織は? 羽織は、俺のことどう思ってる?」
「え?」
「…俺、羽織を抱いた日から男なんだよ? そんな俺の前でTシャツ一枚っていうのは、かなり無防備過ぎないか?」
「…で、でも…」
「毎年思ってた。…このシャツの下にはなにがあるんだろうって…」

そう言うと、ゆっくりと私の首筋から手を下に降ろしていく彼。
最初は頬に触れ、次に首、首筋を伝って二つの丘に着く。決して中心は触れないように、柔らかな丘の周りをなぞり滑っていった。お腹をさするように撫でられていると、途端に天地がひっくり返っていた。

「…お、兄ちゃん…?」

腰に回された手が、ゆっくりと私をベットの上に寝かせていたらしい。
気付けば彼の顔がこちらを見下ろしており、彼の手は下腹部に伸びていた。

「……羽織、……」

愛おしむように、壊れ物に触れるように、恋人がそれをするように両手で両頬を包まれる。
穏やかでいて、激しい熱を瞳の奧に隠し持った兄が私の瞳を見つめる。

「…お兄ちゃん…?」

ゆっくりと近付く顔に抵抗なんてできっこない。
一度彼と体を重ねてから、しっかりと自分の体に刻み込まれた彼の「痕」。
その小さな痛みが愛しくて、次の日の夜はひっそりと自分で自分の体を抱きしめた。

「……ん、ぅ……」

小さく唇を合わせていたのだが、次第に舌が咥内に入ってくる。かき混ぜるように舌を蠢かせる彼の舌につたないながらも頑張って追いかけていると、体が甘く疼く。
初めて恋人達がするキスを彼としてから、キスされる度に彼の舌の動きを覚えた。

「ふぅ、ん…ん」
「……へー、頭の良い子はキス覚えるの上手いっていうけど、本当なんだ」

一度離れた彼の唇をぼーっと目で追いかけながら、彼を見上げていると、彼が私と見下ろしながら口の端を微かに上げた。

「…意地悪…」
「なにが?」
「……お兄ちゃん、私の成績知ってるくせに……」
「……」

話をしている間でも服を脱がせていたその手を止め、はた、となにか考えるように虚空を見つけてから、彼はにっこりと笑った。

「訂正しような。…英語の成績が良い子はキスを覚えるのも上手い。…羽織にとって、俺とのキスは英語の発音と同じように簡単みたいだ…」

意地悪なことを言われてるような気もするけれど、そんなに甘い声で囁かれると反論する言葉も見つからない。
こういうところ、お兄ちゃんは確信犯だと思う。

「…なに? 羽織」

いやにやとした笑みで名前を囁かれるだけでも、体の中心から甘い蜜がとろけ出すというのに、それをあたかも「知ってる」というような瞳で、彼は私を見つめ返した。

「知らないっ」

まるで拒絶してやるように顔を背けると、笑いを堪えた笑い声が耳に届いてくる。
私は彼に抱かれる度に、笑えるような状況じゃないっていうのに、彼は余裕で私を抱く。余裕なんか持てないのに、この恋をとってしまったときから、私は全然心穏やかじゃないのに。
それが、大人と子供の違いなの…?

「────っあ…んぅ…!!」

ぬかるんだソコに、熱くて大きなモノが這入ってきた。
ゆっくりと私の中に這入ってきたお兄ちゃんに応えるように、私も痛みを堪える。こんなのたったの一瞬だ。まだまだ体が慣れてないから痛みを伴うだけだとお兄ちゃんも言ってたけど、私が痛がるとお兄ちゃんが困ったように笑う。
罪悪感なんて持たなくて良いのに。
私は、私自身が望んでこうなることを願ったんだから────

「はお、り…?」
「ん…、なぁ…に…?」
「痛い?」
「……だい、じょーぶ…」

ここだけはなにがなんでも余裕があるようにしなければ。
そう思って、ほんの少しだけ痛いのを我慢して、笑みを見せる。
「大丈夫、大丈夫」と、片手を彼の頬に当てながらもう一度笑んで見せた。

「……」

しかし、彼は少しだけ困った顔で私の名前を呼んだ。

「羽織」
「…ん?」
「羽織、羽織…?」
「なぁに? …なに? おにいちゃん」
「…羽織…」
「大丈夫だよ? …私は、大丈夫…」

最後に一言、強く彼に伝えてやると、お兄ちゃんはゆっくり微笑んで卑猥な水音を立て始めた。
注挿を繰り返す彼の動きが扇情的で、見ているこちらもドキドキしてさらに蜜が溢れ出す。
しっとりと濡れた肌に張り付く彼の髪の毛、優しい瞳の中に隠された激しい激情、時折見せる切なく歪む顔に、何度も心を奪われた。

「お、にぃ…ちゃ…!」
「あ、羽織…っ」
「やぁ…、んんっ…、そ、んな風に、しちゃ…、ああっ」
「そん、な、風に、って、……これ?」
「ああ、────んーっ」

突然訪れた快楽の嵐。
彼が不思議な腰の動きをすると、別の部分が擦り上げられて足が痺れる。
押さえつけることが出来ないほど、跳ね上がる体。明らかに快楽を感じて、悦んでいるのが解った。

「や、あ、…ぅんっ」
「…隣り、孝之、寝てんだから、……我慢…っ」

ギシギシ、と二人が愛し合っているBGMを耳元で聴きながらしっかりとシーツを握りしめる。
その手に重ねるように、彼の大きな手が覆い被さってくるので、シーツを離して彼の手を掴んだ。そして、声を出さないように、空いた手で口元を押さえた。

「ふ、ん……、んんっ」
「…ん、凄い…、良いよ、羽織…!」

私が聴いたこともない「声」が彼の唇から漏れるのを聴いて、興奮する自分の体。

「ん、あっ…、は、おり…っ、……」

彼も私と同じように夢中になっているということなのか?
私のことを全身で好きだと叫んでいるのだろうか?
彼が声を漏らすということだけで、彼がもっと欲しくなる。

「も…と、…もっとぉ…っ」
「んっ、羽織ぃ…」
「や、やんっ…、あ、お兄ちゃん…、…あ、あ」
「羽織、ごめ、…俺、……イッちゃう…っ」

苦しそうな声を彼が出すのと同時に、彼が何度も腰を強く打ち付けてきた。
最奥まで届くと私の体もなにがなんだか解らなくなって、襲いかかる波にひたすら体を預けるだけになる。

「あ、う…っ」

最後に一際強く私を貫いた彼は、ゆっくりと笑んだ。
兄と同じ時に絶頂を迎えた私が見たのは、彼の優しげな瞳だった。


「────……」


さらりと流れる髪の毛を弄ぶのは、きっと兄の大きな手。
いつでも私を守ってくれて、どこにいても掴まえてくれる。
遠い意識の中で、彼が私を抱きしめながら「愛してる」と呟く声が聞こえたような気がした。


後日談。

「…好き、とか、大好きって言葉は、俺に言わなきゃ意味がないだろ」
「ま、まさか聞いてたの!?」
「だから、内緒だっつったろ?」
「酷い酷い酷い! プライバシーの侵害!」
「残念。他人ならともかく、家族内での未成年のプライバシーは適応されないんだよ」
「……むぅ…、じゃぁ、お兄ちゃんもちゃんと言って」
「なにを?」
「…面と向かって、愛してるって言ってよ。私が寝てる間にそういうこと言うのって狡いと思う!」
「…な、ば…っ」
「馬鹿じゃないもん。ちゃんと起きてたもん。お兄ちゃんの意気地なし!」
「………い、意気地なし…?」

その後、祐恭は「意気地なし」の一言にショックを受け、しばらく黙って羽織の部屋に入ることをやめたそうだ。
…二日で終わったらしいけど。

─終わり─




るぅうううこぉおおおーーー!!!!!
げはぁっ!!
もう、ダメ。
もう無理。
悶え死に決定。
っていうか、悶え以上ですよこれは奥さん!
だって!
だって、物凄く顔がニヤけたもん!!!(笑
と言うわけで、るーこから『兄妹版 祐恭×羽織』を頂きました。
いやーー!!!
何が凄いって、あなた!
当社比1.8倍位に、祐恭がえろい!!(笑
ぐあ!
もう、してやられました。
兄貴フリークとして名高い(?)ワタクシも、ここまでやられたら何も言えません。
むしろ、これはこれでシリーズ化しようかと!(待て
本当に嬉しかったです。
まさかこの二人のこのシチュでの萌エロを読めるとは・・・!!
ありがとう、ありがとうるーこ!!!
大好きだーー!!!!(*´▽`*)


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