「……あったかい……」
「そう?」
「うん……っ」
 テレビもコンポもついてなくって、なんも音の溢れていない部屋。
 聞こえるのは、お互いの声と吐息だけで……誰に聞かれても困るわけでもないし、大きな声でだって全然構わないのに、なぜかふたりとも囁くような会話だけ。
 ――……でも。
 私はやっぱり、このなんともいえない穏やかな時間が好き。
 くすくす笑いながら他愛ない会話を続けて、温かな彼を感じていられることが。
「…………」
「……ん?」
 後ろから抱きしめてもらったまま、彼の胸元へ擦り寄るように頬を寄せる。
 自然に浮かぶ笑みが、なんとも言えないくらい嬉しくて。
 ……すごく、すごく好き。
 彼のことはもちろん、彼と一緒にいるときの自分も。
「……お願いって……幾つまで聞いてもらえるんですか?」
 顔を覗き込んだ彼を上目遣いで見上げるようにすると、一瞬視線を外してから、前髪を指先でわけた。
「幾つでもどうぞ?」
 ふっと笑って瞳を閉じた彼が、額へ……口づけた。
 ちゅ、という小さな音が聞こえ、頬が赤くなる。
 ……ううん。
 きっと、頬だけじゃなくって……身体もなってるんじゃないかな。
 ……でもなんか……嬉しいかも。
 少しとはいえ触れられることで、身体がびっくりするくらい反応する。
 すごくすごく嬉しくなって、彼に対して――……愛しい気持ちが溢れてくる。
 ……そしてあのとき。
 少し前に、彼が言ってくれたこと。

 『なんでも、言うこと聞いてあげる』

 その言葉と彼の表情が、きっと……今の私へ強く大きな影響を及ぼしているんだろう。
「……えっと……」
「ん?」
 わずかに顔を彼へ向けると、もう本当に、すぐここに彼がいた。
 ……唇が、簡単に届く距離。
 ――……だから。
「…………」
 1度視線を外してから、そっと彼の耳元へ唇を寄せる。
 ……いつもは、彼がこうしてくれることのほうが、多いんだよね。
 だから、今日は私の番。
 いつもと違って、私から――……おねだりしているんだから。

「……ん……」
 きゅ、と彼のシャツを握った手が、わずかに震えた。
 なんだか……すごく、久しぶりにもらえたキスみたい。
 唇の感触が、これまでと全然違うような気がして、鼓動が早くなる。
「……ふ、ぁ……」
 舌を絡め取られたあと離されると、なんだか……切なくなる。
 ……やだ。
 別に、彼がこれでいなくなってしまうわけじゃない。
 それはわかっているんだけれど、やっぱりまだどこかであのときのことを引きずっているのか、無意識の内に彼の身体に触れていた。
「……どうした?」
 すぐ目の前で囁かれ、ぞくっと背中が粟立つ。
 ……こんな声……反則。
 少し掠れているのももちろんだけど、そんな……艶っぽい声なんて。
「…………どきどきする……」
 彼を見つめて呟くと、一瞬瞳を丸くしてから、ふっと笑った。
「……かわいいこと言うね」
「っ……そ、んなことないです……」
「そんなことあるよ」
 耳元で囁かれて、再びぞくっとしたものが身体を駆ける。
 だけど彼はそんな私の反応を知ってか知らずか、そのままの姿勢で唇を首へ寄せた。
「……っ……ん」
 びくっと身体が勝手に反応して、声が漏れる。
 ……なんか……変。
 自分の身体なのに、全然違うっていうか……予測できないっていうか。
 まるで、敏感すぎる体質にでも変わってしまったみたいな。
 本当にそれくらい、彼がわずかに触れてくるだけで、ぞくぞくと反応する。
「……ぁ……」
 耳の少し下。
 タートルから出ているそのわずかな部位に口づけ、舌で撫でる。
「っん……ん……」
 耳に近い距離だからこそ、当然――……濡れた音が大きく聞こえて。
 ……も……変になりそう。
 たったこれだけなのに、もう、頭がうまく働かなくなってしまったみたいだ。
「ん……ぁっ!」
 首を舐めながら、彼が胸に触れた。
 途端に、ぴりぴりしたような快感に身体が翻弄される。
 ……まだ……直接じゃないのに。
 だけど、この布越しの感触は、やっぱり特別な気もする。
「……敏感?」
「っ……そ、んなこと……」
 少しいたずらっぽい顔をした彼に、思わずどきっとした。
 ……だって、図星なんだもん。
 でも、そんなことを言えるはずはもちろんない。
 言ってしまったら、そのときはもう――……きっと彼の思うがままになってしまうだろうから。
「っん……っや……!」
「……相変わらず、すべすべ」
「んっ……くすぐっ……たぃ……」
 するりと胸から腰のラインを撫でた彼が、裾から直に手のひらを這わせてきた。
 それまで必死に裾がめくれてしまわないようがんばっていたのに、彼にとってみれば……やっぱりなんの抵抗にもなっていなかったらしい。
「……っ……」
「……何か言いたげだけど?」
「だって……!」
 身体を起こして私を捉えた彼が、少しだけ首をかしげた。
 ……いじわるな顔。
 片手でシャツの裾をたくし上げられてしまっているので、当然彼の視線の先には――……下着姿の私が映っているわけで。
 ……すんごい、恥ずかしいんですけれど。
 しかも、この明るい電気の下で……なんて。
「……も……やだぁ……」
「嫌? ……俺はすごく嬉しいけど」
「っ……そんなこと……」
「ホントだよ。……もう……ずっとこうしたかったんだから」
「っ…んん!」
 す、と瞳が細まったかと思った瞬間、彼が胸へ唇を寄せた。
 服の上から触られただけでもおかしくなりそうなほどの快感だったのに。
 ……こんなの……っ、困る……。
「っふぁ……!」
 ブラをずらされて露になった部分に、濡れる感触。
 それを意識してしまえば当然、一層感覚は鋭くなって。
 ……くらくらする。
 濡れた卑猥な音が耳に届くと同時に、当然自身は与えられつづける快感にさいなまれていて。
「あ……っぁ……いじわる……ぅ」
「どうして? ……自分から、『キスして』って言ったクセに」
「っそれは……っ……これと関係な――……んぁっ……」
 今にも泣きそうな、自分の声。
 だけど、彼はまったく動じずに、行為を中断することもなく言葉を続けた。
 囁くたびに唇が肌へ触れ、舐められるのともキスされるのとも違う快感で肌がぴりぴりする。
 ……も……おかしくなる。
 いつもよりずっと感情も何もかもが昂ぶっていて、息遣いも荒い。
 それに、もっと――……おかしくなってるっていう明らかな証拠があって。
「…………」
「……何?」
 やんわりと片手で胸を揉まれ、一瞬ぞくっと快感に震える。
 ……でも。
「どうした? ……そんな、泣きそうな顔して」
 なぜか楽しそうに彼が囁き、頬を撫でた。
 ……そんな顔されたら……言っちゃいそうになる。
 今の自分が、どれだけ彼によっておかしくなる寸前まで追い詰められているかを。
「もう……おかしくなっちゃう……」
「ふぅん。……どれくらい?」
「っ……」
 彼に手を伸ばし、指先で……唇に触れる。
 すると、途端に彼は――……私を見つめたままぺろっと指先を舐めた。
 ……もぉっ……やらしい。
 絶対に、彼は私を煽っているんだろう。
 じゃなきゃ、こんな……っ……こんなこと、するはずない。
 どうしたって彼の舌が視界に入ったままなので、やけに艶かしくて、淫らで。
「……もぅ……すごく、だめ……なの」
「何が、どうダメ?」
 ゆるゆると首を振り、腕を絡めて精一杯のアピールを見せる。
 でも、やっぱり楽しそうに笑ったまま、私を許してはくれなかった。

「……気持ちよすぎて……だけど、もっと……欲しくなっちゃう」

 ……こんな言葉が出るなんて、自分でもどうかしてると思う。
 『もっと』なんて、自分から求めるなんて。
 ……欲しがる、なんて。
「…………」
 きっと彼には、『やらしくて、どうしようもない子』なんていうふうに、映っただろう。
 何も言わずに瞳を丸くしたままの彼を見ていられず、視線を落としてからぎゅっと瞳が閉じる。
 ……でも、仕方ないの。
 だってこれまでずっとずっと彼に触れてもらうことはおろか、こんなふうに……愛してなんてもらってないんだもん。
「っ……え……?」
「抱っこしようか」
「え、えっ……!? なっ、どうし……て……?」
 いきなり彼が私を抱き上げ、ソファに座ってから――……足の間に降ろした。
「え……どうして……?」
「……したいから」
「何を……ですか?」

「このまま、後ろから抱きたい」

「っぁ……!」
 耳元で甘く囁かれ、ぞくぞくと身体に悦が走った。
 ……そんな……困る。
 ただでさえ吐息ももちろん、声色も違うのに。
「んんっ……!」
 後ろから抱きしめられる格好のまま胸を弄られ、がくっと身体から力が抜ける。
 しかも、当然――……彼は首筋に唇を寄せて舌を這わせているわけで。
「っ……んぁ、あっ……!」
「……ここ?」
「ひゃ……あ、やっ……せんせ、やっ、そこっ……!」
 首と肩の境。
 その弱い部分を責められて、情けない声が出た。
 だけど、彼はまったく許してくれるような気配はなく、むしろ……ひどくなっているようで。
「だ、めっぇ……! ……そこはっ……や、んっ……」
「……かわいい」
「あ、あっ……ん……せんせ……ぇ」
「……すごいかわいい」
「ふぁ……っ」
 いつもと全然違う。
 こんなふうに抱かれることももちろんそうだけど、それ以上に――……彼の態度が。
 口調も、言葉も……そして雰囲気も。
 少し息が荒くて、ぞくぞくと煽られるようなことばかり。
 ……きっと……先生がそうだから、私もいつもと違うんだろう。
 まるで、お互いがお互いを欲して求めているみたい……。
 ぞくぞくと快感に追いやられながら瞳を閉じると、一層彼を感じる。
「っ! んんっ……ぁっ……!」
 ちゅ、と首筋に口づけられたとき。
 彼の手が、いきなりショーツの中へ這入ってきた。
「ぁ、やっ……だめっ……! せんせ、そこ……はっ……」
 指先が花芽を掠め、途端に今までにない大きさの快感が走った。
 ……ど……しよう。
 すごい。
 怖い……くらいのもの。
 これまでの愛撫もいつもと全然違ったけれど、ここは……本当に、比じゃなくて。
「っんん! せんせ……っぇ……だめ、なのっ……そこは……ダメ……ぇ」
 ぎゅうっと足を閉じて首を振り、腕で彼をつっぱねる。
 だけど、力でなんて当然彼に敵うはずはなくて。
「ッ……!?」
「……なんで?」
 ――……それまでほかの場所に触れていた彼の両手が太腿へ回って、足を開かせた。
「やだっ……! 先生、こんな……っ……こんな格好……や……っ!」
「ダメ」
「なっ……んん!!?」
「……悪いけど……その『言うこと』は聞かない」
 いつもより、ずっと低い声。
 ……そして、やけに落ちついている声。
 いつもと全然違って、本当に……鋭いくらいの雰囲気。
 だから一層、ぞくぞくする。
 彼の顔を見れないこの状況でも、どんな顔してるかって……想像は容易いから。
「……今日は、セーブとか……しない」
「え……?」

「俺を狂わせるくらいに、狂ってもらうって決めたから」

「ッ……な……!」
「……これまでずっと、羽織を我慢してきた」
「! ……ふ、ぁっ……」
「そばで嬉しそうに笑って、物欲しげな顔で……俺を誘って……」
「あ、そっ……んな……」
「……ほら。自覚なしだろ?」
 くちゅくちゅと淫らな音が響き、それに呼応されるように快感で身体が勝手に震える。
 敏感すぎて、少し触れられるだけでも……どんどんと蜜が溢れてしまうやらしい身体。
 ……そして、執拗に責められている……花芽。
 ぞくぞくするとか、これまでの比じゃない。
 おかしい……の。本当に。
 痛いくらいに敏感で、怖いくらい身体がおかしくなってるのがわかる。
 最初に触れられたとき、それがわかった。
 掠められただけでも、腰が……砕けたんだから。
 下半身に力が入らなくて、声も、反応も……何もかもが勝手に出てしまう。
 それに、いつもよりずっと早いペースで自分が濡れてるのも……わかる。
 水音と身体の火照り。
 そして彼の反応で――……今の自分がどうなってるか、は。
「っきゃぅ……ん……!」
「この2週間、どれだけつらかったと思ってる?」
「っひゃ……ぁ、あっ……んん! そ……んなっ、しな……」
「手を出さないって決めたこと、何度やめようと思ったか……」
「ふぇ……っ……ひゃ……せんせ……ぇえっ」
 指でつままれ、たまらず声が上がった。
 蜜を指に絡めながら、円を描くようにじわじわと責められる。
 も……すごい……気持ちいい……。
 どんどん声が出て、息が荒くなって。
 涙が浮かぶ。
 気持ちよすぎて、身体が本当にどうにかなりそうだってわかる。
 それが、少し怖い。
 だけどそれ以上に――……待ってる自分もいる。
「あぁ……っ……せんせ……」
 びくびくと足が震えて、徐々に……だけど急速に、昂ぶりが近付いてきていた。
「……だから、ここからはもう手加減しない」
「んっ……!」
「……ずっと欲しかった。ずっと、ずっと……こうしてやりたいって」
「は、あっ……ああ、あっ……ん……!」
 指の動きを、速めたり緩めたり。
 そして、強かったり……弱かったり。
 そんな快感の緩急に、もう一歩という身体が悲鳴を上げそうになる。
 欲しいって思う気持ち……こんな、なの?
 焦らされることがもどかしくて、心底苦しくてたまらない。
 …………本当に、狂っちゃいそう……。
 彼へ全身を預けたまま荒く息をつくと、太腿の内側を撫でた彼が、そのまま胸へ手のひらを這わせた。
「……そればっかりだったんだよ。俺の2週間は」
「……ん! ……あ……っふぁ……」
「いい声。……もっと聞かせて」
「あ、あっ……せ、んせっ……っはぁ……」

「俺がきっちり、気持ちよくしてあげるから」

「っ……!」
 まるで、どこか切羽詰っているようにも聞こえる、声。
 耳元で囁かれたその声は、普段の彼とはまったく違っていた。
「っはぁ……! あ、あっ……っくぅん……」
「……気持ちイイ?」
「ん、んっ……は……ふぁ……すご、くっ……」
 耳たぶを甘噛みされて、一層身体から力が抜ける。
 だけど、彼の問いにはしっかりとうなずいて答えた。
 ……半分無意識のうちに。
「んぅ……っ……あ、や、んん……んっ……!」
 ぞくっとひときわ大きな快感が走り、急に身体が震えた。
 ……だめ。
 この感じは、すぐにっ……果てる。
 それが、少し怖い。
 だけど――……欲しくないはずがない。
「うぁ……っ、あ、あっ……せんせ……! いっ……んん……」
 ぎゅうっと彼の腕を掴み、荒い息づかいのまま一層大きく息を吸う。
 ……頭がくらくらする。
 けだるくて、なんとなく苦しくて、目も……開けられない。
「やぁあっ……ふぇ……っせ、んせっ……せんせぇ……っ!」
「……いいよ、イって」
「あ、あっ……ん……そんなっ……されたらっ……あぁ!」
「されたら?」
「ぁっあ、ああっ……! だ、めっ……ダメっ……ぇ」
 耳元で薄く笑われ、同時に彼が指の動きを速めた。
 一層刺激され、濡れている音をわざと響かせる。
 ……も……っだめ……!
「あ、あっ……あ! せんせっ……やっ……っく……いっちゃ……あぁ!!」
 ぎゅうっと彼の腕を握ったその瞬間、目の前が一瞬光ったようにも感じた。
「ぁあっ……! っふ……ぅ……んんっ……く」
 びくびくと秘所がひくつき、幾度となく強い快感が身体を震わせる。
「んぁっ!」
「……いい声」
 まだ、余韻が強くて全然落ちつけてないのに。
 彼はまるでそんな私を楽しんでいるかのように、耳元で笑ってから手のひらをあちこちへ滑らせた。
「や……あ……も、ゆるし……てっ……」
「ダメ」
 足も、腕も、腰も――……胸も。
 触れられるたびにぞくっと背中が粟立って、身体に力が入らず、彼にただもたれるしかできない。
 ……なのに。
「っ!? っや……!」
「……すご……。びしょびしょだよ?」
「やだぁっ……もぅ……っ」
「ちゃんと見る」
「ッ……ふぇ……せんせぇ……」
 秘所にいきなり触れられて声をあげると、私を抱きしめて動けないようにしてから、目の前に――……濡れた指先をちらつかせた。
 彼はいったい、私に何をさせたいんだろう……?
 恥ずかしくて、もう……死んじゃう。
 かぁっと頬だけじゃなくて身体全部が熱くなって、ただただ首を振るしか……無理なんだもん。
「え……?」
「……それじゃ」
「っ……んん!!」
「……っく……ぁ……すっご……」
 彼がわずかに動いたな、と思ったとき。
 少しだけ抱き上げられたかと思いきや、そのまま――……昂ぶった彼自身が中に這入って来た。
「はっ……ぁ、あ……っ」
 果てたばかりの身体は当然すんなりと受け入れて。
 ううん。
 それ以上に、まるで……私自身も待っていたかのように、卑猥な濡れた音と、未だ底知れない快感が再び舞い戻る。
「……ぁ……っんん、そこ……、や」
「っく……なんで……? ココがイイくせに……」
「だって……! だっ……てぇ」
 後ろから貫かれ、奥深くまで責めたてられる。
 角度がいつもと違うから、弱い部分を……ダイレクトに刺激されて。
「あ、あっ……ふ……えぁっ……」
 相変わらず荒い息と一緒に、どうしようもなくしどけない声が漏れる。
 ……すごい。
 気持ちよすぎて、苦しくて、涙が浮かぶ。
 だけど、それでも私の身体は――……彼を欲しがっていて。
「も……どうしよ……っ……変、なんです……身体が……っ」
「……そうでなくちゃ」
「え……?」
「俺が触れてるんだから……それが当然だろ?」
「っ……」
 すぐ後ろで聞こえた言葉は、まるで笑みでも浮かべているかのように楽しそうだった。
 ……でも、確かに自分もうなずいてしまって。
「ん……すごいっ……気持ちい……」
「……それはっ……よかった」
 瞳を閉じて彼だけを感じると、なんだかもう本当に身体全部を彼で満たされているような気がして、恥ずかしいけれど……すごくすごく嬉しかった。
「……それじゃ……」
「…………え?」

「……ここからは、俺の言うこと聞いてもらおうか」

 ちゅ、と首筋にキスした彼が、吐息を目いっぱいかけながら――……小さく笑った。
「……ッ! んんぁ!」
「っく……は……すご」
「あぁあっ……ん、んっ!!」
 両手で腰を固定して深い場所を絶え間なく責められ、身体の自由がまったく利かなくなった。
 ただただ彼にすべてを任せ、与えられる快感を甘んじて受ける。
 ……おかしいの。
 自分の身体が、もう、どうにもならないくらいに。
 ……だけど……だけどやっぱり、彼とこうしてひとつになれるのが――……好き、なの。
 離されたくない。
 もっと……そばにいてほしい。
 これまでこうして触れ合えなかったからこそ、自然と私も彼を強く求めていたんだろう。
「ぁ……祐恭さ、ん……」
「……何?」
 荒く息をつきながら、互いを求める。
 顔だけでそちらを向くと、楽しそうな顔の彼と目が合った。
「っ……気持ちいい……の……」
「……羽織……?」
「すごくっ……すごく……だめ、また……っ……またっ……!」
 少しだけ瞳を丸くした彼を見つめ、首を緩く振る。
 ……だけど。
 すぐにふっと笑みを浮かべた彼は、ちょっとだけ意地悪な顔をしてから、ちゅ、と頬に口づけた。
「……気持ちよくしてあげる」
「っ……あ……」
「最高って思えるくらい」
「ッ……んんっ!?」
 目いっぱいの吐息をかけられながら、囁かれた……なんだかとんでもない言葉。
 だけど、その意味を考えるまでもなく、いきなり強く突き上げられた。
「あ、あっ……! っんぅ……っも……や、やっ……あぁっ……」
「っく……そんな……締めない……」
「だって、ぇ……っ……ふあ、あっ……祐恭さん、がっ……」
「俺のせいじゃ……ないだろ……!」
「あぁあっ……ん、っく……ぅ」
 律動が速まり、びくびくと身体の奥から無意識のうちに彼を締めつけるのがわかる。
 だけど、後ろ向きのままだから、当然彼がどんな顔してるかまではわからない。
 ……わからない……んだけれど……。
「っく……イきそ………」
「ぅ……んんっ……私もっ……」
 はぁ、と互いに大きく息をつくと、まるでそれが……合図みたいになって。
「っきゃ……!?」
「……イこうか」
「えっ……?」
「一緒に」
 くるっと身体を反転させられたかと思いきや、体勢が逆になった。
 さっきまでは、先生が後ろで……だったんだけど、今はなぜか私がソファに背中を預けていて、目の前に彼がいる。
「こうじゃなきゃ、見えないだろ?」
「……? ……何が……ですか?」
 楽しそうな顔をして口角を上げた彼に、まばたきを見せる。
 ――……と。

「羽織の、イク顔」

「…………はぃっ!?」
「正面からじゃなきゃね」
「なっ……なななっ……な……!?」
 一瞬、彼が何を言ったのかわからなかった。
「さ、イこうか」
「……ふぇっ……ぁあん!」
「っく……イイ音……」
「や……ぁだっ……やらしっ……の!」
 ぐいっと奥まで突き上げられ、また卑猥な濡れた音が大きくなった。
 ……誰のせいでこんなっ……格好とか、こんな……音とか……っ。
「……もっ……やぁ……」
「羽織のせい」
「ッそんな……あぁっ……ん!」
「……っく……キツ」
 顔のすぐ横に彼が手をつき、じりじりと距離を狭めた。
 吐息――……というより、荒い息。
 互いに交わしながらまぶたを開けると、それはもう……っ……色っぽい顔で口づけられた。
「ふ……ぅん、ん、……ん……」
 荒い口づけ。
 だけど……好き。
 貪るように互いを求め、舌でしっかりと味わう。
 ……好き。
 すごく、すごく……好き。
「……好き、ぃ……祐恭さ……っ……好き……なの……」
「っ……」
「……大好き……」
 ちゅ、と離された唇で囁くと、瞳を丸くしてから――……少しだけなぜかつらそうに眉を寄せた。
 途端。
「っ……んん!!」
「く……っ……俺だって……ッ好きだよ……!」
「あ、あっ……あぁっ……ん!」
「誰よりも……ッ……俺が」
「んぅっ……!」
 角度を変えて突き上げ、弱い部分をダイレクトに刺激される。
 ……ち……がうっ。
 これまでの彼とも、いつもの彼とも……本当に。
 急にすべての流れが変わったようにも感じるし、それに、何よりも――……。
「っはぁ、あっ……ん! やっ……い……」
「……ずっと……ッ……これまでずっと、こうして……」
「ん、んっ! 祐恭さっ……あっ……そこ、や……ああ……っ」
「触れたくて、抱きたくて……たまらなかった」
「っ……あ、ん!!」
 ぎゅうっと抱きしめられ、また、責められる場所が変わった。
 微妙にずれたせいで、一層キツく彼を締めつける。
 だけどもちろん彼以上に煽られているのは――……私に違いなくて。
「ぁ、あっ……! っく……ぅん、んっ……っや……!」
「っは、ぁ……すごい……イキそ……」
 荒く息をつきながら彼を求めるように腕を回す。
 ……もう……だめ。
 本当に本当に、もしかしたら壊れてしまうかもしれない。
 ぞくぞくと粟立って、震える我が身。
 ……そして。
 身体の奥底から湧きあがってくる衝動と、欲望。
 それらに翻弄されながらも、まだ私は……彼を求めていて。
 ……いったい、いつからこんなに淫らになったんだろう。
 彼に触れてもらえなかった時間が、本当に長くてつらくて。
 その反動ともいえるべき今は――……手がつけられないほどまでに、彼を欲する。
「あ……ぁっ……!」
 ぴくんっと背が反り、何か自分で感じるものがあった。
 ……満たされる。
 刹那、身体が奥から快感に震えた。
「だめっ……だ、めっ……あ、あっ! いっちゃ……ぅ……!!」
「く……ッ」
「あ、やっ……ぁああ!!」
 半分泣いているみたいに潤んだ、少し高い声。
 喉を締めて搾り出すように漏れた喘ぎが、私にとって強すぎる感情のもっとも正直な表れだった。
「……はあ……っ……」
「んっ……」
 大きく息をついた彼に身体を預けられ、体重がかかったせいで小さく呻きが漏れる。
 ……どうしよう。
 私、幸せすぎておかしくなっちゃう……絶対。
 身も心も満たされて、思わず唇をかみ締めていた。


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