「実はさー、ちょーっと俺いい経験してきたんだよ」
 18時もとうにすぎた化学準備室に優人が来たのは、先日のことだった。
 何やら手にしていたのは、数枚の紙。
 どうやらプリントアウトされた何かのようだったが、表が見えない分、なんとも言えない。
「……お前な。せっかく仕事が終わってこれから――……って、だから。なんだ?」
 ひらっと彼が目の前に出した紙を見ながら、眉が寄った。
 ……?
 最新……スポット情報?
「なんだよ、これ」
 そのときの俺は、この紙に綴られている内容を知らなかったから、ついつい手にしてしまったのだ。
 目の前の優人が――……それはそれは楽しそうな顔をしているなど、知るよしもなく。

「や……せんせ……。っ……やっぱり……ダメっ……」
「やっぱりってことは、1度は了承したってことだろ?」
「っ……してません、ってば」
「大丈夫。バレないから」
「そういう問題じゃなく……っん!」
 彼女を身体の下に収めたまま笑みを見せると、こちらとは真逆の困惑顔で首を振った。
 しかしながら、ココならばきっと大丈夫。
 暗くて、ほどよく音楽もかかっていて――……かつ、柱が横にあるという格好のポジションだから。
 ……って、優人が言ってたし。
 いや、別にヤツの言うことを鵜呑みにするワケじゃないが、それでも……。
「っあ、ん……!」
「……ほら。そんな声出すと、周りにバレるよ?」
「だ……ってぇ、そん……ぁっ……!」
「極力抑えられるよう、がんばってね」
「っ……そんなの、無理……ですよっ」
「大丈夫。やればできる子だろ? 君は」
「……うぅ……」
 ぼそぼそと耳元で囁きながら胸元に手を寄せると、声を抑えながらも――……小さく甘い声を聞かせてくれた。
 我慢。
 ……これって、結構そそられるんだよな。
 何度か彼女に対してそれを強いたことはあったが、こうした思いっきり外という公の場で言うのは……コレまでなかったかもしれない。
「あ、あっ……!」
「……し。ほら。聞こえるだろ?」
「だっ……ぁ……ん、やっぱり……無理、だからっ……」
「無理じゃない。大丈夫」
「もぅ! 先生っ!」
 ……大丈夫、なんてまったく根拠のないセリフに聞こえるだろうな。彼女には。
 それがいかにも、やましいことをしているときの男の言いわけっぽくて、少しだけ呆れた。
「ぁ……っ」
 背中に回した手を前へ回し、軽くブラをずらしてから胸に唇を寄せると、身体をわずかに震わせた。
 薄い、青い光。
 それに照らされた彼女の肌が、なんとも言えず不思議な感じだ。
 ……ちょっとした、映画っぽい。
 つーか、なんか……アレだな。
 『映画館』という場所でやる、カップルに似てる。
 ……とか思った自分はやっぱり毒されているらしい。
 今度はもちろん“優人に”だが。
「っ……!」
 焦らすように這わせた舌でそのまま頂を含むと、俺の服を掴んでいた手に力がこもった。
 そのおかげで、形としては彼女に引き寄せられるようになるワケで。
 だからこそ、口で反対されてもそうとは思えない。
 事実、彼女も求めてくれているような気になるのは、仕方がないと思うのだが。
「……あ……ん」
 胸元を舐めたままスカートの下に手を伸ばすと、空調が効いているお陰でさらりとした肌に触れた。
 ……やはり、このほうが都合いい。
 もちろん、しっとりと手のひらを受けてくれる肌も好きだ。
 だが、このほうが……摩擦なく進むことができて、まさに好都合。
……拒まれる事も、無く。
「は……っぁ……、や……!」
 つ、と指先がショーツに触れると、彼女が足を閉じた。
「……閉じない」
「だ、だって……! こんな……。ね、ねぇ先生っ……やっぱり、こういうのは――」
「今さら無理」
「けど……っ!」
 困ったように俺を見上げる姿で、ついため息が漏れた。
 当然、彼女がすんなり許してくれるなんて都合いいことは考えていない。
 ……考えていないが……。
「そんなに嫌?」
「っ……」
 つ……と指先で肌に触れながら彼女を見ると、一瞬驚いたように瞳を丸くした。
 ……あれ?
 いや、正直すぐにうなずくものだと思ったんだが、彼女は何も言わずに口を結んでしまった。
 …………。
 ……ああ、なるほど。
「ふぅん……」
 つい、口角が上がる。
 ……なるほどね。
「っ!? せ、んせっ……!」
「いいんでしょ? ……こうしても」
「なっ……! 私、言ってな……!?」
「でも、態度がそうだったじゃない」
「ち、違いますよ! あれは――」
「……いいから。ほら、とりあえず足閉じない」
「だ、だからっ! そういうつもりじゃなくて――……!!」
 太ももを撫でながら囁くと一生懸命、力の入らない手で身体を押してきた。
 てっきり、彼女も俺の考えに同意してくれたものだとばかり思ったのだが、この期に及んで彼女はまだ『違う』と言い張るらしい。
 これはこれで困ったモンだ。
 いつもなら、ここまで言えばそのまま倒せ――……。
「違うのっ! ……あれですよ?」
「……? どれ?」
 首を振った彼女が、視線を俺から後方へ向けた。
 ……後ろ?
 そんな所に広がっているものは、この館内ではたったひとつしかないんだけど。
「……あ」
 眉を寄せたまま後ろを振り返った瞬間、思わず口が開いた。
 そこにあったのは、確かに星だった。
 ……だけど。
 普通の星ではなく、そこには“流星群”があった。
「……すごいな……」
「でしょ?」
 少し嬉しそうな声の彼女を振り返ると、それはそれは嬉しそうな顔で頷いてくれた。
 ……なるほど。
「背中向けてたから、わからなかったな」
 ていうか、君しか見てなかったからね。
 鼻先をつけて囁くと、一瞬瞳を丸くしてから――……何かに気付いたらしく身体を動かした。
「ダメ」
「だっ……!? そ、そんな……! だって、こんな……」
「誰がやめてやるなんて言った?」
「っ……」
「絶好の雰囲気じゃないか。満点の星だけでなく、願いの叶う流星の下で……なんて」
 たくし上がってしまっていたままの服を直そうとした彼女の手を掴むと、みるみるうちに表情が変わった。
 ……これはこれは。
 そんな顔されたら、余計やめられなくなるだけなんだけどね。
「せっかくだし、ご期待に添えようか」
「……な……んのですか……」
「続けてほしいんでしょ?」
「ッ!? 言ってません!」
「大丈夫だって」
「大丈夫じゃないの!」
「……いいから」
「っ……や……よくな、い……っ」
 両手首を掴んで頭の上まで追いやってから抱きしめると、やはり抵抗は薄かった。
 ……せっかくここまで来たんだ。
 今さら、やめられない。
 というのがまぁ、1番の理由なんだけど。
「っ……んっぁ……!」
「……身体は正直だね」
「や……ぁあ、ちがっ……」
「違わない。……これが、何よりの証拠」
「ん! ……んん……ぁ、や……ぁ」
 ショーツをズラして秘所に指を伸ばすと、潤みに触れた。
 ……なんだかんだ言って、やはり彼女のことは彼女の身体が1番わかってるんだよな。
 それを知ってしまった以上、とめられるわけがない。

 『彼女も欲しがってる』

 そう、俺の中で確証と言い訳ができたから。


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