「……まったく。あなたって子は、本当に何を考えてるのかしら」
はあ、と目の前でため息をついた彼女は、テーブルに頬杖をつくと私を見て再度瞳を細めた。
相変わらず、シャープな顔立ちはキレイで仕事ができそうで。
お休みの日でさえ“完璧なOL”の雰囲気が漂いまくっていて、ある意味すごいと思う。
「だって、有里さんとごはん食べたかったんですもん」
「あのね。だからって、何もわざわざ静岡までくることないでしょう?」
「んー。そうですか? 私、電車に乗ってあちこち行くのって、結構好きなんですけれど」
「……だからそういう問題じゃなくて……」
ふたたびため息をついた彼女に微笑み、残っていたカフェラテを飲み干す。
すると、底には砂糖が溶け残っていたらしく、最後のさいごがとても甘くてちょっとだけ元気になった。
今日は、日曜日。
――……そう。
彼女と初めて会ったあの日から、丸24時間過ぎたばかりの翌日。
私は、ふたたび静岡の地を踏んでいた。
だけど、さすがに里逸は隣にいない。
っていうか…………ぶっちゃけ、断ったんだよね。
ううん。それは正確じゃないか。
実際には、私がここで彼女と会っていることを、何ひとつ知らないから。
『ちょっと出かけてくるね』としか言わず、朝早くに冬瀬を発って2時間ちょっとで着いた静岡駅。
途中から、電車内のおしゃべりが静岡そのものの喋りに移行したのを聞いて、無性にわくわくした。
ちょっとした旅行気分を味わえるから、電車でどこかに行くのは結構好きだったりして。
……あ。
ちなみにこの旅費には、昨日の帰り際にお母さまから付き返された、例の3万円をそのまま転用した。
ティッシュにくるまれていたので、最初は何がなんだかよくわからなかったんだよね。
でも、ポケットに入れたままで帰宅して、お風呂に入るときになって思い出して広げたら、まぁびっくりよ。
中から出てきた、3人の諭吉さん。
ご丁寧にメモ用紙も入っていて、そこにはひとこと『ご苦労さま』と見知らぬ字が書かれていて、ついつい笑ってしまった。
あのお母さまが、いったいどんな想いでこれを書いて包んだのかと思うと、それだけで『やった』って気分になる。
……ま、里逸にはどれもこれも言えないけれどね。
まるで、おばーちゃんに内緒のお小遣いをもらったような気分すぎて、お年玉みたいに折り皺のついた1万円札をお財布へ戻しながら、何度も思い出し笑いをしてしまった。
「……本当に、最近の若い子は考え方が飛びすぎてて理解しがたいわ」
「あー、多分飛んでるのって私くらいなものだと思いますから、“若い子”をひとくくりにしないでくださいね」
立ち上がって伝票を手にした彼女の隣へ並び、一緒にお店を出る。
駅に着いてすぐ連絡をしたら、有里さんは20分もかからないでここまで来てくれた。
『何を考えてるの!?』とか『賢いのかなんだかわからないわね』とかいろいろ言われたけれど、にこにこしたまま『だってー』とだけ言っていたら、ため息をついてから小さく笑ってくれたんだよね。
そのあたり、里逸とは違う。
……あ、ううん。似てるのかな。
“困ったちゃんを見捨てられない”あたりは、まさに姉弟共通みたいだ。
「それにしても、相変わらず若いわね」
「え? どこがですか?」
「そうやって足を出してるところが、よ」
見ると、有里さんは今日もストレートのパンツを穿いていた。
ヒールの高いワインレッドのパンプスによく映える明るいコーデュロイの生地が、少しだけ丈の長いカットソーをまとわりつかせる。
「有里さんだって若いじゃないですか」
「……それは嫌味にしか聞こえないわね。里逸といくつ違うと思ってるのかしら」
「え、たった2歳でしょ?」
「この年になると、2歳の差は大きいの」
ため息まじりに呟いた彼女の横顔は、なぜか少しだけ寂しそうに見えた。
……気のせい、じゃないとは思うけど、さすがにまだそこはつっこめない。
市営の有料駐車場までついていきながらも、結局はそこまで会話がはかどることはなかった。
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