「…ねぇ、祐恭さん」
「ん?」
いつもと同じ、ベッドの上。
そこで、彼が帰ってきた後……思い切って昼間の事を聞いてみる事にした。
「普通、嫌いな人とキスなんてしないんですよね?」
きっと、彼ならば至って平然と答えをくれるものなんだと思ってた。
――…なのに。
「…そう…だな。普通、嫌いな人とは…キスはしないよ。それがどうかした?」
一瞬視線を逸らした彼は、ベッドに座りながら小さく頷いた。
…少しだけ、困った顔を見せながら。
……え…?
あれ…。
ひょっとして、今、私……凄く聞いちゃいけない事でも聞いたのかな。
普段見せる事の無い彼のそんな表情に、思わず眉が寄る。
「…羽織ちゃん?」
「え…?」
「どうした?急にそんな事聞いて。…何かあった?」
「……あ…」
彼に名前を呼ばれて、ようやく気付いた。
…そう言えば、彼に『どうして?』って聞かれたままだったんだ。
――…でも。
「…………」
このまま、聞いていいんだろうか。
こんな事を聞いたら、彼は……もっと辛そうな顔をするんじゃないだろうか。
そんな思いが、先に立つ。
………けれど。
「…あの……」
「うん」
「……その…」
「…うん?」
ぎゅっとシーツを握ると、視線が落ちた。
…聞いてみたいのが、正直な気持ち。
それがたとえ、彼にとっては快くない事であっても。
だって、真姫ちゃんだって言ってたもん。
『嫌いな人とはキスしない』って。
……それじゃあ、どうして?って…私も思ったから。
だから、聞かなきゃいけないんだ。きっと。
「…………」
そう思うと、落ちていた視線が再び彼へ向いた。

「祐恭さんは……私の事、嫌い…じゃないんですか?」

じぃっと彼を見つめて呟く、たったそれだけの言葉。
それなのに、自分でも驚く位鼓動が早くなった。
…どきどきして、苦しい。
ただ、『嫌いじゃないの?』って聞くだけなのに……まるで好きな人に告白でもしてるみたいだ。
……すごく緊張してる。
強く力が入っている身体が、何よりもそれを物語っていた。
「…え…。祐恭さん…?」
「確か、明日も早いんだよな?今日は早く寝ようか」
「……あ…」
ふっと小さく笑った彼が、また、いつもと同じように軽い『挨拶のキス』をした。
…でも…。
「おやすみ」
「…おやすみ…なさい」
ぽんぽん、と頭を撫でた彼を、まっすぐ見る事が出来ない。
…だって私、ちゃんと答え貰ってないんだもん…。
好きか嫌いか。
たったそれだけの事なのに、でも…もしかしたら答え難い事だったんだろうか。
「…………」
こちらに背を向けた彼を見ながら、何とも言えない気持ちになる。
……ちょっと、辛い。
『どうなの?』って深追い出来れば、一体どれだけ楽な気持ちになれるだろう。
それは分かるけれど、する事なんて勿論出来ない。
…だって私は、彼にお世話になってる身。
彼無しでは、生きていけない。
………嫌われたら、困る…から。
そう思うと、また視線が落ちた。

――…その日の夜。
彼は、心なしかいつもより強く私を抱いて寝たように思えた。


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