「あ……んっ……!」
 ちゅ、と音を立ててから、首筋に当てていた唇を離す。
 相変わらずキメが細かい上に、心地よくて――……感度もイイ肌。
 ……最高。
 やっぱり、笑顔が浮かぶのは自然の摂理だな。
「……あ、せ……んせっ……」
「先生じゃないだろ?」
「……ぇ……?」
 つつっと指先で直接襟元を撫でると、ぴくっと反応を見せた彼女がだるそうに瞳を開けた。
「……ねぇ?」
「ッ……」
 少しだけ、瞳を細めてみる。
 ……そう。
 彼女がすぐに『いじわる』と困ったように呟く、あの顔を。
「あっ……!」
「……しかしかわいい服っていうか……凝ってるな」
「っ……ぅあ……」
 頭には、相変わらず『メイド』であることを主張してくれている、カチューシャ。
 そして、首と腰に結ばれている、大きめのリボン。
 ……で。
 もちろん、服のどんな場所にも、たっぷりとふりふりの真っ白なレースがあしらわれていて。
「……脱がすの大変」
「せ、先生っ!」
「だから、先生じゃないって」
「……うー……」
 キュッとリボンを引っ張ると、赤い顔をした彼女に睨まれた。
 ……いい加減、しつこいだろうか。
 いや、でもここはこのままを貫かなければいけないような気もするワケで。
 なんせ、この彼女がこんな格好をしてまで俺を迎えてくれたんだから。
「っ……んぁ……!」
「気持ちイイ」
 ふにゃん、と柔かな胸へ直に触れると、びくっと身体を震わせた彼女が、薄っすらと瞳を開いて――……なぜかものすごく不満そうに俺を見つめた。
「……え……?」
 だが、こちらとしてはそんな瞳をされる覚えはない。
 ……あれ?
 何か、気にでも障るようなことをしただろうか。
 それとも、何か言った?
 思わず瞳を丸くしたまま何度かまばたきを見せ、彼女の反応を伺う。
 ――……と。
「……えっち……」
 不意に視線を俺から逸らした彼女が、ものすごく照れた様子でぽつりと呟いた。
「…………」
「…………」
「……うん」
「っ……うなずかないでください……」
「いや、別に否定することでもないし」
 まじまじと彼女を見つめてから、沈黙を破るかのごとくしっかりとふたつ返事で肯定してやる。
 ……でも、ここで『違う』なんて言ったところで、彼女が喜んでくれるワケでもないだろ?
 だから、素直にうなずいたんだが……やっぱり、不満そうだな。
「ッ……! ぅ……ぁ、んんっ……」
「……怒ってる?」
「やっ……ちが……」
「じゃあ何?」
「ふぁ……あ、っ……ん……!」
 服を着せたままの状態で責める今。
 これは、視覚的にもものすごくいろいろかき立てられて、えらく煽られるんだが……。
 ……この格好だと、普段の倍以上な気がするのはどうしてだろうか。
 もちろん、制服だと背徳感とかその他諸々のモノが混ざって、当然ほかを圧倒する力がある……のだが。
「あぁっ……や……」
「…………」
「あ……んっ! く……ぅん……っ」
 自分の愛撫すべてによって、よがっている彼女。
 しかも、現在はメイド服を着ていて――……しかも俺は、ネクタイすら外していない、スーツ姿そのままなワケで。
「…………」
 これは……なんつーか、やっぱり……。
「……ヤバい」
 煽られ、責めたてられて。
 なぜかいつもよりずっと自分が参っていることに、今ごろ気付いた。
「あ……ぇ……?」
「……あんまり……意地悪しないでもらえる?」
「いじわる……?」
「そう」
 普段は当然ながら見かけることがない、レースのついたガーターベルト風のオーバーニー。
 それを撫でながら手のひらを這わせ、スカートの内へと忍ばせる。
 ただでさえ短い、このスカート。
 だからこそ、こうしてしまえば――……。
「っ……や……!」
 簡単に、下着が露になってしまうワケで。
「ッ……せんせ……!」
「……だから。先生じゃないって言ってるだろ……?」
 ぐっと顔を近づけて、鼻先をくっつけたまま眉を寄せる。
 ……そろそろ、わかってもらえないかな。
 俺自身、大分限界ってヤツが近づいてることに。
「…………」
「……?」
 だけど。
 当然ながら、彼女は俺の考えている内容までは把握してくれていない。
 ……まぁ、もっともそこまで見透かされたら、彼女が俺を見る目が変わること必至だろうけど。
「っ!? ん……っ……!」
「……欲しいって言ったら、なんて答える?」
「え……? ……ッあ……!」
「俺は――……どんな人間……?」
 瞳をまったく逸らさずに、淡々とそれだけを呟く。
 だが、もちろん手は休むことがない。
 ……片ときだろうとも、手離すのが惜しいって思うのは……彼女に対してだけだな。
 指先でショーツの縁をなぞるように触れていると、徐々に彼女の息遣いが荒くなってきた。
 だが、それを見て俺自身に浮かぶのは――……もちろん、笑みで。
「……参ったな」

 これじゃまるで、ホントに『主人がメイドに手を出してる』みたいじゃないか。

 ふっと自嘲気味に笑みが浮かぶ。
 だが、それを彼女はまるで不思議なモノでも見るかのように、瞳を丸くした。
「……欲しい」
「え……っ」

「……そう言ってくれない?」

「っ……な……」
 瞳を細めたまま呟くと、最後にふっと笑いが出た。
 おかしさからか、反省からか。
 いったいどんな感情ゆえに浮かんだのかまでは自分でもわからないが、これだけは言える。
 やはり、俺自身とことん我侭な主であることを望んでいるんだということだけは。
「っんん……!!」
「……っは……ごめ……」
 手のひらを腰骨から滑らせるようにしてショーツを取り払い、猛る自身を沈めてしまう。
 ……こんなはずじゃなかったんだけどな。
 一瞬眉を寄せて背を反らした彼女を見て、申し訳なさが生まれる。
 ……だけど。
「……羽織が悪い」
「っ……そん、な……っ……んん!」
「俺を――……煽りすぎだ」
「っきゃぅ!?」
 荒い息のまま身体をずらし、角度をキツくしてさらに奥まで責めたてる。
 ……もちろん、俺自身だってリスクは伴う。
 彼女がキツいってことは、当然……俺だってそうなんだから。
「……っは……」
 この格好がそうなのか、はたまた……俺自身のせいなのか。
 それは俺にも知る由はないが、彼女の感じ方がいつもと違うのは明かで。
 中を探る前に入った現在も、熱く俺を包んでくれて。
 わずかに動くだけで、ひどく濡れた淫らな音が響く。
「……スゴいな……」
「っや……ぁあっ……ん……! そ……んなっ……」
「……気持ちい……」
「く……ぅん……っ……はぁ……!」
 肘を曲げて顔を近づけると、荒い息をつきながらも、甘くて――……もっととねだるような声が耳に届いた。
 瞳を閉じたまましどけなく唇を開いている、この姿。
 ……これはまさに、俺を身体全体で感じてくれているんだとわかって好きだ。
「っあ……!!」
「……く……っそんな……締めない……ッ……」
「あ、やっ……ん……ッ……そこっ……そ、こっ……」
「ココが……っどうした……?」
「ッ!? やあぁ……っ!!」
 びくっと身体を震わせたことこそ、彼女の敏感で弱い部分を責めたという何よりの証拠。
 だから、敢えてそこだけを再び突いてやる。
 ……理由なんて、もちろんひとつしかない。

 彼女を、もっと悦ばせてやるため。

 男だったら、好きな女を愉しませてナンボだろ。
 ……とか、俺の周りにいる馬鹿なヤツらは真顔で言うんだろうな。
「…………」
 まぁ……今じゃ俺も、同類なんだろうけど。
 彼女を見ていると、自然にそう身体が動いてしまうんだから。
「……んんっ……っは……」
「く……っ……」
「あぁ……っ……も……ぉ、やぁ……」
「……気持ちいいクセに」
「だっ……けどっ……ぁん!」
 緩く首を振って懇願する彼女に、薄っすらと笑みを浮かべて見せるのだけが、せめてもの強がり。
 身体の奥深い場所からキツく締めつけられて、今にも果ててしまいそうなのが正直なところ。
 ……だけど。
 やっぱり、俺にとっての彼女という存在はとてつもなく大きくて。
 だからこそ――……。
「ッ……!? っきゃぁう……」
「……っく……は、すげ……」
「ん、んっ……ぅあっ……! せ……んせっ……や……!」
「……嫌って言っても……ホントはイイって言ってなかった……?」
「そ……っれは……! ……っく、あん……!」
 律動を早めながら、彼女の頬に手のひらを当てて視線を無理にでも合わせてやる。
 見ていてほしかった。
 ……いや。
 見たかったんだ。むしろ、俺が。
「ん、んっ……ぁ……ダメっ……」
「何が……?」
「あ……もぉっ……も……っ! い……っちゃ……!!」
 切羽詰ったような顔をして、心底つらそうに眉を寄せて。
 ……だけど、その一方でしどけなく開かれた唇からは、俺をさらに煽り立てるような甘美な言葉だけを聞かせ続けて。
「……イケナイ子だ……」
 ふっと口角が上がると同じに、当然のごとく責めやる身体の角度を変えていた。
「ああっ……!!」
「……っく……」
 律動を早めながらも、さらに奥へと突き上げてやる。
 気持ちイイ。
 彼女をただそのひとつだけの感情で、満たしてしまうためだけに。
「ん、んんっ……! せんせっ……だ……めっぇ!!」
「っ……」
 ぎゅうっとシャツを掴んだ彼女が、途端にびくびくと身体を震わせた。
 今にも泣いてしまいそうな、大きな声。
 それを聞きながら、自身の昂ぶりをすべてぶつけるかのように律動を早める。
「……っく……!」
「んんっ……!」
 果てたばかりの彼女の中で同じように時を迎えると、自然に身体が強張った。
 幾度となく締めつけられたこともあって、やけに余韻で震える身体。
 ……最高。
「…………せんせ……ん……っ」
 荒く息をついてから彼女を抱きしめ、繋がったまま――……唇を求める。
 無心に『欲しい』という欲求を叶えるかの如く。
「は……ふあ……」
「……かわいかった」
 しっかりと舌を絡めてから唇を離すと、若干惚けたような顔をして唇を結んだ。
 ……その顔。
 というか、この……彼女を抱いた直後の、というか……。
 この顔を見ていると、いつどんなときの彼女ももちろん好きなんだが、なんとなく俺だけのためにあるような気がして、堪らなく嬉しさがこみ上げる。
「っ……えっち……」
「それはさっきも答えたろ?」
「……ぅー……」
 困ったように、はにかんだように。
 少しだけ恨めしそうに見つめる彼女へ首を振って笑い、頬にかかった髪を撫でて耳にかけてやる。
 ……あー。
 やっぱ、この服は反則だな。
 この顔でそんな……甘いというか、とろけそうなというか……。
 とにかく、こんな顔をされるとものすごく困る。
 そして――……。
「っ……せんせ……?」
「……はー……。も1度欲しい……」
「えぇ!?」
「いただきます」
「なっ……ななっ……!? ないですよっ!!」
「……ち」
 ぎゅっと抱きしめてから首筋で呟くと、ぶんぶん首を振りながら、彼女が両手で俺の身体を押した。
 ……だけど。
 今の情事を物語っているかの如く、両手は力なくて。
「もぉ……笑わないでくださいよぉ……」
「いや、ごめん」
 緩く首を振りながらも、やはり当然笑みが浮かぶ。
 ……かわいい子。
 どんな服も仕草ももちろん似合うけれど――……彼女だからこそ、この格好も似合うんだよな。
 最初見たときはどうしようかとも思ったけれど、案外これで1日過ごさせてみるのも悪くないかもしれない。
「……ね」
「え?」
「いや、別に」
「……?」
 首をかしげてにこやかに微笑んでみると、瞳を丸くした彼女が『わからない』という感じに同じく首をかしげた。
 まぁいい。
 というか、ほら……ね?
 世の中には、知らなくてもいいことは割と沢山あるから。
 そういう意味をたっぷりとこめてやりながら、もう1度笑って髪を撫でておくことにした。

 ――……ちなみに。
 このメイド服の処遇がどうなったかというと……言うまでもなくて。
 コレは彼女の“私物”なんだから、我が家に保管していてもなんら問題はないみたいだし。
 ……ね。
 まぁ、さすがにコレを着てくれと彼女に頼むだけの勇気は、若干ないんだが――……しかし。
 もう1度『御主人さま』と呼ばれてみるのも、当然悪くない。
 ……そう考えているのは、正真正銘の事実だけど。


2006/2/23


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