「ん……んっ」
 昼間の明るい時間に彼女を抱くのは、結構好きだ。
 きれいな肌が見えるというのもあるが、自分によって快楽を得ている顔を見れるのが楽しい。
 潤んだ瞳に光が反射して一層美しさを増すのも、魅力的に誘ってくれる要因だから嫌いじゃない。
「や……んっ」
「もうこんなにして……えっちな子」
「せっ……んせいが、そう……っ、させるんじゃないですか……っ」
 ゆっくりと指先で花弁をなぞると、すでにそこは満ちていた。
 頬を染めて首を振る姿は、結構悩ましいもので。
 何度か指でソコを探ると、淫らな音を室内に響かせた。
「やぁっ……!」
「……すごいな。もう、こんな」
「や、だっ……言わないで……」
 荒く息をつきながらすがる腕に口づけてから、ゆっくり身体を曲げて彼女の唇を舐める。
 一瞬、わずかに閉じられたものの、迎え入れるかのように開いた唇から舌を差し入れると、熱がそこにはあった。
「……ん……」
 甘い声で煽り立てられ、優しくするつもりだったのだが、いつしかブレーキが利かなくなっていた。
 貪るように舌を絡め深く味わうと、それだけで彼女が大きく反応を見せる。
「ふ……ぁあっ、ん、んっ……」
 口づけたまま指でナカを探ると、くちゅくちゅ音を立てながら抵抗なく飲み込む。
 相変わらず素直で、感度もよくて、指を増やしながら弄ると彼女がひときわいい声をあげた。
「……んっ……やぁっん!」
 弱いんだよな。
 ココに指をあてがうと、イイ声を出してくれる。
 それが聞きたいがために、無論わざと擦るようにして刺激するのだが。
「は、ぁ……っ」
 敏感な内壁を撫でると、ひくひく身体を震わせる。
 何かを耐えるようなその姿は、やはり艶っぽくて……たまらなく衝動に駆られそうになるんだが。
「あっ……、や……だぁっ」
「……嫌じゃなくて、ココがいいんだろ?」
「えっち……っ! んぁっ」
 親指の腹で花芽を撫でると、声の質が変わった。
 蜜を指で絡めては何度も擦るように往復すると、首に回された腕に力が入って彼女が身を縮める。
「……っ……んっ……!!」
 ひくひくと痙攣させるソコに指を入れたまま花芽へ口づけると、いつもより淫らに彼女が応えた。
 少しずつ指を動かすたびに声が口内にくぐもって響き、なんとも淫逸な雰囲気をかもし出す。
「ふぁ……っ」
 ゆっくり唇を離すと、うっとりした瞳で見上げられた。
 そのたびにどうにかしてしまいたい衝動に駆られながら、本能を騙し騙し押し止める。
 指を抜き、舐めてからポケットに忍ばせていたモノを取り出して、自身にあてがう。
「……いい?」
「ん……」
 だるそうな彼女の足の間に身体を割り込ませ、そっと秘部にあてがってから這入ると、熱さと密着加減にたまらず眉が寄った。
「……んっ……ふぁ、あっ……!」
「く……」
 瞳を閉じて悩ましげに眉を寄せながら、自分で感じている姿。
 それが、非常にヤバい。
 ……自制が……利かないかも。
「あっ、や……んっ!」
 根元まで入りきると同時に動き出すと、揺さぶられながら彼女が首に手を回してきた。
 耳元へかかる吐息が熱くて、くらくらと眩暈さえ感じる。
「っく……ヤバい」
「……先生っ……」
「……ん……?」
 小さく呟いた彼女を見ると、潤ませた瞳でこちらを見ていた。
「もっと……」
「っ……」
 ――……して。
 唇だけで囁かれた言葉に、目を見張ると同時に喉が鳴った。
 小さく、本当に小さく聞こえた言葉。
 だが、彼女からこんなふうに求められたことがなかったので、つい見入る。
 しっとりと汗ばんだ身体と、上気した頬。
 離されないように、と回された腕は細くて……頼りなくて。
「……狂いそう」
 ぽつりと言葉が漏れ、自然に口角が上がっていた。
 彼女を抱きしめて揺らせば、耳元でいい声が響く。
 切ないような、だけど……確かに感じている証。
「……やっん……っ……あぁっ……あ!」
「っ……イイよ……イって」
「うぁっ、ん……!! っ……やぁあぁああん!」
 ぎゅっと腕に力がこもり、切羽詰ったように喘いだ彼女が小さくうなずいたように見えたのは、気のせいだったのだろうか。
 彼女が果ててからすぐに、自身もすべてを吐き出す。
 荒く息をつきながら唇を塞ぐと、彼女もそれに応えてくれた。
 見つめたまま唇を離すと、視界に細く引く糸が映る。
「……んっ」
 軽くもう1度唇を合わせてソレを切ると、彼女が小さく笑った。
「……先生、顔赤いですよ?」
「羽織ちゃんは身体まで赤いけどね」
「……っ! ……えっち」
 うっかり口角が上がってしまったのを見られ、拗ねたように眉を寄せて睨まれた。
 そんな顔がかわいくて、思わず笑みが漏れる。
「……あ」
「え……?」
 ふと、あることが思い浮かんだ。
 ……確か、今週は特に予定はなかったよな。
 頭の中で新学期のスケジュールを確認してから、彼女を起こしてにっこりと微笑む。
「……? なんですか?」
「いや、別に」
「え……? っん!」
 不思議そうな彼女の鎖骨の下へ唇を寄せ、舐めてから軽く吸う。
 こうすればできあがる、俺だけのしるし。
「……上出来」
 ほくそ笑んでからそこを親指で撫でると、気付いた彼女が困ったように見上げた。
「せ、先生っ」
「今度の休みまでのお守り」
「……お守り……?」
「これで、寂しくないでしょ?」
「っ……あ……」
 にっと笑うと、視線を落としてからそこに指を滑らせて小さくうなずいた。
 ……ったく。かわいいな。
 だから、やめられないんだけど。
「身体測定は来週だから」
「……もぅ」
 ある意味、混同だと叱られそうだが、それならば特権と言いたい。
 教師であること。
 それを、改めて楽しいと思った。

 そのあとは、夕方まで彼女を膝に乗せて過ごすことができた。
 テレビを見たり、たわいない話をしたり。
 たったそれだけのことなのに、なんだか特別なことをしている気分だった。
「それじゃ、行こうか」
「……はい」
 時計が18時を指すころ、荷物をまとめた彼女を伴って家を出る。
 鍵の閉まる音が、やけに大きく聞こえてつい苦笑していた。
 今度これを開けるときは、自分ひとり。
 ……なんか、な。
 うっかり考え込んでしまいそうになるが、それをやめてからいつも通りに車を走らせると、あっさり彼女の家に着いてしまった。
「……着いちゃいましたね」
「だね」
 そうは言いながらも、お互い降りることはできなかった。
 理由はひとつ。
 それも共通のモノだ。
「先生……?」
「ん?」
 エンジンを切らずにハンドルを見ていたら、彼女が心配そうに顔を覗きこんできた。
 ……そんな顔するな。
 瞳を細めて彼女を見ると、何かを言いかけた唇を閉じる。
「何?」
「……なんか……寂しいな、って思って」
「俺だってそうだよ」
 頭を撫でてから抱きしめ、口づけを交わす。
 一旦離してから、もう1度。そして、さらにもう1度。
 口づけの音だけがやけに車内に響き、それが心地よくてそう簡単には離れられなかった。
 それが自身を煽ることは承知しているが――……それでも。
 頭で理解できない。
「……また明日、学校でね」
「…………はい」
 “ふたり暮らし”は一旦終了。
 最初にわかっていたはずなのに、いざその期間を経てみると予想以上に離れられなくなっていて、彼女の存在の大きさを実感する。
 ゆっくり離してから目を見て微笑むと、寂しそうな顔から精一杯の笑みを浮かべた瞬間が見えて、眉が寄った。
 そんな顔をされたら、帰せなくなる。
 ――……それは言っちゃいけないんだけどな。
「……はー」
 大きくため息をついてからエンジンを切り、ドアを開けて降りる。
 フロントに立ってから助手席を見ると、彼女もゆっくり降りてきた。
 荷物を持って玄関に向かい、インターホンを押す。
 ……押す……。
「……参ったな」
「え? ……っ」
 自嘲ぎみに呟いてから、彼女をドアにもたれさせて――……もう1度。
 頬に手を這わせ、ゆっくりと髪に指を通す。
 さらりと心地いい髪と、自分と同じシャンプーの匂い。
 ……身を切られる思いってのは、こういうことか。
「……離したくない」
「私だって……いやです」
 ぽつりと呟くと、彼女がすりよるように抱きついてきた。
 完全に、中毒だな。
 彼女なしでは、生きられない。
「……禁断症状が出そう」
「ん……」
 俯いてうなずく彼女を見たら、もう1度ため息が漏れた。
 ……あー……もう、駄目だ。
 このまま連れて帰りたくなる。
 だが、それはできないこと。
 子どもじゃないんだ。わきまえろ。
 短くため息をついてから意を決してインターホンを押すと、お袋さんの声が響いた。
 そのとき、小さく背後で『あっ』と聞こえた気がしないでもないが、振り返ることはできなかった。
「いらっしゃい」
「ご無沙汰してます」
 ほどなくして玄関が開き、にこやかな笑みを浮かべたお袋さんが姿を見せた。
 笑みを浮かべて中に入ると、リビングから瀬那先生も顔を出してくれる。
「や。いらっしゃい」
「お邪魔してます。……あ、コレなんですが」
「ん?」
 先日行った合宿の土産である、桃の箱。
 それを渡すと、それと俺とを見比べてからおかしそうに笑った。
「本気にしてくれたのか。……わざわざ済まないね」
「とんでもないです」
 その笑みの理由を知っているのは、俺と彼だけ。
 思わずあのときのことが蘇り、苦笑が漏れた。
「さ、上がって夕食でも――」
「……いえ。今日は、失礼します」
「えっ?」
 驚いたような声をあげたのは、目の前のふたりではなく、すぐ隣にいる彼女だった。
 そうなるであろうことは承知していたが、そちらを見ることなく、ご両親に頭を下げる。
「夏休み中お預かりしていた、大事なお嬢さんを送り届けただけですから」
「……あらやだ。遠慮なんて、しなくていいのよ?」
「いえ、本当に……」
 少し寂しそうなお袋さんに苦笑を見せ、もう1度頭を下げてから玄関に手をかけて振り返る。
「では、失礼します」
「それじゃあ、また来てちょうだいね?」
「お土産、ごちそうさま」
 ふたりそれぞれに挨拶をしてからドアを閉め、車に向かう。
 ――……結局。
 その間ずっと、彼女を振り返ることができなかった。
 見れば、どうしたって連れて帰りたくなる。
 ……それに何より、彼女の寂しそうな顔を見てしまうと、自分も同じような顔をしてしまいそうだった。
「先生っ!」
「っ……」
 ロックを外して運転席に乗り込むと、彼女が慌てたように外階段を駆け下りてきた。
「どうしてですか……っ! ごはん、食べてってくれればいいのに……!」
 開けた窓の縁に両手を置いた彼女は、今にも泣きそうな瞳でまっすぐ俺を見つめた。
 ……参ったな。
 そんな顔されるってわかってたから、これまで避けていたのに。
 いざ目にすると、やはり気持ちが大きく揺らぐ。
「……一緒にいればいるほど、別れにくいんだよ。……泣いたら困るだろ?」
「え……?」
「俺が」
「っ……」
 冗談めいて口にはしたが、半分は本気の言葉。
 これほど彼女を家に帰したくないと思ったのは初めてだ。
 ……やはり、ともに過ごす時間が増えれば増えるほど、離れがたい存在になるということか。
「え……?」
 ゆっくりと頬に当てられた、彼女の手のひら。
 そちらを向いたまま目を丸くすると――……そのまま、唇が重なった。
 優しい、柔らかな感触。
 瞳を閉じて彼女を引き寄せるようにこちらも手のひらを当てると、どうしても軽いキスだけで終えることはできず、何度も味わうかのように舌を絡めていた。
「……ふ……」
 小さく漏れた吐息で彼女を離すと、濡れた唇がやけに色っぽく目に映った。
 なんか、この夏休みでずいぶんと大人になったように見える。
 ……俺のせいか。
 などと思うと、自然に笑みが浮かぶ。
「また、今週末ね」
「……はいっ」
 ようやく、微笑んでくれた彼女。
 頭を撫でてからエンジンをかけ、ギアに手を置く。
「じゃ、また明日」
「……はぁい。あっ……気をつけてくださいね」
「ありがとう」
 窓から手を伸ばすと、彼女が手を重ねた。
 温かさが心地よくて、笑みが浮かぶ。
「……あ、そうだ」
「え?」
 ちょいちょい、ともう片方の手で彼女を手招き――……頬に唇を寄せる。
「……おやすみ」
「っ……おやすみ、なさい」
 嬉しそうに笑う彼女に手を振り、ギアを入れてからアクセルを踏みこむ。
 聞き慣れた音。
 だが、隣に大切な彼女がいないせいか、エンジン音もこれまでとは違う気がする。
 再度彼女に手を振ってから車を出し、ハザードを焚いて角を曲がると――……途端に“ひとり”という実感が湧いた。
 これからしばらくは、また教師と生徒という立場に戻る。
 ……1週間は、やっぱり長いよな。
 小さくため息をつくと、ぽつりと言葉が漏れた。
「……また、死にそうな顔するんだろうな」
 何度となくからかわれた、あの言葉。
 自覚しているのなら、ある意味世話ないか。
「…………」
 彼女のいない部屋。
 これまではそれが当たり前だったのだが、1度経験してそのよさを味わってしまった以上、どうしたって比較せざるをえない。
 あの部屋は、えらく殺風景なんだろうな。
 それがわかるから、あまり帰りたくないんだが……そうは言ってられない。
 とにかく、1週間。
 なんとしてでも、これからは毎週末彼女と会わなければやってられないだろう。
 本当に病気だな。
 愛の病……か。
 以前、彼女が口ずさんだ歌。
 その歌詞を思い出して、苦笑が浮かんだ。
「まったく、困ったもんだ」
 俺という人間は。


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