眠りに落ちる寸前、スマフォが小さく震えた。
さすがにこの時間に音を鳴らすわけにはいかないので、マナーモードにしておいたんだけれど……誰だろう。
「んー……」
眠気に堪えながらそれを手にすると、なにやらメッセージが届いていた。
差出人は祐恭先生。
……こんな時間になんだろう?
少し不思議に思ってから開くと、たったひとことだけ書かれていた。
『朝5時 弓道場へ』
「……ご……」
5時!?
思わず口に出しそうになって慌てて手を当ててから、そんなに早く起きれないと返事をしたものの、すぐに既読がついた。
『未成年につき、説教がまだ残ってます。こない場合は、もれなくペナルティ5倍』
ひぇ……ひどくないですか、それ。
思わず、無言で枕に顔を埋めると、小さなうめきが漏れる。
うぅ、だって、あのあのですね。
私、ただでさえ早起きって苦手なんですよ。
それ、先生だって知ってるじゃないですかぁ……。
なのに、有無を言わさないというか、すっごく強引で……うぅひどい、先生。
しばらく待ってはみたものの彼から次のメッセージはなく、仕方ないのでスタンプを送る。
泣いてる顔。
……うぅ。
行きますってば、もぅ!
既読はつくけど反応がないので、もうひとつ『OK』のスタンプも送る。
すると、すぐに『明日ね』とひとことだけ返事が来た。
「……はー……」
なんで5時なんですか。
起きよう。死ぬ気で……じゃないと、ペナルティ5倍なんて困るもん。
明日起きて行かなかったら、一気にペナルティ5個ってことでしょ?
そんなの困る!
「……はぁ」
しっかりアラームをセットし、枕元へ置く。
とはいえ。
あんな約束を急に取り付けられて、そう簡単に眠れるはずもなく。
暫くの間あれこれと考えごとをしてから、仮眠の形で浅い眠りにつくしかできなかった。
ふと目が開いた。
……まだ、アラーム鳴ってないよね?
よっぽど緊張していたのか、あっさりと4時半に目が覚めた。
わ、すごい。
人生初の記録じゃない?
私が目覚ましよりも早く、しかも4時半に起きるなんて。
まさに、奇跡。……ううん。
きっと、ペナルティに対する恐怖がそうさせたんだろう。
「…………」
物音ひとつない静かな朝。
うっすらと空が白んできたのを見てから、物音を立てないように部屋を抜ける。
当然のように、誰もいない廊下。
時折きしむ階段にびくつきながらも、5時を待たずに弓道場へ向かう。
……先生がいなかったら、起こしに行こう。
なんて考えてから、ドアを開――
「わ、せんせ」
「あれ。遅刻常習の瀬那さんが、早いじゃないか。随分」
「ぅ。……別に、いつも遅刻してるわけじゃないですよ?」
すでに、彼がいた。
私を見て驚いた顔をしながらも、しっかりからかってくれるだけの余裕を持ち合わせて。
しかも――先日と同じ、袴姿。
これから弓を張るところらしく、私が声をかけると手を止めてこちらに歩いてきた。
「もう起きてたんですか?」
「まぁね。来るまでもう一度射ておこうかと思って」
小さく笑みを浮かべた彼が、いたずらっぽく笑う。
それはまるで、『誰かさんと違うから』とでも言っているように見えた。
「え? 射ないんですか?」
「それより、まずは行くところがあるんだよ」
私の手を掴んだ彼は、そのままの格好で出入り口の戸を開けた。
どこへ向かうのかと思いきや、玄関のサンダルを履いて外へ。
「行くって……どこへ?」
「内緒」
「……もぅ」
彼に引っ張られる形のまま慌てて靴を履き、外へと続く。
それこそまだ、早朝とよばれる時間。
旅館の廊下と同じで、誰の気配もなければ、シンとしていて音もない。
たまに木々から鳥の鳴き声が聞える程度。
「…………」
「…………」
無言で手を引かれるままながらも、外気と違って繋がれた手が温かく心地いい。
先生が、手を握ってくれる。
しかも、外で………彼のほうから。
「…………」
祐恭先生が今どんな顔をしているかはわからないけれど、嬉しくてずっと笑みが浮かんだまま。
だって、嬉しいんだもん。
こんなふうに手を握ってもらえるなんて。
しかも、ふたりきりで歩けるなんて。
今回だけは絶対に無理だと思っていたからこそ、どうしても嬉しさを隠し切れなかった。
「……忍野八海……?」
「そ。この前来たときは、できなかったことがあるからね」
そう言うと、湧池の横にある、まだ開いていない売店の前へと足を運んだ。
気持ちよさそうな水が、音を立てて流れている泉のようなもの。
そこの看板には、こう書かれていた。
『30秒間、手を入れて我慢』
……30秒?
「これ、覚えてる?」
「え?」
その泉を指差した彼が、私を見て小さく笑った。
「覚えて、って……? え? 知らないですけれど」
「昔、お父さんに連れて来られたことは?」
「……あ……。そういえば、来たことがあると思います」
よくは覚えてないですけれど、と続けると彼が『そっか』と呟いた。
確かに、この泉の前で写真を撮ったことはあるらしい。
新しく買ってもらったキャップを得意げにかぶっているお兄ちゃんと、つばの広い白い帽子をかぶった私。
ふたり並んでここで撮られた写真が、アルバムに入っていたのを見た覚えがあるから、『ここに来た』ここは知っている。
でも、なぜか私だけが泣きそうな顔なんだよね。
さすがに、その理由までは思い出せなかったけれど。
「どうして知ってるんですか?」
「この前、学校で瀬那先生に会ったときに聞いたんだけどさ。幼稚園で男の子に『泣き虫』って言われて、悔しくて30秒以上手を入れてたんだって?」
「え、そんなことまで聞いたの?」
「うん。孝之に勝ったって嬉しそうだった、って」
「……うーん……したような、しないような……」
改めて知る、自分の記憶にない記憶。
幼稚園のころは、確かに泣き虫だった。
お兄ちゃんにもよくからかわれたし、男の子にもいじめられた。
だけど、幼稚園ではそのたびに絵里が助けてくれたんだっけ。
男の子たちが慌てて絵里から逃げていくのを思い出して、ちょっとだけおかしくなる。
「え?」
「勝負ね。30秒」
「……う、うん……」
ざっと弓道衣の袖をまくった彼にならい、慌てて自分も手を出す。
すると、短いかけ声と同時に水の中へ手を入れた。
「っわ……! つめた……っ!」
「はは、これはすごいな」
朝という時間もあってか、水の冷たさはハンパじゃなかった。
手首から指先までが、刺されるような刺激。
わ、私、本当にこれに30秒も手を入れてたの!?
幼いころの自分は、誰よりも当然私が知っているはず。
だけど、これほどの冷たい水の中に我慢してまでやっていたとは、とてもじゃないけれど思えなかった。
でも、今はもう18歳。
ペナルティというものが背後にのしかかっているかも知れない今の状況で、『勝負』という名が付いた以上、負けるわけには……!
「…………」
「…………」
「……先生……」
「ん?」
「時間、計ってます?」
「…………計ってないな」
「もぅ! それじゃあ、30秒経った分からないじゃないですか」
眉を寄せて彼を見ると、少し考えたような顔を見せてからにっこりと笑った。
「じゃあ、耐久勝負にする?」
「……む、無理です……っ」
「ん。でもまぁ、もう30秒経っただろ」
彼の言葉で同時に手を抜くと、さっきまでと違って、目で見てわかるほどに手が赤くなっていた。
しかも、わずかな痺れも伴って。
「……冷たかったぁ……」
「ホント、びっくりしたな」
握ったり開いたりを繰り返しながら彼と笑うと、同じように笑いながら手を握っていた。
でも、これでスイカ冷やしたらおいしいかもしれない。
絶えることなく流れる水を見ながら、ふとそんなことが浮かぶ。
これがお兄ちゃんだったら、きっと『スイカ』が『ビール』になるんだろうけど。
「え?」
なんて考えていたら、不意に彼が私の手を取った。
水に入れていない温かな左手で……冷たくなった、私の右手を。
「せ、先生っ。冷たいでしょ?」
「だから、温めるんだろ?」
慌てて手を引っ込めようとすると、小さく笑ってからぎゅっと力をこめられた。
うぅ。私の手、冷たいのに。
「……あったかい」
「それはよかった」
柔らかな温もりが、冷えきった手をしっかり包んでくれて。
本当に本当に、心地よかった。
宿が見えてきた頃には、すっかり手の冷たさは元に戻っていた。
それが時間のお陰か彼のお陰かと言えば、圧倒的に後者だと思う。
「でも、羽織ちゃんをいじめた男の子の気持ち、ちょっとわかるかな」
「え?」
苦笑交じりに呟いた彼を不思議そうに見上げると、優しく微笑んだ。
「俺だって、いじめたくなるし」
「なっ、んでですか」
「ほら、好きな子はいじめたくなるってのが、男の性分だろ? だからきっと、その子も羽織ちゃんのことが好きだったんじゃないかなって」
「……そうですか……?」
「ずいぶん嫌そうだな」
「当たり前じゃないですかっ」
今だって、忘れもしない。
幼稚園のとき、クラスのリーダー格だった男の子は、何かにつけて私に文句を言ってきた。
ちょっといつもと違う髪形をしてみたり、新しく買ってもらった髪飾りをして行くと、すぐに色々言われて泣かされて。
そんな私をいつも守ってくれたのが、何を隠そうやっぱり絵里なんだけど。
「すっごく意地悪だったんですよ? 毎日のように泣かされてたもん」
「でも、印象には強く残ってるだろ?」
「……それはまぁ」
眉を寄せて彼を見ると、なぜか楽しそうに笑ってうなずかれた。
「男の子なんて、そんなもんだよ。好きな子はいじめたくなる」
「……先生も、そうやっていじめたんですか?」
「まさか。俺は優しいからね」
「じゃあ……どうして私のことはいじめるの?」
「それは、羽織ちゃんがいじめてほしそうな顔してるから」
「なっ……! そ、そんな顔してないですよ!」
にやりと笑われ、慌てて首を振って目一杯否定する。
だけど、彼はまるで私のそんな反応をわかっていたかのように、笑ったまま頭を撫でた。
「好きだからに決まってるだろ?」
「……せ、んせ……」
「何かと反応が可愛いから、ついついいじめたくなるんだよ」
「もぅ!」
一瞬見せてくれた優しい顔に続いたのは、やっぱり彼らしい悪戯っぽいものだった。
……でも、いいもん。
最初に見せてくれた顔を、私は信じるから。
うん、そうしよう。
くすくす笑ったままの彼の背中を見ながら独り頷くと、ちょっぴり切ない感じもしたけれどね。
「じゃ、寝直そうか」
「え?」
宿に戻って玄関を上がった途端、彼がにっこり振り返った。
「今ならまだ、時間もあるし」
「え!? あ、ちょっ……先生……!?」
手を引っ張るように掴まれ、私の返事なんて聞かずにどんどんと階段を上がっていく。
こ……このままじゃ、抵抗するだけの時間もないんじゃ……!?
時間が時間だけに大きな声で否定することもできず、繋がれた手をそっと離して一応の拒否を示す。
だけど、たちまち彼は振り返ると瞳を細めた。
「何?」
「っ……だって、そんな!」
「大丈夫だよ。鍵かかるし」
「そういう問題じゃないんですってば!」
さっき通ったときと同じく、廊下と階段が少しだけ軋む。
こんな時間に彼とふたりきりでいるだけでも十分怪しいのに、こそこそ話していたらもっと怪しい。
起きている誰かがいるかもしれないし、いきなりドアが開いてしまうかもしれない。
そんな不安から、極力声を抑えて彼に抗議を続ける。
……でも。
「うー……ダメですよ、そんな」
「いいんだよ、たまには」
「……たまにじゃないんじゃ……」
結局、部屋へ引っ張り込まれる形で入らされたあと、すぐに鍵が閉まった。
……うぅ。
これじゃあ、もう本当に逃げられないんですけれど。
ごくり、と喉が鳴り、隣に来た彼を見てから眉が寄る。
「……いいんですか? 弓道場、弓とか出しっぱなしなのに」
「すぐあとで片付けるよ」
「でもっ! 袴……」
「平気だって。女将が貸してくれたんだから」
「だったらなおさ――……わっ!?」
ずい、と寄られてあとずさった途端、柔らかい物に足を取られた。
慌てて身体を起こして見ると、それは……白いお布団で。
「……え!?」
「自分から布団に行くなんて……待ってたんだ? ああ、なるほど」
「ち、違いますよっ! これは、たまたまっ……」
「なんにせよ、手間が省けたね」
くすくすと含み笑いのまま、彼が膝をついて顔を近づけてきた。
後ろに手をついて座る私をじぃっと見つめてから……ふっと笑って眼鏡を外す。
……う。
その仕草、やっぱりどきどきする。
仕草っていうか瞬間っていうか。
彼のその顔には弱い。
「……先生……本気ですか?」
「本気も本気。マジ本気」
「もぅ! 絵里みたいなこと言わないでください!」
真剣と言うよりは、まるで私の反応を楽しむかのような顔に、思わず眉が寄る。
絶対、先生わざとなんだから。
絵里が以前彼に対して遣った言葉をこんな場所で持ち出すなんて、それ以外に考えられない。
「最初聞いたときはすごい言葉つかうなって思ったけど……でも、結構ゴロがよくてつかいやすいんだよね」
「もぅ」
おかしそうに笑って頬に手を当てられ、情けなくも身体は反応してしまう。
撫でるように頬に触れ、髪をすくう。
ときおり、直接肌に触れる彼の掌。
それが、なんとも言えず一層自身を煽っているのはわかった。
「……さ。寝直すか」
「う……」
あまりにも楽しそうな顔で、思わず小さな呻きが漏れた。
まるでそれを聞き逃さなかったかのように、瞳を細めた彼が顔を近づけてくる。
「っ……!」
唇をぺろりと舐められた。
いつもと違う感触に思わず反射的に瞳を閉じると、耳元では楽しそうな笑い声が聞こえる。
……うー。
どきどきと早く鳴る鼓動と、寄せられた唇の感触。
そのどちらをも感じてしまうと、一際身体が熱くなった気がした。
「さて。どうやって寝直そうかな」
「ふ……普通が一番いいと思いますけれど……っ」
「ん? それじゃおもしろくないだろ?」
「別に、面白さは求めてませんっ!」
瞳をぎゅっと閉じたままで首を振って、彼に抗議する。
「っ……!」
「ふぅん。そういうこと言うんだ」
途端、彼の声が変わった。
「……んっ!」
Tシャツの下に手を入れられ、そのまま背中を撫でられる。
大きな温かい手。
朝方の涼しさには、素直に心地良いと感じた。
……よ、よかったけど……っ。
「ぁっ……!」
あっさりとブラを外され、その手が前へと回って来た。
「ぅ、んっぁ……」
胸に触れた途端、ゆっくり揉みしだく動きへと変わる。
手つきが妙にやらしくて、つい声が漏れた。
「嫌なんじゃなかったの?」
「だっ……てぇ……」
「何? 身体と心は別かな」
「違うけどっ……だって、先生が……!」
「俺が、何?」
「ふぁっ……!」
指先でやんわり先端を責められ、あっさりと身体から力が抜ける。
その代わりに、ぞくりとした快感が背中を走った。
逃げるように後ずさるも、彼の大きな手のひらがそれを阻む。
うぅ。逃げられないじゃないですかぁ。
思わず彼を見上げると、すぐここでいたずらっぽく笑い、耳元へ唇を寄せた。
「先生が……いじめる、から」
「失礼な」
「んっあ……ぁ……!」
指で円を描くように胸の先を弄られ、ぴりぴりとした感覚に思わず声が漏れた。
そんな様子を楽しそうに眺めて耳元で笑い、さらに彼が唇を寄せる。
「……愛してるのに?」
「っ! ふぁ……」
わざと息がかかるように囁かれ、情けない声が口から漏れた。
手を胸に当てたまま、耳たぶを舌で舐め上げられる。
「ん、んっ……」
温かい濡れた感触に、思わず背中が粟立つ。
なぞるように這わされた舌は、そのまま首筋へ。
「っく……ぅん」
を丹念に口付けられ、力がまったく入らない。
彼に回した手は何も掴めず、ただ絡んでいる状態で精一杯。
彼の身体を押し返すこともできず、引き寄せることもできず……為されるのみ。
それが、情けなくも淫らで頬が熱くなった。
「んっ、やぁん……!」
足を崩してもたれると、彼が背中に手を当てて布団へと身体を倒した。
と同時に、指で弄られていた部分を口で含まれる。
耳とは違う、柔らかくも鋭い刺激で、さらに声が漏れる。
「あ、んぁっ……あっ」
いとも容易くTシャツをたくし上げかと思いきや、そのままあっさりと脱がされた。
窓が開いていないとはいえ、涼しい空気が肌に触れる。
それだけで、胸の先が硬く反応する。
「……やらしいな」
「っだって……ぇ」
うっすらと瞳を開けた途端、目が合う。
意地悪そうな笑みを浮かべて、私からばっちりと見えるように舌を動かす。
それがものすごく恥ずかしくて、思わず顔が逸れた。
「どうした?」
「や……恥ずかしい、のっ」
「……ふぅん」
意味ありげな、含み。
それが何を意図したモノなのか――…なんて考える隙もなく、ショートパンツの裾から手を差し込まれて、太腿を撫でられた。
「やっ……!」
ぞくりとした触感に、たまらず足が閉じる。
「だめ」
「やぁ、だて…っ」
「ん? ヤダとか言うと――」
「っ……! ペナルティはなしなんじゃっ……!」
「行い次第かな。ほら。どうしたらいいと思う?」
「……う……」
ぺちぺちと足を叩かれ、思わず力が抜けた。
どうして先生は、こうも楽しそうな顔をするんだろう。
とびきりの笑顔を見て、反対にこちらは泣きそうになった。
「っは……、ぅん……!」
布越しに秘所を弄られ、たまらず声が漏れる。
それをどこか楽しむように笑った彼が、ショーツをずらして指を中に入れた。
「んぁっ……!」
「身体は正直だね」
「やだっ……いじわる……!」
「だから、意地悪してないって言ったろ? こんなに濡らした誰かさんが悪い」
「はぁっ……ん!」
秘部を撫で、そのまま充血した花芽を探り当てられ、たまらず彼の弓道衣を掴む。
胸と同じように円を描く様に撫でられるも、微妙な位置でもどかしさが生まれる。
……やっぱり意地悪じゃないですか……っ。
悔しいような、切ないような、どちらとも言えない感じ。
荒く息をしながら彼を見ると、自然に唇を噛んでいた。
「何か言いたげな顔だね」
眉をしかめたのを見て、楽しそうに耳元で囁かれた。
そっと目を開けて彼の瞳を捉えると……うぅ、すっごい楽しそうなんですけれど、なんでですかぁ。
「……いじわる……!」
「嫌なの?」
「ぅ、嫌じゃないけどっ……ちゃんと……」
「ちゃんと?」
「…………ほ……欲しぃの……っ」
「そう? じゃあ、許してあげてもいいよ」
うぅ。
彼はただ、私に言わせたかっただけなんだ。
そうじゃなきゃ、視線を逸らそうとがんばっている私の頬を押さえてまで、真正面から表情なんて見たがらないよね?
……それに…………あの、ものすごく満足みたいな笑顔が、『正解』だと告げているように思えた。
「んっ……!」 、
ハーフパンツごと下着を脱がされる。
途端に、濡れた場所へひんやりとした空気が当たり、なんとも言えない震えが身体を走った。
うぅ、なんか……やらしい。
自覚すると、たちまち身体がそちらの方向へ持って行かれてしまいそうになる。
「……いいね」
「ぇ、何がですか……?」
「こう……朝から、こんな姿を見れるのは」
「っえっち!」
にや、と明らかに口角を上げた彼に眉を寄せてからぎゅっと肩を両手で抱くようにすると、小さく笑って再び指を身体に這わせてきた。
「……はぁっ、ん」
同時に、胸を口内に含まれる。
舌で撫でられ、軽く吸われ……うぅ。もぅ、やだぁ。
「っん……もっぅ……やぁん」
「何が嫌?」
「っく、ん……っ気持ちいい……の」
「ならいいじゃない」
「だって……っん、やっ、ぁ」
胸の先を含んだままで喋られ、必然的に舌先で弄られる。
そのたびに、舐められるのとはまた違った快感が、身体を駆けた。
十分に満ちた秘部の蜜。
それをすくい絡めるように指を這わせては、花芽を撫でる。
「はぁ……は……ふぁ、っん……!」
繰り返されるうちに、徐々に高みへと近づいてきていた。
息が上がり、徐々に身体の中の悦が大きくなる。
「ん、んんっ……は……ぁ、はぁっ!」
弓道衣を握った手に力がこもり、さらに強く握り締める。
同時にぞわぞわとした何かが身体の奥から上がってきた。
「やっぁ……もっ、んんっ、だめっ……! ん、あ、あっ……あぁあんっ!!」
ぴくん、と身体が跳ねたかと思うと、新しい蜜が溢れた。
がくがくと足を震わせて彼にしがみつくようにすると、満足げに笑った顔が見えて、思わず恥ずかしくなる。
なんか……やっぱり、苛められてる気がする。
ううん、気のせいなんかじゃない。
「もぉ……えっちぃ」
「羽織ちゃんがね」
「ちがっ……んぁ」
言い終わる前に、指を中へと沈められた。
ちゅくんと小さな音とともにあっさりと飲み込む自身が、とてもいやらしく思う。
「は……は、ぁ……」
彼が指を動かすたびに、広がる音。
わざと響かせるかのように、何度も抜き差しを繰り返される。
「やだ、ぁ……そんな……」
「ん?」
「やらしぃ……の」
「しょうがない身体だな」
「……っぁん!」
指で奥まで弄られたかと思いきや、そのまま敏感な場所へ指をあてがわれた。
途端に、これまでの快感とは違う深いものが、再び溢れ出す。
「んんっ……や……はぁう」
「随分今日は敏感だね。……もしかして、こういう流れが気に入った?」
「ぅあ……ちが……っ」
軽く首を振ると、彼が胸の頂を再び含んだ。
自分の意識とは関係なく……自身が彼の指をいやらしく締めつけてしまう。
「やらしいな」
「……もぉ……やだぁ」
得られる快感と恥ずかしさとで、うっすら涙が滲む。
すると、それを見て彼が優しく微笑んだ。
「……泣かないでよ」
「泣いてないもん……っ」
今にも泣きそうな声でそう呟くと、指を引き抜いて……何かをしたのがわかった。
……来る、んだ。
秘所へ何かが当てられてから、彼がゆっくりと覆い被さってきた。
「っふ……ぁ」
「……く……」
熱い、彼自身。
すごく熱くて、脈打っているのがわかる。
ゆるゆると入ってきたかと思うと、一度止まってから再び動き出した。
「あっあ……ん!」
「……はぁ……」
耳元に吐息をかけ、髪を指ですくう。
これは、いつもと一緒。
彼はいつも、こうして触れてくれる。
だから、好き。
この時間も、このときの彼のかすかに色めいた表情も。
「……気持ちい……」
「んっ私、も……」
どこか掠れた感じのする声は、いつもよりずっと艶めいている気がした。
それだけで、感じてしまう自分がいる。
「っく、だからっ……締めない……」
「だって、ぇ……っ」
そう言われても、こればかりは自分の意思とは無関係。
だからと言って身体の位置を変えようとしても言われるし、意識してしまうと余計に……ダメだし。
だもん、そんなふうに言われても困――
「っ……んぁあ!」
「はぁ……」
いきなり抱き起こされ、彼の足の上にまたがって座る格好になった。
裸で……こんな格好。
胸を舐めあげるように見あげられ、なんだかとてもやらしくて、すごく……っ……。
「んっ、ん……!」
「……もう少し……このままでいたい気分」
「や……ぁん……」
背中に手を回して支えられ、ふるふると首を振って拒否を示す。
だって、ダメなんだもん。
先生のその顔が、すごくすごくえっちで……やらしい。
……困る。
こんなに彼に見つめられて、一体どんな顔をすればいいんだろう。
そして、どんな顔で――…どんな反応をすればいいの?
「んっ!」
だけど、考えの答えを導き出そうとする前に、私を見上げるようにしていた彼が、胸の下に唇を寄せた。
「ふぁ……」
胸のラインをなぞるように舌を這わせ、そのまま頂を責める。
わざと音を立てて為される行為が、一層この情事のやらしさを際立たせた。
「っくぅ……んっ……! あ、あっ」
彼と交じる音と、舌で責める艶かしい音。
他に音のない静かな朝だからこそ、余計に耳について離れなくなる。
「あっ、ん……もっ……せんせっ…」
「……何?」
ゆらゆらと動かされるようにしていたかと思うと、いきなり下から突き上げられる。
その動きのギャップが、ダメ。
だって、何もされない状態であろうとも、私にとっては強すぎる刺激だから。
「あっ、あ……ん! やっぁ……!」
「はぁ……そろそろっ、キツ……」
高まり来るモノを感じ、首を振って彼にすがるようにもたれかかる。
それを察したのか、さらに私を揺さぶると、途端に熱い感じが身体の奥から迫って来た。
ぎゅっと手に力を込め、堪えるようにする……けどっ……。
「あ、んっん! もっ……だめぇっ」
「……っく……!」
ぎゅうっと一際力強く彼を抱きしめると、途端に彼自身を飲み込むかの如く強い大きな快感の波が押し寄せてきた。
2度目の、高み。
そのせいか、がくがくとした震えがさっきよりずっと大きかった。
何度も締め付ける秘部。
……そして、彼自身。
「んっぁ……」
ほどなくして中に熱い感触を得ると、彼が抱きしめてくれながら髪を撫でた。
「……イイね」
「ぅ……えっち」
それはそれは艶っぽく笑った彼は、髪を撫でてからキスをくれた。
……うぅ。気持ちよかったですけど……でもあの、ですね。
「…………もぅ。えっち」
「いや、それは羽織ちゃんもでしょ?」
「っ……だって……」
「いい声いっぱい聞けて、俺は満足だけど」
「っ……もぅ!」
にや、と悪戯っぽく笑われ、さすがに眉が寄った。
もちろん、彼だけのせいじゃないのはわかってる。
でも……でも、だって。
……まさか、本当に朝からこんなことになるなんて……思わなかった、んだもん。
「あー……それじゃ、一緒に寝なおそうか」
「え?」
「早起きして運動まで済んだから、体力の限界」
「わっ……」
ぎゅう、と抱きしめた彼がそのまま布団をかぶった。
……温かい……って、そうじゃなくて。
壁にかかっている時計を見ると、朝食まであとたった30分しかないのが見えた。
「だ、だめですってばっ!」
「えー。なんで?」
慌てて起き上がる……も、彼は不服そうに眉を寄せる。
ぅ……機嫌悪そうな顔しないでくださいよ。
ていうか、時間がないって先生もわかってるでしょ?
「……みんな起きちゃう……」
「どうかな。大丈夫じゃない?」
「うぅ。そんないい加減な……」
「散歩してたって言えばいいじゃない」
「よくないですよっ!」
慌てて、あっちへ放られてしまったTシャツを着なおし、身支度を整える。
うぅ……ホントに眠そうですね、なんか。
どこか機嫌悪そうに見えるのは、眼鏡を外しているから? かな。
でも、どっちかっていうとすの表情にも見えて、なんとなく眉尻が下がる。
「あっ。それに、先生も弓片付けなきゃいけないでしょ?」
「……あー。忘れてた」
「もぅっ!」
思い出したことを伝えると、目を閉じてから『あー』とさらにため息を漏らした。
かと思いきや、ちゃんと身体を起こし、少しだけ乱れた弓道衣を直して……なぜか私をにやりと見つめる。
ぅ。なんですかその顔。
「羽織ちゃんの匂いがついちゃったな」
「っ……!」
「あー。ヘンなシミとかついてたらどうしよう。ばれちゃうかも」
「え、えっ……!?」
ていうか、なんてこと言うんですか……!!
かあっと頬が赤くなり、慌てて手を伸ばす……ものの、でも、うぅよくわかんない。
ていうか、私の匂いってなに?
うぅ。その表現、すごい恥ずかしいんですけれど!
「わっ!」
「……いい匂い」
「えぇ……? わかんないです」
「そりゃそうだよ。羽織ちゃんの匂いなんだから」
ぎゅうと抱きしめられ、温かさと……彼の力強さとで頬が緩む。
近い距離で聞こえる声が、とても優しくて。
……嬉しくて。
もぅ。ずるいなぁ。
そっと彼を見上げると、目が合ってすぐまた柔らかく笑った。
……えへへ。
いつも思うけれど、何気ない新しい彼の一面を見られると、すっごく嬉しくて優越感に浸っちゃうんだよね。
私だけが知ってる、彼。
あともうちょっとしたら、何もなかったかのようにいつもの『先生』の顔をするんだもん。
この時間は、私だけの特別なの。
「……片付けに行かないんですか?」
「もうちょっとだけ」
「…………もぅ」
そうは言いながらも、私も動けそうにない。
みんなには内緒の朝。
まだ肌寒いけれど、彼のおかげで少しだけ和らいだ、特別な時間そのものだった。
以上、酒を飲んで怒られた後から、朝方までの情事でした
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