「……え…っと…」
案内された席につく事が出来ず、ただただまばたきをするしか出来ない。
…これって、本当なんだよね。
なんかとっても、嘘というか……夢みたいで、現実感が湧いてこない。
……それもそのはず。
だって私は、音羽さんと暁さんに『いい所に連れてってあげる』って言われただけだったんだから。
だからこそ、まさかホストクラブに連れてこられるとは予想も出来なかったし、それに――……
「こんばんは?」
「………こ…んばんは…」
…家に居るであろう先生その人が、こんな場所で『ホスト』なんかをしているなんて、思わなかった。
「…おいで」
「え…?」
「隣でしょ?席は」
足を組んだままの彼が隣を軽く叩いてから、私に再び笑みをくれた。
…先生……だよね?
でも、服装もそうだけど髪型も……違って…。
それに………この、瞳。
いつもは眼鏡をしているから、こんな風に直接見る機会なんてそう多くない。
……特に、こんな灯りがある夜は…特別。
寝る時は『当たり前』でも、明るい場所でこの姿を見る事は滅多に無かった。
「っ……」
隣におずおずと腰を下ろすと同時に、彼が肩を引き寄せた。
途端に彼との距離が縮まり、当然のように……彼の瞳がより近くになる。
…どう…しよう。
一度見つめられたら、逸らせない。
そんな魔力染みた力が、今の彼には確かにあった。
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