「…だ…ダメ…」
「…ふふ♪そういう顔も、とっても可愛い…」
「……んぅ…で…でも…」
「どうしたの?そう言ってるけど、ここは…ほら……」
「……で…でも…ダメ……」
「……ダメ?」
「…んぅ……お願い…」
「……ん?…それは……本心かい?」
そう聞かれて思わず私は
「……うん…」
と答えてしまった…。
本当は違ったのに…。
だけど――


「どうしたの?ち・は・る!」
そう言って声をかけてきたのは、同じ美術部の朋夏(ともか)だった。
私の顔をのぞき込むように見ると、空いていた前の席に座って尋ねてくる。
「最近、元気ないけど…どうかしたの?」
「えっ?そう?そんなことないけど?」
「そうなの?だったらいいんだけどさぁ…」
そのまま彼女は机に突っ伏した。
彼女、朋夏とはクラスは違うけど、同じ日にこの美術部に入った。
それがきっかけで、私たちはいつも一緒にいるようになり、そして次第に心の中を打ち明けられるくらいの、仲のいい友達になった。
そんな彼女だからこそ、今の私のちょっとした仕草の変化に気がついたのかもしれない。
もう…、こういう時は敏感じゃなくていいのに…。
それにしても、彼女に心配をさせるわけにはいかないよね。
私はとりあえず、なにか話題を……と考えを巡らす…。
「…そういえば、最近、公園の近くにおいしいケーキのお店ができたんだって♪」
「えっ?そうなの?」
「うんっ!とってもおいしいって評判らしいよ。朋夏一緒に行く?」
「いいね、一緒に行きたい!」
「じゃ、今日の帰りにでも寄ってみる?」
「ははは、千春ったら、すぐ行動、即実行だね」
「なにそれ?それって私が単純っていうこと〜〜?」
「いたたた。ち…違うよぉぉ〜褒め言葉だよぉぉ〜〜〜!」
私は朋夏の頬を、ぎゅう〜〜と引っ張っる。
とりあえず、この場はなんとか凌ぐことができた…。
あとは、顔に出ないように気をつけなくちゃ、ね!
それにしても…。
もう、私は単純じゃないよ!
ぷんぷん!
その後も私たちは、じゃれ合いつつも、帰りのケーキの話で盛り上がっていた。

ガラガラガラ…。

しばらくして、ドアが開く音する。
ふと視線を向けると、そこには白衣を着た先生が立っていた…。
美術の教師であり、もちろん美術部の顧問でもある冬馬先生が…。
「みんな、課題の方は進んでるかな?」
そう言って先生は室内をぐるっと見回す。
みんな思い思いの場所で描いているものだから、一度に全部を見るのは不可能なわけで…。
先生はその後、ひとりずつ作品を見て回っては、いろいろとアドバイスをしていく。
そんないつもの光景が、嬉しくもあり、悲しくもあるんだけど…。
気がつくと、すぐ後ろまで先生は歩み寄ってきていた。
「森野くんと城山くんは、おしゃべりが課題……だったっかな?」
そう言って、こっちに向かってにっこり微笑む先生…。
「あ、いや、違います…」
「すみません、これからすぐ取り掛かります」
私たちは慌てて、道具を準備した…。
まずいなぁ…と内心思いつつ…。
でも先生はいつもの通り微笑みつつ、そして他の生徒の作品を見に行った…。

放課後…。
部活も終わりを告げる時刻になった。
私は朋夏に、玄関で待っているように言ってから、誰もいなくなった美術室で帰り支度をしていた。
さすがに課題が期日までに終わりそうにないので、持って帰る準備をしていると…。
するとそこに、冬馬先生が入ってきた。
きっと、施錠を確認するためだと思うけど…。
「ん?千春ちゃん…まだ居たの?」
「うん…。課題…終わりそうにないから持って帰ろうかと…」
「そうか…。じゃ、気をつけて帰るんだよ」
そういうと先生は窓の鍵を確認しに行く。
それだけ…?
先生…それだけなの?
しばらく見つめていると、その視線に気がついたのか先生が振り返る。
「ん?僕になにか用?」
そんな言い方って…。
「…いいです!失礼しますっ!!」
私はドアをぴしゃりと勢いよく閉めて駆け足で美術室から出て行った。
先生の…バカ……。

「ホントおいしいね〜ここのケーキ」
「でしょでしょ?この間雑誌に載っていたくらいなんだから」
学校帰りに立ち寄ったケーキ屋。
雑誌に載るほどの味ということで、ひとつ話題づくりに…と立ち寄った。
正直、朋夏に話し出した時は、ただのその場凌ぎの話題だったんだけど…。
いざ来てみて食べてみると…本当においしい。
思わずほっぺが落ちてしまいそう…。
もう、食べている時が一番シアワセかも♪
そんな幸福感に浸りつつ、ふと向かいの席の朋夏を見ると……。
……あれ?
朋夏、あまりフォーク進んでない……。
「朋夏……おいしくない?」
「ううん、おいしいよ」
「でもあまり進んでないけど…」
「あははは、ごめんね。私、こういうものってあまり食べないから…。でもホントおいしいよ」
「えっ?そうなの?ごめん朋夏…なんか付き合わせちゃって…」
「いいの、気にしないで千春。たまにはこういうのもいいんじゃないかなぁと思って」
朋夏は笑ってケーキを食べている。
そんな…、なんか無理矢理私に付き合わせちゃって…。
「ごめん、朋夏…無理しなくていいよ」
「無理しているのはどっちかな?」
……えっ?!
そういって朋夏は、フォークに突き刺したイチゴを、私の顔に向けてきた。
イチゴが鼻にあたるというくらいの近さで、その動きを止める。
「無理……?」
私は聞き返す。
「そう。無理をしているのは千春じゃないの?」
……うくぅぅぅ…。
さすが親友…やっぱりごまかしきれないのかぁ…。
その心境が顔に出たのか、朋夏が続ける。
「もう、千春ったら、無理して頑張りすぎなんじゃない?友達なんだから、少しは頼って欲しいなぁ」
それは彼女の本心だと思う…。
そうじゃないと、好きでもないケーキ食べに行くなんて絶対言わないだろうし…。
「うぅぅ、ごめん…」
私はうつむいたまま、そう言った。
「で、千春の元気がない理由はなんなのかな?」
突き刺したままのイチゴをタクトのように降って、彼女はにこやかに、少し意地悪っぽく尋ねてくる。
「…うぅぅぅ言わないとダメ…?」
「ダ〜メ!」
あぁ…、親友でもあまり話したくないことなんだけどなぁ…。
私はしばらく悩んだ末…。
「あのさ〜、誰にも言わないでくれる?」
「なになに?そんな秘密の話なの?」
彼女の目はなんかきらきらしていた。
あぁ、もう、なんでそんなに好奇心旺盛なのかなぁ…。
「絶対内緒だからね」
私は改めて釘を刺した…。


「最近、彼が…その……してくれないの…」
私は勇気を振り絞って告白した…。
「…してくれないって…それって…もしかして…?」
「……うん」
「………」
しばらくの沈黙の後、彼女は目を丸くして言った。
「えっ?…っていうか、もうエッチしたの?」
「しーしー!!声が大きいよ、朋夏!!」
「ご…ごめん…」
もう、いきなり大声でそんな…周りに聞こえちゃうよ!!
「『彼ができた』って話は聞いていたけど…そっか…」
彼女は腕組みをしながら何かを考えているようだった…。
そう、今のところ彼女にだけは「彼氏ができた」という話をしていた。
だけど、相手が誰なのかまでは言ってないし、それ以上彼女も聞いてこなかった…。
きっと私が彼のことを話した時、困ったような顔をしていたからだと思う…。
本当は嬉しくて、みんなに話したいんだけど、でもそうすると先生に迷惑がかかりそうだし…。
でももしかしたら、瀬那先輩にはバレているかも…。
先輩の前で変なこと言っちゃったし…。
でも瀬那先輩だったら大丈夫だと思う…。
先輩そんなこと他人に言うような人じゃないから…。
「それにしても、驚き…。千春、隅に置いとけないね」
そういって私の鼻を、ちょんと指でつついた。
思わず顔を背ける…。
「でも…今は…」
「そうなんだ…、辛いよね…。でもなんで、してくれなくなったの?」
「…それは…きっと…」
「ん?」
「……私が断ったから…」
「…えっ?断った…?」
「……うん…」
「なにを?」
「……その…外で、エッチするのを……」
「…あっ……」
彼女はあまりのことに驚きと感嘆を隠せないでいる。
そうだよね、普通そんなことしないよね…。
しばらくして、彼女はコップに入った水を一気に飲み干すと、ようやく言葉を発した。
「う〜ん、そういうのってよくわからないけど…。それにしてもなんでだろうね?」
なんで…って、それはどっちの意味?
なんでエッチをしてくれなくなったのか…っということ?
それとも、なんで外で…っていうこと?
そんなことを考えていると朋夏が続けて尋ねてきた。
「それ、直接本人に聞いてみたの?」
「…ううん」
私は首を横に振った。
「すぐ実行即行動…のいつもの積極的な千春はどこに行ったの?」
「……だって…恐いもん…」
「…そっか…そうだよね、……恐いよね…」
こういう時、友達っていいなぁって、心の底から思った。
こうやって愚痴を聞いてくれて親身になって考えてくれて…。
私のために付き合ってくれて…。
心の中で朋夏に対し感謝していると、彼女は私の頭を撫でながら言った。
「大丈夫だって!そのうち、ちゃんとしてくれるようになるから、ね♪」
なんの根拠もない言葉だったけど、私にはとっても嬉しかった…。
ありがとう、朋夏…。

次の日。
美術室の片隅で、私は課題の仕上げに取り掛かっていた。
隣をみると、朋夏も最後の追い込みをしているところ…。
他の生徒たちはすでに出来上がって、片づけをしている人もいる。
私はちょっとした焦燥感にとらわれていた…。
まずいなぁ…。
「う〜ん、森野くん…なんか悩み事でもあるの?」
「きゃあっ!」
「おっと!!」
いきなり後ろから声をかけられ、私はびっくりして思わず筆を滑らせてしまった…。
その筆が、声をかけてきた冬馬先生の服に当たってしまって…。
「ご…ごめんなさい…」
私は慌ててハンカチで白衣に付いた油絵を拭く…。
慌てているせいか、それはただ闇雲に絵の具の範囲を伸ばしているだけであって…。
「あははは、気にしなくていいよ。これはこういう時のためにあるものなんだから」
先生は笑いながら私にそう言った…。
「本当にごめんなさい…」
「いいから謝らないの。いきなり声をかけた僕が悪いんだから、ね?」
その後先生は、しげしげと私のキャンパスを覗き込む。
「う〜ん、やっぱりなにか悩みがあるでしょ?」
「えっ?どうしてですか?!」
「ほらここ…。こことの色合いの調和がとれていないよね?森野くんがこんな色遣いするわけないから…、だからそうなのかなぁと」
そ…そうなの?
自分でも気がついていなかったんだけど…。
その光景を見ていた朋夏が、なにかを閃いたように先生に話しかけた。
「先生スゴイ!!そうなんですよ、千春ったら大きな悩みを抱えていて…」
ちょっ…ちょっと…朋夏!!な……何言い出すの……?!
「やっぱりそうだったのか…」
「先生!相談にのってあげてくれます?」
だ…だから、朋夏…それはダメなんだって…!!
「もちろん、いいですよ。僕で答えられる範囲であれば、なんなりと!」
そう言って先生は、またにっこりと微笑んだ…。
…さ……最悪だ……。

「で、悩みって何かな?」
先生は自分の席に座って、私たちに問いかける。
ここは美術準備室…。
悩みを打ち明けるということで、生徒が少なくなったとはいえ、みんなの前で言うわけにもいかず、ここで話をすることになった…。
先生の前に並べられたイスがふたつ…。
私と朋夏のぶん…。
私たちはそこに座っていた…。
「先生って…一度社会に出ていたんですよね?」
朋夏がそんな質問をする…。
いきなり意味がわからないんだけど…。
「うん、まぁね。しばらく会社勤めしていたよ」
「そうなんだぁ…だから他の先生と違う感じがするんですね?」
「そうなの?なんか…匂う?」
先生は軽い冗談を交えながら朋夏の話を聞いている。
…って、そんな話は別に…。
「じゃ、いろいろ経験してますよね?仕事とか…恋愛とか…」
「まぁ、ほどほど人並み…だと思うけど…?」
「彼女、今、恋の悩みの最中なんです」
「……恋…?」
…うぅぅ…こ…ここで本題?
「朋夏…」
「いいからいいから♪」
だから、よくないんだってば…。
ふと見ると、先生は少し驚いたような顔をしていたけど、すぐににっこり微笑んで朋夏の話に聞きいっていた。
「そうなんですよ。それもちょっと進展しすぎたって感じの」
「ほほう。どんなことかな?」
「あのですね、その…彼氏が…」
あわわわあわわわわ…と…朋夏…!!
私は慌てて、朋夏の口をふさいだ…!
ダメだよ、こんなの……本人に直接聞くのと同じだよ!!
口をふさがれた朋夏が、「落ち着け落ち着け」とジェスチャーしている。
私は、とりあえず朋夏から離れたけど…。
「千春…大丈夫だよ、冬馬先生だったらちゃんわかってくれるから…」
「いや、だから…あの…」
だから…その冬馬先生が張本人なんだって…。
「で、千春の彼氏が、最近…その…エッチをしてくれないって言うんですよ」
うわぁぁぁぁ!
言っちゃたぁぁぁぁ!言っちゃったよぉぉぉ!!
朋夏…!この責任は……重いからね…。
私はこの時、朋夏のお節介が少し恨めしく思えた…。
「先生から見て、それはどう思いますか?」
その問いに先生は…。
目をつむり、なにやら深く考えている様子だった…。
そしてしばらくして答える。
「う〜ん、いくつか考えられると思うけど…」
「いくつか…?」
「うん。ひとつは彼に、他の彼女ができた場合…」
…えっ?
「ひとつは彼女自身に興味がなくなった場合…」
…えっ?!そうなの?!
「そしてもうひとつは…、彼女を大事に思っている場合…」
……っ?!それって……どういう意味…?
「先生…最初のふたつはわかるんですけど…最後のひとつは…何故ですか?」
朋夏が質問する。
そう、なんで「大事にする」のと「エッチしなくなる」のとが一緒なの?
「それは…エッチしたくてもできない状況になったんじゃないかなぁと思うんだけど…」
「そういえば…千春、エッチ断ったって…」
「わぁわぁそんなこと言わなくてもいい〜〜!!」
私は慌てて否定するも、後の祭り…。
先生はそれを聞いて…いや、知っているくせに…妙に感心している。
「大事な人にそれを拒まれたら、その後できなくなるんじゃないかなぁ…。だって好きな人に嫌われたくないでしょ?」
…えっ?
「相手が嫌がるということは、もしかしたらその行為、ま、この場合エッチなことなのかな?が、実はあまり好きじゃないのか?
 と、思っても仕方がないだろうし」
…え…そうなの?私…そんなつもりじゃ…。
「へぇ〜そういうものなんですか…」
朋夏はすごく関心を持って聞いている…。
「だから相手を大事に思っているなら、それ以上無理強いをせずに、普通に接していたい…。もしかしたらそう思っているだけかもしれないね」
そうなの…?先生…。
「ま、これはあくまでも僕の個人的意見なんで、正直あてにならないですけどね」
そう言って先生は苦笑した…。
「先生…スゴイですね…」
朋夏がすごく感心してそう言った…。
「ん?…何が?」
「だって…千春がそういう体験をしているといっても驚かなかったし、なんか全てを見透かしているって感じがして…」
「あははは。ま、経験上、そういうものじゃないかと…」
笑ってごまかす先生を、見入るようにして朋夏が言った。
「先生ってすごく大人ですね。彼女になる人がとっても羨ましい…」
「そんなことないよ。僕の彼女になる人はきっと物足りなさを感じるんじゃないかなぁ。こんな僕だからね」
「何故ですか?」
「だって、ほら、あまり感情現さないから…ね」
そういって先生は軽く笑った。
「そうかなぁ…」
……そんな……
「…そんな…ことないよ…」
「…千春…」
「…えっ何?」
「いや、なんかひとりごと言っていたから…」
「…えっ?そう?!」
「でも、これで少しはスッキリしたんじゃない?先生が言うんだから、きっとそうなんだよ…」
「だけど、選択肢は3つもあったよ…?」
「自分の彼氏でしょ?どれが答えかはわかるんじゃない?」
朋夏は自信に溢れるような形で言った。
一体どこにその根拠が…。
でも正直、先生の本音が少し聞けて嬉しかった…。
先生はいつも大人の空気を振りまいていて、何を考えているのか掴み所がなかったから…。
今度はもう少し本音を聞き出す努力をしなくちゃダメかな?
私たちは先生にお礼を言うと、準備室を後にした。


その次の日。
私はいつものように、お弁当を持って美術準備室に向かっていた。
昨日、少し先生のことが聞けたから、今日はいつもより…足どりが軽かった。
ここしばらく気が重かったのが嘘のよう…。
準備室のドアを開けると…いつも座っているはずの机に、先生の姿はなかった。
……あれ?
見ると奥のソファで、白衣を体に掛けて寝ている先生の姿が…。
こんな時間から居眠り?
ダメだなぁ、先生…。
っていうか、居眠りの範囲じゃないよね、これって…。
そう思いつつ、先生のそばまで行くと、規則正しい寝息が聞こえる…。
疲れてるのかなぁ…?
でも…、先生のこういう寝顔って…初めて見た…。
先生と付き合うようになって約1ヶ月。
もうエッチも…いっぱいしちゃったけど……でもまだ、一緒に朝を迎えたことはない…。
だから必然的に寝顔を見ることがなくて…。
今それを見ることができて、ちょっぴりシアワセ…。
先生って寝ている時、こんなに可愛いんだ〜。
私は寝ている先生の髪を、そっとやさしく撫でる。
先生の髪って…好き。
寝ているから…、いつもはかけている眼鏡がない…素の顔…。
普段見ることができない所為か、いつもにもまして凛々しく見える。
そして、いつも私を虜にする、唇。
この唇でキスをされると、全身の力が抜けていくような、甘くそして温かい……そんな感じがする…。
そう――先生がしてくれるキスが好き。
気がつくと私は、先生の唇に、自分の唇を重ねていた…。
「……ぅん…?」
先生はもうろうとした意識の中、眠りから覚めた…。
「先生、起きましたか?」
「あ…れ?千春ちゃん?」
先生は、まだ意識がはっきりしていないみたい…。
一体何時間寝ていたんですか?
「あっ!僕…すっかり寝ていたみたいだね…」
そう言って、ソファの肘掛けに置いてあった眼鏡をかけ、ゆっくりと起きあがった。
「千春ちゃんがいる…ってことは、もうお昼?」
「そうですよ、先生…。一体何時から寝ていたんですか〜?」
「いや、そんなに長くないけど…。最近、睡眠不足が続いていたから…ちょっと仮眠を…」
そういって先生は苦笑を浮かべた…。
「先生、教師失格ですよ〜!」
「あははは、手厳しいね、千春ちゃん」
いつもの先生だ…。
いつもと変わらない、優しい先生…。
「今日もお弁当作ってきてくれたんだね、ありがとう」
「もう、当たり前じゃないですか!お弁当作ってこないと先生、すぐおにぎりとかで軽くすましちゃうし……」
「そうかなぁ?でも、こんなことしてくれるのは千春ちゃんだけだよ」
「当たり前です!私以外にもいたら困りますよ」
「それもそうか…」
さっきから先生は苦笑しっぱなし…。
寝ているところを見られたのが、よっぽどバツが悪かったのかな?
「それより千春ちゃん…」
「ん?」
いつもより真剣な声のトーン。
「…ごめんね」
「なんで謝るんですか?」
「その…気持ち……わかってあげられなくて…」
「いいんですよ、先生が私のこと大事に思って、そうしていたのなら…」
「でも逆に心配させてしまったから…」
「もう、過ぎたことは気にしない」
「相変わらず、前向きだね…千春ちゃんは」
「先生が後ろ向きすぎるからちょうどいいんですよ」
そういって私は答えた。
いつもと変わらない、こういう話ができるだけで、シアワセなのかも…。
「ところで千春ちゃん、今日の夜空いている?」
「えっ?」
「もし空いてるなら…その…僕の家で晩ご飯、どうかなぁ…と…」
「い…」
「い…?」
「いいんですか?私、先生の家に行っても…?」
「もちろん」
まだ行ったことがない先生の家…。
一人暮らしとは聞いていたけど…一度も連れて行ってはくれなかった…。
今までだってエッチはホテルだったし…。
もしかしたら家に連れて行けない理由でもあるんじゃないか…。
そんな変なこと考えていたりしたから…、素直にその言葉がとても嬉しかった…。
「じゃ、他の人にみつかると面倒だから、帰る途中どこかで待っててくれるかな?目印の場所があったらメールしておいて」
「うん!先生♪あとでメールするね」
「待ってるよ」
そういって先生はにっこり微笑んだ。
「じゃ、先生…。お弁当しっかり食べて居眠りしないように頑張ってくださいね」
「あははは…わかったよ…」
そう言われて先生は、苦笑していた…。

放課後、今日は職員会議の日ということで、私は先生と顔を会わすことなく、学校を出た…。
そして、あとで落ち合う約束をした場所は、学校から少し離れた本屋さん。
ここに決めた理由は、読みたい本があったのと時間が潰せると思ったから。
目的の本を買い、しばらく立ち読みをしていると、携帯が鳴った。
見ると、先生からのメールだった…。
『今道路の向かい側にいるよ』
ふと見回すと、たしかに道路の向かい側に、窓を半分開けた黒い車が止まっていた…。

「先生、車買ったんですか?」
「うん、まあね」
たしか先日までは、古びた車に乗っていたはずなのに…そう思って聞いた質問に先生は、あっさりそう答えた。
「先生、スゴイですね。お金持ち?」
「スゴクないしお金持ちじゃないよ…。ローンがたくさん残っているからね…」
先生は苦笑混じりにそう答えた…。
「ところでこれ、なんていう車なんですか?」
「MINIっていう車だよ…。昔のモデルとは違うものだけど…」
「なんか聞いたことあります。ミニクーパーとかいうヤツですよね?」
「う〜ん、たぶん知っているものとはちょっと違うと思うけど…まぁそんなところだよ」
そう言いつつ先生は、車を快適に走らせていく…。
「もしかして…これって外車なんですか?」
「まぁ、一応ね。でも安い物だから…自慢にはならないよ」
自嘲気味にそういうと、車は近くの大型複合施設に入っていった…。
しばらくして、先生は車を止める。
「ちょっと待っててくれるかな?」
「えっ?あ、…はい…」
そう返事をすると先生は店の中に入っていった…。
しばらくして、手に荷物をいっぱい持った先生が帰ってくる…。
「ごめんごめん、遅くなっちゃって…」
「なんですか?それ…」
「いやぁね、千春ちゃんを招待したのはいいんだけど、家に何もなくて…ちょっと買い物…」
「だったら私も一緒に…」
「いいからいいから。オーダーしていたのを受け取りに行っただけだから」
そういうと再び、先生は車は発進させた…。

「ここなんだけど…。僕の家…」
車が止まった場所の目の前に、マンションが建っていた…。
モダンなデザインのその建物は、最近建ったばかりのものらしい…。
先生、こんなオシャレなところに住んでいたんだ…。
「部屋の中、かなり汚いと思うけど…許してね」
「えぇ?どうしようかなぁ?!」
私は冗談交じりにそう答えた。
それを聞いた先生はちょっと困惑している。
なんか可愛い〜。
でも実際に入った部屋は思っていた以上に綺麗に片づけられていた。
あちこちにキャンパスやら画材などがあるけど、散らかっているという感じはしなかった…。
もしかしたら私の部屋より綺麗かも?
「とりあえず、そこに座って」
と、いわれるがままにテーブルにつく。
先生はテキパキと、テーブルの上に食べ物を並べていった…。
こういうのって、やっぱり一人暮らしだからなのかなぁと、ついつい感心しちゃう…。
全ての準備が整って…。
「じゃ、はじめようか?」
と先生が言った。
はじめる…?食べよう…の間違いじゃ…?
そう思っていると…。

「お誕生日おめでとう!千春ちゃん!!」

――っ!!!
…な……なんで…?なんで知ってるの?私の誕生日…。
私、先生に教えてないはず…。
「何故…なんで知ってるんですか??」
「そんなの、調べればすぐわかるよ。学校に名簿あるし…それに、彼女のこと知りたいと思うのは当然じゃないかなぁ」
先生はそう言って、ちょっと照れた様子を見せる…。
『彼女…』今そう言ってくれた…。
そして、『私のこと知りたい』って…。
……すごく嬉しい…!!
「ありがとう、先生!!」
「いえいえ、どういたしまして」
そういって先生はにっこり微笑んだ。
「あ、それから…プレゼントなんだけど…」
そういうと先生は席を立ち、奥の部屋へと消えていく…。
「あ、あの…、いいですよ、そこまでして頂かなくても…」
「何を贈ったらいいのかわからなくて、こんなものしか思いつかなかったんだけど…」
そういって持ってきたのは一枚のキャンパス。
そこには……。
「そ…それ……?!」
「うん、…千春ちゃんだよ」
そう。
そこには、私の姿が描かれていた。
少し笑っている、私の姿が…。
「ちょっと時間がなくて急いで描いたものだから、あまり出来がよくないんだけど…」
「そ…そんなことないです…すごくステキです」
本当にステキ…。
私のこと…、こんなにも見ていてくれたなんて…。
いつも見ていてくれたからこそ描ける、そんな絵。

――?!
……もしかして…

「……先生?…もしかして、最近寝不足…って………?!」
「うん、まぁ、その…、これ描いていたから……」
少しうつむき加減に先生は言った…。
こんなにも…こんなにも私のことを思っていてくれたなんて…。
「先生!」
私は立ち上がって…。
「ん?やっぱり…気に入らなかった?」
「違うよ、先生!!………大好き!」
思わず先生に抱きついた…。
先生は当惑しながらも、でも力強く私を抱きしめてくれた。
そして耳元でそっとささやく…。
「僕もだよ」


「いいの?本当に帰らなくても…」
「うん、大丈夫。今日は朋夏のところに泊まるって家に電話しておいたから…」
「嘘はいけないよ、ばれたら大変…」
「でもこういう風に付き合っているんだから、多少の嘘はつかないと…」
「そうだけど…」
「それに、そうしてでも先生と一緒にいたかったから…」
「千春ちゃん…」
先生の顔がそっと近づいてくる。
ほのかに薫るシャンプーの匂い。
そして……先生の甘い口づけ…。
「…んんんぅ……」
柔らかな舌で唇を濡らす…。
それだけのことで、背中がぞくぞくしていく…。
次第にその動きは、周辺から中へと入り込み、そして私の舌と絡まっていく…。
舌は上へ下へと、時には吸い出される形で弄ばれる。
「…んくぅ……ぷはぁ……」
しばらくぶりに解放された…唇。
「…千春ちゃん、可愛いよ」
そう言う先生の目は、少し潤んでいるように見えた。
「……先生…!」
「…ん?何?」
「……今日は私の誕生日…ですよね?ひとつだけお願いを聞いてくれますか?」
「うん、いいよ。なんでも言ってごらん」
優しい目で、にっこり微笑みながら、そう言った。
「私の名前を呼ぶ時…『〜ちゃん』づけじゃなく、名前だけで呼んで欲しい…」
「……」
「……ダメ?」
「…いいよ、……千春…」
「先生!!!」
私は目の前の彼に思い切り抱きついた。

「それにしても…せっかくシャワー浴びたのに、この格好は…?」
なにやら苦笑いを浮かべて、先生は言った…。
「だって、その方が…ステキだから…」
今目の前にいる先生は、いつも学校で見かける格好と何ら変わらない姿。
眼鏡をかけ、Yシャツを着、おまけに白衣まで着ている…。
でもここは先生のベッドの上。
先生の匂いがするこのベッドで、先生は覆い被さるような形で、私を見おろしている。
だって…その格好が……好きなんだもん!
そういう私はというと…
「私だってシャワー浴びたのに制服だよ?」
そう、私もまた、制服を着ていた。
「その方がより萌えるから…」
先生はそういって私の耳を甘噛みする…。
「ひゃあ…」
そのまましばらく耳を舐めると、今度はその動きを首筋から、下の方へと移動させていく…。
襟元が開いたその場所を、舌でなぞるように這わせてくる。
自分の体を支えていた先生の手が、ブラウス越しに私の胸に軽く触れる…。
「……あっっ…」
思わず、びくんっと、体が跳ね上がる……。
「千春…ここふくらんでいるよ?」
そういって先生は、ブラウス越しに私の胸の先端を、指でくりくりと転がす…。
「んぁ!……や…」
実はお互い、さっきシャワーを浴びて着替えた時に下着を着けなかった…。
だから制服の下はすぐ素肌で…。
先生のくすぐるような指の動きに、衣一枚でしか覆われていない体が、敏感に反応しちゃう…。
「……はぁん…だ…ダメ…」
「…ダメ?」
首筋を舐めながら、そう聞いてくる……。
「千春の胸、こんなになっているのに?」
「……んくぅぅぅ、イジわる……」
「素直にならないと、このままやめちゃうよ?」
「……」
私が返事に渋っていると、先生はブラウスのボタンを外し、そして露わになった胸を、直接揉みだした…。
「…はぁん…あ…あっ!!」
だけど、その掌は先端にわざと触れない微妙な距離を保っている…。
そしてそのまま、軽い力で揉んでくる…。
い…イジわるぅぅ…。
「……お……がい…」
「…ん?聞こえないなぁ…」
…ん……もぅ…
「お願い、……してください…」
「はい、よくできました」
まるで子供をたしなめるように先生はそう言うと、顔を胸に近づけ、そして先端を口に含んだ…。
「……んぁん!!…」
思わず甘い声が漏れる…。
先生はさらに、転がすように舌先を動かす…。
「…んぅ、あん…ダメ…」
「…千春…ダメじゃないでしょ?……だって…ほら…」
「…ん、でも……だって…」
「…だって…何?」
あ…ダメ…先生…そんなに吸っちゃ…。
私は思わず体をのけぞらせた。
…もう、胸を舐められるだけでこんなに反応しちゃうなんて…。
そんな私の反応を見て、先生はすごくうれしそうに私を見つめる。
そのうれしそうな先生の顔を見ると、私もとっても嬉しくなる…。
…と思っていたら…
「……はぁん!!」
反射的に声が出ちゃう…。
太ももの内側を這う先生の掌。
それが次第に上へと上がってきて…。
「…やぁん!あっ!!」
湿った秘所を指がなぞっていく…。
――びくんっ!!!
「…あんっ…あぁぁぁ…」
「どうしたの?千春…もうこんなに濡れちゃって…」
「…うぅぅ、せ…先生が悪いクセに…」
「…ふ〜ん、そういうことを言うんだぁ…」
先生は悪戯っぽく笑うと…。
「…じゃ…お仕置きが必要…だね…」
「……えっ?!」
そう言うと先生は、溢れ出してきた蜜を指ですくって、そして膨らんだある一点に擦るように、刺激を与えてきた!!
「あっ!…あぁぁぁ!!…だ…ダメ…ダメってば…!!」
さらに顔を胸に近づけ、その先端を舌先で転がす!!
そ…そんな、そんなに責められたら…、私……。
思わずシーツを強く握りしめる…。
さらにその両方の動きが激しくなり……。
波が…体の奥底からこみ上げる波が、私を包み込むように、全体を覆った……。
――がくんッ!!!
思いっきり体がのけぞって、そして一気に力が抜ける…。
頭の中が真っ白に染まった………。
「…はぁ…はぁ………」
「…ふふふ。ずるいなぁ、千春だけイッちゃって…」
「…そ…そんな…一体…、誰の所為ですか……?」
「ん〜…、千春ちゃん…」
そういって先生はにっこり微笑む…。
……もう…ずるいなぁ…。
「…だけど、これはまだ準備運動だからね?」
…えっ?
「これで準備……なんですか?」
「うん、そうだよ!本番はこれから…♪」
そう言う先生の目はとっても潤んでいた。
こんなに激しいのに、まだ始まったばかりだなんて…。
私…体力に自信ないかも…。

「…んぅぅぅぅ!…くぅっ!!…あぁぁぁぁぁ〜〜…」


私…、何度、体がのけぞったんだろう…?
もう、数えることもできないくらい……。
先生…激しすぎだよぉ…。
もう、足がガクガクしてるし…。
まっすぐ歩けそうにない…。
明日、ちゃんと歩けるかなぁ…。
でも、そんなことお構いなしで、隣で規則正しい寝息が聞こえる…。
私はシアワセそうに寝ている、この原因の張本人の鼻を、ビシッと指で弾いてやった。
寝息がいったん止まる…。
だけどすぐに静かに、規則正しく再開される…。
……もう、ずるいなぁ…先生は…。
でも、本当にシアワセそう…。
先生の寝顔を見るのは、これで2回目。
ホント、寝ている時って可愛いなぁ〜。
そんな寝顔、これからはいっぱい見れるんだよね?
先生……好きだよ…。
――アイシテル♪
…あ、先生…また外で「しよう」って言うのかな?
今度は、断れるのかなぁ…私…。
断れないのかなぁやっぱり…。
だってこうやって先生とひとつになるの、とってもうれしいんだもん…。
こんな私にしちゃって…。
もう、先生!
「責任はとってもらいますからね?」
私はそうつぶやくと、未だ規則正しく寝息を立てている先生の唇に軽くキスをして…。
そして、再び深い眠りについた。

おやすみなさい…先生……♪


というわけでっ。
しゅんさんから頂いた、小説です!!
なんつーかもぉ、らぶらぶっすねぇー。
しかし、いつの間にこれほどのいわゆる18禁を書く作家さんになってしまったんでしょうか。
え?私のせい?
いやいやいや。
きっと、運命です!!(断言
これからもステキな冬馬先生と千春ちゃんのらぶ話を書いてくださいね!
イラストに引き続き、こんなステキかつえっちぃ(笑)お話、ありがとうございました!


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