「ただいま〜」
奥に声をかけながら、ウォーキングシューズを脱ぎ捨て中へと入っていく。
廊下には美味しそうな匂いが漂い、夕食を作っているらしい何かを炒める音が聞えてくる。
キッチンを覗き込むと、想像通り羽織が鼻歌を歌いながら、フライパン片手に菜箸で掻き混ぜている。
視線をそちらへ残したまま、リビングに足を踏み入れ、ソファに腰を下ろして新聞を広げた。
「お兄ちゃん、お帰り〜」
手を止めたのか、羽織がこちらへとやって来る。
ちょっと驚かせてやれと、振り向きざま口内のガムで風船を作ってやる。
驚いたらしい。
ビックリ眼のまま固まっていたが、すぐにそれも解けて拗ねたように口先を尖らせ、ぽかぽかと手で背中を叩いてきた。
「もぉ、ビックリしたじゃあないの。それよりガム噛んでいるってことは、髪切ってきたんでしょ?さわらせて」
「じゃあ、胸がどれくらい成長したか、確かめさせろよ」
冗談半分だったのだが、羽織の奴、胸の前で腕を組んでザッと後へと飛び逃げやがった。
見事な逃げ足の速さに、祐恭の奴は普段、羽織に何してんだろうかという気にさせられる。
警戒心も露わに睨んでくる羽織。
本人は怖い顔のつもりかもしれないが、あまりにも可愛らしいその表情に、つい噴き出してしまった。
「クッ。冗談だって……」
肩まで震わせる俺に、やっと安心したのか、羽織がゆっくりと近付いてきて、そっと俺の後頭部に指を這わせた。
昔、教えてしまって、今じゃあ恒例行事になったこれだけど、祐恭には見せられん姿だなと思う。
最近のあいつを見ている限り、こんなところを見られた日には、羽織がどんな目にあわされるやら……。
相手が俺であろうとも嫉妬に駆られるだろうしなぁ。
あいつが羽織にどれほど本気か、つくづく痛感させられる。
今度から髪を切るのも、タイミングを計らんといけないな、と羽織に気付かれないよう溜息を吐いた。
「うふっ。気持ちいいなぁ〜」
俺が物思いに耽る間も、羽織は楽しげに髪を撫で続けている。
短めに綺麗にカットされた後頭部。
切りたてのそこを触るのが気持ちいいのを教えてくれたのは、子供の頃から行きつけの床屋の親父。
行きなれたのもあって、未だにそこに通っている。
帰りにくれるガムが、楽しみのひとつでもあったりするんだよな、これが。
羽織の柔らかくて温かな指先が、触れるたびにマッサージでもされているように気持ちいい。
「おい、これだけ好きにさせたんだ。今度付き合えよ」
「え?お兄ちゃん、また振られたの?」
「別れたと言えよ!」
全く、こういう点は絶対祐恭の影響だな。
歯に衣着せろってんだ。
「今度の日曜な」
勝手に予定を決定してやる。
「え…今度は、先生とぉ……」
ちらっと見上げると、徐々に語尾が弱くなっていく。
男、優先かよ。
……って、俺も似たようなもんか。
彼女がいたら、彼女優先にするしな。
困った表情でこちらを窺ってくる羽織。
俺は安心させるように微笑みながら、
「近いうちに祐恭が出張に行くらしいから、その時にな。何がしたいか考えておけよ」
とソファから立ち上がりながら、からかっただけだと教えてやる。
そして羽織の頭をぽんぽんと叩いてから、俺はリビングを出て、自分の部屋へと行くのに階段を昇っていく。
後頭部を撫でながら、そういえばこれって、楽しめるのがカットした当日か翌日までと短い期間だから、
今まで付き合った彼女にもさせた事がないなぁ……なんて考える。
部屋に入ってPCを起動させながら、羽織をどこに連れて行くか、なんて事を考えながらネットに繋ぎ、メールチェックを始めた。
ねこ♪さんから頂いた、にいや(定着か!?)の1コマ。
あれ、気持ちいいですよねぇ・・・(うっとり
いや、旦那は出来ない髪形なので、私の場合は幼少期の弟でしたけど(笑
じょりじょり〜っとな。
ガム、いいよねー。
私も、絶対孝之は床屋のあのガム欲しさに行ってるんだと思う。
飴みたいな、ガムみたいな不思議なお菓子を、私も良く昔は食べたもんだ。
相変わらず、妹思いのにいや。
やっぱり、シスコンかのぉ。
ありがとうございました^^
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