「……ん……」
 ちゅ、とわずかに濡れた音。
 すぐ近くでそれを聞きながら彼女の身体を引き寄せると、ほっとするような、だけど少し熱いぬくもりを感じた。
「…………っ……」
 さらりと流れる、柔らかい髪。
 ほのかに香る甘さに、つい笑みが浮かぶ。
 ずっと欲しかったモノ。
 ……ずっと、求めていたヒト。
 それが今、何に邪魔されることなく与えられていて、心底幸せだ。
 …………簡単に言えば、嬉しくて嬉しくて堪らない。
 ずっとずっと欲しいと願っていたモノを手に入れた、小さな子どもと同じように。
「……ぁ……」
 身体を重ねたままソファに倒れ、彼女の首筋に唇を寄せる。
 少し薄いタートルのシャツごしに感じる、確かな彼女。
 それを思うだけで、なんだか妙にどきどきする。
「ん、んっ……」
 少し抑えられているような、甘い声。
 まだ実際にこの手で何に触れているワケでもないのに、聞こえてくるからたまらない。
 ……もし、触覚と聴覚どちらでも彼女を感じたら。
 そのときはひょっとすると、自分でも理性というか……タガというか。
 いろんな意味で、自制でいるか少し不安だ。
「っひゃ……ぁ、んっ……!」
 ぴくん、と身体が震えると同じに、彼女の声もオクターブ上がる。
 ……この瞬間。
 言わずもがな、自然と口角は上がる。
「……冷たい?」
「ん……ん。へ……ぃき……」
 きゅっと閉じられた瞳。
 だが、反対に唇は薄っすらと開いている。
 そのギャップもまた、充分に俺を誘うんだが……精一杯身体で感じている彼女が知るよしはない。
 シャツを少しだけまくるように手のひらを肌へ直接滑らせ、徐々に上へと上げていく。
 行きつく先。
 求めている場所。
 ……そんなモノは当然、ひとつしかない。
「っは……ぁ……」
 ため息にも似た甘い吐息が、少し大きく聞こえた。
 タイミングは、手のひらがちょうど彼女の胸を包んだのと同時。
 改めて実感するまでもなく、彼女の声も含めた反応すべてが俺の行動に比例していることになる。
 ……優越感、と言ってもイイだろう。
 ほかの誰にもできない、俺だけの特権。
 彼女に実力行使できる、唯一の。
「あぁっ……、ん……!」
 すべて露になった下着。
 彼女らしいかわいいモノを眺めながら背中のホックを外すと、一瞬だけ、彼女が唇を結んだように見えた。
 期待か、それともほんの少しの不安か。
 きっと今彼女の胸に手を当てたら、どくどくと大きく鳴っているに違いない。
「っ! あ、あっ……ん……!」
 きゅ、とシャツを握る彼女の手。
 それを感じながらも、胸に這わせた唇と舌は止めてやらない。
 ……いや、正確には『できない』か。
 いろんな意味で、今のこの時間こそが俺の求めていた本音なんだから。
「…っぁ、あっ……せ、んせ……!」
「……何?」
「ん! ……っはぁ……ぅ」
 ワザと音を立ててやりながら先端を舐め、丹念にくちづける。
 少しとろけそうなくらいに甘い声のほうが、いろんな意味で都合イイ。
 ……もちろん、単に好きってのもあるけど。
「気持ちいい……?」
「っ……い、じわる……」
「意地悪? ……失礼だな。それじゃ――」
「ッ……!?」

「……こうしたら、どうなる?」

 抑えようとした彼女の手を払い、スカートをたくしあげて下着に手をかける。
 途端に彼女は、ふるふると首を振りながら頬を染めた。
「聞くのも、言うのも……全部、俺がそうしたいから。そう思ってるから、だよ」
「やっ……! せんせぇ……っ」
「さっきのも、羽織ちゃんに『気持ちいい』って言ってほしいから、なんだけど……?」
「……っ……」
 彼女に『意地悪』と言われる理由が、わからないわけじゃない。
 だが――……なんて言うのかな。
 1番しっくり来るのはやっぱり『小さな子どもと同じ』。
 好きだから。
 もっと言ってほしいような……その顔を見たいような。
 ある意味、満たされるモノがあるからあえてと言うのもある。
 我侭でかつ、自己満足だなんてことはもちろん重々承知だけど。
「……していい?」
「っ……な……何を、ですか……?」
「羽織ちゃんの言葉を借りるならば――……えっちなこと」
「ッ……!」
 にっこり笑って、顔を近づける。
 ……さあ、どんな返事を?
 あー、間違いなく確かに俺は、彼女自身で楽しんでるな。
「っ……ぁん……!」
「……イイ声」
 答えようかどうしようか。
 まるでそんなふうに迷っている彼女の返事を待つことなく、ショーツをずらして指を挿し入れる。
 ……と、すぐに濡れた感触に当たった。
「はぁっ……あ、あっ……ん……!」
 くちゅ、とヤらしい濡れた音も聞こえ、それと同時に指を締めつけられる。
 ……ヤらしいな。
 妙な感情の昂ぶりから、自然と口角が上がる。
「……なんでこんなに濡れてる?」
「ッや……! ちがっ……」
「違わないだろ? ……やらしいな」
「……っ……ん……ぁ」
 徐々にとはいえ、抵抗なく飲み込まれる指。
 本数を増やして彼女の中を探るように動かすと、それに伴って彼女の動きも変わった。
「は……ぁっ……は……先生、や……」
「……ん?」
「あ、そ……そんな、しな……ぃで……」
「どうして……?」
 きゅ、と握られたシャツの合わせ。
 ときおり我慢できないかのように緩く震える白い手が、妙に愛しかった。
「ん、あぁっ……!」
「……イイ声……」
「ひゃ……ぁう、せ……んせい、せっ……っやあ……!」
「……もっと呼んで」
 身体を重ねるようにしながら唇を耳元に寄せ、ワザと息を吹きかけて囁き、なおも指で彼女の奥深くまで探る。
 もっと、気持ちよくなってほしい。
 できることなら、乱れて狂うほどにまでも。
 次第に大きく響くようになった、彼女自身の蜜音。
 瞳を閉じたまま、首筋を舐め上げてついばむように口づけると、そのたびに彼女が甘く喘いだ。
「は……あ、は……っ……ふ」
「……どうした…?」
 1度指を引き抜いてから、濡れた指をわざとチラつかせる。
 ……イイ趣味してるな、ホントに。
 途端、眉を寄せて恥ずかしそうに視線を外した姿を見て、改めて思う。
「……えっち……」
「ん。知ってる」
「っ……もぉ……」
 もしかしたら、こう答えるのは予想外だったのかもしれない。
 にっと笑ってうなずいた瞬間、瞳を丸くしてから、おかしそうに笑われたから。
「……ん……」
 ゆっくりと口づけ、何度か角度を変えながら深く繰り返す。
 昨日からずっと、こうしたかった。
 彼女に、こうされたかった。
 ……癒されたい、なんて言葉を自分が遣うようになるとはな。
 だがそれも、彼女に対してならば何の躊躇もなく遣える。
「……いい?」
「ん……。……来て……くださ、ぃ」
 まっすぐに彼女を見つめて敢えて訊ねると、ほんのりと頬を染めながらも、こくんとうなずいてくれた。
 ……この瞬間。
 この、まさに彼女のすべてを許された瞬間は、ものすごく嬉しいと同時に――……1歩間違えると狂気になりかねない感情が沸き立つ。
 加減できないまでに、なってしまわないように。
 それでもまだ、彼女が悦として受けとめてくれるならば本望だが。
「っ……んんっ……」
「……は……」
 ソファに手を付いて彼女を見下ろし、猛った自身をゆっくりと沈める。
 あてがった途端になんとも言えないイイ声を漏らした彼女に、つい、口元が緩んだ。
「ぁ……あっ……ふぁ」
「……相変わらず……気持ちイイ」
「ぅ……えっちぃ……」
「まぁね」
 きっちりと最後まで沈めてから抱きしめるように腕を回し、少しだけ眉を寄せた彼女ににっこりと微笑む。
「それじゃ……」
「……え……?」

「お互い、イクところまで行こうか」

「っ……」
 その、言葉の意味。
 それが何を示しているかは受け取り方次第なんだが――……少なくとも彼女は、俺が思った通りの反応をくれた。


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