愛してる。
 そんな言葉を何百回、何千回と口にしようと、表せない気持ち。
 深いとされているその言葉ですら、今は安っぽく思える。
 言い表せないこの想い。
 ……これは、いったいどんな言葉で飾り立てればいいだろう。
 できもしないことだが、もっと、今の俺の想いを的確に表現してくれるような言葉があればいいのに。
「ん……っ……」
 どんな言葉よりもモノを語り、どんな囁きよりも確かなこと。
 何度も唇を重ね、注ぎ込むように感情を強く抱きながら口づける。
 長く語るよりも、ひとつのキスを。
 言葉よりも多くモノを語るそれを、俺ならいつでも間違いなく選ぶ。
「……は……ふ……」
 先ほどまで、自分がもたれていた場所。
 今度はそこに彼女を動かし、支えてやりながら何度も口づける。
 ――……あの日。
 彼女が、強い明確な意思を持ってここに入ってきたあのとき。
 あれから……いや。
 もっとずっと前から、こうなることはわかっていたんだろう。
 じゃなければ、孝之が企てたコンパの席で、彼女を席から外したいなどと思わなかった。
 ……ほかの男の目に晒されているのが、嫌だ。
 そんなふうに、まるで自分の女を見ているかのような目で、あのときの自分は動いた。
「……ぁ……せんせ、っ……ダメ……」
「……なんで?」
「っ……! だ、だって……! だって……ここ……」
 わずかに身体を押されて瞳を開くと、潤みきった、艶っぽい瞳と唇をこちらに向けた。
 彼女が拒む理由は、当然わかってる。
 ……だけど、それは否定してやりたい。
 このままなだれ込むつもりはないのだが、正直――……この場所にいるたび、自分が抑えられなくなるのも事実。
 放課後。
 昼休み。
 休み時間。
 たび重なった幾重もの時間のうち、彼女とふたりきりになることをどれほど避けようと思ったか。
 まるで、この場所だけ特別な磁場が敷かれているかのように、理性のタガがぐっと脆くなる。
 ……何度、人目をはばからず抱きしめ、そしてキスしようと思ったか。
 この部屋独特の匂いがそうさせるのか、それとも――……ここで交わした最初のキスの記憶がそうさせるのか。
 理由こそハッキリしないものの、自身が明らかに昂っているのだけは確かだ。
「……誰もこないよ」
「っ……そうじゃ……なくて……!」
 耳元でこそこそと話すかのように囁き、髪をすくう。
 途端に、くすぐったそうな……そして、ぞくりと何かを感じ取ったかのような、ひどく艶やかな表情を見せる。
 ……そんなカオで否定されても、今さらうにかできるはずがない。
 半分は、彼女の責任。
 勝手にそんなモンを押し付けて正当化しようとする自身が……正直呆れるが、正しいとも思う。
「っ……ん……!」
 抱きすくめるように腕を回し、首筋へ唇を寄せる。
 服に触れていた手が、きゅ、と音を立てて白衣を握った。
 すぐ耳に届く、息遣い。
 それすらも、ヤラしくて一層自身を煽り続ける。
「ふ……ぁや、っ……だめ……」
 吐息とともに囁かれた、弱い抵抗。
 微かに震える手の感触に、つい顔が離れる。
「……あ……」
 息をつきながら、見上げる姿。
 頬を染めて明らかに何かをしっかりと感じていた様子が伝わって、ついまた手が伸びそうになる……のだが。
「……寒い?」
 一瞬、その肩が震えていたように見えた。
 本当は、もっと違う言葉を選ぼうとしたはずなのに。
 ……やはり結局は、彼女に自身も左右されるということか。
「……少しだけ……」
 どうしようか、と迷うような顔をした彼女が、1度視線を外してから改めて小さくうなずいた。
 普段ならば、もう少し暖かく感じただろう。
 だが、今は……俺のせいで、普段よりずっと薄着の彼女。
 セーター1枚といういでたちでは、この独特の冷気漂う実験室は厳しいモノがあるらしい。
「……そっか」
 ならば――……と顔が向いたのは、当然隣の準備室。
 あそこなら、間違いなくここよりもずっと暖かいだろう。
「隣、行こうか」
「……え……?」
 当然のように、彼女が瞳を丸くした。
 だが、あえてその手を取ってしまい、答えを聞かずに歩き出す。
「え、せっ……先生……!? でも、あの、そこはっ……!」
 ドアノブに手を置いた瞬間、慌てたように彼女がセーターの胸元を掴んで押さえた。
 そこから覗く白い肌に一瞬視線が落ちるものの、瞳を見つめてから――……口元を緩める。
「……それじゃあ……ひとつ賭けようか」
「賭け……?」
 にっこりと微笑んだつもりだが、彼女にはどう映っていたことか。
 恐らく、いいモノに見えはしないと踏んでいるが。
「もし、この向こうに純也さんと絵里ちゃんがいなかったら……そのときは、俺のしたいようにしていい?」
「っ……え……!?」
 彼女にとっては、とんでも発言。
 だが、俺にとっては名案そのもの。
 確率は、2分の1。
 あくまでもコレは、お互いに公平な取り引きだ。
「え……っと……」
 だから、どちらか選んでほしい。
 そんな顔で彼女の出方を見ていると、口元に当てていたその手をどかして、おずおずと見上げてきた。
「……いる、と思いますけれど……」
「そう? それじゃ、いなかったら俺の勝ちね」
 彼女が言い終えると同時に、音を立ててノブを回す。
 少しだけ軋むドア。
 開け放って躊躇なく中に入ると、そこには予想以上に暖かな空気が漂っていた。

「……ど……して……」

 振り返らずに窓へ近づき、シャッと勢いよくカーテンを閉める。
 遮光ではない、普通のモノ。
 それゆえに、冬の暖かな光が透いてクリーム色のカーテンを一層淡い色にさせた。
「……さあ……?」
   そのままドアへと向かい、内側から鍵を閉めてしまう。
 同時に、上下についている横にスライドさせるタイプの鍵も。

「どうしてかな」

 振り返ると同時に彼女を見つめると、自然と瞳が細くなった。
 笑みが浮かび、どうしたって口角が上がる。
「っ……あ……」
 そんな俺をまっすぐに見つめたまま、あとずさった彼女。
 すると、ちょうどいい具合に膝へ俺の椅子が当たり、そのままストンと腰を下ろす格好になった。
 先ほどまでと同じ、暖房の付けっぱなしになっている部屋。
 だが、ここにふたりの姿ははい。
 ……俺だって、まさに賭けだった。
 本当にいないかどうかなんて自信はなかったし、確証は最後まで持てなかったから。
 ……だけど、実際に姿はなくて。
 実験室にいたとき聞こえた、ドアを閉める音。
 やはりあれは、準備室のドアに間違いなかったようだ。
「っ……!」
「それじゃ……俺の言うこと、聞いてもらおうかな」
 座ったまま眉を寄せて俺を見上げる彼女。
 その頬を撫でるようにしてから軽く顎を取ると、唇を結んで喉を動かした。
「……期待してた?」
 息をたっぷりと含んでやってから、髪をすくって耳にかける。
「っや……!」
 心なしか、薄桃色に染まっている耳たぶ。
 軽く唇でくわえると、肩を震わせながら、高い声を漏らした。
「は……っ……ぅあ……っ……」
 ぺろりと舌で撫で上げてから、抱きしめるように背中へ腕を回す。
 肩へ乗せられた、彼女の手。
 わずかに震えたソレは、寒さからじゃないモノ。
「っ……え……」
「交代ね」
 脇の下に手を入れて軽く立ち上がらせ、先に椅子へと座る。
 無論――……。
「ッ……!」
 彼女を、膝へ乗せてやるために。
「やっ……! ダメですよ!!」
「どうして?」
「ん……! ……だ、だって……」
 後ろ向きに座らせたまま、抱きしめる。
 ともに、前を向いたままの状態。
 その先に、人影は無論映っていない。
「……お……重たい、し……」
 ぽつりと囁かれた言葉は、案の定のモノ。
 苦笑とともに、小さくため息が漏れる。
「重かったらこんなふうにしないよ?」
「けど……」
「俺が、したいからこうするの」
「っ……」
 きゅ、と回した腕に力を込めると、華奢な身体が一層わかる。
 薄いセーター1枚の、彼女。
 手のひらを躊躇まく進めれば、すぐに肌が目にも入る。
 ……これをオイシイと呼ばずして、なんと呼ぼうか。
「んっ……!」
 セーターをまくり、ゆっくりと手のひらを直に肌へ触れさせる。
 途端に反応を見せた彼女が、びくっと背を震わせた。
「ぁ……や……っ」
「どうして?」
「んんっ……! く……すぐった……ぃ」
 片手を背中へと滑らせて、指先を這わせる。
 ……すぐに行き着く、場所。
 そこをなぞるようにしながら、前へと――……移動させる。
「やっ……!」
「……気持ちイイ」
「ん……っ……ん、や……ぁ」
 柔らかな肌。
 そして、胸。
 ブラをわずかにずらしてから、わざと溢れさせる。
 直に目で見えないのは、正直言って残念。
 ……だがこの感触はやはり、イイ。
「ぁっ……あっ……ん!」
 耐えているかのように、短く漏れる声。
 だが、それに確かな悦が含まれているのはわかる。
 ……正直だな。
 思うと同時に、口角が上がった。
「っ……! そっ……だめ……」
「……どうして?」
「だ、だって……! ……ここ……こんな、場所で……」
「誰も見てないよ?」
 ゆっくりと、敢えて焦らすかのように手のひらを下へとおろしていく。
 だが、膝から太腿へと手のひらを滑らせた途端、慌てたように首を振って、もたれていた身体を起こしてしまった。
「カーテンも閉まってる。……鍵もね。ほかに何か、ある?」
「そ……じゃなくて……」
「……ん?」
 自分でも、どうしてこれほどまでに余裕があるのか、それは正直言ってわからない。
 確かに、『大丈夫』だとは思っているが、決して絶対ではない。
 ……だが、どうしてもここで、という思いがあった。
 なぜ?
 理由はわからないが……身体を求めるというのは、そういうことじゃないんだろうか。
「あっ……!」
「……感じてるのに?」
「や……言わないで、くださ……っ……」
「正直なほうが好きだよ? ……俺は」
「……っ……」
 何度も太腿を往復しながら撫で、指先で――……わずかにショーツをなぞる。
 ぴっちりと閉じられた、足。
 だが、その途端少しだけ力が緩んだ。
「んっ……!」
「……濡らしてもいいの?」
「っ……や……」
 その隙に、手のひらを挟ませてしまう。
 指先で秘所をなぞるようにショーツを伝い、肌と布地ぎりぎりの部分に触れてやる。
 今、彼女がどんな顔してるか。
 そんなモン、あえてわざわざ覗き込まなくとも、十分に伝わってくる。
 ……かわいいだろうな、とは思う。
 だからこそ、こんな笑みが浮かぶんだから。
「……気持ちいいクセに」
「っ……そ……れは……」
「……でも、ここじゃイヤ?」
「………だって……」
 すべてが、否定の言葉。
 だが、どれもこれも力は弱い。
 ……ゾクゾク、してる?
 そんな言葉を口にしたら、彼女はどう言うだろう。
「……知ってる?」
「え……?」
「俺、押しは強いほうなんだけど」
「っ……!」
 胸に触れていた手を動かし、包み込むようにしてから……先端を弄る。
 同時に、ショーツへとかかっていた指先を、隙間から中へ。
「ひゃぁ……うっ……ん、ん……や……せんせぇ」
「……そんな声出したら、余計止まんないよ?」
「だっ……あぁ……あ、ん……」
 緩く首を振り、いつしか腕を掴んだ彼女。
 だが、口から漏れているのは相変わらずの艶やかな嬌声。
 ……一層自身が煽られるのに、こんな所で止められるはずがない。
 それはもちろん――……彼女もわかっているだろうが。
「ぁ、あっ……ふ……ふぁ……」
「……イイ音」
「っ……や……だぁ……」
 指先を微かに沈めただけなのに、くちゅりと濡れた蜜音が響く。
 秘所をなぞれば、途端に絡み付いてくるソレ。
 ……欲しがってるクセに。
 いや、その言葉は俺にも通用するのだが。
「っ……!! やっ……!?」
 膝に乗っている彼女。
 イコール、下で支えている俺次第で――……どうとでもなる、格好。
「や……だ……っ……せんせ、こんな……!」
「いい眺め」
「ッ! ……やぁ……」
 腕をかけるように、彼女の膝を捕える。
 そのまま足を開かせてやると、当然のように、難なく白い太腿が露わになった。
 ほぼめくれてしまった、スカート。
 そこにある白衣を纏った自身の腕も俺から見えているんだから……当然、彼女にも確かに。
「も……、や……っ……こんな……」
 今にも、泣き出すんじゃ。
 そんな思いに苛まれながらも、正直言って、やはり本能には勝てない。
 ……大分、自分がおかしくなってるのはわかる。
 こんな格好を強制するつもりもそうだが……元々は、こんな場所で手を出そうなんて考えてすらなかったのに。
 だが――……。
「……俺の言うこと、今日だけでいいから……」
「え……?」
「今だけ、このままで聞いてくれない……?」
 最後、だから。
 そんな思いも、どこかにあったと言えば……それは許されるんだろうか。
 言い訳には変わりないと思うんだがな。
「んっ……!」
「いいの? 下着、汚れても?」
「やっ……やだ……ぁ……」
「……でも、これじゃなぁ……どうする……?」
 つぷ、と指を増やして秘所へ沈めると、中からとろけ出してくる蜜がわかる。
 緩く首を振られるたびに髪が頬へ当たり、同時に甘い香りも漂う。
 だが身体はほとんど力が入っていないようで、先ほどからずっと俺にもたれたままだった。
「んっ……!」
「……したいよね?」
「な……にを、ですか……?」
「言われたい?」
 はぁはぁと荒い息遣い。
 それを聞きながら口角が上がり、同時にまた指先を動かす。
「ひゃぅっ……!」
「……欲しがってるクセに」
「そ、ん……っ……んぁ、あっ……だめ……ぇ、せんせ……!」
 高い声。
 ……そして、悦に震える身体。
 これを前にして、自分の欲が昂ぶらないはずがない。
「っ……!」

「……したい」

「せ……んせ……」
「今、どうしてもしたい。……抱きたい」
「……や……」
「羽織ちゃんが、欲しい」
「っ……そ、んな……」
 指を抜き取り、身体を一層密着させるべく、強く抱きしめる。
 どくどくと腕に伝わってくる、彼女の鼓動。
 早いままのそれが、何だか嬉しかった。
「……俺の場所なんだ」
「え……?」
「ここが」
 顔を上げ、あたりを見渡す。
 毎日毎日、いつだって目にしてきたこの場所。
 だが、今まではいつも誰かと共有してきた場所だった。
「始まりで……そして、常で。いつだって、俺にとってなくてはならない場所だった」
 ……それが、今は違う。
 今だけは、ないと思っていたことが現実に起きている。
 ……彼女と、ふたり。
 ふたりだけでここを支配できるなんて、正直思わなかった。
「……だから」
「え……?」
「だから、ここでしたい」
 身体へ、心へ、響くように。
 背中に頬を当てたままで、息を含ませ囁く。
「今しかないんだよ。……今を逃せば……二度はない」
「っ……」
 いつ、あのふたりが戻ってくるか。
 それは俺にもわからないからこそ、正直言って、隣り合わせの状態。
 ……内心は、当然落ち着かない。
 だけど、今さら落ち着けないのも事実。
 たとえバレたところで――……何も言い訳はない、というのも……少しはあるが。
「俺の……いや、“俺たち”の色濃いここで……抱きたいんだ」
「っ……」
「最後の我侭、聞いてくれない……?」
 抱きたい。
 欲しい。
 ……どうしても。
 そんなことを彼女へストレートにぶつけると、しばらく身を硬くしていたが――……手のひらを俺の腕にそっと重ねた。
「……でも……声、とか……」
「いっぱい出していいよ?」
「っ……! そ、いうわ――」

「……むしろ、俺は聞きたいから」

 少しだけこちらを振り返った彼女に微笑むと、赤い顔のまま瞳を丸くした。
 ……その顔。
 それも、俺は好きだよ。
 瞳でモノを語るように微笑むと、困ったように、1度視線を外した。
「……私、は……」
「うん?」
「………………」
 小さく呟いた、声。
 ……だが。
「……え?」
「…………」
 先に彼女が動いた。
 俺から降り、机に背を向けるようにして、こちらを振り返る。
 きゅ、と握り合わされた指先。
 ……そして、なんとも言えないその表情。
「私……は……」
 それは、まるであのとき――……あの、彼女に初めて気持ちを伝えられたときと同じに見えた。
「……え……」
 思わず、瞳が丸くなった。
 両肩にそっと置かれた、手のひら。
 そのまま――……わずかに身を屈めた彼女が、ゆっくりと……口づけをしてきた。
「……ん」
 されるがままに受け入れ、拙いながらも挿し入れられた舌を絡め取るように舐める。
 精一杯の、アピール。
 ……十分すぎる、意思表示。
 それが、何よりも嬉しかった。
「っ……あ……」
「……ありがと」
 彼女の頬を手のひらで包みながら、すぐ目の前で微笑む。
 赤く染まった、頬。
 まっすぐに向けられている瞳に俺の姿だけが映っていて、なんとも言えない気持ちでいっぱいになった。
 ……俺だけ。
 まさに、彼女の中に自分だけが満ち溢れてるように思えて、優越感が芽生える。
「………ぁ……」
「じゃ……いい?」
「……ん……」
 立ったままの彼女の腰へ手を当てるようにしてから立ち上がり、今度は俺が彼女を見下ろす。
 上目遣いで、俺の出方を見ているような表情。
 ……その顔も、やはり愛しさが溢れる。
「…………」
 財布を取り出し、中から小袋を取り出す。
 ……いつか。
 いや、まさか使うとは正直思わなかったが。
 封を切って、中身を取り出す――……と。
「……ん?」
 赤い顔で俯いていた彼女が、きゅっとスカートの裾を握り締めながら俺の前に立った。
「……どうした?」
「っ……! あ、やっ……!」
 腰に手を伸ばそうとした瞬間。
 慌てたように、彼女が首を振って一歩あとずさった。
「……?」
「え……えっと……あの……」
 何も言わず、視線も合わさず。
 しどろもどろに言葉を探す、彼女。
 …………。
 ………………。
「……あ」
 だが、自身にソレを纏わせたとき、なんとなく意味がわかった。
「……ぅ……」
「それじゃ……イこうか」
「…………ん」
 背中をこちらに向けさせ、机へ両手を付かせる。
 ……スカートの、中。
 短いゆえに覗かずとも見えるそれがやはり、彼女にしてみれば当然恥ずかしいんだろう。
 さっきの言葉のせい。
 ……そして、これからしようとしていることのせい、で。
「…………ぁ……」
 スカートをたくしあげ、身体をもう少し前へ。
「…………」
 普段、俺の仕事のすべてを担っている……机。
 そこに体重を預けている姿を後ろから見るのは、やはり――……。
「っん……!」
「……イイ眺め」
 当然のように、口角が上がった。
 それに反応した彼女。
 顔だけでこちらを振り返ると、眉を寄せる。
「……えっち……」
「なんか……すごいな、いろいろ我慢できないかも……」
「え……?」
 少しだけ、瞳が丸くなったのが見えた。
「ッ……んぁあっ……!」
 途端、後ろから彼女を貫くかのように、自身を沈めていた。
「ぁっ……うぁ、あっ……ん、すご……い……」
「……く……。……は……キツ……」
 たまらず、机に肘をついた彼女。
 身体が折れたのと同時に、締め付けが一層キツくなる。
「あ、あんっ……せ……んせぇ……」
「……ん……イイ声……」
「ひぁ……っ……う、ぁ……んっ……!」
 ゆっくりと腰を動かしながら、両手をセーターの下へ這わせる。
 ふっくらとした、彼女らしい膨らみ。
 その中心にある起立したソコを弄るように撫でると、そのたびに背が反り、きゅっと自身を締め付ける。
「……く……」
「んぁうっ……ふ……あ、ぁ……」
 ガタガタと動きに従ってテーブルが音を立て、振動で上に載っていた物がいくつか落ちた。
 書類であり、ペンであり……本であり。
 テーブルの上から物が少なくなるのに比例して、彼女が占める割合が増える。
「ん……んぁ……っ」
 胸を揉みしだきながら、律動を送る。
 ……と。
 そのとき、全身で彼女を感じようと閉じていた瞳が薄く開いた。
「は……ぁふ……ん……っ」
 何かを耐えているかのように、口元に当てられた手。
 ……指。
 軽く噛んで、送り込まれる悦に耐えるかのような姿に、いじらしさを覚える。
 愛しくて、かわいくて。
 心の深い場所を震わされて、なんとも言えない気持ちでいっぱいになった。
「ッ……んぁあっ……!」
「……は……。く……そろそろ……」
「あぁっ……や、せ、んせ……っ……先生っ……!」
「……ん……羽織……!」
 ぞくりと背中が粟立ち、同時に自身への血流が増える。
 当然のように彼女が鋭く反応を示し、胎内の奥深くから、自身を一層締め付けた。
 絞り取られるような、すべてを奪われるような。
 そんな強い悦とナカの動きに、たまらず息が漏れる。
「く……ぁ……」
「っ……ん、んんっあ……はぁっ……気持ち、い……」
「すげ……ヤバい」
 高い高い声で荒く息をつき、俺による嬌声を何度もあげてくれる。
 ……たまらないな。
 自然と律動が早まるとともに、口角がぐっと上がった。
「はぁ、はぁっ……ん、あぁっ……も……もぉ……っ」
「……く……そろそろ、イこうか……」
「あぁ……あ、んんっ……! んっ……!」
 小さくうなずいたかのように見えた、彼女。
 ……その仕草が目に入った瞬間、何かが……切れたようにも思えた。
「あぁあっ……!」
「……はぁっ……もっと」
「ん、あ……ぅあんっ……も、もぉっ……ダメ……ぇ!」
「……まだ」
 ぐっと腰を掴んで、揺さぶってやる。
 律動を早め、そのまま……1番奥を求めるように。
「はぁ、はっ……ぁ、あ、っ……あっ……ん、んぁあ……!!」
 弓なりに背を反らせた途端、さらさらと髪が流れた。
 ひときわ高い、泣いているような濡れた艶のある声。
 同時に、ぐっと胎内がすべてを飲み込むかのように強く動き、強い悦が身体を走った。
「……っく……!!」
 最後に、最奥まで貫くように律動を送る。
 ……途端。
「っ! ……あぁ……っ」
「……はぁ……っ」
 ぎゅっと彼女を抱きしめたままで、自身に果てが訪れた。
「……はぁ……は、はあ……っ」
 互いに荒く息をついたまま、びくびくと締め付ける彼女自身と……自身と。
 どくどく高鳴る鼓動をそのままに抱き寄せていると、やはり顔には笑みが浮かんだ。
「……ありがと」
「え……?」

「俺の我侭、許してくれて」

「っ……」
 背中越しに、語りかける。
 ……だが、彼女はすぐに緩く首を振った。
「……私も……」
「ん……?」
「私、も……嬉しかったですよ……?」
 少しだけ、振り返るようにこちらを向いた彼女。
 その横顔にはにかんだような笑みがあって、思わず瞳が丸くなった。

 私も、わがままですね。

 小さく小さく、聞こえた言葉。
 それで、なんとも言えない気分がこみ上げてくる。
「……っ……あ」
「……ありがと」

 羽織ちゃんでよかった。

 一緒にいられて。
 愛することができて。
 ……俺のすべてを笑ってうなずいてくれて。
 彼女だけだ。
 ともに得られる喜びを、わかち合えるその人は。
 この子そのものが、俺のすべての証。
「……愛してる」
 場所も今の状況も、似つかわしくない言葉。
 だが――……。
「……私も……」
 自然と口にしたということは、まさに、それこそが本音に間違いない。
 ふたりだけでできることは、そう多くないかもしれない。
 だけど、ふたりじゃなきゃできないことも、少なくはない。
 ……だから。
「……もう少しこのままでいる?」
「っえ……!」
 抱きしめたまま耳元に囁くと、びくっと身体を震わせた。
 この反応。
 どれもこれもが、大切で愛しい。
「……それは……ちょっと」
「そう?」
「…………うん」
 少しだけ困ったように笑って首を振った彼女に、笑みが浮かんだ。

 ――……ちなみに。
 純也さんたちが戻ってきたのは、それから10分と経たないときのことだった。


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