「やっぱり好きになれないんだろ・・・・・・もう疲れたんだ」

いつも告白は相手からだった。好きだと詰め寄られ、押し通される形で付き合いが始まる。付き合う人はいつもいい人で―――しばらく経って自分も好きなのかもと錯覚しだした頃、なぜか相手はいつも背中を向ける。

「本当に人を好きになったことなんてないんだろ」

苦々しい顔でそう言い切られてしまう女―――それが私。


全く、双子だからってこんなところまで似なくてもいいのにね。
そう言って、2人で寄り添って泣き笑いしたのが一昨日。
全く同じ日に、全く違う理由で、私と妹は恋人を失った。






「・・・・・・るか、遥ちゃーん・・・・・・」
耳元で聞こえる微かな声と、自分の髪を掬う指の感触が、朦朧とする意識をゆっくりと呼び覚ましていく。少しだけ覚醒した頭は最悪に重くて、昨日の深酒が原因となっていることは疑いようも無かった。友だちが開いてくれた飲み会で、妹と2人してとことん飲んだのが昨日。馴染みの居酒屋さんを出る頃には相当酔っ払っていた。

「ああ、起きた?」
不意にはっきりとした声が流れ込んできて、私は急激に目が覚めるのを感じた。目の前に現れた屈託のない笑顔に、一瞬息を飲んだ。
「おはよ。もうそろそろ起きないと、大学間に合わないよー」
髪と同じに少し茶色がかった瞳が、こちらを見つめて微笑んでいる。きっと私なんかよりずっと長い睫が頬に影を落として、綺麗だなあと今さらながらに思う。
「おはよう、陸」
「シャワー浴びる?もう服は乾いてるよ」

私が起きる前にすでにシャワーを浴びたらしい陸の髪は濡れていて、微かに髪の先に雫が溜まっている。ベッドの端に座っている陸の指はもう私の髪に触れてくれていなくて、さっきまでの感覚が夢だったような気さえしてくる。陸の温もりが遠くて、急に心許ない気分になった。シーツを握りしめたまま、近くにある陸の身体に手を伸ばす。ガウンの裾を引っ張って呼ぶと、陸はこちらを向いて微笑んでくれた。

「なにー?」
「・・・・・・しない?」
温もりを求めるの子どものように、ただ傍に居て欲しくて、でもどうしたらそうしてくれるのか分からなくて。馬鹿みたいだと思いながら、出来る限りのポーカーフェイスを総動員して、何でもないことのように陸を誘った。

私の言葉に目を見開いた陸が、次の瞬間には困ったような笑顔で、私の頭をわしわしと掻き混ぜた。
「ちょ、何するのー!」
「遥ちゃんが馬鹿なこと言うからお仕置き中ー。・・・・・・言ったでしょ、俺、お子様は相手にしないんです」
「お子様じゃないもん!」
「はいはい」
目の前で微笑んでまた私の頭を撫でていく陸を目で追いながら、それだけで心臓が飛び跳ねるのを必死でばれないようにする。陸の大きな熱い手が触れただけでどくどく波打つ心臓も、熱くなる耳朶も。

「ほらほら、早く起きて着替えないと遅刻するよー」
何にもなかったようにベッドから起き上がって支度を始める陸を、私はシーツにくるまったまま恨めしく見つめた。
「・・・・・・子どもじゃ、ないもん」



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