いつものことだけど。
彼と身体を重ねる前って、なんか、独特の雰囲気だなぁ……なんて考えちゃう。
彼のことは大好きだし、こうしてくれるのは嬉しい。
だけど、やっぱり恥ずかしい思いもまだ残っているわけで。
「っ……ん」
つい漏れてしまう声も、彼を求めて伸ばす腕も、なんだか自分らしくなくて淫らに思える。
だけど……やっぱり、それほどに彼のことが好きで。
彼ならば、いいかなぁと思うから仕方ない。
自分だけを見てくれている、ただひとりの人。
とても愛しくてステキな言葉に表せるだけの語録はないけれど、いつもそばにいてほしいし、そばにいさせてほしい。
ほかの誰よりも彼を好きでいる自信があるし……何よりも――。
「……羽織」
「っ……」
こうして、彼が愛しげに呼んでくれる名前。
それが自分の物であるとことを、何よりも誇りに思う。
彼に愛されていること。
彼に許されていること。
……彼に認めてもらえていること。
そのどれもが、私にとっての力になっていることを彼は知っているだろうか。
ときおり、意地悪な面が見え隠れする、彼。
けど、やっぱり好きな人だし……それに、いつもいつも意地悪なわけじゃなくて。
だから、彼に反対するようなつもりは何ひとつない。
――……そう、今でももちろん思っている。
……だけど。
だけど私は……彼に対して抵抗したときもあった。
いつも優しくて、私のことを考えてくれていて……見透かされているのに。
私が、彼のことを何もわかってあげられなかったとき。
私のせいで彼が苦しんでいるのに、それに気付かず……普段どおりに振舞ったとき。
彼らしくないキス。
彼らしくない言葉。
それが、怖い……というよりは、どうしていいのかわからなくて、抵抗を見せたこともあった。
だけど、それでも彼は許してくれて。
私は、どれだけ自分が幸せ者なのかを、まじまじと実感させられた。
そのたびに、彼に対する思いも信頼もより一層強くなって。
きっと、彼がいなくなってしまったら、私も消えてしまうに違いない。
「ん……っ……ん」
この人のために生きたいと、この年で初めて願った。
いつまでも彼があるように。
いつまでも彼に向いていてもらえるように。
願わくば……彼が愛しげに呼んでくれる名前が、いつまでも私であるように。
「……は、ぁ」
唇が離れると、どうしても彼を求める。
腕を伸ばせばすぐそこにいることはわかっているけれど……やっぱり、離されるのが惜しく感じるから。
「っ……ふぁ」
柔らかい唇が首筋を滑り、胸元へと届く。
そのたびに背中が粟立ち、ぞくっとした快感が生まれる。
大きな手で撫でるように身体のラインをなぞっている……かと思うと、柔らかく胸にあてがわれていて。
なんだか、魔法の手みたいに思えてくるから、不思議。
「あっん……! ん……」
舌で胸の頂を撫でられ、たまらず声が漏れる。
身体から力が抜け、より与えられる快感に身を委ねてしまう。
それが淫らでいやらしいと思うけれど、どうしても……もっと欲しいという欲求も生まれてくるわけで。
ついつい、彼の首に両腕を回してしまう。
……これ、クセだよね。
とっくに上半身は裸になってしまっている……のにも関わらず、首にはあのリボン。
動くたびに少し冷たい感触が胸元を撫で、それすらも快感に思えてくる。
「……せんせぇ……」
「何?」
「リボン……もう、いいでしょ? 外しても……」
「駄目」
「っ……だって、なんか……やらしぃ」
「そう思うからやらしいんだろ? 気にしなければ平気だって」
「平気じゃないから言っ――んっ!」
言い終わる前に、いきなりお腹をぱくっとくわえられた。
「くっ!! くすぐった……ぃ!」
「……ふぅん?」
あ。
しまった……!
「やぁっ……! 先生! やだっ、くすぐったい!! あはは、やだーーっ」
しっかりと身体を両腕で押さえ込まれたまま、わき腹から下腹部にかけて彼が舌を這わせた。
快感というよりも、くすぐったさのほうが先に立ち、ついつい声があがる。
「やーーっ! くすぐったいー!!」
「ほら、じっとしてる!」
「やだっ! やめっ……! あはははっ」
やっとのことで彼から逃れると、半うつ伏せな格好になった。
「……はぁ……苦しかった……」
ぜーぜーと呼吸を整えながら彼に背を向け、大きくため息をつく。
――……と。
すぐに、ひたっと手のひらを背中に這わせてきた。
「っ……くすぐったい……」
「もう平気だろ?」
「……平気じゃないもん」
ふるふると首を振って両腕を抱くようにすると、そのままの格好で抱きしめられる。
ぎゅっと身体に感じる、力強い腕。
……それが、どうしようもなく嬉しくてたまらない。
「っ……」
だけど、格好が格好だからこそ、当然のように吐息がかかるよう首筋に唇を寄せてきた。
「……! っ……ぁっや……っくぅ……」
ちゅ、と小さく音がしたかと思うと、舌でうなじから首筋にかけて舌で撫でられる。
ちょうど、自分が弱い場所。
すでに彼は知っているからこそ、好都合とも呼べる格好だったのかもしれない。
「……何? わざと?」
「ちがぁっ……ん……!」
囁かれるたびに、息がかかってぞくぞくと悦が身体を走る。
「やぁっ……あ……!?」
首筋を責められて身をよじると、舐められたままで、さっさとスカートを下着ごと脱がされてしまった。
…うぅ。
有無を言わさず、とはこのことだ。
「……っ……ん……ん!」
ちゅく、と小さく音を響かせて彼が指を這わせると、そのまま往復させるように進めていく。
そのたびにやらしく濡れた音が響き、思わず瞳を閉じた。
「……ずっと待ってた?」
「だっ……てぇ……」
「ホントに、イケナイ子だな……」
「先生がっ、ん……! や……はぁっ……ん!」
きゅっと指先でつまむように花芽を弄られ、たまらず声があがる。
わかっている彼だからこそ、そんな声をあげたって許してくれるはずがなく。
ゆるゆると円を描くように責められ、昂ぶりが近づいてきた。
「っや……あっ、ん! もぅ……っ……やぁ……」
荒い息を吐きながら呟くと、動きを止めてそのまま中へと指を進める。
いとも容易く受け入れる、自分の身体。
……我ながら、やらしぃ。
「んっ……! あぁんっ……!」
親指で花芽を弄られると同時に、中の弱い部分を突かれる。
どうしてこんなに自分の弱い場所を知り得ているんだろう。
毎回そう不思議に思うものの、こうして愛されている最中は……そんなことを考えるだけの余裕がいわけで。
「んっんっ……! やっ、だめっ……せんせぇっ……!!」
きゅっとシーツを掴んで耐えるものの、そんな簡単に逃れられる波ではない。
「あっ、やぁっ……! ん……っんん!!」
途端に、びくびくと全身に悦が走り、そのまま翻弄されてしまった。
自由にならない身体。
やらしく彼の指を含んだままで果てると、そっと彼が指を抜いた。
つ……と腕を伝って、そのまま胸へ。
濡れた指先で撫でるように胸の先をなぞられ、身体が跳ねる。
「っん……! やっ……ぁん……だ、めぇ」
「……ダメ? ……こんなにしておいて?」
「いじわる……」
「まぁね」
最近は、こんなふうに抗議の顔をしてみても、あっさりと笑みで返されてしまう。
なんだか、それが余裕溢れていて……ちょっと悔しい。
「あ……」
仰向けに寝かされると、顔のすぐ前で、彼がわざと指を舐め上げた。
しかも、視線をばっちり合わせたままで。
…………うぅ。
ものすごく、やらしい。
なんていうか、その……指っていうか……だって、先生の舌がやらしいんだもん!
「……うー」
眉を寄せて彼を見ていると、人差し指で唇をなぞられた。
「……えっち」
「誰かさんがこんなに濡らすからだろ?」
「それはっ……! もぉ……先生が……」
「そうやって、全部を全部俺のせいにしないように」
「ん……っ!」
瞳を細めた彼が、指をそのまま口内へと挿し入れた。
広がる、香り。
……うぅ……やらしい。
満足げに私を見下ろしながら指を舌に絡められ、つい返してしまう。
「……っ……ん」
まるで、キスをされているような……そんな妙な感覚。
「は……ん……?」
瞳を閉じてそのまま含んでいたら、不意に、すっと抜き取られた。
――……と同時に。
「っ……!」
いきなり、彼の唇で塞がれた。
……やっぱり……前言撤回。
彼のキスのほうが……ずっと上。
指とは、当り前だけど全然違う。
これだけで、すごく酔っちゃう。
「ん……ん……」
奥まで舌で舐め上げられ、応えるように自分も絡める。
……気持ちいい。
いつもそうだけど、彼がしてくれるキスはすごい。
快感なんだと思う。
これだけで、十分身体が反応してしまうから。
「……は……ぁ」
唇が離されると同時に、息を大きく吐いていた。
……そして、そのままうっすらと瞳を開く。
「んな顔して……」
「……だって」
「かわいい」
「っ……かわいくないもんっ」
「そうやって否定するから、かわいいんだよ」
瞳を細めたままニヤっと笑い、首筋に唇を寄せ――……ると、耳元で小さく音がした。
「……?」
ふとそちらに顔を向けてみる。
「やっぱ、邪魔」
すると、唇でリボンを解いている彼の姿があった。
「っ……」
艶っぽい表情でリボンを身体に落とし、顔を覗き込むように瞳を向けられる。
……そんな、ずるい。
先生のほうが……っ……えっちな顔なのに。
「あ……やぁ!」
舐めるように首筋を優しく責められ、そっと吸われる。
……首に付けられたら、見えるのに……。
でも、そう思うけれど否定しないあたり、自分もやっぱり彼には弱いんだと実感する。
「……はぁ……」
ちゅ、と音を立てて彼が身体を離すと、小さく笑ってからベッドの棚に手を伸ばした。
……彼がこちらに背を向けたとき、そっと……首筋へ手を伸ばしてみる。
先ほど、彼が私に付けた――……しるし。
……えへへ。
嬉しい。
なんともいえない幸せな気持ちが身体に広がって、じんわりと胸の奥が震えた。
「……それじゃ、イこうか」
「……ん……」
こちらを振り返った彼が、セーターを落としてから顔を近づけた。
……なんていうか、いつも思うんだけど……。
「先生って……」
「ん?」
「どうして、服脱ぐんですか?」
「……は?」
……あれ?
私、何か変なこと言った?
「っ……あ……」
眉を寄せた彼をまばたきしながら見つめていると、おかしそうに笑ってから、ぎゅっと抱きしめてくれた。
途端、素肌の温もりが伝わってくる。
「……こうしたいから」
「え……?」
顔をごくごく近づけたままで瞳を合わせ、にっと笑みを浮かべる。
……ちょっと嬉しそう……に見えるのは、気のせいかな。
ううん、気のせいなんかじゃない。
「肌がさ……すごい気持ちいいんだよ」
「……私の……?」
「当り前だろ? なんつーか、やっぱり自分と全然違うからさ」
撫でるように背中に手を回してから、そっと肩に触れた彼。
その顔は、本当に……本当に優しくて。
……だから、どきどきしちゃう。
そんな愛しげに、箇所箇所を見つめられたりしたら……それだけで、ヘンになっちゃうのに。
「だから、手だけじゃなくて直に感じたいんだよ」
「……そうなんですか……?」
「そうなの。……すげー気持ちいい」
まるで小さな男の子みたいに笑ったかと思うと、すぐに彼らしい意地悪な顔に変わった。
なんだか……ちょっとだけかわいい。
そして、本当に嬉しい。
「……いい?」
1度瞳を閉じた彼が、改めて目を合わせてきた。
……ぞくっとするくらい、不思議な艶やかさを纏った顔。
本当に、さっきまでとは全然違う。
「……うん……」
魅入られながら小さくうなずくと、同時に彼が中へと這入って来た。
「っ……ん」
奥まで刺激され、たまらず声が漏れる。
……熱い。
なんだかもう、こうされているだけで再び果ててしまいそうになる。
「あっん……!」
ゆるゆると彼が動き出すと、さらなる刺激が快感となって身体を走った。
びくびくとそのたびに自身が彼を締め付け、なんとも言えない表情を見せてくれる。
「っ……んんっ……!」
弱い部分を責められて彼にしがみつくように腕を回すと、耳元に荒い息をかけてきた。
「だ……めぇっ……そんな……されたらっ」
「……どうなる?」
「っやぁ……いじわるっ……!」
わざと奥まで届くように責め立てられ、ぎゅっと腕に力を込める。
すると、小さく楽しそうに笑う声が聞こえた。
「もぉっ! おかしくっ……ない、のっ」
「……いや、かわいいなと思って」
「せ……んっ! やっぁ……ん!」
ぐいっと突き上げられると同時に、秘部がひくつく。
……果てが近い。
それを感じて彼にしがみつくと、強く抱きしめてくれた。
「っくぅ……んっ! あ、やっ……!」
「はっ……相変わらずっ」
「ん……何……がっ……?」
「……気持ちいい」
「っ……ぅっん!」
ため息混じりに呟かれ、ぞくぞくと背中が粟立つ。
……もぉ……ダメかも。
彼に揺られながら瞳を閉じると、ひときわ大きく波が寄せる。
「あ、やっ……! んっ、祐恭さっ……ん!」
「……何?」
「っ……も……あ、だめぇっ!」
「ダメじゃないだろ?」
どうしていつも、彼は冷静でいられるんだろう。
……私はこんなにいろいろと……切羽詰ってて大変なのに。
「ん、んっ……! あぁ、……だ……めなのっ……!」
「羽織……っ」
「あ、やっ、あぁっ……んんん!!」
ぎゅっと彼に抱きつくと同時に、びくびくと再び波に飲まれる。
この瞬間は、1番自分が淫らで、いやらしいと思う。
……けど、それが彼によってのモノだと思うと……不思議と嫌悪感はない。
むしろ、もっと……と、それこそいやらしい考えに支配されちゃうんだもん。
「……はぁっ、……は……ぁ」
肩で荒く息をつくと、彼がゆっくり動きを止めた。
「……いい顔しちゃって」
「…………だって……ぇ」
「ん?」
「……えっち」
「それはお互い様」
にっと笑った彼は、相変わらずの彼で。
……その余裕が、やっぱりちょっとだけ悔しくなる。
「何?」
眉を寄せていると、彼が気付いて頬を撫でてくれた。
なんか、余裕ありますって感じ……。
だからそれが、やっぱり――……。
「……先生は、私みたいに……ならないんですか?」
「どうって?」
「だからっ……! ……その……。なんか、ね。私ばっかり、先生に翻弄されてる気がするんですもん……」
最初の勢いはどこへやら。
やっぱり、語尾はいつものようにしぼんでしまう。
「……え?」
すると、彼がおかしそうに笑った。
「……俺がなんとも思ってないとでも?」
「……え? 違うの……?」
「当り前だろ。いつだって、ギリギリ」
「だって……そんなふうに見えないんだもん」
「ふぅん。……じゃあ、どう見える?」
「え?」
瞳を細めた彼は、またいたずらっぽい顔をした。
どうって……。
「余裕たっぷり……みたいな」
おずおずと1度視線を外してから彼を見つめると、一瞬だけ瞳を丸くして――……。
「っえ……!?」
ふいに真面目な顔を見せた。
その変貌に、思わずこちらも喉が鳴る。
「あ、あっ……やっ!? ……んっ!」
ぐいっと突き上げられ、再び淫らに秘所がひくついた。
なおも構わず責めあげられ、1度落ち着きかけた身体が再び熱を持ち始める。
「俺が……いつも余裕あるように見える? そんなに?」
「んっ……見え――……っきゃ!?」
ぐいっと起こされ、向き合うかたちで抱きしめられた。
容赦なく責められ続けた身体は、素直に言うことを聞いてくれそうにはない。
「俺が……ほかの女にも……こうしたいって思ってるとか……思うわけっ……?」
「ちっがう……! けどっ……!!」
「けど、何?」
「だってぇっ……んっぁ……! なんかっ……悔しいんだもんっ」
「悔しい?」
「んっ……! 先生がっ……普通の顔してるからっ」
揺さぶられながら切るように言葉を続けると、再びベッドへ荒っぽく倒された。
「やぁっん!」
そのまま彼が耳元に唇を寄せ、奥までぐいぐい突き上げる。
また……ダメかも。
快感が、身体の奥底からどくどくと溢れてくるみたい。
いつまでも底を知らないような……そんな一種の不安を覚えるほどに。
「っ……!? んんぁっあん!」
「こうして……快感に溺れさせてっ……狂うほど乱してやりたいって……」
「あ、あっ……!」
吐息をわざとかけながら囁かれるたび、ぞわぞわと背中が粟立つ。
胸の奥も高鳴って、苦しくもなる。
でも、彼は容赦なんてしてくれなかった。
「俺がこんなに抱きたいって思ってる女なんて……羽織だけだ……ッ」
「んやっぁあ……!」
律動が早まり、途端に悦の色が変わった。
……もう、1度。
そんな欲が溢れてくる。
彼の本音を聞けたこと。
それほどまでに強く自分を求めてくれること。
そのどれもが嬉しくて、だからこそ……彼の望むままになりたい、と願っていた。
「っく……」
「あ、やっ……! い……っん、い……っちゃう……っ!」
「何度だって……それを言わせるのは俺だけなんだからな……!!」
「んんっ……! あ、やっ……あぁっ……ん!!」
最後に深く突き上げられ、こちらが果てると同時に熱い感覚を得た。
彼が、という証拠。
……だからやっぱり、この瞬間は……すべて彼で満たされたような感じがして……幸せ。
「んっ……!」
そのままの格好で唇を求められ、貪るように口づけをされる。
だけど、それは強引なものでも荒いものでもなくて。
……やっぱり、彼らしい優しいモノだった。
「……ねぇ、先生」
「ん?」
ぎゅうっと彼に抱きついたままでいると、相変わらずほっとするような温もりが嬉しかった。
……あったかいなぁ。
彼を呼んでおきながら、ついつい瞳を開けられなくなってしまう。
「……あの……ね?」
「うん?」
なんだかだるいというのもあって、結局瞳を閉じたまま続ける。
……さっきから髪を撫でてくれている彼の手が、心地よすぎて……っていうのも理由のひとつだから、許してもらおう。
「……プレゼント、受け取ってもらえます?」
「貰ったよ?」
「……もぅ……違うんですってば。ちゃんと……あるの」
ゆるゆると首を振り、彼にぎゅうっと腕を回す。
……気持ちいい。
先生は私が気持ちいいって言ってくれたけれど、私はやっぱり……彼が気持ちいいな……。
「……別にいいのに」
「んーん……そんなの、ダメですよ……ちゃんと、選んだんだもん……」
先日、絵里とふたりで買い物に出かけたとき。
彼に似合うだろうなぁと思って買った、モノ。
彼がくれた、あのかわいくて大人っぽいロングコートと、あのステキなドライブには……もしかしたら敵わないかもしれない。
でも、やっぱり……受け取ってほしい。
……………。
そう……思う……。
「……来年は、リボンだけでいいよ」
意識がはっきりしないときに聞こえた、本当に本当に優しい声。
だけど、瞳を開けることはできなかった。
……来年……?
ん……確かに。
次のクリスマスも、こうして彼とふたりきりで……いいものだといいなぁ。
……ううんっ。
きっと、過ごそう。
「…………」
さらさらと髪をすくわれて、ふにゃんと笑顔が浮かんだ。
…………あぁ、幸せだなぁ……って、本当に実感する。
だからいつまでも……こうしていよう。
彼が許してくれる間は、ずっと。
――……そんなことを考えていると、いつの間にか記憶がふっと途切れた。
翌朝。
だいぶ遅くなってしまったけれど、予告どおりきちんと彼にプレゼントを贈ることができた。
……えへへ。
そのときも、また格別な嬉しさがあったんだけど……それはまた、別の機会に。
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