祐恭は、形の良い胸の輪郭に沿って、ゆっくりと撫でていく。 
 服の中に潜り込ませたもう片方の手で脇腹に軽く触れると、羽織の背がぞくりと粟立つ。 
 頬や首筋にキスの雨を落としながら、丹念に愛撫を続ける祐恭。 
 じっくりと、彼女の心にくすぶる火を大きくしていく。 
「あっん……」 
 しばらくすると、羽織の声の質が変化する。それはどこか非難めいた、もどかしげな感情を含み。 
 それを引き出せれば、彼の思惑通り。口元に自然と笑みが浮かぶ。 
 あくまで、手の動きは一定。 
「っん……ふぅ……やぁん」 
「どうかした?」 
「……もっと」 
「もっと?」 
 白々しく祐恭が繰り返す。 
「ん……ちゃんと、さわって」 
「どこを?」 
「――」 
 耳元で熱っぽく囁かれ、羽織の羞恥は限界に達し、弱く首を振る。 
「なら、自分で触って見れば」 
「あふっ」 
 彼の手に導かれるまま、指先で触れたそこは驚くほど濡れていた。 
 彼に見られながら、自らを慰めている。しかもこんな場所で……。 
 非日常的なシチュエーションが彼女の興奮をさらに高めていく。 
「ん……んくっ……あんっ!」 
 敏感な箇所に触れ、思わず上がった視線が景色を映す。 
「ぁん、ダメ。せんせ、下に着いちゃう……」 
「え?」 
 窓の外が確かに空の青から森の緑へと濃くなっていた。高度の低くなった証拠。 
 いつの間にか一周終わってしまっていたようだ。 
 それでも祐恭にやめる気などない。彼もまた引っ込みがつかないほど、火が大きくなっていたから。 
「やめてもいいの?」 
「え、それはぁ……でも」 
「だったら、いい子で大人しくしてて」 
 言うなり、抱いていた羽織を横へとずらし、自分の身体の影に隠す。 
 一連の動きのどさくさにスカートの中に手を差し入れておく。 
 羽織に口を開かれるよりも早く、淫裂に第一関節を沈める。 
「っ!?」 
「声を出すと、バレちゃうかもよ」 
 祐恭の意地悪な言葉に、羽織はさらに身を固くしながら、彼の腕にしがみつく。 
 その内、ゴンドラが地面に到着し、係員が寄ってくる。 
 彼は彼女を弄ぶ手とは反対の手でそれを止めると、さらに「もう一周」と指を立て、アピールする。 
 下に待ち客がいなかった事も幸いし、係員はOKサインを出すと、離れていった。 
 ゴンドラが再び空の住人となるまで、少しの静寂――いや、密やかな、それでいて熱いため息。 
「よく我慢したね」 
「……はぅん」 
 辛そうな抗議は声にならない。 
 会話の間も指はゆっくりと進み、今は指一本が全て収まった状態だった。 
「頑張った羽織ちゃんにごほうび」 
 突然、指の数が二本に増やされる。 
「んああっ、やあっ!」 
 強すぎる刺激に彼女の腰が浮きかける。 
 それでもさらに深く中をかき回す。 
「あっ……ああっ、ふぁぁん!」 
 ついに羽織は床へと崩れ落ちた。 
 向かいの席に上体をかけ、肩で荒い呼吸を繰り返す。 
 祐恭は彼女の腰を持ち上げ四つん這いにさせ、財布からとりだしたそれで手早く準備を済ませる。 
「ん、いい格好」 
「はうぅ……また、こんなカッコでぇ」 
「いくよ」 
 彼が入ってくる感覚に羞恥とは裏腹に快楽の波が押し寄せる。 
 それでも―― 
 祐恭の激しい律動に翻弄されながら、羽織は彼を振り仰ぐ。 
「先生……せんせ、ぇ。これ、ヤダぁっ……」 
「そんなに、恥ずかしい?」 
「それもある、けどっ……後ろだと、先生、祐恭さんの顔見えないから、やなのっ」 
 どくん。 
 言葉が確実に彼の琴線に触れた。 
「ホントにキミって子は」 
 彼はゆっくりと引き抜くと、羽織を座席に仰向けに返す。 
「ゴメン、俺もう限界。ちょっと苦しいだろうけど、カンベンしてね」 
「ん」 
 キスをしつつ、彼女に覆い被さる。 
 ほとんど押しつぶすように深く貫いていく。 
 席のスプリングが悲鳴を上げる。しかし二人はそんな事気にならない。 
 高みを目指して、求め合う。 
 片膝を抱え上げ、祐恭は愛しい人の名前を呼ぶ。 
「羽織、は、おり、いくぞっ」 
「うん、うん……祐恭さんっ……いっしょ、にぃっ」 
 彼が羽織の最奥を叩いたのと同時に、互いの言葉にならない声が響いた。 
 荒い息の中、どちらからともなく、笑みがこぼれる。 
 離れる事がためらわれ、二人はつながったまま、体を座席に預けた。 
「やっぱり、羽織ちゃんを選んで良かったかも。こうして俺にちゃんと応えてくれるし」 
「その言い方だと私がえっちな子だって意味に聞こえるんですけど」 
「えっちな彼女は、好きですよ」 
「もぅ……」 
 愛し、愛されて、一つになる、なれる事が幸せ。 
 それは単純で、紛れもない真実。 
 二人の幸せを映すように窓から見える景色は、どこまでも高い青空――ではなくやっぱり緑。 
「え? ……やば、もうすぐ下、着いちゃうよ。服、服直して」 
「祐恭さん、その前に、あの、これ……後始末」 
「そうだった。えーと、えーっと……」 
「あうぅ」 
 この後、彼らが三周目に突入したかどうかは――ご想像にお任せする。
 
  
 
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