「…………」
「…………」
「…………えっと……」
ソファに座ったまま彼女を見上げると、紙袋と俺とを見比べながら、困ったように笑った。
……まぁ、そういう顔するだろうなぁとは思った。
それが、正直な感想。
…………なんせ、俺だって困ったんだから。
「これは……」
「俺じゃない。……それは、里美さんの土産だからな?」
「……里美さんから、ですか?」
「そう」
疑惑の目が俺に向いたのを感じてキッパリとそこを否定すると、瞳を丸くしてから改めてソレへと向き直った。
……いったい、いつの間に袋へ忍ばせたんだろうか。
スカートが入っていた袋は常に俺が持っていたし、彼女が手にするようなことなかったはずなのに。
……はぁ。
なんだかもう、吹き飛んだ疲れが利子をつけて舞い戻ってきた感じだ。
「…………」
「…………」
袋の中に何が入ってるのか想像がつく。
なんせ、その店で売られているものは1種類だったんだし、何よりも――……彼女の表情を見ていれば、ことさらに。
頬を染めて、困ったように袋からソレを取り出せないまま。
……あー。
里美さんが言ってた“土産”ってコレのことだったのか……。
どうりで散々、羽織ちゃんの印象とか好きな色とかを聞かれたワケだ。
…………。
……とんでもない、置き土産をしてくれたもんだな。
「……先生」
「ん?」
「……なんでそんな……楽しそうなんですか……?」
「え」
頬を染めた彼女が、眉を寄せて呟いた。
それで思わず、瞳が丸くなる。
「……そう?」
「そうですよぉ……そんな顔されても、困るっていうか……」
きゅっとソレを両手で包んだ彼女を見つめたままでいると、一層頬を染めて俯いてしまった。
……おかしいな。
別に俺、笑ってるつもりは――……あ。笑ってる。
頬へ手を当ててみると、にんまりというか………ニヤけてた。思い切り。
「…………」
「…………」
……なるほど。
どうやら、なんだかんだ言いながら俺自身は内心喜んでいたらしい。
そう自覚してしまうと、性分なのか……ついついいろんなことをしてやりたくなるワケで。
「……え?」
「着替えておいでよ」
「は……っ……はい!?」
「いやほら、せっかくだし。さっきあげたスカートと………ソレね?」
「っ……!」
ソファの肘置きへ頬杖を付いてから彼女を見ると、瞳を丸くして『なんてことを!?』なんて顔を見せた。
このとき。
頭へふと蘇ったのは――……里美さんの言葉。
羽織ちゃんがとびっきりかわいい下着姿で『先生、これどうですか?』なんて訊ねてきても、『別に』って答えられるの?
この答えは、もちろんひとつ。
「言葉だけじゃ済まない」
……俺は絶対、そう言うに決まってる。
「見たいなー。……ぜひとも」
「……うぅ……そんなぁ……」
だから改めて、にっこりと有無を言わさない笑みで彼女をけしかけていた。
「…………」
「…………」
「……何してるの? 入っておいでよ」
「…………うー……だってぇ」
薄っすらと開いたドアから顔だけを覗かせている彼女を見たら、思わず笑ってしまいそうになった。
……危ない危ない。
ここで笑ったりしたら、絶対に彼女の機嫌を損なうに決まってる。
もう少し。
あと少しだから、がんばれよ……俺。
「そんなところにいたら、風邪引くだろ?」
「……でも……」
「でもも何もないだろ。……いいから、おいで」
「っ……」
ソファに座ったまま、縁へ腕を乗せて彼女のスペースを作ってやる。
『ここにおいで』
そういう意味を込めて首をかしげると、眉を寄せて頬を染めながらしぶしぶといった感じで――……姿を現した。
「……へぇ」
予想以上の姿に、思わず瞳が丸くなった。
……こりゃあいい。
たまらず、ニヤっとした笑みが漏れる。
「……あんまり見ないでくださいね」
「なんで? ……すごいかわいいのに」
「かっ、わいく……っないです……!」
ぶんぶんと首を振ったまま視線を合わせようとしないが、それでも彼女はおずおずと隣へ座ってくれた。
……ふぅん。
懸命にスカートの端を押さえる姿といい、この……なんともいえない表情といい。
「かわいいよ」
「ッ……」
ぐいっと引き寄せて耳元に囁くと、ぞくっとしたいい顔を見せてから一層俯いてしまった。
まさか、これほどまでにソソられるとは、正直思いもしなかった。
「……うぅ……恥ずかしい」
「なんで? よく似合ってるのに」
「だ、だって……」
今隣へ座っている彼女は、“土産”をすべて身に着けてくれている。
……そう。
ひとつ残らず。
もちろん――……里美さんのお土産も。
「っ……や……!」
「……すげ。なんか……なんだろ。ヤラシイ」
「もぅっ! 先生ってば、何するんですか!!」
「いや、だって気になるじゃない」
「し……っ……ないでくださいよぉ……」
つつ、っと彼女の足を撫でて若干スカートをめくると、途端にぎゅうっと押さえながら軽く睨まれた。
……まぁ、怒られるだろうとは思ったけど。
でも、誰だって気になるだろ?
ときおりスカートの動きによって見え隠れする――……黒いストラップを見つけてしまったら。
「……いいね」
「っ……何がですか」
「いや、こう……見えそうで見えないところとか」
「えっち……!」
「ごめん。でも、本音」
「……うぅー……」
にやっと笑って顎に手を当てると、途端に半分泣きそうな顔で俺を見上げた。
……その仕草とか、結構ヤバいんだけど。
開いたセーターの胸元はもう少し上から覗けば見えてしまいそうだし、黒いオーバーニーのストッキングに、いつもよりずっと短いスカートといういでたちだからこそ……こう……いろいろ想像を掻き立てられるというか。
「…………」
頬を染めて一生懸命スカートがめくれてしまわないよう、がんばる健気な彼女。
その顔を見たままで、正直感謝していた。
……ありがとう、里美さん。
そして、粋な計らいをしてくれた神や仏。
どうやら、今日という冬休み最後の日は――……退屈はもとより、後悔なんて言葉をまったく感じずに済みそうだ。
まじまじと彼女を見つめたままいろんなことが頭の中で閃き、彼女が言う『意地悪な顔』というモノが独りでに浮かんでいた。
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