「…………」
しばらくそうやって髪を撫でていたのだが、つい手は下へと向かう。
首筋を撫でてから、パジャマのボタンへ。
「……先生……」
返事をせずボタンを外していくとすぐ彼女の肌が露わになった。
しとやかで滑らかな肌。
触れればさらにキメ細かいことが実感できて、相変わらずイイ。
「……なんか……」
「え……?」
「優しく抱きたい気分」
「っ……」
ちゅ、と音を立てて首筋に唇を寄せると、ぴくんと反応した彼女が小さく声を漏らした。
いつもより素直な彼女。
そのせいか、どうしても衝動がくるわけで……。
否定をしないのをいいことに、撫でるようにして胸に手を這わせる。
「……ん」
暖かい部屋に漏れる、彼女の声。
いつもより響かず耳に届くせいか、さらに刺激される。
……今夜は、意地悪せずに普通に抱いてやりたかった。
自分だけを感じるように。
愛されていると実感できるように。
そして――……今の自分を、誰より幸せだと感じてほしかった。
俺の彼女として、こんなにも愛されているんだと刻んでもらいたいというのは、単なる俺の我侭かもしれないが。
「……あ……んっ」
柔らかく揉んでやりながら舌を這わせると、相変わらずいい声を漏らす。
ゆっくりと焦らすようにして頂を含めば、ひときわいい声で反応を示した。
「……っ……ん……ぁ」
髪を撫でてから、首筋を通って胸へ。
優しく揉んでから指先で先を弄ると、うっすらと開かれた唇から声が漏れる。
「ん……」
紅い跡を残してから彼女の唇を舐めれば、柔らかい濡れた感触についつい激しく求めたくなる。
唇を開かせて舌を入れると、熱く潤った舌に迎えられた。
先ほどの言葉が威力を発揮しているのか、彼女も待っていたのではないかとさえ思える。
「は……ぁ」
丹念に口づけをしてから顔を離すと、いつになく溶けてしまいそうな表情があった。
それこそ、初めてキスをしたときのような……そんな初々しさがある。
……あのときは、へたにキスなんてするもんじゃないと思った。
それほど、彼女を抱きたい衝動に駆られた。
初めて与えられた快感で見せた、あの表情。
かわいいながらも、艶めいていて……やけに色っぽくて。
きっと、一生忘れることはないだろう、あの顔。
……まぁ、あれからもっとイイ顔見るようにもなったけど。
「ん……っ」
ちゅ、と唇を合わせるだけの口づけをして、胸に手を当てたままズボンをショーツごと脱がせる。
すでに満ちていたお陰か、うっすらとした照明の光を受けて、細く引いた糸が目に入る。
思わず小さく笑ってから指を往復させると、ぬるりとした感触が指に伝わった。
「……っふ……ぁ」
ひだをなぞるように指で弄ると、くちゅっと小さな音が何度も響く。
そのたびに快感にさいなまれるイイ表情を見せ、さらに蜜の量を増やす。
「……はぁっ……もぅ、ん」
「まだ触ってないよ?」
おかしいな。『優しくする』と自分で誓ったはずなのに、意地悪な面が顔を出す。
……仕方ないか。
これはもう、性分というか、彼女に対してのクセみたいなものなんだ。
苦笑しながら茂みを探り舌を這わせると、彼女の声がひときわ高くなった。
「ひぁぅっ……!」
ぴくんと身体を震わせ、俺の腕に手を絡める。
ときおり切なそうに手が握られ、果ててしまうのを耐えるかのように力がこもった。
わざと焦らすように舐め、軽く唇で挟む。
そのたびにじわじわと蕾の大きさを増し、感じていることを身体は正直に教えてくれる。
「んっ、ん……ぁ」
優しく抱く。
……といったものの、やはり彼女を求める衝動がそれほど簡単に大人しいままでいられるはずもなく。
早く這入りたい。
彼女を狂わせる快感を、今すぐ与えてやりたくてたまらない。
蜜を舌ですくい、花芽を潤す。
唾液と混ざったそれによって、彼女が切なげに眉を寄せた。
「っ……あぁっ……も……んっ」
高みが近づいているのを感じて膝を折ってやると、秘部が目に入った。
……やらしいな。
って、俺のせいだけど。
「やっ……せんせぇ」
「……かわいいよ……すごく」
「恥ずかしい……んんっ!」
頬を染めて軽く首を振った彼女を見ながら花芽を甘噛みすると、びくんと足を震わせて手に力を込めた。
イク。
彼女のセリフの続きがそうであるような気がして、口角が上がる。
「あっ、あ……っ……ん! く……ぅっ」
きゅう、と喉が締め付けられて高い声が聞こえた、その途端。
彼女が、足をがくがくと震わせた。
……あと少し。
舌で舐め上げるように花芽をしゃぶる。
「ん、んっ! ……あ、もっ……あぁ、やぁっ……あ!」
大きく背中を反らせて達した彼女が、力の入らない身体を快感の波に震わせた。
蜜がじわりと広がり、鼻先をくすぐる。
舌先で蜜をすくってから胸の頂を舐めると、鋭く反応を見せた。
「ぁっ、ん……っ!」
形よくしこらせたそこを含み、再度柔らかくなってから尖った先端。
同じようにして逆も含めば、いい声をあげて首に腕を回す。
「……祐恭さぁん……」
「っ……何?」
今にも泣きそうな声で名前を呼ばれ、胸の奥が刺激される。
こういうときの彼女に名前を呼ばれるのは、好きだ。
誰によって快感を与えられているのか、誰に今抱かれているのか……そして、誰を今求めているのか。
名前を呼ばれることによってそれが表されているような気がして、自然に笑みが漏れる。
「……ちょうだい……」
「…………ん」
からかいたくなるのを抑えながら頬に手を当て、唇に軽く口づけてからベッドの棚に手を伸ばす。
……あー。そろそろ在庫が。
今度買い物に行ったときにでも、一緒に買うか。
生活必需品、だしね。
……はたして、そんなことを彼女につげたら、いったいどんな顔をしてくれるだろうか。
想像することがおかしくて、楽しいなんて……言ったら、やっぱり怒られるかもな。
封を切って自身にあてがうと、オレンジの間接照明の光を受けている目と視線が合った。
待ってることがわかる眼差し。
……その顔、俺にどう見えてるかわかるか?
その顔をさせてるのは俺で、君が欲しがってるのも俺で。
非常に快感。
……根っからのSかもな、俺は。
頭のすみでひとり満足に浸りながら、自身を秘部にあてがって――……一気に這入る。
「んっ……」
すでに熱くてとろけてしまいそうな彼女の中は、下手に動けば先に達してしまいそうになる。
……相変わらず、何よりも酔わされるな。
酔いは冷めているようだがアルコールを摂ったせいか、いつもよりも熱く柔らかく自身を包んでくれている気がする。
……だからこそ、ヤバいんだ。
小さく息をついてから彼女を抱きしめ、耳を甘噛みしながら動き始める。
「はぁっ……ん」
耳元で聞こえる彼女の喘ぎ。
吐息がかかるたび途切れそうになる意識を奮わせ、敏感な場所を擦り上げるように動く。
すると、首に回された両腕に力がこもって、吐息が荒く耳に届いた。
「あぁっ……また……ぁ」
「……気持ちいい……?」
「……ぅんっ……すごく……っ」
うっとりとした声で囁かれることほど、口角が上がることはない。
「……いい反応するじゃないか」
たまらず本音が漏れるが、そう呟いた自身の声も掠れていた。
律動を早めれば、息も上がる。
それでも、彼女の声が変わるということは悦の大きさも増しているということで。
……もっと奥まで。
最奥をもとめて律動を送ると、彼女のナカも震える。
「っぁあっ……ん! やっ……はぁっ、ん!」
「……っく……羽織……」
「あ、あ、もぅっ……すご……いっ……んっ、あぁんっ!!」
彼女の首筋に舌を這わせると、ぞくぞくと身体を震わせながら自身を締め付けた。
幾度となく襲う、強烈な締め付け。
……イキそう。
大きく息を吐いて彼女が落ち着くのを待っていると、たまらずそんなセリフが漏れそうだった。
優しく抱くとは言った。
だが――……。
「えっ……?」
「……誰も1回で済むなんて言ってないだろ」
「なっ……!? そんなっ……!」
にやっと笑ってから彼女を抱き起こし、まだ果てていない自身を埋めたまま体勢を変える。
「あ、っ……やぁ……!」
「ヤダとか言わない。……イイ顔が見たいんだよ」
にっこり笑って向き合うように腰を抱き、そのまま唇を合わせる。
と同時に、ゆるゆると動き始めると、果てたばかりの彼女の身体はいつも以上に素直な反応を見せた。
「あ、あっ……や……ぁ、だめっ……」
「……だめじゃないだろ?」
「っ……や……はぁ、も……おかしくな、っちゃ……」
くぐもって響く、彼女の声。
まだ余韻が残っているらしく、胎内が軽くひくつく。
眉を寄せ、与えられる快感に耐える彼女の顔。
それは、いつものかわいらしく純粋さのある顔ではなく、こちらを狂わせるほどの悦を帯びた女の顔だった。
「はっ……はぁっ……んっ!」
「……羽織……」
「んっ……祐恭さん……好きっ……」
「俺も好きだ」
「あっ……んん!」
自身の果てが近いのを感じて彼女を抱きしめ、そのまま奥まで突いてやる。
ぎゅっと力がこもった腕で彼女の果ても近いことがわかったからこそ、揺さぶるように……そして、狂ってしまうほどに、もっと強く。もっと悦を。
「あ、っ……やぁぁあ……っ!」
「……っく……」
「もぅっ……ダメ、いっ……ちゃう!」
搾り出すように彼女がひときわ高い声をあげたかと思うと、同時にぎゅうっと締め付けが襲った。
「っ……!」
強烈な快感にこちらも果て、力なくもたれてきた彼女を抱きとめる。
荒い息遣いのまま唇を塞ぐと、柔らかく彼女も応える。
「は……ぁ」
自身を落ち着かせるように味わってから、ゆっくりと唇を離す。
……相変わらず、いいな。
と思っていたらすぐに、柔らかく屈託のない笑みを浮かべた。
「……何、かわいい顔して」
「! そんなこ――」
「俺以外にそんな顔見せたら、許さないからな」
「っ……」
自然に細まった、瞳。
途端、彼女はおかしそうに笑った。
「……もぅ。先生にしか見せないもん」
「ん。よろしい」
にっと笑って髪を撫でると、くすぐったそうに笑みを浮かべてくれる相変わらずの彼女。
やはり、俺にとって彼女はかけがえのない存在だ。
「……スズランの幸せが、もう戻ってきたろ?」
ちゅ、と頬に口付けて笑うと、一瞬瞳を丸くしてから――……うなずいた。
「効果覿面ですね」
「ま、俺のおかげだろうけど」
「うん」
……なんでそんなに素直になるかな。
いつもだったら『先生ってば』なんて言いながら笑うところなのに、こんなふうにされたら俺はどうすればいい。
もしかして、試されてる?
それとも、彼女なりの新しい作戦とか。
すんなりとうなずいた彼女の頬に手を当て、むにむにとつまんでから瞳を合わせる。
すると、眉を寄せて唇を軽く尖らせた。
「……もぅ。私はおもちゃじゃないです」
「さっき人で遊んだお返し。……けど、誰もおもちゃになんてしてないだろ?」
「それは……」
「うまそうな餅みたい」
「……お餅じゃないもん」
「だから、“みたい”って付けた」
再度頬へ口付けてから耳元で笑うと、くすぐったそうに笑みを浮かべた。
こういうなんとも言えないやり取りは、結構楽しい。
「……それじゃ、期末がんばってね」
「…………善処します」
「善処じゃダメだろ?」
「……だってぇ……」
「点数取れなかったら、いろいろしてあげるから」
「んっ……なにを?」
ようやく彼女から離れて背を向けると、一瞬イイ顔をしてから、だるそうにベッドへ座った。
そんな彼女にニヤりと笑いながらも『内緒』とだけ告げる。
肩に手を当てて顔を覗きこまれたが、それ以上はまだ言わないよ?
「……何するんですか?」
「何もされないように、いい点取りなさい」
「……もぅ……」
「学生の本分は勉強だよ?」
「…………だって、勉強する時間くれないんだもん……」
「やってるだろ? ……男についてとか」
「なっ……!」
「あー、男についてじゃないな。俺について、か」
あっさり言ってパジャマを羽織ってから、布団を引き寄せた彼女をそのまま倒す。
ベッドに広がる、さらさらとした指どおりのいい髪。
……これもすべて、俺のモノ。
「っ! せ、んせっ……」
「ほら。そんな格好してると風邪引くだろ。もう寝るよ」
「ま、まだ、服着てないんですっ!」
「大丈夫だって、俺があっためてあげるから」
「いいですっ! ちゃんと、パジャマ――」
「はい、おやすみ」
「んーっ!」
もぞもぞと腕から逃れようとする彼女をしっかり掴んで肩まで布団をかぶせてやると、眉を寄せたまま俺を見上げた。
にっこりと笑みを見せてから額に軽くキスをし、照明を落とす。
「……もぅ」
「おやすみ」
まだ何か文句を言いそうだったが、ぎゅっと手に力を入れてやるとそれ以上は何も言わなかった。
……相変わらず、聞きワケがいいな。
まぁ、これも俺の教育の賜物ってやつか。
「………………」
……それにしても、だ。
まさか、学生時代に彼女と会っていたなんて。
しかも、ひとめぼれとか…………運命、なのかもな。
“愛くるしい”なんて言葉、本でしか使われないものだと思っていたのに、俺にとっての彼女はまさにそれで。
かわいすぎて、愛しすぎて、苦しいほど。
腕の中で目を閉じる彼女を見つめて小さく笑うと、いつしか自分もまぶたが下りた。
彼女がこれまで、どんな男を好きになったかはわからない。
だが――……今、自分に酔わされ、自分しか見ていないのは今の彼女。
過去にどんな男をも見送ってきたのは、こうして俺に会うためだったんだろう。
たくさんのつらい恋を乗り越え、そのたびに人に優しさを与えてきたから、今の彼女が存在している。
そのことは誇りに思っていいことだし、もっと胸を張るべきだろう。
だが、それを表に出さないのが彼女という人間。
……彼女は、多くのことから強さを学び、つらかった傷を隠してでも、他人を癒そうとしてくれる最高の慈愛の女神、というところか。
だからこそ、今度は俺が彼女にとっての信じられる存在になりたいと強く思う。
もっと、彼女が弱くなれるように。
もっと、彼女が安心して誰かに微笑を見せられるように。
……愛しいからこそ、強く、強く。
そう願うことは、許されるだろう。
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