「……見たいなー」
「っ……」
 正面からまっすぐ見つめて、囁く。
 もちろん、わざと。
 ……いや、計算と言ったほうが聞こえはいいかもしれない。
「ダメ?」
「……だって……恥ずかしいですもん……」
「俺しか見てないんだよ?」
「だからっ……恥ずかしいんです!」
「……でも、俺は見たい。ダメ?」
「そ……れは……」
 相変わらず、意地が悪いよな、俺は。
 真面目な顔で言ってやると、先ほどよりも一層困った顔を見せた。
 だが、言葉尻は弱くなりつつあるため、あと少し、という手ごたえを感じる。
「……どうしても……ですか?」
 ほらきた。
 うっかりニヤけそうになるのをこらえ、静かに呼吸をしてからうなずく。
「どうしても。……着てくれたら、すごく嬉しい」
 まっすぐ目を見てからにっこり笑うと、1度うつむいてから再度目を合わせた。
 まるで、俺が何を言うか待っているような雰囲気。
 だからこそここであれこれ付け足したくなるが、我慢して沈黙を保つ。
「…………じゃあ、今日だけ……ですよ?」
 よし……!!
 おずおずと反応を見ながら呟いた彼女に、心の中でガッツポーズをしてから、にっこりうなずく。
「ありがとう」
「っ……」
 剥き出しの肩を引き寄せて頬に唇を寄せると、頬を染めて唇を尖らせながらも、エプロンを手に洗面所へ歩いて行った。
 我ながら、上出来だ。
 ……楽しみだな。かなり。
 にやにや笑いながらソファに座り、彼女が現れるまで待つ。
 ………。
 もしかしなくても、酷い彼氏かもな。俺は。
 ふとそんな反省が頭に浮かぶものの、世の中意外と同じようなことを考えている連中が多いはずだと自己防衛。
 ……多分ね。
 なんて思うと、苦笑が漏れた。

「……羽織ちゃん?」
 アレからというもの。
 いつまで経っても彼女が洗面所から出てこないので、どうせ尻込みでもしてるんだろうと思い、こうして洗面所まで迎えに来たワケだが……ノックをしても、返事がなかった。
「着た?」
「……着ましたけど……、でも……っ――あ!」
 困ったような声を聞かなかったフリして扉を開けると、すぐここで恥ずかしそうに肩を抱く彼女の姿があった。
 ……これは。
 こちらに正面を向け、困ったように視線を外す彼女の頬は、染まっていて。
 いかにも『あまり見ないでください』と言わんばかりの態度に、つい口角が上がる。
 白いレースのエプロンから見えている、細い腕と足。
 そして、わずかに見える胸元。
 ……これぞ、裸エプロンの醍醐味。
「…………」
「…………」
「……ふぅん」
「っ……なんですか?」
 彼女の後方。
 きらりと光を反射するモノを見つけてそちらを見た途端、ついそんな感想が漏れた。
「イイね」
 彼女は知らない。
 俺が今、何を見ているかを。
「っ……わぁっ!?」
「ほら。おいで」
 俺の視線を辿った彼女が、鏡の存在に気付くと慌ててしゃがみこんだ。
 そんな彼女の手を引き、リビングへ連れ出すべく立ち上がらせる。
 このままでいたら、脱ぐとか言い出しそうだし――……あまりいじめると、泣いてしまいかねない。
 それは俺の本望ではないので、何事もほどほどを心がける。
「……あ」
「え……?」
 リビングまで彼女を連れて来たところで、ある物を思い出した。
……アレ使うか。
 いや、むしろ今だからこそベストとも言える。
 などと考えてから、頬を染めたまま困ったように俺を見ている彼女へ、にっこり微笑む。
「羽織ちゃん、ケーキ持っておいでよ」
「……え……。ケーキ、ですか?」
「うん。冷蔵庫に入ってるでしょ?」
「っ……でも……」
 ソファに座った俺を見て、彼女は案の定渋い顔を見せた。
 当然だ。
 俺に背を向ければ、すべて見えてしまう。
「…………」
「…………」
 わかっているからこそ、なんとしてでも断りたい――……のだろうが、それを口にしたところで俺が『わかった』と言うはずない。
 彼女の表情からそんな考えを読み取り、うっかり笑ってしまいそうになるが、どうやら納得できたらしく渋々キッチンへと歩いて行った。
 隠すように後ろで組まれた両手は小さく、心もとない。
 歩くたびに揺れる、薄いエプロン。
 背中で結ばれている大き目のリボンももちろんいいのだが、やはり細いなだらかなラインがこういう昼間にはっきり見えるのがいいワケで。
 つい、ニヤける。
 ……ハマるかもな。
 彼女の裸を見るのはもちろんいいのだが、あえてエプロンだけ身につけているあたりに、裸エプロンの醍醐味があるワケで。
 何も身につけないでいるよりも、一層悩ましく見える。
「…………」
「ん。よくできました」
「……もぅ」
 両手で皿に乗せたケーキをゆっくり運んできた彼女を隣に座らせ、受け取ったケーキに載っているイチゴのヘタを取って、彼女に差し出す。
「はい。あーん、は?」
「……あー、ん」
 俺とイチゴとを見比べてから、ゆっくり口を開いた……ものの。
 ……だから、そんな顔するな。
 イチゴでなく、まじまじと俺を見つめてくれながら口を開かれ、思わず喉が鳴った。
「ん。おいしい」
「そう?」
 素直に口を開くあたり、彼女らしいと思う。
 だが、そのとき不意に唇の端へクリームが付き、気付いた彼女が舌で舐め取った。
「…………」
「……え……なんですか」
「いや、別に」
 気のせいだろうが、多少自分の声が掠れた気がする。
 ……だから、無意識が1番厄介なんだよ。
 えろすぎて、たまらん。
 ……はー。
 いっそ、このまま――……とも思ったのだが、ギリギリのところでなんとか踏みとどまる。
 そんな自分に、本日の理性の強さを感じた。
「おいで」
「……え?」
「いいから。……ほら」
「わっ」
 渋る彼女の脇に手を入れて立たせ、そのまま膝の間に座らせる。
 うなじから背中、そしてお尻にかけてよく見える現在。
「……イイ眺め」
 最高だと言わずして、なんと言おう。
 つい口から漏れた言葉に、彼女は身をよじってから顔だけをこちらに向けた。
「……えっち」
「しょうがないだろ。正直な感想」
「もぅ」
 目の前にこんな彼女がいるのが悪い。
 ……と言う代わりに、つ、と指先で彼女の肌をなぞる。
 いつもならば服に邪魔されている部分を、こうして直に触ることができる今。
 コレを楽しいと呼ばずして、何が楽しいのか。
「っ……あははっ、やだっ! くすぐったい!!」
「こっちは?」
「あはははっ!! やっ、せ、先生やめてっ!」
 触れる場所を変えてやると、そのたびにおかしそうに身をよじって首を振った。
 相変わらず敏感で、弄る側にとってはパーフェクトな反応。
「……はー、はー……。うぅ、苦しい」
「あー、楽しかった」
 ぜいぜいと肩で息をする彼女にうなずき――……ゆっくりレースの施されている肩紐を指先で外す。
「っ! やっ……」
「どれ。じゃあ、こっち向いてもらおうか」
 膝で立たせた彼女をこちらに身体ごと向き直らせると、エプロンが落ちてしまわないように両手で腕を抱きながら唇を噛んでいた。
 そんな姿が、妙にヤらしく映る。
「……落ちちゃう」
「いいよ、別に」
「よくないですっ!」
 困ったように首を振る彼女の腰に手を当てると、くすぐったそうに身をよじった。
 当然だ。
 素肌なんだし、何よりもココは彼女が弱い部分なんだから。
「……あ……」
 エプロンの下に手を這わせるようにして抱き寄せると、身動きが取れないからか、肩に手を当ててバランスを取った。
 瞬間、エプロンが前に垂れる。
 わずかに見える、胸元と、太腿のライン。
 これだけ見せ付けられてしまうと、さすがに自制が弱くなるのもサガというもの。
「っ……ん!」
 エプロンの上から胸の先を含むと、弾かれるように彼女が反応を見せた。
 力が入らないようで、首に腕をかけながら耳元で熱い息を吐く。
 彼女をゆっくりソファへ倒し、エプロンの紐を解いて肩から外すと、白い素肌に一瞬喉が鳴った。
「やっ……!」
「……やっぱり、見てるだけってのは無理だな」
「んっ……嘘つきぃ……」
「嘘? 誰も、手を出さないなんて言ってないよ」
 耳元で囁いてからエプロンを腰のあたりで折り曲げると、彼女の胸が露わになった。
 柔らかく、甘い香りのする場所。
 エプロンで擦れたせいか、はたまた自身のせいかは分からないが、すでに胸のいただきが堅くしこっていて、口で含むと1度柔らかくなってから、再び先を尖らせた。


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