――――どうして、人と人って離れているんだろう?
どんなに大好きな人ができても、決して「ひとつ」になれないじゃないか。
こんなに体ごと恋焦がれているのに、「ひとつ」になれないなんて、悔しすぎる。
神様はアダムとイヴを作ったくせに、男と女、と分けたくせに、分けたまま。


私は、ただ彼の奥深くで「ひとつ」になりたいだけなのに…。



「―――絵里、どうしたの?」
「…え?」

声をかけられて、視界を泳がすと、目の前にはきょとんとした顔でその瞳には「心配」の色が覗ける羽織の顔。
素っ頓狂な声を出した私に、羽織は苦笑したまま自分の眉間に人差し指を当てた。

「しわ。寄ってたよ?なにか悩み事?」
「いや、別に悩み事ってものじゃないんだけど、ね…」

まさか顔に出てるとは思うまい。
私は苦笑しながら羽織をこれ以上不安にさせないように、笑った。

「悩み事じゃないけど、なにか悩んでることあるんだ?」

相変わらず切り返しがうまい。
ここまで羽織を仕立て上げたのが、某化学教師っていうのが妙に腹が立つ。
腹が立っても、私にとって羽織は大事な存在なわけだし、彼女も彼女で、祐恭先生の傍にいるのが一番幸せなんだろうな。
と、自己完結すると女同士の友情もなんと儚いことか。
これ以上テンションを下げないように、男女の友情の違いについてメリットがあることだけを思い浮かべながら、黙り込むと、
羽織がまた苦笑するように眉間に指を当てた。

だめだこりゃ。

羽織の苦笑に、同じく苦笑を返しながらも、私達は男子校潜入を試みていた。
ここは冬瀬高校校門前。むしろ、正門。
まるで勝負を挑むように仁王立ちで立っているのが私と、羽織の冬女生徒二名。
今まで女の園にしかいなかったもんだから、男の園…いや、少し想像したら気分がかなり悪くなったけど、
その男しかいないむさっくるしい学校に、二人で乗り込んできたのだ。


本来ならば、女人禁止の冬瀬高校。
そんなところに、なんで乗り込んできたかって?



「―――でも、どうして私達なんだろ…?」

ぼんやり、冬瀬高校を見上げている羽織の顔には不安な表情。
それもそうだ。彼女は男慣れしてないいまどき珍しいくらいの純粋培養種。
健気で可愛くて、お料理も出来て、家事全般ちゃーんとこなせるの。
どこにお嫁に出しても恥ずかしくないぐらいに素敵な子なんだからっ!!―――私より。
一人で突っ込むと、ダメージ倍増。

「……いるからじゃないの?」

はぁ、とため息つきつつ、自分のダメージのケアをひっそりとしつつ、私は羽織に話し掛ける。
きょとんと相変わらず私を見つめる羽織の顔は、女の私から見てもやっぱり可愛い。

「なにが?」
「……そこの駐車場。見てごらんよ」
「え?」

ふっと私から顔をそらした羽織は、指し示した方へ素直に顔を向ける。
そこには二台の車。
真っ赤なスポーツタイプのRX-8と、いつも見慣れたアテンザ。
まるで正門から来る人たちを威嚇するように、二台並んでいた。
それを見て、納得するように私を見る羽織。

「…なるほど」
「それに、羽織のお父さんここの先生でしょ?」
「あ、そうだ…」
「忘れてたの?もー、羽織ってば時々天然ー」

ううぅ、と妙な声をあげて顔を真っ赤にした羽織を置いておいて、私と羽織は挑むような足取りで冬瀬高校に入っていった。

「…見張るなら、自分達の手中にある方が良い、ってね…」

昔読んだ孫子の中に、そんなような戦術が書いてあったことを思い出していた。


冬女と、冬瀬は提携を結んでいるといえども別々に運営されている学校。
そんなシステムなわけだけど、提携していても交流がないっていうのはほんの少し嫌な気持ちがする。
というのも、冬瀬に通っている男子生徒から出た意見だ。
そこで学校側も少しは考慮して、一年に一回だけ、交流会、と称した茶話会が行われる。
男子学校でわりと無法地帯になっている冬瀬、しかし、生徒会には紳士が揃っているということなので、今年は冬女から二人。
体育祭で頑張っていた絵里と、羽織が選ばれたのだった。
本当はもう二人いたのだけど、月一のアレのせいで行けない、や、
大会が迫っていて学校の決めた酔狂に割いてやる時間はない、と強気な人もいたもんで、結局残りの二人は欠席。
もともと女子高育ちなわけだし、男子と係わり合いを持ちたくないって輩も学校にはいるだろう。
そのため、学校側からも、選ばれた生徒達には強く言えない部分があった。

で。

なぜ、そこに祐恭や純也の車があるのか、というと。
これも成り行き上こうなってしまった、としか言いようがない。
なんといっても祐恭は冬瀬で補講教師をしているし、なおかつ冬瀬の卒業生だ。
冬女側から、「生徒達が楽に冬瀬へ行けるように」と、冬瀬に内通している祐恭を選ぶことも容易に想像がつく。
そして、純也。
彼がたまたま選ばれたような人間だ。
ことの発端は職員室で「冬瀬の実験もどんなことをしているのか見てみたい」とぽつり漏らしていたことが原因。
それを聞いていた祐恭が、純也も一緒に行けるように頼んだようだ。
学校側も絵里の身内、ということだけあって保護者のような感覚でそれを快諾。

…そのお達しがきたのは、冬瀬に行く人選を知った後だっていうのは、ここだけの話。


「―――ふえー…。男子校って、こんなんなんだ…」

来客用玄関から守衛室を回って、そこに名前を書いたらバッチを渡された。
親切な守衛さんに、「中にいるときはつけてください。帰るときは、ここに戻していただければ結構です」との説明を受け、
戸惑いながらも番号がついたバッチを胸に着ける。
それから先生達に手渡された校舎内の地図を頼りに二人は校内をうろついてる、というわけ。
そんな中で、一番暢気に声をあげたのは羽織だったけど。

「あんまり声出さないでよねー、授業中なんだから」

羽織の可愛い態度に、思わず笑みを漏らしつつ私は地図とにらめっこ。
羽織は小さく「ごめんなさい」と笑って、再び校内を見渡していた。

なぜ授業中に歩いているのか、というと。
さきほど言った通り、男子校なだけあって女に飢えてる輩がほとんどいる。
そいつらから身を守らせるために、あえて授業中に校内に侵入させ、
あらかじめ役員が待っている生徒会室で茶話会が開かれることになっていた。

「それにしても、ほんっと最悪。車あるぐらいなら、エスコートぐらいしろってのよ」

地図を見ても一向に生徒会室に着かないイライラをぽつりぽつり呟きながら、顔をしかめる。

「まあまあ。二人とも先生なんだし、きっと仕事でもしてるんじゃない?」
「そりゃ、考えれば解るけど…。でも、狼しかいないところでか弱い彼女二人を置き去りにする?」
「…あははは」

むぅ、と顔をむくらせながら羽織を見ると、彼女も苦笑した。
羽織だって男子校にいるだけあって、不安の渦中にいるに違いないのに、私に遠慮して校内をはしゃぐように見てるんだ、きっと。
人に気を遣う前に、自分にも気を遣えってのよ。
…ま、そんなところが羽織の可愛いところなんだけど…。

ああ、駄目だ。これじゃぁ親馬鹿、もとい、友達馬鹿、だっ。


「――――あ、ねぇねぇ、ここじゃないの?生徒会室」


自分の苦悩っぷりを悟らせないように、いっそう無口になっていた私に、羽織の暢気な癒される声が聞こえた。
ん?と顔を向けると、嬉しそうに羽織が「生徒会室」と掲げられたドアの前にいた。

「ホントだ…。…この地図、すんごい解りづらいんだけど…」
「せっかく着いたんだし、文句はあとで言お?今は、私達もお仕事お仕事!」

無理してるのか、緊張してるのか解らないけど、ほんの少し引きつった笑顔で私を促す羽織を見て、気を引き締めた。
私がいなきゃこの子だって不安になるんだ。だから、私が守ってあげないと。


意を決した私は、目の前に聳え立つ「生徒会室」のドアをノックした。


すると、中から二つ返事で声が聞こえて、静かにドアが開けられる。
出迎えてくれたのは、整った顔で笑顔を向けてくれた短髪の男の子。
その奥に見えるのは、生徒会長と書かれている札を机に置いてある、生徒会長の笑顔だった。

「いらっしゃい。冬瀬女子高等学校のお二人さん」

その笑顔は、誰でも慕ってしまうような親しみのある笑顔だった。





――――和やかな雰囲気に包まれて、甘いお茶菓子の香りと、心地良い紅茶の香りが生徒会室に溢れていた。
ソファに座らせられ、対峙するように生徒会役員の面々と顔を合わせる。
話題は最近のドラマの話から、受験生ならではの今後の進路について、それから、もちろん触れられる羽織の父親の話。

「…やっぱり、可愛いんだね。羽織ちゃん」
「え?」

唐突に生徒会長に言われながら、羽織が目を丸くする。

「瀬那先生の噂、聞いてるよー」

嬉しそうに、羽織の顔を覗き込みながら後輩とも思われる会計くんがにっこり笑う。

「うわ、さ…?」
「そ。瀬那先生の冬女に通ってる娘さんは、とっても可愛い、って」

会計くんの言葉を継ぐように、会長がにっこりと笑みを返す。

「だ、誰がそんなこと…!!」

そこで初めて、戸惑っていた羽織が驚いたように赤面した。

「あはは、赤くなっちゃって可愛い」
「これこれ福原くん、そうお嬢さんをからかってはいけませんよ」

会計くんは、にこにこ笑いながら「解りました。副会長」と返事を返す。

「羽織さんのことは、どことなーく瀬尋先生から伺ってます。本当に可愛らしい方で」
「いえ、あの、その…」

戸惑う羽織も可愛くて、隣に座ってる私まで鼻が高かった。
こういうところで羽織が誉められるのって、私にとっては本当に嬉しいことで、むしろ名誉なことだ。
彼女が心優しくて、いい子なのは私が一番知ってる。
だから、変に拗ねることなく、思わず笑みがこぼれる。

「それに、ご友人である皆瀬さんも美人さんですね」

と、突然話題がこっちに移ってびっくりした。

「え!?わ、私ですか…?」
「類は友を呼ぶとは、まさにことことだねー。妹から話は伺ってます、この間の体育祭でも下級生達からアピールが凄かったとか?」

まるで姉のように会計くん、もとい福原君が私に話し掛けてくる。

「あははは…」
「俺も見たかったなー、皆瀬さんのガクラン姿」

ぽつり言った一言で、生徒会役員達の興味をかったのか、矢継ぎ早に質問攻めにあった。
それに一つずつ丁寧に答えて、慌てずしっかり前を見据えて、余裕を持って答えた。
それが、外国に行ってしまった両親から教わったことだったから。

「―――お二人がこんなにも聡明で素敵だとは思いもよりませんでした。楽しい時間がすぐに終わっちゃうのは、寂しいね」

会長が最後の挨拶を交わそうとしたところで、授業終了のチャイムが鳴り響いた。

「授業も終わったみたいだ…。今日は授業よりも楽しい時間を、ありがとう。皆瀬さん、瀬那さん」

にっこり笑って、一人一人と握手した。

「こちらこそ、有意義な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」

ぺこり一礼した私に習って、羽織も一拍後れで頭を下げた。

「瀬那さんにいたっては、先生にもよろしくお伝えください」

副会長さんが、ゆったりとした口調で笑みを見せる。
他の役員も次々と挨拶をするべく言葉を発した。

「それじゃ、失礼します」

ぺこり、最後に一礼して私と羽織は生徒会室を後にした。


―――ぱたん


最後にドアを閉めて、二人一緒にふぅ、と息を吐き出す。
まったく同じタイミングだったもんだから、見合わせて噴出してしまった。

「緊張したけど、とってもいい人たちだったね」
「そーね。ケーキも美味しかったし」
「エスコートとか、慣れてそ〜〜っ」
「もー、なにげに羽織もメロメロになってたりしてー」
「そ、そんなことないよーーっ」
「祐恭先生に言いつけちゃおー」
「や、やめて〜〜っ」

二人、じゃれながら特別教室しかない四階を笑いながら、玄関に向かって歩き始めた。

「あ」
「ん?なに、羽織」
「……お父さんに、会ってきても良い?」
「……良いけど、どしたの?」
「あ、挨拶しておこうと思って…」

恥ずかしそうに俯いた羽織を見ながら、ピーンときた。

「祐恭先生、そこで待ってるんだ」
「っええ!?!?」

真っ赤。赤面。図星だな…?
胸中にやり、と笑いながら羽織の可愛い仕草に微笑んだ。

「いいよー。別にー。私も純也探すしー」
「…でも、田代先生も先生と一緒にいるんじゃない?」

思わぬ羽織からの突っ込みに、はた、と気付く。

「…それもそっか」
「うん」
「じゃ、職員室にれっつごーっ」
「ええ、ちょ、絵里ーーーっ!!」

四階には特別教室が並ぶので、職員室は二階に設置されていた。
私は少し小走りになりながら四階から二階への階段を降り、追いかけてくる羽織の足音を聞きながら、職員室に向かっていった。

相手が羽織の父・雄介ならば遠慮せずに挨拶ができる。
この学校で知り合いに会える、ということが絵里の喜びに繋がった。
いくら強がっていても、絵里も普通に男子校に潜入するのが怖くないわけがないのだ。

しかし羽織がいる手前、そんな顔微塵も出来ない。
一回でも不安げな顔をすれば、今度は羽織が強がってしまう。
…といっても、昔から一緒にいるんだ。相手の気持ちぐらい読み取れるだろう。
けれど、今のこの距離が私と羽織をつなぐために必要な距離だった。
遠慮せずに話しができる間柄。
それは、彼氏が出来たって変わらない関係。―――私と羽織にだけ適用する、不変。


それを、彼にも、と強要したくなるのは、自分勝手なんだろうか…?


「えへ、一番乗り」
「もー、絵里ってば大人げないっ!!」
「いーじゃないっ。バトミントンは負けてあげてるんだからっ!!!」
「そういう問題じゃないでしょっ」

二人笑い合いながら職員室でまたしてもじゃれていると、他の男子生徒たちの針のむしろ。
中には生唾ごっくん喉鳴らしてるやつもいて、ほんの少し、怖い。

「―――なにを、じゃれてるんだ?羽織」

そんな奴らを牽制するように現れたのは、羽織のお父さんである、瀬那先生だった。
その顔には笑顔と言うべきか、呆れた、というべきか、そんな表情が伺える。

「あ、お久しぶりです」
「おお、絵里ちゃんか。こちらこそ、お久しぶり。…そうか、今日は羽織と絵里ちゃんが来たのか…」
「お父さん、昨日私言ったよー?」
「ああ、すまんすまん。悪かった」

周りにいる野次どもから、「瀬那先生の娘さんだって…?」
などと囁かれている。それが聞こえてきたのか、雄介もすぐに私達を帰宅させるように話を進めた。

「で、もう帰るのか?」
「うん。…あんまりいても、怖いだけだし…」
「…愚問だな」

こっそり父に言った言葉に、思わず雄介も笑みを浮かべる。
案の定ここにいる男子生徒は少ないので、このままなら自分達の存在を知られる前に帰れると思った。
そして、雄介は羽織にそっと呟いた。

「祐恭くんたちは、ここじゃあまりにも目立ち過ぎるから、裏庭に行くよう薦めたよ。玄関を出て右に校舎を迂回したらそこが裏庭だ」
「ありがと、お父さん」
「気をつけてお帰り」
「はい、ありがとうございます。おじさん」

羽織と二人、笑顔で挨拶して、とりあえず人が集まる前にさっさとその場を後にした。
二人で、「なんのために職員室行ったんだろうね」なんて嬉しそうにはしゃぎながら。




―――しかし…?



「っどーして、追っかけてくんのよ!あいつらはっ!!!!」
「わ、わかんないよ〜〜〜っ!!!」

全速力で走っている私と羽織の後ろからは、「うおぉ、女だぁ」と叫びながら走ってくる男子生徒が数名。
生唾ごっくん野郎もそこに混ざっていた。
―――恐怖だ。
なにされるか解ったもんじゃないっ。

「羽織っ、さっさとバッチ返して裏庭行くわよっ」
「うんっ!!」

一階の階段を駆け下りて、一人ずつ生徒を撒きながら、ときには親切な警備員のおじさんに助けられながら、
私達は裏庭へ全速力で走った。
そこまで行けば、番犬が待ってる。
いや、番犬なんて無粋な言い方じゃなくて、素敵な王子様が待ってる。
しかも、二人っ。

てゆーか、ほんっと、怖いんですけどっ!!!!!

羽織を見てみると、かすかに瞳が滲んでるし。
私もうっすらと涙が視界をぼやけさせた。
羽織を守るのは私だ、今は、私が羽織を守らなきゃっ。

「絵里っ!!?」
「いーから、先行きな、羽織!!」
「でも…っ」
「あんたが一番足遅いのよっ。少し遠回りして、追って撒いてから合流するから、祐恭先生と純也と一緒に待っててっ!!!」
「………わ、解ったっ!」

私の意図をしっかり理解した羽織は、そのまま裏庭に向かった。
そして私は、ちょうど分かれている二つの道のうちの一つに足を向けた。
追っ手を全部自分に回して。
全速力で走りっぱなしな分、心臓が暴れるぐらいにどくどくいってる。
足だって本当はもう疲れてきてる。限界なんだ。それでも、私は走らなければいけない。
自分を叱咤しながら、追っ手を一人、二人、と撒いて裏庭に戻ってきた。

「―――絵里っ!!!」

嬉しそうに羽織がこっちを見た瞬間。



―――――ざざっ



「きゃっ!!!」

校舎の角から出てきた黒い影が全速力で私にぶつかった。
思わず悲鳴をあげるが……。


あ、れ…?
痛く、ない…。
むしろ、あったかい…????


不思議な感覚に包まれながら、酸欠状態になった頭を働かせる。
が、一気に酸素を脳に送り込んだもんだから、頭痛が、頭の回転を妨げた。
しかし、しばらくこの状態で5秒間経過していた。
その5秒が1時間ぐらいに長く感じていて、自分が一体どのような状況になっていたのかを知るのは、
その5秒後だった。


―――――べりっ



引き剥がされた。
……ってーことは、なにか?
突然出てきた黒い影に、………考えたくもないけれど、
私は5秒間ほどずっと抱きとめられてたと…!?

「―――ごめん、これ、返してもらうよ」

次に見えたのは、にっこり笑いつつもはっきりと怒気を露にしている純也の顔。
そして、自分は彼の腕の中。
相手は悪気もなくただ出てきただけで私を抱きとめただけなのに、
純也に凄まれちゃって「ごめんなさい」と一言言って立ち去って行った。
ごめんね、親切な人…。

「大丈夫!?絵里!!」

次に心配してきた羽織の顔。その後ろからは、恐ろしいものでも見てるような祐恭先生の顔が相次いで見える。
純也の腕の中から開放された私は、とりあえず羽織を安心させようと笑顔を作った。
ひどく、引きつってる笑いだ。

「…絵里、平気…?」
「うん…。でも、羽織の方こそ…」
「私は大丈夫。一人来てたけど、捕まえる前に…、そのぉ…」

だいたい顔赤くして言葉詰まらせると、祐恭先生なのよね。

「祐恭先生につかまったわけね」
「え、絵里ちゃんっ!!」
「はぁ、でも羽織に怪我なくて良かった…」
「絵里ちゃん…」


「―――悪いけど、絵里、もう連れて帰るから」


と、私と羽織が会話してる時に、純也が羽織からも私を離した。

「な、にすんのよっ!!」
「黙ってろ。家に帰るんだよ」
「ちょ、純也っ!!?」
「てことだから、祐恭君ごめん、あとのことは頼んだ」

苦笑するように会釈をした祐恭先生に言った純也の手は、容赦なく私を引き摺るように駐車場へと向かっていた。
そんなに強く引っ張られたら、痛いっちゅーねんっ。





――――――ばたん、かちゃり

二人の住処に帰ってきた私と純也。
鍵をかけて二人で靴を脱いで。
いつもと違うのは、――――純也が終始無口なこと。

あれから車に乗せられて、家に着いて、部屋に入ったのは良いけれど、一言も会話を交わしてないとなると少し不安になる。

「…純也…?」

呼んでみても返事がない。
そういう態度が失礼だとでも思わないのか、26歳化学教諭っ!!!

「……」

びしぃっと心の中で指を指しても、反応がない。いや、あっても怖いのだけれど。
そんなに自分が悪いことをしたつもりはないのに、純也に怒られているのはまさに理不尽極まりない。
ていうか、もともと純也たちが私たちのことをちゃんとエスコートしてくれれば、こんなことが起きたりしなかったはずなのだ。
それなのに、一人機嫌悪くなるなんて良く解らない。
不安な気持ちが、一気にイライラに変わる。

「…純也ってば」
「……」
「あーもーっ、私がなにしたってのよっ!!!」
「……」

ここまで返答がないと、面白いものだ。いつもは私が不機嫌になったときは、純也は純也で気を使ってくれているというのに。
自分はこうしている純也を見ても、何も出来ないのが悔しかった。
今度はイライラから、寂しさにもにた焦燥感が募った。

「………」

こういうとき、彼とひとつになってしまえばいいって感じる。
彼の奥深くまで「ひとつ」になれたら、きっと彼の気持ちを容易に汲んでやれる。
それなのに、今私はなにをしてるんだろう?
彼の仕草に戸惑ったり、イライラしたり、寂しくなったり。
自分自身を忙しくしてるだけで、彼に対してなにをしてやれるのか解らないなんて。


どうして、…


「……どうして、人間はひとつじゃないんだろ…」

思わず、ぽつりとこぼした言葉に、ソファに座った純也が僅かに動く。

「体とか、心を通わせたって結局人間は一人じゃない…。
…てゆーか、むかつくわよねっ。好きな人のことが解らないなんて。
解らないから、どうすれば良いのかって考えても理解不能の四文字しか出てこないのよ?
なんでこんなに純也のことが好きなのに、純也のことが解らないのよっ!!!」

一気にまくし立てるように言い放った言葉は全部真実。
途中からなにを言っているのか解らなくなってきたけれど、それでも言い切った。
どさくさにまぎれて「好き」だとか言っちゃったけど、だってしょうがないじゃない。
純也がすきでも、純也のことが解らないんだから…。

「はぁ…」

ソファにもたれかかってた純也が一つ息を吐く。
それから後ろでただ突っ立って戸惑ってる私を見て、寝室に促した。

「……なによ」
「いいから、こいって」
「大人しく抱かれないからね…」
「なに馬鹿なこと言ってんだよ」

苦笑した純也の顔は、いつものように笑っていて、ほんの少し私の心を軽くさせた。

「……ん」

いつもと違った雰囲気に流されないように、私は純也のあとに着いていくように寝室に入った。

「で、ここ座る」
「…いきなり先生面?」
「文句言わずに座れって」

ベットの端っこに座った純也が、隣にぽんぽんと手を叩いて座れと言った。
そのまま座ってみる。


「ちょ、純也っ!!!?」


座った途端、唐突に抱きしめられた。
強い力で私を抱いた。

「っどーしておまえは自分の心配をしないんだ!」
「……はぁ?」
「羽織ちゃんは羽織ちゃんで、守らなきゃいけないような子かもしれないけど、 俺にとっては絵里が大事なんだよ!!!」

唐突な告白。
てゆーか、あの、えと、心臓がばくばくいっちゃってるんですが…。

「頼むから、自分の体を心配してる俺のことももう少し解ってくれ…」

そうしていっそう抱きしめる腕に力をこめた。

「言ったよな?後先考えずに安易な考えをするところは、直せ、って」
「で、でも今日は…」
「俺達がついてやることが出来なかったのは悪かったよ。それに、まさか男子生徒が追いかけるなんて予想もつかなかった。
……だから、これは、その…」
「?」
「―――〜〜〜、俺の、独占欲だっ!」

急に抱きしめた腕を解いてそっぽを向いた。
その耳は真っ赤で、いつもの純也らしからぬ行動に、思わず微笑む。

「この間のガクランといい、俺を誘うことばっか覚えてきやがってっ!
俺が今日どんな気持ちで一日中そわそわしてたか、知らないんだろ!」
「…純也…」
「羽織ちゃんも祐恭くんのせいであんなに可愛いし、その隣におまえがいると、 俺が気が気じゃないんだよ…!!」


…羽織のそばに私がいると、気が気じゃない…?


「ちょっとそれ、どういうことよっ!!!」
「お、怒ンなよっ、誉めてんだぞ!?」
「羽織は可愛いから、その隣に私が立つと可愛くなくなるって言いたいの!?」
「ちげぇっ。そんなことは一言も言ってないっ!!!」
「そういう意味じゃないの!?」
「だから、絵里、そうじゃなくてだな…――――」

辺りを探って掴んだ枕を、純也めがけて叩きつけた。

「ぶっ」
「純也の馬鹿っ!!!!」
「ちょ、絵里…」

呆れるように目を細めた純也。私はそっぽ向いたまま。
はぁ、とこぼれる吐息に「怒ったのかな?」と少し不安に感じていると、天地がひっくり返った。

「――――っ!?」

そのまま押し付けられる唇。
口を開かされ、咥内を舐めるように純也の舌が私の口の中を蹂躙する。

「あ、ふ…」

思わず漏れた吐息に顔を赤くしつつ、瞳を開けると純也の困ったような顔。

「だから、最後まで聞けって…」
「…だって…」
「おまえも、もう少し素直になったらもっと可愛くなるのに…」
「…え?」

純也が、にっこり微笑んだまま私の両手首を押さえつけてる手を、離した。

「……絵里、可愛くなったよ。綺麗になった」
「ちょ、じゅ、純也…?」
「…ったく、俺がちゃんとこう言わなきゃ信じないんだからなぁ、絵里は」

満面の笑みを称えて、私の首筋に唇を寄せた。くすぐったい吐息が首筋にかかって思わず体をひねる。

「こうやって吸い付けば、すぐに紅くなる」 「…あっ…」
「な、知ってるか…?キスマークって、俺のモノって印なんだぜ…」

掠れた声で耳元で囁き、その手は制服のボタンに手をかける。
しゅるり、とリボンが取れた音がした。

「だから、毎回つけるのに、その意味すら解ってないだろ」
「…ふ、ぁ…、あ…」

ボタンを外しながら、ゆっくりと鎖骨に愛撫してくる。
柔らかい純也の唇からの愛撫をうっとりと受けていると、 ブラジャーの間から差し込まれた手に、体が敏感に反応する。

「っん…!!」
「…最初だって、こんなに大きくなかったんだぜ?」
「ちょ、…はぁ…ン…」
「えっちぃ体にしたの、誰だと思ってんだよ…」

服も脱がせずそのまま放置して、ブラをたくし上げた純也はつんと立っている突起を口に含んだ。

「はぁぁんっ!!!」

音を立てながら舐めまわす音に、絵里の体も打ち震える。

「…ずいぶんえっちな声で鳴くようになったもんだ…」

内心くすり、と笑うように純也は私の胸を揉みしだいた。
快楽の波に襲われるまま、声をあげる。その声は甘みを帯びていて、 純也に抱かれる度に甘美な響きを増すように思えた。

「じゅ、んやぁ…」
「欲しい?」

懇願するように、涙目で彼に瞳を向けると純也はにっこりと笑っていた。
恥ずかしげもなくこっくりと頷くのを見ると、下着を一気に下ろした。

「っあ」
「濡れてるぞ?」
「や…っ」

唇は突起を含んだまま、片方の手で秘所を探り当てる。
割れ目に沿ってなぞると、次々と溢れ出した。

「はぁっ…、あ、…んんん…」
「気持ち良いときは、俺の名前呼ぶ」
「…じゅんや…ぁっ」
「…上出来」

そして、つぷつぷと音を立てて純也の指が入ってきた。

「ああああんっ!!!!」
「ほら、もう溢れてる。…一本だけじゃ足りないかも…」
「ば、かっ!!」

乱れた制服の上で、淫らに鳴く彼女を見ているうちに純也も自身の欲求を抑えられずにいた。

「…じゅ、んっ……や…」
「なに?絵里」

わざと、彼女が一番感じるように耳元で囁いてみる。
それも、とっておきの優しい声で。

「……くだ、さい…」
「なにを?」
「………言わせたいの…?」
「うん。絵里、今素直だし」
「……………」
「言わなきゃ、やめるかも」
「や、だ…!」
「じゃ、言えよ」
「……純也のが、………欲し、い――――」


これはある意味パンドラの箱だよなぁ、としみじみ感じながら、純也は言えたご褒美のキスを送る。
そして、自分のベルトに手をかけてズボンとボクサーパンツを一気におろした。
滾った自身に避妊具をすぐにあてがうと、快感に体を震わせている絵里を見下ろす。

「…いい?」
「き、て…」

儚く笑う絵里が愛しくて、ついつい加減ができなくなってしまう。
純也はそのまま一気に自身を突き刺した。

「っ…んんん、ぁあああっ」
「ごめ、……早く絵里ン中……、入れたく、て…」

苦しそうに顔を歪めながら、自分の上で甘い吐息を漏らす純也に愛しさを感じる。
ゆっくりと両腕を彼の首の後ろにかけ、小さく頭を撫でた。

「絵里…?」
「…これ、が、ひとつって意味かなぁ…?」

と、嬉しそうに笑ったのだ。


「―――くっ!!!」


突如腰を早める純也の行動に叫びはしたものの。
自分も早く絶頂に「一緒に」いきたかった私は、すぐに快楽の海におぼれていった。
時折漏れる純也の感じてる声に心臓がどきどきして、ひとつになってる気持ちをかみ締める。
それが嬉しくて嬉しくて、思わず純也の体のどこかにキスを残した。

「…制服着ながら半裸って、すごいえっちぃな…」

などともらしながら、腰を早く進める。
揺さぶられている絵里はもう、絶頂に近かった。

「イけよ、絵里…っく」
「い、やぁ…っ!」
「ンだよ…」
「だ…、って、だ…ってぇ…っ」

涙を瞳に浮かばせながら、必死になって純也を見上げる。

「ん?」
「…い、しょにぃっ……。じゅんや、と、ひとつになりた…っ、あ、くぅんっ!!!!」
「え、ちょ、待て―――――っくぅっ!!!!!!!」

最後の台詞を言うか言わないかぐらいで絵里が達し、艶やかな表情を堪能する間もなく純也もすぐに果てた。


「―――……抜いちゃうの?」
「ばっか、あたりまえだろっ」
「……寂しい…」
「駄目。子供出来たってしらんぞ?」
「いーもん、純也が責任とってくれるし」

ええ!?と驚く純也の顔を想像してたのに、返って来たのは、


「そうだな」


と微笑む甘い声。
反対に私が戸惑っちゃったわけで…。
抜かないでって懇願したにも関わらず、激しいキスされたもんで抜かれちゃった。
くすん。ぽっかり空いたようで、ほんの少しだけ寂しい。



―――どうして人と人って、離れてるんだろうね。



問い掛けた私の問いに、彼は、



―――相手を、より求めるためだろ。



と、そう言ってのけた。
私も「そうだね」と、呟いて笑った。



るーこから貰った、お友達記念の小説。
ぐーはぁーーー!!!
貰ったのは夜中だったんですが、旦那と娘が寝静まっている中、
一人で悶えて萌えてそりゃあもう大変!ってなくらいでした(笑
うーはーvv
こんなにも、絵里が大人しい。
こんなにも、純也にらぶ。
こんなにも、甘い!!!
きゃーーー!!!
ほんとうに、ほっとうに、めちゃんこ嬉しかった!!!
ありがとう、るーこ!!
キミのハートは鷲掴み!!!(違
も、もといっ!
がっちりんこと、ぐぁばちょっとつかまれてしまいました。
もう、ダメ。
萌えーーvvありがとう!!!!きゃーきゃーー!!!

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