「ん……」
 キスされるときって、やっぱり好き。
 だって、誰よりも何よりも近くにいてくれる証でしょ?
 『口づけ』るんだから当然といえば当然。
 ……でも、やっぱり特別なんだって思わされる。
「っ……」
「……ンな顔すんな」
「……そんなこと言われても……」
「かわいいって思うだろ?」
「…………」
「…………」
「……言ってから照れないでよ」
「…………悪かったな」
 ちゅ、と唇を離されると同時に見つめられたら、普通は照れるのってこっちなのに。
 純也ときたら、そっぽ向いていかにも『照れてます』なんて顔して。
 ……馬鹿だなぁ、もう。
「……なんだよ」
「かわいいヤツ」
「…………あのな」
「いーじゃない、別に。……かわいいって言葉は、老若男女関係ないんだから」
 ぐりぐりと頭を撫でてやると、心底迷惑そうな顔をされた。
 でも、もちろんやめてなんかやらない。
 ……だって、ホントにそう思ったんだもん。
 かわいいオトコ。
 どこかの誰かさんみたいに、くっさいセリフ吐いても澄ました顔でいられるより、ずっとイイ。
 正直で、何も隠せないけれど……でも、偽られるよりずっとイイ。
 ……好きになった人だから。
 やっぱり私が純也とこうして一緒にいるようになったのは、ちゃんとした大きな理由があったんだ。
「っ……ん!」
 たとえ服の上からだろうとも、やっぱりはっきりと触れられていることは感じる。
 ……っていうか、もー……ホントに胸が好きなんだなーなんて、ちょっと馬鹿なことを考えたりして。
 まぁ、コレは別に純也だけに限った話じゃないだろうけど。
 どうして男って胸が好きなんだろう。
 話とかでもすぐに出てくるし、実際に……こういうときになると、絶対に手を伸ばすし。
 そりゃ、それはそれで一連の流れだからだって言われたら、まぁ、納得はするわよ?
 でも、なんかそーゆーのと違うっていうか……。
「……ぁ……」
 シャツのボタンを外されて、隙間から直に手のひらが胸へ触れた。
 ……えっち。
 つーか、なんなのよ本当にそのしまりのない顔は。
 いつもはぎゅっと瞳を閉じてることが多いんだけど、今日だけはなんとなくそういう気分じゃなかった。
 瞳を細めてじぃっと見つめていたら、視線が合った途端に少しだけ気まずそうな顔をする。
「……なんだよ」
「えろいのよ、顔が」
「るせーな」
「……ったく」
 別に今さら、ムードがどうのとか言うなんてことは純也だってないだろう。
 ……そのせいなのかな。
 互いに、おかしさからか笑みが浮かんだのは。
「……っつーか、だな」
「ん?」
「お前のほうがえろいだろ」
「……なんでよ」
 こほん、とわざとらしく咳払いなんかした純也に瞳を細めると、じぃっと1点を見つめるようにしてから、ようやく視線を瞳に合わせた。
 ……?
「何が?」
「……学校に行くっていう格好じゃねぇな……」
「は?」
 そう言った純也は、また視線を落とした。
 学校に……行くような格好じゃない?
 服?
 いや、でも服はそれこそ学校指定の制服だし。
 それじゃあ、何――……。
「……あー」
「あー、ってお前……」
「いいじゃない別に。見られて困るような、純な若者がいるわけでもなし」
「……そーゆー問題か?」
「そーゆー問題よ」
 正直、純也が言っていた意味を理解するまでに若干時間がかかった。
 ……なんだ。
 さっきから言ってたのは、下着のことね。
 別にいいじゃない?
 黒だろうと赤だろうと、白だろうと青だろうと。
 この時期、シャツにブラが透けるワケでもなければ、ウブな男子がいるワケでもないし。
 ……あー。
 まぁ、見て恥ずかしがるようなウブ教師ならいるのかもしれないけどね。
 ――……って、いないわよ。
 今年の新任は、祐恭先生と世界史の先生だけじゃない。
 祐恭先生はもう言うまでもないけど、世界史の先生だって……新任とはいえ“赴任”が初めてってだけの、おっさん先生だし。
 ……うん。訂正。
 見て恥ずかしがるんじゃなくて、見ることができて喜んじゃうようなサモシイ先生方ならばいるかもしれないわね。
 やだやだ。
 ……ま、だからこそ冬のこの時期っていうのは、女にとっていろいろと都合がいいんだけど。
 ちょっとはいろいろサボれるし。
 …………とまぁ、この話はコレくらいにして。
「で?」
「……は?」
「いや、だから。人の下着姿見るだけ見ておいて、何も言うことはないの?」
 ベッドへ仰向けになったままシャツのボタンをすべて外され、当然下着は露わになっている。
 なおかつ、純也はそんな私を組み敷くみたいに身体の下へ捉えているワケで。
 ……感想のひとつやふたつ、言ってほしいじゃない?
 なんてったって、新しい下着だったりするんだから。
「……まあ……その、なんだ……」
「何よ」
「…………お前って、黒多いな」
「そーゆー返事が欲しいんじゃないわよ馬鹿!」
「あてっ」
「それに! コレはただの黒じゃない!!」
「……そうか?」
「そーでしょ! いつもと違って、リボンついてるじゃない! ほら!!」
 眉を寄せた純也に向かって改めてブラの縁を指差してやると、しげしげとそこを見つめてから、『ああそうだな』なんて呟いた。
 ……ちょっと。聞いた?
 『ああそうだな』よ? 『ああそうだな』!
 これって、めちゃめちゃもう完璧に興味なしって言ってるのと同じ感じじゃない?
 腹立つー。
 よりにもよって下着を見たクセに、そんな半端な返事ってどうなの?
 ……まぁ、予想以上に興奮されても困るんだけど。
 でも、せめてひとことふたことは言ってほし――……。
「んっ!!」
 瞳を閉じてため息をつこうとした途端、不意に胸へと温かい濡れた感触がきた。
 ……こっ……の不意打ち男……!
「っ……あ、あっ……ん!」
 途端に、情けなくも快感から声が漏れてしまう。
 ……やっぱり、純也のほうがえろいじゃない。
 なんとなく悔しくて、彼の服を掴む。
 ――……けど。
 やっぱり、そんな私の行動をまったく気にも留めずに、純也はさらに音を立てて胸を舐めた。
「うあ……っ……く……ふぅ……」
「……喋りすぎなんだよ、お前は」
「ふ……ぅあ、だっ……て……」
「少し黙ってろ」
「……あ、んっ……!」
 肌と距離なんて作らずに囁かれ、吐息と唇の感触が直に肌へと伝わる。
 そんなふうにされたら私だってキツいのに。
 ……わかってんのかしら。
 荒く息をついたままようやく緩んだ責めに瞳を開くと、私に気付いたのか、純也が少しだけ首をかしげた。
「っ……な……!」
「……不意打ちっていうのは……こうするのよ……っ!」
「ちょっ……ま……!?」
 肌蹴たシャツを気にも留めずに、純也の首へ腕を回して抱きしめる。
 当然顔が胸に埋もれるような形なので、抵抗することもできずに彼は私の思うがままになってくれた。
 ……ふ。
 どうだ。
 こうしてしまえば、自由なんてないでしょ?
 思わずにやっとした笑みを浮かべながら、未だにもがく純也の首をしっかりと掴んで離してなんかやらない。
 だって、なされるがままって1番嫌いなんだもん。
「ッ……お、いっ……!」
「何よ。いーでしょ? 別に。……ハジメテってワケじゃないんだから」
「そっ……問題じゃ……!」
 形勢逆転。
 今度は彼をベッドへ押し倒すような格好になってから、ズボンに手をかけてやる。
 そんな私に慌てたのは、純也。
 だけど、それはこれから私が何をしようとしているのか予測しての反応だったんだろう。
「っ……おま……!」
「ダメ。……って言うか、じっとしてて」
 身体を起こしてから、ぐいっと肩を掴んだ純也を瞳を細めて睨み、ベッドから降りてフローリングに膝で立つ。
 ……何をするか?
 そんなモノ、最初から決まってる。
 私、為されるがままを受けるっていうのが1番嫌いなのよね。
 普段の生活でもそうだけど、中でも――……こういう蜜事のときは特に。
「ッ……!」
 するりと腰から手を滑らせてズボンと一緒に下着を下げると、起立した彼自身が目に入った。
 ……相変わらず、なんだかんだ言ってしっかり反応してるじゃない。
 まさに口とは裏腹って感じの純也の反応が少しだけおかしくて、笑みが浮かぶ。
「……っ……く」
「ん……」
 そっと手で包み込むように触れてから、ゆっくりと舌を這わせる。
 途端に苦しげな吐息を漏らした純也が、ベッドに腰かけたまま私の肩に置いた両手に力をこめた。
 ……この顔。
 わずかに角度を変えて彼の表情を伺うようにすると、目に入るのは瞳を閉じたままなんとも言えない悦の顔をしている。
 こんな彼の反応を見るのが実は……結構好きだったりして。
 だって、普段と全然違うんだもん。
「ッ……ぅ……」
 根元から舐め上げるように舌を這わせ、先端を口に含む。
 すると、やっぱりそのたびにぴくっと反応を見せた。
「……は……ぁ」
「んく……」
 唇で挟み込むようにしながら刺激を与えると、濡れた音とつらそうな純也の息遣いが耳に入る。
 なんかこう……すんごい素直っていうか、しおらしいっていうか……弱者?
 それこそもう、為すがままにされてるって感じがして無性に嬉しくなるのよね。
 ……人はコレを、サドとかって言うけど。
 でも、こういう気持ちって実際はどんな人にだってあると思う。
 ……そう。
 あの羽織でさえもきっと、いざ祐恭先生のこーゆー顔見たら、『先生、気持ちよくしてあげるから』とか言い出すんじゃないの?
 ……でも、いつだったかな。
 こういうふうに、私からコレをやるって言い出したのは。
 …………。
 ………あー……アレだ。
 多分、今年の夏。
 あの――……羽織と一緒に見た、AV以来だ。
 “フェラ”って言葉自体はもちろん知ってたし、どんなことをするのかも知ってた。
 だけど、純也自身が『しなくていい』って言ってたってこともあって、もしかしたら気持ちよくないのかも……とか思ってたのよね。
 だから、私もあのときまでは何も言わなかった。
 そういうものなんだって思ってたから、敢えては何も。
 ――……だけど。
 あのビデオを見て、考えが完全に変わって。
 あれで初めて、『ああ気持ちいいんだな』って確証を持った。
 だって、すんごい気持よさそうに……声、出してるんだよ?
 だもん、気持ちよくないはずがない。
 ……っていうのが、単純な感想。
 そして、もうひとつは『純也で試してみたい』って気持ちがあったからだったりして。
 だってかなり気持よさそうだったんだもん。
 それで、思ったのよね。
 普段『嫌だ』とか連呼してる理由が何かあるんじゃないか、って。
 ……そしたら、コレよ。
 すんごいつらそうで、だけど気持よさそうで。
 ……あー、男の人も感じるんだなー……なんて馬鹿な考えを抱いたほど。
 でも、お陰でそれ以来私も気兼ねなくいろんなことを口に出せたり、行為に移せたりするようになった。
 ……実は、あのときまであんまりSEX自体が好きじゃなかったのよね。
 別に、気持ちよくないとかそういうんじゃない。
 ただ――……私のほうが弱い立場にいるような気がしたから。
 普段は割と“同等”の立場にいられるからこそ、ことコレに関しては絶対的に私が不利なように感じていて悔しかった。
 ……でも。
「く……」
 コレをするようになって以来、割と楽しめるようになった。
 ……って、私が言うセリフじゃないのかしら。
 でもまぁ、関係ないわよね。
 私と純也。
 そのふたりだけの、まさに密事なんだから。
「……ん?」
「っは……ぁ……お前な……っ」
 バシバシと肩を叩かれて顔を上げると、何やらやたらと苦しそうな顔をしていた。
「ぁふ……何?」
「何じゃねぇって……」
「……何よ。文句とかあるわけ? いい度胸してるわね」
「そーじゃなくて……」
 肩で荒く息をして、どこか切羽詰ってるような顔。
 だけど、こっちとしてはせっかく気持ちイイことしてやってるんだから、文句なんて言われる筋合いはないワケで。
 ……腹立つわね。
 理由がわからないからこそ、寄ったままの眉は一層深く皺を刻む。
「…………」
「……ん? 何よ」
 無言で私を手招き、まるで『いいからちょっと立て』みたいな顔した純也が、ものすごく怪しく映る。
 ……でもまぁ、素直に立ち上がってやるけどね。
「…………」
 でも、私に非なんてないんだから、文句言ったら押し倒すわよ?
 そういう意味をたっぷりと込めてから、睨みつけ――……。
「ッ……きゃ!?」
「ったく……もういいっつってんのが聞こえねーのかよ」
「は……ぁっ!?」
 ぐいっと腕を引っ張られると同時にベッドへ倒され、顔のすぐ横に純也が手をついた。
 ……け……形勢逆転。
 うわ。
 すんごい腹立つんだけど、なんか。
 ものすごく機嫌悪いみたいな顔のまま荒く息をつかれ、先ほどまでと違いすぎる雰囲気に喉が鳴る。
 ……ヤバい。
 もしかしたら、殺され……じゃなかった。
 何か、ヤられるかもしれない。
 嫌な汗みたいなモノが背中を伝うような気がして、合わせていた視線を逸ら――……。
「ッうわ……!?」
 途端、いきなりスカートの下に手が入ってきた。
「なっ、な……!? ちょ、ばっ……馬鹿! 純也、やだっ!!」
「……うるせーな。散々人の言うこと聞かなかったヤツ、どこの誰だよ」
「だ、だっ……! え!? っていうか、何か言ってたわけ!?」
「言ってたっつーの。ずーーーっと『もういい』っつってたろうが」
 慌てて身体を起こそうとしたら、その肩を片手で押された。
 ……く……悔しい。
 せっかく私の勝ちみたいな雰囲気になってたのに、まさかこんなことになるなんて。
「っ……!」
「……ふぅん? 俺に何かシテたくせに、自分もしっかり感じてたとか?」
「な……んなのよ、その言い方は……ッ……」
「別に。……身体は素直なんだなと思って」
「っ……く!」
「あてっ」
「っるさい馬鹿!!」
 秘所へと下着越しに触れられて、思わずびくっと身体が反応した。
 ……くぅ。
 何もそんな言い方しなくてもいいと思わない?
 なんか、ものすごく腹が立つ。
 私だって、別に好きこのんでこんな状態になってるワケじゃないっていうのに。
 ……感じ悪い。
 だから、純也はひとことふたこと余計だって言うのよ。
「ッ!? んっぁ……!」
「……すっげ濡れてる」
「く……っ……や……ぁ」
 ちゅぷ、とはっきりとした音が聞えた。
 そして同時に――……ナカに感じる彼の指も。
「ふ……ぁ……」
「……すごいな。……何? そんな感じてた?」
「……るっさい……」
 指で中を探られるようにされるたび、情けなくも身体から力が抜けて言うことを聞かなくなってしまう。
 だけど、さっきまでとはまったく違う純也は普通そのもので。
 ……あれほど切羽詰ってたくせに。
 するりと下着を下ろされて彼を睨むと、それに気付いてか口元だけをにやっと上げた。
「……ッん!!」
「っは……」
 突然、指を引き抜かれるのと交代にそれよりもずっと大きなモノが中に這入ってきた。
「ぁ……ぅあ……っ……」
 身体全体が強い悦に飲み込まれたかのように震え、全身が粟立つ。
 ……ヤバい。
 なんか、いつもよりもずっとずっと感じてるのがわかる。
 だけど、それを改めて認識してしまえば、さらに――……悦は増すだけで。
「んっ、んん……!」
 わずかに動かれるだけで足が震え、口からは喘ぎと荒い息遣いが漏れた。
 ……すごい悔しい。
 どっちが主導権握ってるかっていったら、当然上にいる純也のほうで。
 こんなことになるなら、途中でもう1度形勢逆転といきたいところなのよね。
「っく……んぁ……」
「……すげ……締めんなよ……」
「ンなこと言われたって……困るわよ……ばか」
 口では、いつもと同じ減らず口を叩くだけの余裕を見せてやる。
 ……だけど、同時に身体の奥から彼を求めるかのような強い欲が湧いてくるのを感じた。
 もっと。
 もっと、欲しい。
 ……もっと――……。
「ん……気持ち……いい」
 うっすら開いた瞳の先に映ったのは、少しだけ驚いた顔で。
 ……だけど、今のは本音。
 自分でも意識しない内に、勝手にこぼれた。
「……もっとしてやるよ」
 どこか悔しくなるような表情だったけれど、でも、そう言った純也を求めるかのように、気付くと両腕を精一杯に伸ばしていた。


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