「…何か、ドキドキしてない?」
「そりゃ、しますって」
「どして?」
「どーしてもなにも…」
ふむ。
と、尋未を見ながら考えてしまった。
どうしてもこうしても、ない。
裸で俺の上に乗って、可愛く首を傾げられてみろ。誰だってどきどきするだろう。
むしろ、稔のアホだったらもう一ラウンド繰り広げているところだと思うぞ…?
「…雅都?」
「尋未は気にしなくていいんだよ」
「…そう言われると、たくさん気になる…」
「女心はわからないな」
「これは、女心なの?」
「…さぁ?」
二人でこうして愛を交し合った後の、会話が好きだ。
力が抜けたような笑顔で俺に語りかけてくる尋未が愛しくて、抱きしめる腕についつい力が篭もってしまう。
いつもは腕の中にいる尋未が、今日はこうして胸の上でにこにこしながら俺を見下ろしているのがたまらなく、……たまらなく…、その、なんだ?
稔の言葉を借りて言うならば、「えっち」だ。
「雅都…、もっと心臓どきどきしてるよ?」
「……うん。しょうがないんだよ」
「なに一人で自己完結してるのよ…」
俺のちぐはぐな返答に、終いには笑い出した尋未を見て俺も笑みをこぼす。
「あ、その顔」
「ん?」
両頬をぺちりとその可愛い手で挟まれて、尋未が覗き込んできた。
「―――幸せーって、顔してる」
そう言って力の抜けた笑顔を向けた尋未の方が幸せそうだと思うぞ?
…とは言わないでおいて、言葉を返す代わりににっこり微笑んでやった。
「雅都はさ…」
「うん」
「……やさしーんだねぇ…」
「……」
「今日、優しく抱かれちゃったぁ…」
「……」
「私、…雅都に抱かれるの、すきぃ」
「………そうか」
うつらうつら寝そうになりながら、俺の上でぼんやりと尋未が笑う。
きゅっと抱きしめて、キスを落とした。
嬉しそうに、蕩けそうな笑顔でキスを返してきた。
「…まさとぉ…」
「ん?」
尋未の少し長い髪の毛を一房取って弄んでいた俺に、またぼんやりとした声が聞こえた。
「…明日、イヴだね…」
「そうだな…」
「なにか、欲しいものある…?」
「これといっては…」
「…じゃぁ、……私にリボンかけてあげるー」
な、な、な…!!!?
「ひ、ひひひひ、尋未!それ、おまえ誰から…!!!」
「…んー?…暁ひゃん…」
寝ぼけ眼で言われた一言は、俺に強烈な右ストレートを繰り出した。
一気に覚めた睡魔。押し寄せる稔に対しての感謝に、すーすーと、気持ち良く寝入っている尋未の笑顔を眺めていた。
「……稔にはめられたような気がするのは、俺だけか…?」
体勢を崩して、尋未を起こさないようにゆっくりと俺の胸の上から、ベットの上に寝かせる。
すんなりと腕に収まった尋未を見て、ついつい口元が緩んでしまった。
「……」
滑らかな白い肌を伝って、やわわかな乳房が見える。
その姿が子供のようで、しかし、体がしっかりオトナの色気があって、つい目のやり場に困ってしまう。
ついつい手を出して尋未の頬に触れると、寝ぼけているのか、尋未は触れた俺の手を両手できゅっと握った。
「…尋未…?」
「………」
「……寝ぼけてるのか?」
「………うん」
寝ぼけてても、返事ってするもんなんだ。
そんなことに感動して、俺は耳元でもっと囁いてみた。
「…尋未ー?」
「……うぅー…」
「愛してるよ?」
にんまり、本当に嬉しそうな顔して、俺の手を握り締めた。
その姿が可愛くて、気を良くした俺はもっと囁いてみる。
「……可愛い」
「…そ、んなことないよぉ〜」
「可愛いって」
「にゃへへへ〜」
「…にゃへへってなんだ、にゃへへって…」
「わかんにゃぃー」
「…おまえは猫か」
「……くぅ」
「寝息だし」
こんな尋未は初めてだ。
くすくす笑いながら、尋未を再び抱きしめた。
「……尋未?」
「あぅー…」
「………俺のこと、…すき?」
我ながら馬鹿な男だと思う。
こんなことをたとえ寝ているといえども、彼女に聞いてしまうなんて…。
普通に起きてるときにこんなことを言えば、彼女はきっと頑張ってしまうだろう。「自分が雅都を不安にさせた」と、思うだろう。
そうじゃなくて、…今、この幸せな空気の中で彼女の本心が聞きたかった。
俺に言われて、「すき」と言うんじゃなくて、自分から好きなときは「好き」って、そう伝えて欲しかった。
「……尋未?」
「………」
「……ちゅー」
「え?」
「ちゅぅ」
「キスか…?」
手を掴む彼女の両手が強く握られた。
答えの変わりにジェスチャーなのだろうか?と思った俺は、ゆっくりと彼女にキスを落とした。
羽根のように触れるキスを。
互いの唇の柔らかさだけが解るキスを落とすと、尋未はにんまり笑って俺の手を離して、その両手を俺の首に回した。
「だいすき…」
起きてるときと同じぐらいに、幸せに蕩けそうな顔をしてそう言われた。
笑って「大好き」だと言われ不覚にもたくさんどきどきしてしまった。いや、彼女から与えられるものは全てが愛しい。
寂しいって気持ちも、こうしてどきどきする気持ちも。
彼女がいなければ成り立っていかない俺の感情が、こんなにも愛しいだなんて思わなかったよ。
―――彼女にどきどきすることは、やめられないな。
と、この間稔と飲んだときに話した言葉が頭に蘇った。
こうして、二人で彼女にメロメロになるなんて思ってもみなかった。お互いに。
大好きだから、笑って欲しい彼女に出会えるなんて思ってもみなかった、とも稔と話したっけ…。
「…好きだよ」
素直にすんなり飛び出した俺の台詞。
尋未は、俺を抱く腕に力を込めて返事を返す。
―――恋人達の過ごす夜が、やってきた…。
―――――――12月24日0:00
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