組んだ両手をきつく握り締めて、私は校門の傍に立っていた。昨日望がくれた言葉を思い出して、静かに深呼吸をする。この気持ちを、どうにかしなくちゃいけないと思った。例え嫌われても、拒絶されても、何にもしないよりましだったと思えるように。

何人かの友だちと連れ立って、陸が歩いてくるのが目に入った。近付いてきた人たちの中にはこの間私に話しかけてきた男の子も混じっているのが見える。震える足を一歩踏み出すと、私に気付いたその人が、真っ先に声をかけた。
「あれえ、こないだの子じゃん」
「陸ー、お前に用事じゃねえの」
私を見てにやにやと笑う男の子たちの隣りで、陸が無表情にこっちを見る。
「・・・・・・なに?」
私に視線を向けた陸の表情が冷たくて、それが怖くて私は指先を白くなるほど握り締める。

「好き、なの」
それでも、真っ直ぐに陸の瞳を見て、私は声を絞り出した。周りで囃したてる声がしたけれど、誰に聞かれていても構わなかった。陸の瞳は少しだけ驚きに見開かれているようで、それでも彼は何も言わない。

「ほらーこんなやつ放っといてさ、俺らと遊ぼうよ」
口を閉ざしたままの陸と私の間に入り込んで、何人かの男の子が私に話し掛けてきた。その中の1人は馴れ馴れしく肩に手をかけてきていて、その嫌悪感に思わず眉が寄った。

「お前らうるさいよ、消えろ。・・・・・・こっち来て」
その男の子の腕を払いのけて、陸は冷たく言い放った。思わず言葉に詰まったその人が、自分の背中に何か怒鳴っているのにも構わず、陸はただ私の手を引いて歩いて行く。




「・・・・・・どういうつもり?」
授業が終わった後の空き教室のドアをバタンと大きな音を立てて閉めると、陸は私の手を離して近くにあった机に腰掛けた。
「俺言わなかったっけ、お子様は相手にしないって。・・・・・・迷惑なんだけど」
はあ、とため息を吐く陸は本当に迷惑そうで、やっぱりあの夜の陸とは別人のように見えた。私を抱きしめて、慰めてくれた陸。だけど、どちらが本当かなんて分からなくても、あの日のことを忘れることは出来なかった。

「・・・・・・傍にいたいって、思っちゃ駄目?抱きしめて欲しいって思っちゃ駄目なの?陸の言うとおり私は子どもみたいだけど・・・・・・それでも好きなんだもん・・・・・・!迷惑ならもう近付かない、だから一晩だけでいいから傍にいさせてよ・・・・・・っ」
ぽろぽろ零れてくる涙を、私は必死で拭おうとした。こんな風に泣いたら、また陸を困らせるだけで、また子どもみたいだと思われるだけなのに。
「寄って来る女なら、誰だっていいんでしょう・・・・・・?どうでもいい女でいいよ、傍にいたいよ・・・・・・!」
抱きしめてくれたあの身体の熱さを思い出したかった。笑ってくれた顔も、微かに触れた唇の感触も、忘れられないのに色褪せていくばかりで、泣きたいほど心細かった。


「・・・・・・だからお子様は相手に出来ないって言ったんだ」
何度目かのため息とともにガタンと音を立てて立ち上がった陸に、思わず身体が震える。置いていかれると身構えた私の頬に、陸の熱い手が触れた。
「こんな、女の顔して子どもみたいな我侭言って・・・・・・俺を困らせてるって自覚あるの?突き放したのは何のためだと思ってるんだよ・・・・・・大体、俺がどんな奴か分かってて言ってる?こんな、誰とでも寝るような、いい加減な奴なのに」
瞳を辛そうに揺らして、半ば自嘲気味に陸が呟いた。

「・・・・・・そんなこと?」
思わず、私は聞き返していた。
「そんなの、どうでもいい。あの日、抱きしめてくれた陸を私は好きになったんだから」
迷わずきっぱりと言った私を見返して、陸は驚いたように瞳を見開いた。まじまじと私を見つめた後、気が抜けたように表情を緩め、そして―――いつかのように彼は盛大に笑い出した。

「ちょっ・・・・・・何で笑うの、私真剣なのに・・・・・・!!」
うろたえる私を尻目にひとしきり笑ったあと、陸はさもおかしそうに、呆れたように一言呟いた。私の好きな、屈託のない笑顔で。
「ほんと・・・・・・馬鹿だねえ」

言い返そうとした私の唇を、陸のそれが捕える。すぐに離れて私が呆然としているのを認めると、ふっと微かに笑って、もう一度唇が降りてきた。何度も何度も、ついばむようにキスが落とされる。次第に深くなってゆくそれに翻弄されるように、私は陸の首に震える腕を回した。足に力が入らなくなって、立っていられなくなる。

「・・・・・・っどうして?」
落ちてくるキスの合間に、必死で尋ねた。
「なにが?」
「キス・・・・・・っ・・・・・・しないんでしょう・・・・・・?」
それを聞いた途端、誰に聞いたの、とバツの悪そうな顔をして、そのまま陸の腕が私を抱きしめた。抱きしめられた耳元で、今度は首筋にも唇を落としながら、気まずそうな陸の声が聞こえる。
「そうだよ、しない」
「じゃあ・・・・・・っどうして・・・・・・?」
何度も尋ねる私に、分かるでしょ、とため息を吐くと、それでも観念したように陸は呟いた。

「・・・・・・傍に置いときたいからに決まってるでしょーが」




いつも誰かに流されるように歩いていた。誰かに合わせて微笑むことが優しさだと勘違いして、たくさん傷つけてしまった人がいる。
私が今、自分の足で立っている事で、あなたは赦してくれますか―――?


溢れてくる涙を、陸の指が拭う。やっぱり子どもだなあと笑う彼はそれでも私を抱きしめて、あやすように髪を撫でてくれる。陸の体温が、私のそれと混ざり合う。



(迷いそうになったら、ここに帰ってくればいいんだよ)
そう言ってくれた、妹の言葉を思い出す。


望。
私は大切な人を見つけたよ―――。



 


ハルキさんから頂いた、誕生日プレゼント小説です!
ぎゃーーー!!!!!
なんですか、この完成度の高い話はーー!!!( ̄□ ̄;)
思わず、「貰っていいの!?」と本気でびびりました。
だって、陸くんすごい好み(笑
こういう子大好きだーv
そして、遥ちゃん!!
彼女のまさに恋に悩む等身大の姿は、「さすが」と思わせられるほどごく自然で。
だって、陸くんも遥ちゃんも、そして大学の子達も。
みんなみんな、普通に大学どころかその辺歩ってそうなんだもん。
だからこそ、感情移入も勿論、情景がぶわっと目に浮かぶ。
すんげー嬉しい・・・。
本当にありがとうございます!!!
実はこのお話、私とかなるんのイメージから派生して書いて下さったとの事。
双子(笑
ホント、ハルキさんはもうすげぇとしか言えません。
本当にありがとうございました!!!嬉しいよーー(T□T)


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