「……は……ぁ」
 どちらともつかない吐息すらも、刺激と変わる。
 何日ぶりかの、キス。
 ……これは、結構危うい。
「っ……ん! や、だ……」
 首筋に唇を寄せながらリボンを解くと、すぐに彼女が両手で身体を押した。
 だが、構わずに続ければ次第に力が弱まるのはわかっている。
「……せん、せ……誰か……きたらっ」
「大丈夫だって。……もう下校時間はとっくに過ぎてるんだぞ?」
「けどっ……!」
 ひとつボタンのブレザーは、楽でいい。
 あっさりとボタンを外してシャツに手をかけると、耳元で困惑気味な声が聞こえた。
「もぅっ……! 困るっ……」
「俺は平気」
「私は……平気じゃな……! ん……ぁっ」
 胸元から手を忍ばせて下着をずらすと、柔らかな胸に触れた。
 ……相変わらずの感触に、つい笑みが漏れる。
「や、ん……っ……せんせ……」
「……言葉とは裏腹みたいだけど?」
「だ……って、ぇ……んっ……もぉ、やだぁ」
 軽くいやいやをしながらも、すがるように寄せられる両手。
 身体は正直という言葉を最初に言った人間は、すごいな。
 口では拒んでいても、結局自分に為されるままになってくれるわけで。
 ……まぁ、それが余計に欲望を駆り立てるのだが。
「はぁ……っ……ん」
 やんわりと胸を揉んでやりながら胸元に唇を寄せると、ぎゅっと首に腕を絡めた。
 さすがに服を脱がせるわけにはいかないので、着せたままなのだが……これはこれで、結構イイ眺め。
 身長差があるぶん、若干体勢としてはキツいのだが、たまにはいいかも。
「っ! あ、んっ……ん……ぅ」
 胸の先を含むと、ぴくんと反応を見せて手のひらが髪を探った。
 荒い吐息に交じる声を聞きながら舌で撫でれば、そのたびに身体を切なげに震わせる。
 短いスカートの下に手を滑らせて太腿を撫でている今、やはり滑らかな感触が心地いい。
 そのまま、ショーツの上からなぞるように指を這わせる。
 ――……と、案の定濡れていた。
「……やらしいな」
「先生が……悪いんだからっ……」
「やっぱり、楽しんでたんじゃないか」
「っ……! あ、あれはっ……!!」
 ファミレスでの蜜事が功を奏したのか、1度ついた身体の熱は下がってないようで。
 力の入らない身体をかろうじて壁へもたれることで支えているが、ここから先は限界かもしれない。
 ……というワケで。
 脇の下に手を入れて先に支えを作ってやってから、ショーツの中へ手のひらを這わせる。
「んっ、や……! だめっ……」
 ぎゅっと白衣を握る手を感じながらゆるゆると指先を伸ばすと、熱く濡れた秘部に行き当たる。
 わずかに指を動かしただけで響く、濡れた音。
 彼女が感じている確かな証拠を得た以上、ここで引き下がれるはずがない。
「あっ、あ……ん、や……」
 再び首筋を舐めてやりながら指を沈ませると、くちゅんという小さな音とともに飲み込まれた。
 抜き差ししながら指を増やすにつれ、次第に声色が変わる。
 明らかに濡れた、イイ声。
 耳に絡むような甘い声に瞳を閉じながら唇を求めると、柔らかく返してきた。
「……は……ふ」
 濡れているためか、舌に心地いい唇。
 きゅっと閉じられているものの、感じているのがうかがえる目元。
 舌で口内を撫で進めていくと、同時に指が軽く締め付けられる。
「……服……濡れちゃう……っ」
「もう濡れてるかもね」
「……もぉ、どうするんですかぁ……」
「しょうがないだろ? アレだけ弄ったんだし」
「…………そんな……っ」
 唇を離すと、途端に甘い声で抵抗があった。
 そんなことを今さら言われても、大変困る。
「ウチ来る?」
「……まだ木曜日だもん」
「じゃあ、この服誰が洗ってくれるんだ?」
 見えるように肘を折ると、シャツの袖に潤んだ瞳を向けた。
 ……と、偉そうに言ってみたところで、俺の失態以外の何物でもないんだけどな。
 今は、それすらも最大限利用させてもらう。
「……もぉ……こんなところに、付けないでください」
「しょうだないだろ? 付いちゃったんだから」
 ぼそぼそと小声でのやり取りも、秘めごとっぽくてやらしく耳へ届く。
 まぁ、実際ヤラシイことをしているんだが。
「……このあとは帰れるんだし。ウチ来ない?」
「もぅ……」
「せっかく、半日儲けたんだよ?」
「……ん」
 耳を軽く舐めてやりながら呟くと、こくんと首を確かに振った。
 ……さすがは、よくできた彼女。
 ちゅ、と頬に口づけをしてから指を抜くと、小さく声を漏らして身体を預けてきた。
 彼女を抱いたままで財布を取り出し、中から袋を取る。
 ――……と、当然のようにそこへ視線を移した彼女が目を見張る。
「っ、え、なっ……! なんで持ってるんですか!」
「ん? いつ何時こうなってもいいように」
「……うぅ……えっち」
「しょうがないだろ? こればっかりは、天命」
「どういうことですかっ」
 くすっと笑ってみせると、少し呆れたように眉を寄せた。
 ……だが。
 荒く上下する肩を見ていると、自分がどれだけ彼女を翻弄しているのかがわかって、かなり楽しい。
 片方の靴を落として膝を腕にかけて上げると、ショーツが膝まで落ちた。
 ……うわ。えろい。
 AVなんて比じゃないな。
 などと思わず浮かんでしまい、ああ、俺はまごうことなき犯罪者だなと改めて思った。
「……じゃあイこうか」
 決まり文句を耳元で囁くと、首に手をかけてから小さくうなずく。
 顔が近づくと、彼女の熱い吐息が肌にかかり、ぞくりと粟立つ。
 ……いい顔だ。
 視線を落として軽く唇を噛んでいるのを見ながら、思わずほくそえんでいた。
「っ、あ……ぁ……っん!」
 立ったままでするのは、嫌いじゃない。
 ただ、なかなかそういう機会に恵まれないだけ。
 まぁ、普段は家ですることが多いからなんだけど。
 ……というか、ぶっちゃけこんな昼下がりに外でするなんて、俺の人生初だからな。
「ん、んっ……ぁ、やぁ」
「っ……きつ」
 より深く彼女の奥まで達すると、途端に締め付けられた。
 凹凸のないコンクリートの壁に彼女をもたれさせながらゆっくり突き上げると、そのたびに開いたシャツから柔らかな胸が覗く。
 律動にあわせて揺れるのは、やっぱり、こう……イイわけで。
 しかも、服を着たままっていうのは、ある意味そそられる。
「っ……もぉ、だめ……ぇ」
 吐息とともに彼女が漏らすと、それが確かだという証拠に締め付けが襲う。
「まだダメ」
「ん、そんな……!」
「……まだ声だってちゃんと聞いてないんだぞ?」
「んんっ……、だって、学校……だし」
 はぁはぁと漏れる息づかいの上に、染まった頬。
 そんな顔をされると、余計苛めてやりたくなる。
 ……こればかりは性分か。
 だったら、彼女には諦めてもらうほかないな。
「……学校だから、いいんだろ?」
 にやっと独りでに口角が上がるのがわかった。
 それを見て瞳を丸くした彼女を、ゆっくりと責めていく。
「あ、ぁ……んっ……ふぁ」
 いつもよりずっと優しく責めているのだが、それでも漏れる声は変わらなく響いた。
 真昼間の学校で……しかも、外。
 これほど恵まれた場所というのは、なかなかほかにはないはず。
 ……あとは、立ち入り禁止の屋上ぐらいだな。
 今日は部活動がないため、いつもなら嫌でも聞こえる運動部連中の声がなかった。
 だからこそ、より彼女の声がダイレクトに届く。
「く……ぅんっ、はぁ……!」
 切なげに眉を寄せて悦を感じる彼女。
 それを見ながら少しずつ律動を送っていくと、手に力がこもった。
「んっ、そんな……されたらっ……あ、ぁっ……!」
 ひときわ声が高くなり、ぞくぞくとした表情を見せながら荒く息をつく。
 ……あと少し。
 このまま簡単にイカせてやる気は毛頭ないが、より深く彼女を突き上げる。
 すると途端に締め付けが強くなり、行く先を阻まれた。
 ……堕ちそうだ。
 彼女を抱きしめながらクラクラする頭でそんなことを考えると、背後からふいに声が聞こえた。
「ねぇ、知ってる?」
「ッ……!!」
「……くっ」
 当然のように、びくりと彼女の身体が震えた。
 同時に自分も鼓動が早くなり、思わず動きを止める。
 白衣を握っていた手に力がさらにこもり、不安げな瞳で俺を見上げる彼女。
 ……どうやら、声は塀の向こう側から来ているらしい。
 体育館の裏側は、塀を隔てた向こう側に一般道がある――……つまり、冬女の通学路。
 バス停は正門側にあるのだが、自転車通学などの子は、こちらの道を通ることが多い。
 姿こそ見えないが、そこに人がいることに間違いはない。
 ……これは結構な――……いや、かなりのハイリスク。
「なんかさー、図書館でヤってる子がいたんだってー」
「マジで!? だって、ウチの学校男子いないじゃん」
「だからっ! 先生と!!」
「えー!? それって、ヤバくない?」
「ヤバいでしょ、普通! だって、先生と付き合うっていうか……先生とヤるのって、ありえなくない?」
「ちょ、まじ、ありえないから!」
 ……すごい会話だな。
 というか、図書館でヤったって……しかも、教師と?
 あんな場所で、どうやってヤるんだ。
 確かに棚は結構高いのだが、それほど死角になるような場所はない。
 ……随分豪気なヤツがウチの学校にはいたもんだな。
 顔が拝めれば、拝んでみたい。
「っ……こら」
「……え……?」
 眉を寄せて彼女を見ると、きょとんとした顔でこちらを見返してきた。
「……締めない」
「っ……そんなこと言われてもっ……」
 いきなり締め付けられ、危うくそのまま果てるところだった。
 彼女を軽く睨むものの、まぁ、こればっかりは仕方ないのだが。
「先生といえばさー、内山っ! 映画見てたとき、すごい怪しい動きしてたんだけど」
「怪しいって?」
「なんか、ジャージのここに手を置いて……」
「ヤダー! 最悪ーー! 何考えてんの、あのオヤジ!」
「だよねー! 最悪だよーーー」
 ぎゃーぎゃーとした笑い声が徐々に遠ざかっていくに従って、彼女が小さく息を漏らした。
 それでも、当然繋がったまま。
 ひくひくと時おり締めつけられるあたり、彼女の熱はくすぶり続けている。
「……先生とヤるのって、ありえなくない?」
「っ……そんなこと言われても……」
 わざとらしく口調を真似てやると、眉を寄せて嫌そうな顔をした。
 そりゃそうだ。
「……生徒とヤるのは、ありえるのかね」
「ん、それってあんまり変わらな――っ……ひぁ!」
 苦笑を浮かべた彼女の腰を支えながら軽く動くと、途端に表情を一変させた。
「あ……っあ、ん!」
「しかも日中に、こんな場所で……」
「や……ぁ、そんなっ……言われて……も……ぉ」
 ゆるゆると首を振ってしがみついてくる彼女の耳元に唇を寄せてから、両手でわき腹を掴む。
 とてもじゃないが、むんずとは掴めない肉量。
 この身体を骨と皮のみにしようとしている彼女のたくらみは、ぜひとも阻止させていただきたい。
「んっ……! くすぐった……ぃ」
「だいちあ、余計な肉なんてついてないだろ? ダイエットなんてするな」
「そ……そんなこと言われても……」
「むしろ、もっと食ってもらいたいね。……あんなメシじゃ、こういう激しい運動に耐えられないだろ?」
「っ……! や……えっち!」
「ホントのこと……ッ」
「んぁっ……! や、ぁ、あっん!」
 ぐいっと突き上げながら彼女の両手を掴み、まとめ上げて壁際に寄せる。
 と同時に軽く上がった胸へ舌を這わせると、自身をすぐに締め付けた。
「やぁっ……あぁ……んっ、もぅ……!」
 今にも泣きそうな声は、果てが近い証拠。
 丹念に舌で首筋を舐め上げながら律動を送ると、短い喘ぎを漏らしながら手に力を込めた。
「ん、んっ……やん……いっちゃ……ぅ!」
「……いいよ……っ」
「祐恭さっ……! あ、もぉっ……ん、んんっ……あぁあ……!!」
 びくびくと淫らに自身を締め付けると同時に、快感の震えに身体を飲み込まれる悦の顔。
 内壁を擦り上げるように突くと、徐々に昂ぶりが近づいてきた。
「……っく……」
「んぁっ……! ふ、ぅ……っ……んぁ!」
 果てたばかりの身体には多少キツい快感だろう。
 ちゅ、と首筋に唇を寄せながら彼女を揺さぶると、強く突きあげた途端に自身も彼女の中へすべてを吐き出していた。
「……ぁ……ん」
 唇を合わせ、しっかりと舌で味わう。
 溶けてしまいそうな口づけは、相変わらず心地いい。
 ……自分が教え込んだ、これ。
 うっとりとした瞳で見返されると、当然1度きりでは済まなくなる。
「……ん……ふ」
 ため息とともに漏れる声が、耳へ甘美に響く。
 何度か口づけをしてから離れると、力が入らない身体のままもたれてきた。
「……はぁ」
「…………あー、気持ちよかった」
「……えっち……」
 照れた顔で睨まれても、迫力などこれっぽっちもない。
 逆に、つい意地悪く笑みが漏れた。
「気持ちよくなかった?」
「……ぅ」
 耳元で囁いてから目を合わせると、困ったように眉を寄せて小さく首を横に振った。
「んー? 言葉で言ってくれなきゃ、わからないんだけど?」
「……いじわる……」
「ほら。気持ちよくなかったのか?」
「……よかったもん」
 ごくごく小さい声ながらも、そう言ってもらえると嬉しいというか……そう言わせることができて大変満足。
 ちゅ、と頬に口づけてからシャツのボタンをはめてやると、かったるそうに身支度を整えた。
「今夜はしっかり夕飯食うように」
「……え?」
 不思議そうな彼女に笑みを見せると、途端にぶんぶんと首を振った。
「……なんだよ」
「行きませんよ!? 今日はっ」
「なんで?」
「だ、だからっ! 今日はまだ木曜日で……」
「関係ないだろ。じゃあ、シャツが1枚ダメになってもいい?」
「う。……それは……」
 まくった袖を見せてため息をつくと、困ったようにそことこちらを見比べた。
 ごめんね、意地悪くて。
 これっぽっちは思っていることを内省しながらも、言葉と態度には決して反映しないのが俺だからしょうがない。
「……だって……」
「イヤならいいけど。別に」
「…………イヤじゃないですけど」
「じゃあいいだろ。お持ち帰り決定」
「っ……もぅ」
 平然とにっこり笑うと、呆れたように眉尻を下げた。
 彼女の髪を撫でてから視線を下に落とすと同時に、つい口角が上がる。
「……なんで濡れてるのかな。雨降ってないのに」
「え……? っ……!! やっ、知らないっ!」
 点々とその場に残る、染み。
 いかにも何かによって濡れたことを明らかに示しており、事情を知っているのが俺たちだけだからこそ、どうしたものかと一応の思慮はしてみる。
「バレるかもね。これで」
「ば、バレませんっ!」
 回れ右をさせられて背中を押されながら振り返ると、頬を染めて首を振っていた。
 ……相変わらず、わかりやすい反応だ。
「いいの? そのままで。……なんなら、目立たないようにもっと濡らして――」
「わぁ!? えっち!」
 言い終わる前に、軽く背中を叩かれた。
 そんな彼女がかわいくて、つい笑ってしまう。
 学校で彼女を抱くという、一種の願望。
 それがこうして叶えられたのは、幸せだと言い切っていいだろう。
 ……まぁ、卒業前にもう1回くらいしてもいいけど。
 それにしても、図書館か。
 1度探ってみるかな。
「……ふ」
 準備室に戻るまでの道程でそんなことを考えたのは、言うまでもない。
「……もぅ」
 いつの間にか、隣に並んだ彼女。
 相変わらず視線が合うと困ったように眉を寄せるが、それ以上文句を言ってこないあたりが彼女らしい。
 もっと文句言われるかと思ってたんだが……ひょっとして、楽しかったとか。
 ぼそっとそんなことをほのめかすと、案の定瞳を丸くしてぷいっと顔を背けられてしまった。
 ……まぁそうだよな。
「……かわいいな」
「っ……かわいくないのっ!」
「そういうところが、かわいいんだって」
 くすくす笑いながら髪に触れると、こちらを振り返らないままで少し先を歩きだした。
 うっすらと濡れた跡が残るスカート。
 ………あー、クリーニング行きだな。
 彼女に言えばそれこそ怒られるだろうから今は黙っておくが、さっきまで確かに彼女を自分が愛していたという証拠が残っていたのが見えて、少し嬉しくもあった。
 ――……後日。
「ねぇねぇ、知ってる? なんかさー、体育館裏でヤった生徒がいるらしいよー」
「うそー、マジ?」
 がたがったん。
「……? どうしたの? 羽織」
「へ!? あ、ううんっ。ごめん、ちょっと……む、虫いたよねっ? そこに!」
「えぇ?」
 危うく転びそうになりながら自分の席に戻り、慌てて教科書を机から取り出す。
 ……ど……どうしよう。
 ばっくんばっくんと今までにないくらいの勢いで心臓が鳴り、苦しくて息ができない。
「……あ、でさ。なんかねー、ヤバそうな声聞いた子がいるんだってー」
「ホントに?」
「ねぇ、羽織は知ってる?」
「っ……ぅえ!? し、らないけどっ……」
「もー。羽織が知ってるわけないでしょ」
 友人のいたずらっぽい問いに助け舟を出してくれた、絵里。
 だけど、もちろん彼女は何も知らないわけで。
 ……私だってバレたら、殺されるかもしれない。
 盛り上がる絵里たちをよそに、内心びくびくしている張本人がここにいたとかいなかったとかを、祐恭ものちほど知ることになった。

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