愛している、と言って欲しくて。
だけど、言葉だけじゃ足りなくて。
『言葉だけでもダメだし、行動だけでもダメなんです。
ふたつで安心できてやっと、そうなのかなって思えるんですよ?』
ずっと昔のように思える、この言葉。
彼女が言ったこの言葉は、俺にとってとても大きなことだった。
……そして。
同時に、自分の不甲斐なさを実感した。
彼女を、俺は知らない間に不安にさせてしまっていたから。
それに気付けなかったことが、心底情けない。
「……んっ……ふ」
ずっとずっと離したくなくて、続けている口づけ。
ときおり漏れる甘い声がもっと欲しいクセに、その声すらも逃したくない。
そんな相反する我侭に左右されながらも、身体は正直で。
薄っすらと瞳を開ければ、すぐそこにある愛しい彼女の――……俺を感じている顔を見ながら、手は勝手に身体へと伸びていた。
「あ、あっ……ん!」
ソファにもたれたままで彼女を膝の上へ迎え、服の下へと手を伸ばす。
こうして下から彼女と口づけをするのは、好きだ。
瞳を閉じて懸命に応えようとする姿が、あまりにも健気で、従順で。
だからこそ、どうにかしてやりたくなる。
「っ……! ん、んっ……!!」
上着をたくし上げて露になった胸へと唇を寄せる。
それに気付いた彼女が抵抗を見せたが、そんな簡単に俺が諦めるわけもなく。
当然ながら彼女もそれはわかっているらしく、容易に俺の思うが侭になってくれた。
「あ、あっ……! あ、ん……っ……く」
胸の頂を含んだまま、手のひらを滑らせる。
彼女のすべてを掌握したい。
声だけでなく、肌も、温もりも……何もかも。
そして、確かめたかった。
俺だけを感じて、欲しがって、喜んでいることを。
「やっぁ……!!」
下着をずらして直に秘部へ触れると、途端に大きく反応した。
「せ……んせっ……あ、ん……!」
「……言い訳は、いらない。今は――……」
「っふ……あ……っ……」
「俺だけを欲しがって」
熱く潤っている秘部を指でなぞると、しっとり包まれた。
何度でも、狂わせたくなる瞬間。
表情とは裏腹に、自分が欲しくて堪らないんじゃないかと思えるくらいの、ここ。
これがあるから、自制が利かなくなるんだ。
「っひゃ……!」
腰に腕を回してさらに身体を引き寄せると、肩に置いた手に力がこもった。
いつものように、抵抗を見せるであろうことは承知済み。
だから、こうしたんだ。
「っ……ん! ん、……あぁ……っ」
舌先で胸を舐め上げながら顔を伺うと、悦の表情そのものが広がっていた。
この顔が、一番そそられるのかもしれない。
そして、この表情を見てしまうと、余計に欲が湧いてくる。
彼女をもっと翻弄して、もっと狂わせてみたいという欲が。
「……ふぁ……あっ、んんっ……せ、んせ……ぇ」
「欲しい?」
「ん、ほし……ぃ」
秘部へと指を沈めてあちこちを探りながら彼女を見ると、薄っすらと瞳と唇を開いて首を縦に振った。
やはり、この角度で彼女を見るのは悪くない。
思わず上がった口角をそのままで――……しかし、首は横に振る。
「まだ、駄目」
「なっ……あ、あっ……!」
「……もう少し我慢してよ」
「そ……んなぁっ……! ん、んんっ……ぅあっ……」
ちゅ、と彼女のあちこちに口づけながら再び胸を含んでやると、耐え切れなくなってか、身体を折って耳元に唇を寄せてきた。
熱くかかる吐息と、ダイレクトに響く甘い声。
これはこれで若干俺としては屈しそうになるのだが、そういうわけにはいかない。
もう少し、だけでいい。
彼女を愉しませるための時間ができるなら。
「あぁっ……!!」
指を増やして彼女の腰をかき抱くように腕で固定すると、首を振った。
相変わらず、感度のいい様子が表情にしっかりと表れていて、非常に心地いい。
「も、あっ……あ、あっ……先生っ……! だ、めっ……」
「駄目じゃないだろ? さっき、欲しがったクセに」
「だって……! そんな……あ、んっ……!! こん――……っ!」
ぎゅうっと首に腕をまわし、うつむいている彼女の唇を塞ぐ。
確かにこの甘い声は魅力的だし、いくらでも聞いていたい。
――……だけど。
「ん、ん……ぁふ……」
口づけの濡れた音と、時折漏れるこの押し込められた声がなんとも言えず、非常に好ましい。
やっぱり俺は我侭だから。
あれこれと、俺の思うようになって欲しいんだよ。
「ああっ、あ……!! 先生っ……せ……んせっ……!!」
中を探ったまま花芽を撫でると、ふるふる首を振りながら腕に力をこめた。
本当は、最後まで唇が欲しかった。
でもまぁ、仕方ないか。
「イキたい?」
「っ……あ、だ……ってぇ……」
「欲しがらないと、あげないよ?」
「ッ……いじわる……っ……んんっ……!」
ゆっくりと指を抜き差しすれば、音が卑猥に部屋へ響いた。
そのたびに、彼女も感じてくれているようで、指が締め付けられる。
……欲しいクセに。
正直に言わないのは、彼女の性格を考えれば仕方ないかもしれない。
だけど、たまには欲しくなる。
――……俺の前だけで、淫らになって欲しくなることも。
「ください、は?」
「んんっ……は……ぁ……くださ……っ……い」
「じゃあ、どうして欲しい?」
「やっ!? ……せんせぇ……! もぉいじわる……んっ!」
「意地悪じゃないだろ? 欲しがったのは誰?」
「……わたし……」
「ん。そういうときは、なんて言ったらいいのかな?」
動きを止めずに、まっすぐ俺を見つめてくる彼女。
潤んでいて、今にも泣いてしまいそうで。
だけど、どうしても言ってほしかった。
今の彼女ならば、俺の思う通りにしてくれる確証があった。
「………気持ちよく……して、ください……」
「ん。よくできました」
瞳を細めて薄く笑い、彼女に口づけする。
もちろん、彼女の欲しがるままに。
「ああっ……!! せんせっ……せ、んせっ……ぇ!」
「いいよ、イって」
「っ……ん、んんっ……!! は、ぁっ……あぁ……ッん、ん……っああ!!」
指の動きを早めながら耳元に唇を寄せると、ぎゅうっと抱きつきながら――……声を変えた。
と同時に締め付けられる、自分の指。
荒い吐息に交じって聞こえる泣きそうな声が堪らなくて、もっと欲しくなる。
泣かせてみたいワケじゃない。
だけど、それほどまでに彼女を追い詰めてみたくもなる。
……かわいくて愛しすぎる女だからこそ、どうしても。
「あぁっ……!」
「……っく……」
軽く身体を浮かせてから一気に這入ると、大きな声とともに身体を震わせた。
どくどくと脈打つのがわかるくらい、ぴったりと包まれた自身。
柔らかくて、心地よくて――……だけど、拒むくらいに熱くて。
「あぁっ……は……ぁん」
「……気持ちい……」
何よりも極上で、どんなものよりも絶対で。
這入ると同時に自然と瞳が閉じる。
「……気持ちいい?」
「ん……んっ……気持ち……い」
ため息にも似た吐息混じりの声は、俺という人間を滾らせるには十分すぎる要素。
愛しくて、嬉しくて堪らなくなる。
……彼女が欲しくて、どうしようもなく。
だけど俺は――……我侭でずるいヤツだから。
だから、彼女に言わせようとするんだ。
『俺が欲しい』と、そうひとことだけ。
「……羽織」
「ッ……! ……も……ずる、いですよぉ……」
「ずるい?」
「……ん、ずるいもん……」
か細い声とともに見つめられ、喉が鳴った。
俺によって得ている、すべての快感。
それをまざまざと見せつけてくれている彼女が、あまりにも綺麗だった。
「……祐恭さん……」
「っ……」
力の入らない身体であろう、彼女自身。
なのに、しっかりと頬に両手を当ててきた。
温かい――……と表現するには足りなくて、どちらかというと『熱い』と言ったほうがしっくりくる手のひら。
……誰のせいでこうなった?
答えは、最初からわかってる。
だから――……。
「んっ……ぁ!! 祐恭さっ……あぁん……!!」
「……っく! ……ずるいのはっ……どっちだ……!」
そんな、甘く愛しく名前を呼ばれたら、狂いそうになるのはこちらなのに。
……俺にどうしろと言うんだ。
カッコ悪く、みっともなく、彼女を欲しがるしかできなくなるじゃないか。
「あ、あんっ……! 祐恭さぁん……ッ! も……っ……んんっ!!」
「羽織ッ……」
「はぁっあ、あっ……ふぁ、あ、も……っもう……だめっ……ぇ!!」
「ッ……く……!」
彼女を倒すように体勢を変えて律動を早めると、たちまち大きく声を漏らした。
そして、襲い来る快感という激の波。
抗うことなく、そのまま唇を求めていた。
「ん、んっ……ん……」
こうして彼女に触れたままでいるからか、もっと欲しくなる。
果てなく、彼女を壊してしまうほどに強く。
「……愛してるよ」
「っ……!!」
瞳を合わせたままの彼女に小さく笑ってみせると、驚いたように瞳を丸くした。
髪を撫でてやりながら、頬にもう一度唇を寄せる。
――……と、唇に濡れた感触があった。
「……? どうし――っ……」
「も……ずる……ぃ」
笑っているのに、溢れている涙。
口元に手を当てて首を緩く振り、彼女がまぶたに指先を当てる。
「……な、んで」
「だっ……て……ぇ、そんな……心の準備、まだ……できてないもん」
泣かせるくらい求めるのは、好きだ。
だけどそのクセ、彼女に泣かれるとどうしようもなく罪悪感が芽生える。
「……泣かなくてもいいだろ?」
「ふぇ……だって、も……すごく、嬉しいんですもん」
まぶたに唇を寄せると、ようやく彼女が小さく笑った。
途端、ほっと身体から力が抜ける。
やっぱり、俺のすべてを握っているのは彼女自身にほかならない。
だからこそ、いつだって幸せそうに笑っていてほしいと願う。
「……よかった」
ほっとすると同時に出た、言葉。
これが、俺の本心だ。
涙せずに過ごせるよう、精一杯努力をするから。
だからどうか、これからも俺のそばにいてほしい。
そばにいて――……俺をいつまでも、欲しがって。
我侭な俺の願いは、結局はたったそれだけだ。
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