「あ、あっ……」
 ひくん、と肩を震わせて高い声をあげる彼女が身に着けているのは、水色のアリスの服。
 ……やっぱ、これはどっからどう見てもメイド服だよな。
 ふりふりの真っ白いエプロンは、どうしたってそれしか彷彿とさせない。
 貧弱な思考回路だと言われようと、なんだろうと、今は関係ない。
 短いスカートから伸びる白い素足のほうがよっぽど“絶対領域だ”と、思いはしたが。
「壮士、さ……」
「どうした」
「んっ!」
 柔らかな胸の感触を布越しに楽しみながら、首筋をぺろりと舐める。
 されるがままの瑞穂もまぁ悪くはないが、やっぱり1番はこうしてきちんとした反応をもらえること、だな。
 俺の行為に反応してもらえないと、やはり面白みにかける。
「っ……!」
 足を撫でていた手を、太ももの間へ。
 温かく、柔らかな場所。
 だが、指を伸ばすと、そこにはショーツとおぼしき布に阻まれた。
 ……穿いてたか。
 さすがに口にはできないことを思い、一旦手を戻す。
 ソファでコトに及ぶってのでもいいんだが、すぐそこにデカいベッドがあることだし、そっちでヤるのが正統ってヤツか。
「あっ」
 体勢を変え、ソファに膝をついてから抱き上げる。
 ベッドまではすぐそこ。
 だが、このしっくりと身体に馴染む感じをすぐに手離すのも惜しい気はする。
「……っ」
 ゆっくりとベッドの真ん中に下ろし、改めて――背筋を伸ばしたとき。
 いわゆる、あられもないと呼ばれる格好に値するであろう瑞穂の姿に、ごくりと喉が鳴った。
 両膝を立てて合わせ、ベッドに両足をついている格好。
 ぎりぎり、下着が見えるか見えないかのライン取りでかつ、先ほど俺がほどいたらしく、エプロンの長い紐が左右に広がっている。
 ……だけじゃない。
 何よりも、その表情。
 眉を寄せて、しどけなく唇を開いたまま俺を見つめている瑞穂は、これから自分がどうされるのかわかっているようで、ほんの少しの戸惑いが浮かんでいた。
 …………マジか。
「え?」
「……ダメだ」
 ぐっ、と彼女の顔の横へ腕をつき、顔をぎりぎりまで寄せる。
 入った。
 俺の中の、色んなタガが外れるスイッチが。
「っ!」
「……えろい」
 つーか、かわい。
 お前、どんだけだ。
 マジかよ。
 俺をこんだけ煽るってのは、結構なモンだぞ。
 ……いや。
 やっぱり、瑞穂だから、か。
 お前という“ブランド”が、俺に与える影響はどうやらすさまじいモノらしい。
 久し振りに、身体の血がたぎるような感覚を覚えた。
「あ、あぁっ……ん!」
 ファスナーを一気に下ろし、両肩をむきだしにしながら首筋、鎖骨へと唇をあてがう。
 白いエプロンに負けないくらいの、白い肌。
 だが、滑らかさで言えば素肌の圧勝。
 安布なんぞとは比べものにならない。
「ん、んっ! ぁ、や……っふぁ……」
 素肌の範囲を広め、胸元を露わにする。
 片方は手で、もう片方は口でそれぞれ愛撫すると、途端に声が変わった。
 これまでよりも、もっと甘く、もっと耳に残る音。
 ……あー、たまんねぇな。
 舌先で胸の先を舐め上げながら、口角が上がる。
「ひゃ、ぅ……っ……ん、……ぁ、ぅあ……」
「……ここか」
 スカートの下へ手のひらを忍ばせ、ショーツの隙間から侵入。
 すぐに、熱を帯びた潤みに指先が包まれ、下腹部へ熱が集まる。
 ……ずっと。
 今日1日、ずっと瑞穂のことしか考えてなかった。
 いや、正確にはもしかしたらこんなふうに彼女を掻き抱くことだけを考えていたのかもしれない。
 発情してる高校生か、俺は。
 若干情けなくもなるが、久し振りに彼女と出かけたということと、何よりもあのコスプレってのがどうやら、じわじわとボディブローのように効いてくるらしい。
 が、極めつけはやっぱり“今”のこの格好。
 まさか、こんな格好でヤることができるとは。
 さながら、今日はツイてる日なのかもしれないと思えば、あの心底腹の立つクソ渋滞にも、若干感謝してもいい。
「あぁっ……ん、んぁ……や……ぅ」
 指を深くまで沈め、胸を吸うようにねぶりながら、指の数を増やす。
 ナカはナカで。ソトはソトで。
 ぷっくりと快感から起立した花芽を親指の腹で撫でてやると、びくんっと身体を震わせながら、俺の身体を手で押した。
「はぁっ……あ、やぁ……っ! そこ、……っ……」
「……気持ちイイだろ」
「や、あ、あっ……そんっ……んぁあっ……!」
 軽くいやいやをするように首を振る彼女が、たまらなくかわいい。
 感じているのは、十分わかってる。
 びくびくと指を締め付けてくるんだから、当然容赦はしない。
 徐々に荒くなる息を感じながら、ゆっくりと追い詰める、が――まだイかせはしない。
 ぎりぎりまで耐えたほうが、より強く大きな悦になることを知っているから。
「はぁっ、はぁ……っは、はっ……! あ、あぁっ、ん!」
 喉が締まり、声がひときわ高くなる。
 そこで指を引き抜いて少しだけ離れると、全身で息をしながらも瑞穂は惚けた顔で俺を見つめた。
「……どうした?」
 わかってるのに聞く俺は、相当意地が悪いのか性格が捻じ曲がってるのか、はたまたそのどちらもか。
 うっすら滲んだ瞳に捉えられるも、飄々とした顔ができるあたり、底意地が悪いのは確かだ。
「壮士さん……」
「なんだ」
「……や、です」
「何が?」
「…………そばにいてくれなきゃ……やだ……」
 小さなちいさな、か細い声。
 それでも、珍しく彼女が自らねだった。
 そばにいてくれ、か。
 それはそれは、なかなかかわいい表現じゃないか。
 でもま、ぶっちゃけもっとストレートに欲しがってくれてもいいんだけどな。
 別に俺は引いたりしないし、むしろ喜ぶ。
「平気だ。……離さないつったろ」
 キャビネットにあった銀色のパッケージの封を切り、そそり立つ自身にあてがう。
「ん……っ」
 秘所へ先を沈め、ゆっくりと体重をかけていく。
 ぐっ、と押し広げる感じと、ぴったり吸い付くというよりも、もっと強い密着感。
 ……あー、たまんねぇな。
 荒くなる息をつきながら根元まで沈めきると、それだけでどくどくと脈打つのがわかる。
「ふぁ……っ」
 身体を前のめりに倒し、彼女の肩近くに両手をつく。
 途端、瑞穂が眉を寄せ、しどけなく唇を開いた。
「あ、あっ……あぅあ……っ……そこっ……」
 漏れるのは、甘い声。
 俺自身で感じている、証拠。
 きゅう、とシーツを掴んだ彼女の手をほぐして指を絡め、唇をむさぼるように合わせる。
 口づけと、交わる音との濡れた音が響き、さらに瑞穂の声が加わる。
「っく……」
 キツく締め上げられ、思わず眉が寄った。
 いつもよりも、ずっと感度がいい。
 ……やっぱ、さっきまで寝てたからか?
 寝起きは妙に感じやすくなるってのも、男女関係ないんだな。
「あ、あっ、……そ、しさ……っ!」
「……っは……すげ、気持ちい……」
 ぐっ、ぐっ、と深くまで腰を押しつけるようにして律動を送り、徐々にスピードを早める。
 高まる、快感。
 どんどんと彼女の声が高くなり、そして大きくなる。
「あぁあっ……あ、あっ……いやっ……やぁん……!」
「っく……瑞穂……」
「あ、あぁっ……い、ちゃ……ぅんっ! んんっ……! いっちゃう……!」
「ッ……!」
 ストレートな言葉に、思わず自身が反応したのがわかった。
 彼女の中で体積を増し、余計に締め付けられる。
「っんん!! あっ、あっ!! やぁあぁっ……!」
「は、っく……!」
 イク。
 思った刹那、腰を両手で引き寄せ、律動を送る。
 途端にナカで果て、彼女の胎内もまた不規則にキツく締め上げた。

「……ん……」
 隣へ横になってから瑞穂を抱き寄せ、唇を重ねる。
 けだるそうな表情を間近で堪能するってのも、悪くないな。
 いや、むしろイイ。
 こういう顔を見れるのも、させることができるのも、俺だけの特権だからな。
「……このまま泊まってくか」
「え……?」
「どうせ、明日も予定ねーし。だったら、泊まってあと……2回くらい、できんだろ」
「ッ……え!」
 囁いた自分の声が、少し掠れていた。
 あー、満足。
 ダルさか充足感からか目を閉じたままなので表情は見えないが、声からなんとなく想像はつく。
 ……まぁ、そう言うなって。
 大人、なんだから。
「……っ」
「まずは、もっかいイカしてやるから」
「え!? や、あの……そんな……っ」
「いや、気持ちよさそうな顔してたから」
「っ……!」
「すっげぇえろい」
「やっ……! 壮士さんっ!」
「冗談」
 半分は、な。
 髪に顔をうずめ、そのまま首筋へ口づける。
 久し振りのデートってやつが、こういう展開ってもアリだな。
 そして、回り道もアリ、と。
「次は裸でするか」
「っ……」
「本気」
「そ、壮士さん!」
 ぼそりと耳元で呟くと、慌てたような声が聞こえた。
 そこでようやく目を開け、薄く笑う。
 鼻先がつく程度の距離にいる瑞穂が、頬を染める。俺を見つめる。
 そして――微笑む。
 この感じがたまらなく好きで、特別で、絶対で。
 ……ああ、やっぱり俺は瑞穂がいないとダメなんだな。
 もう、彼女が腕の中にない自分が想像できない。
 つい先日、まだこんな関係になれなかったときの俺は、やっぱりどこかしらが欠けていて、常に満たされていなかったことに気づく。
 いつだって自信満々のつもりだったんだけどな。
 人間、渦中にあると気づかないってヤツか。
「瑞穂」
「はい……?」
 きゅ、と腕に力を込めて名前を囁く。
 その声は、俺のモノなのにいつもとは違って聞こえた。

「ずっとそばにいてくれ」

 再度の懇願。
 すると、すぐここで頷いた瑞穂が耳元で囁いた。

 『ずっと、そばにいます』と、ひとこと。


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