「でも、これができる人って――」
「試してみる?」
「……え……?」
ニヤ、といたずらっぽく笑うと、頬を染めてぶんぶんと首を振った。
まぁ、彼女の場合はキスだけで十分反応を見せてくれるから、今するまでもないんだけど。
「まぁ、試すまでもないか。知ってるもんね?」
「っ……もぅ」
髪を撫でてやりながら頬に口づけをすると、小さく笑った。
この反応も、表情も、やっぱりかわいくて。
……ああ。
相当俺はこの子に弱いんだな、と実感する。
「そろそろ寝ようか。風も強くなってきたみたいだし」
ふとリビングのカーテンを見ると、先ほどまでとは打って変わってものすごくはためいていた。
台風の中心からかなり離れているはずなのに、これだけの風が出てくるとは。
……新幹線……。
本当に大丈夫だろうか。
リビングの窓を閉めて寝室に入ると、彼女もリビングの明かりを消してからすぐあとに来ていた。
「……窓閉めたのに……。すごい音」
窓に隙間はないのだが、風が叩きつけるものすごい音が部屋の中に響いていた。
間接照明に照らされた彼女の顔は、やはり不安げで。
隣に座って抱き寄せてやると、すんなり身体を預けてくれた。
髪を撫でながら、ふと目を閉じる。
「……置いていきたくないね」
「え……?」
ぽつりと漏らした呟きに、彼女も顔を上げた。
そんな彼女に、笑ってから続ける。
ここで、俺が同じような顔を見せたら、彼女は何を頼ればいい。
やらなければいけないことだけに、先延ばしにすることはできない。
だったら、きちんと自分ができることをするだけ。
当然それは、彼女に関してのことのほうが大きい。
「台風からまだ離れてるのに、これだけの威力だし。明日の夜になったらもっと近づくワケで。ひとりで留守番させておくのは心配。……心配よりも、やっぱり不安かな」
「……先生」
「こんなときに家空けることになって、本当にごめん」
「そんな!」
「……しかも、やっとこうしてふたりきりで、すごせるようになったばかりだったのに」
髪を撫でながら目を合わせて笑うと、慌てたように彼女が首を振った。
「だって、お仕事なんですもん、先生が謝ることじゃないですよ? それに、悪いのは台風なんだから! ね? ……だから……そんな顔しないでください」
眉を寄せて、寂しげな顔を見せた彼女。
寂しいし、行ってほしくない。
そう言っている気さえする。
独りよがりといわれれば、そうかもしれない。
だが、やはり自分と同じように彼女も寂しいと感じてくれている。
そう思うから、より一層彼女を離したくないんだよな。
彼女の頬を両手で包み込むように触れると、瞳を合わせてくれた。
「……ありがとう」
ふっと微笑んでから、彼女のパジャマに目をやる。
昨日はこうして、そばでまじまじと見ることはできなかったのだが、実際にすぐ近くで目にしてみると――……やはり結構そそられる部分がある。
普段見えないところが見え、普段は見えるところが隠れている。
それだけで、なんとも不思議な魅力だ。
「……やっぱり、いいね。かわいい」
「もぅ。先生だって、同じパジャマなんですよ?」
「それはそうだけど。……でも、着る人によるよ」
すっ、と首筋に手を滑らせると、彼女が目を閉じてぴくっと反応を見せた。
耐えているような、待っているような。
そんな表情で、手がどう進むかを待っているようにも見えた。
手をそのままにして、眼鏡をベッドの棚に置いてから――……ボタンに触れる。
「っ……先生……」
「脱がすのはもったいない気がするけど。でも、手を出さないのは、もっともったいなくて」
耳元で囁いてやりながら続けると、抵抗を示さなかった。
困ったように揺れる瞳に誘われるまま、口づけを落とす。
「ん……っ」
柔らかい唇を、味わうように舌で弄る。
それだけで、彼女は鋭く反応を見せた。
そのまま舌を進ませると、あっさりと迎え入れてくれる。
……こうして、何度彼女と口づけをしただろうか。
最初は応えるのに精一杯といった感じだったが、今ではずいぶんとイイ反応を返すようになった。
……これも俺のせいか。
なんて考えると、ゆるぎない支配感が自身を満たす。
唇を1度離して彼女を見れば、ふっと瞳が合う。
うっすらと唇を開いて見上げる彼女は、やはりいつ見てもイイ。
「……うまいでしょ? キス」
「っ……もぅ」
さっきの続きとばかりに言ってやると、困ったように眉を寄せた。
彼女の頬に手をやって微笑んだまま、左手でボタンを外していく。
露わになっていく、彼女の素肌。
それらが目に入るたび、自制心が徐々に弱くなっていく。
両手をパジャマの下から肩に乗せ、そのままするりと上着を脱がすと、彼女が緩く首を振った。
「っ……恥ずかしい、です……まだ明かりが……」
「このくらいなきゃ、ちゃんと見えないでしょ? ……きれいなんだから、自信持っていいと思うけど」
「で、でも……」
きゅっと腕を曲げてぎりぎり胸を隠す姿は、見えそうで見えなくて……ゾクリとした感じが背中を駆けた。
肩を掴んだまま彼女に近づき、腕の下に手を滑らせて背中を支える。
もう片方の手で髪を撫でながら後頭部に回し、その白い首筋に舌を這わせることにした。
「! あっ……ん……っ!」
力が抜けた彼女を、そのままベッドに倒す。
さらりと広がった髪が、彼女が動くたびに細かく揺れ、間接照明のオレンジの光を受けてなんともいえない色っぽさがあった。
目の端でそれを捕らえながら、ゆっくりと舌をずらす。
「んっ! ……あ……はあっ、ん」
鎖骨を辿って胸の間に唇を落としてから、優しく胸を愛撫し始める。
すると、彼女が甘い声を漏らした。
「! ふ……ぁっ、んんっ」
途端にびくりと反応を見せたかと思うと、声が変わった。
より色っぽい声に、思わず喉が鳴る。
「んぁっ! や……っ、はぁんっ」
舌で胸の輪郭をなぞってから先端を含み、何度か舐めるようにしてほぐしてやると、形良く先を尖らせた。
濡れたそこを指で触れれば、一層彼女の表情が険しくなる。
「はぁ……んんっ! ……せんせっ……」
苦しげに漏れた、自分を呼ぶ声。
なんともイイ声で誘ってくれる。
「……何?」
手はそのままで唇を耳元に寄せてやると、くすぐったそうに身をよじった。
「んっ……な……んかっ、先生ばっかり……ずるい」
「……ずるい? どうして?」
すると、濡れた瞳を向けて視線を合わせてきた。
「……だって、ぁっ……もぅ……先生の声だって、聞きたい、のに」
予想外の発言。
まさか、そんなことを言われるとは。
……俺の声。
声なんて出したかな。
そんなことを考えていると、不意に彼女がパジャマのボタンに手をかけた。
「え……羽織ちゃん?」
苦しげに息をつきながら、ひとつひとつ両手で丁寧に外していく彼女の大胆な行動に、目を見張る。
すべて外し終えてから、彼女はそっと首へ腕を回して抱きついてきた。
肌に彼女の滑らかな感触と温もりを感じて、こちらも腕が回る。
「……ずいぶん、大胆だな」
ふっと笑って彼女に呟くと、頬を染めながら唇を寄せてきた。
「え……」
目が丸くなると同時に、彼女の唇が首筋に触れる。
「……っ」
子猫のような小さな舌が首筋を這い、その感触に思わず目が閉じた。
恥ずかしがりながらも、一生懸命に舌を這わせるその姿。
……これは、なんともいえないものだ。
風の音が響く中、彼女がそっと唇を落とす音が響く。
だからこそ、ゆっくりと彼女をほぐしてやる余裕がなくなった。
「っ!? え、先生っ……!」
「……まったく……イケナイ子だ」
ぐいっと彼女をベッドに倒し、そのまま唇を塞ぐ。
「んっ! ……ん……っ」
貪るような、口づけ。
いつもの自分ならば絶対にしていないと思う。
……だが。
今すぐにでも、彼女が欲しかった。
どうしても。
……どうしても、だ。
「あぁっ……ん、んっ……!」
一瞬の隙も、自分以外のことを考える余裕も、与えたくなかった。
首筋に舌を這わせ、違うほうの胸の先へ辿りついてから、もう片方を揉みしだく。
それだけで彼女は反応を大きく見せ、一生懸命何かに耐えているように見えた。
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