「はー……寒いー……」
11月も半ばを過ぎると、一気に寒さが厳しくなる。
……はう。
なんかもう、お布団から出るのもやなんだけど。
なんとかして、こう……すべてのものをかろうじてお布団から出ずして手が届く場所に配置するっていう手はないのかな。
「うー……」
アラームはスヌーズ設定のままだから……かれこれ当初の起床予定より20分ほど過ぎている。
ついさっきも鳴ったばかり。
今日は、水曜日。
ふつーに学校があって、ふつーにバイトもある。
だけど、なんでかなー。
ちょっとだけ喉が痛い気がして、それが余計にめんどうだなーと思った。
私、毎年冬になると必ず風邪引くんだよね。
でも、なぜかインフルエンザにはならない。
これってすごくない?
……ってまぁ、毎年毎年、ママがインフルエンザの注射代だけは出してくれるから打ってるっていうだけなんだけど。
「……ん?」
お布団をかぶり直してスマフォを弄っていたら、ふいにチャイムが響いた。
…………。
えー……出なきゃダメかな。
でも、寒いんだよね。
ていうか、冷たいの。
ううん、痛いの。
冬場のフローリングって、なんであんなに冷たくて硬くなるかなぁ。
ある意味凶器だよね。
だって、ホントに血圧急上昇するもん。
「っわ」
静かになったのをいいことにもう1度寝返りを打ったら、今度は着信音が響いた。
表示された名前は、里逸。
……う。
もしかしなくても、今の来訪者が彼だとばっちりわかる。
「もしもし?」
『いい加減起きてこい』
「うー……だって寒いんだもん」
『冬なんだから当然だろう?』
どうして冬だろうと夏だろうと、里逸は変わらないんだろう。
何ひとつとしてテンションに差がない声を聞きながら布団を抜け、もこもこスリッパを履かずにフローリングを踏んで悲鳴をあげるところだった。
「……なーに?」
スマフォを耳に当てたままドアを開けると、いかにも『これから出勤します』っていうカッコの彼が自分のスマフォをポケットへしまうところだった。
だけど、私の格好を見るなりあからさまに訝る。
「……どうしてお前はいつもそういう寒そうな格好をしてるんだ」
「あのね、カッコは寒くないの! 現に、今までもお布団の中はちょー快適だったし」
「お前……まだ布団に入ってたのか」
「なんで? だめ?」
「朝食、一緒に食べるんじゃなかったのか?」
「あ。そーじゃん! やだ、なんでもっと早く起こしてくれないの!?」
「っ……そういう問題じゃないだろう!」
外気に触れた途端、ぞわぞわっと身体が震えた。
さすがに、ルームウェアだけじゃ寒いよね。
『あったか素材』なんて書いてあったけど、あくまでも使用目的は室内。
外に出てもおっけーなんて、どこにも表示はなかった。
「うー、もぉ、寒いから早く入ってよー」
「っ……引っ張るんじゃない!」
「じゃあ、早く!」
里逸を引っ張って招きいれ、さっさとドアを閉める。
途端、刺すような寒さがやわらいだ。
あー、やっぱり室内は暖かいんだね。
外の寒さといったら、それこそ尋常じゃない。
「どうしてこの部屋はこんなに寒いんだ」
「え? そお?」
「寒いだろう。外とあまり変わらないぞ」
「んー……そうかなぁ。でもほら、今までお布団かぶってたし」
「……お前は……」
今何時だと思ってるんだ、なんて言葉を背中で聞きながら、リビングの入り口へ置いたままになっていたもこもこスリッパへダッシュし、履いてからほっとする間もなくキッチンへ。
今日の朝ごはん当番、そういえば私だっけ。
……そうそう。
だから、昨日珍しく食材買ってきたんだよね。
「暖房はつけないのか?」
「つけないよ?」
「なぜだ! 寒いんだろう?」
「えー。だって、削れるとこって、食費と暖房費くらいでしょ?」
この時期は。
ちなみに、夏場は当然クーラーなんてもの使わなかったよ。
扇風機とカキ氷タイプのアイスは、フル稼働だったような気がしないでもないけど。
「お前、風呂はきちんと入ってるのか?」
「失礼ねー。私、そんなにばっちい生活してないよ?」
む、と振り返りながら眉を寄せると、腕を組んだままリビングには行かず、すぐここに立っていた。
私と違って、すっかりばっちり着替えてこのまま鞄持ったら出勤できますみたいな格好の里逸とは違い、こちらは未だにルームウェア。
あくびしながらフライパンをコンロにかけると、火がついた途端『あったかい』なんてちょっと思ったりした。
「お風呂は、万年シャワーなんだよね。私」
「何!? 湯船につからないのか!?」
「当たり前でしょ! 溜めたらどれだけお湯使うと思ってるの!?」
卵にひびを入れた瞬間とんでもないセリフが聞こえ、危うく握りつぶすところだった。
あーー。
そういえば、前に里逸の部屋のお風呂借りたときは、2回とも湯船にお湯がしっかり張ってあったっけ。
やーだー。
これだから、金銭感覚がでっかい大人はやなのよ。
「あのね、湯船いっぱいにするには水道代とガス代がかかるんだよ!? もったいない!」
「おまっ……だから風邪を引くんだ!」
「しょーがないでしょ! 削れるの、そこくらいなんだもん!」
こほ、と小さく咳き込んで喉をさすったのが、マズかったらしい。
目を細めて睨まれ、唇を尖らせながら視線を外す。
だけど、里逸はまるで『ほらみろ』と続けんばかりの勢いで、両手を腰に当てたまま教師モードの口調をやめなかった。
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