「あ…っ…」
柔らかな唇が首筋を辿り、耳へと及ぶ。
するとすぐに舌先で、弱い部分を舐められた。
「んん…っ…や…」
「…今夜は、『嫌』なんて言葉厳禁ね」
「っ…そんな…!」
「…返事は?」
「…!……それは…」
「……返事は…?」
「…………分かり…ました」
半ば無理矢理に『はい』を強要されて頷くと、先程までの彼とは全く違って、心底満足げな笑みを見せた。
…いじわる。
だけど、そう言う事は出来ない。
彼は、ああ言った以上――…破ればきっと何かされる。
そう思ったからか、自然と頭も気をつけようと働きだした。
……ある種の、防衛とも言えるのかも知れない。
「っ!あっ…ん…!」
ぞくっと背中が粟立つと同時に、身体が震えた。
寒さを感じるような室温じゃない、今。
暖房がきちんと入っているから、今のは――…当然、『快感』からの物で。
それが分かったからか、彼が小さく笑った。
…勿論、手も何もかも、緩めないままで。
「…ふぁ…」
つつっと首筋を辿った指先が、ブラの上から胸に触れた。
まるで何かを探るかのように動き、そして……止まる。
…これだけでも、ぞくぞくと身体が反応してしまう。
だから、すごく恥ずかしくて……でも、どうにもならなくて。
何だかすごくもどかしい感じばかりが、身体を満たしていく。
「…取って欲しい?」
「……いじわる…」
「さっきからそればっかりだな」
ブラの縁と肌のラインを指でなぞった彼が、顔を覗き込むように尋ねた。
薄く瞳を開けて眉を寄せると、こちらとは対照的に、やっぱり楽しそうな顔で。
……いじわるだ…本当に。
ぎりぎりのラインを分かっているから、彼はいつもこうして焦らす。
………悔しい、ような気もする。
でも、そう言うのは何だか……ぅー。
「…っあ…!」
「…素直に言えばいいのに」
「そ…んんっ…ぁ……やぁ…」
「気持ちいい時は、そう言った方がイイんだよ?」
「ふ、あ…ぅ……ん…っ!」
ちゅ、と音を立てて胸元に唇を寄せた彼が、ホックを外すと同時に取り去って胸の頂を含んだ。
撫でるように舐められ、その度に濡れた音が響く。
…勿論、自分の……抑えられない声も、そう。
静かな部屋だからこそ、一層耳に届いて、身体が反応するのが分かった。
「は…ぁ…っ……ん…」
やんわりと胸を揉まれる度に、ぞくぞくと身体が震える。
どうしようもない快感が、身体を抜ける。
…だけど、自分じゃ本当に『どうしようもない』事で。
彼の手が、指が、髪が。
自分の身体に触れるたびに、どうしようもなく……嬉しくなる。
さっきまで、『居なくなってしまうかも知れない人』と不安だったからこそ、こんなに近くに居てくれる事が本当に嬉しくて。
「…え…?」
「……せんせ…」
気付くと、彼にぎゅっと抱きついていた。
と同時に、彼が動きを止める。
「…どうした?」
耳元で囁かれる、声も。
頬から髪を撫でてくれる、その大きくて少し冷たい掌も。
…何もかもが、嬉しかった。
彼だと言う存在全てが、私の近くにある事が。
「…………」
「…………」
まじまじと顔を見つめた彼の頬へ両手を伸ばし、そっと――…自分へと引き寄せる。
その瞳を、見つめたままで。
微かにも逸らさずに、ずっと……捉えたままで。
………そのまま、彼へと口づけをしていた。
「…どうした?」
「……え…?」
「こんな可愛い事して。……襲われてもイイって意思表示?」
「なっ…!?ち、ちがっ…!」
「謙遜しなくていいよ?」
「ほ、本当に違いますってば!」
閉じた瞳を開きながら、みるみる内に彼は悪戯っぽい顔になった。
…そんな事言われると思わなかった。
だから、こんな風に……自分から、キス出来たのに。
からかわれてるんじゃない、って事は自分でも分かってる。
でも、それとは違って、何だか――…
「っ…!」
ふっと彼から視線を逸らすと、いきなり彼がきつく抱きしめた。
「せ…んせっ…!?」
「……可愛過ぎだから。ホントに」
顔を見れない状況で、囁く声。
…それは、気のせいじゃなければ。
もしも、間違っていないとすれば。
――…ほんの少しだけ、少し前の彼のように、切羽詰っているように聞こえた。
「っ!?んぁ…!」
「…ったく…。…も少し、自分の置かれてる状況ってのを、きっちり判断するんだな」
「そ…んな事言われっ……っは…ぁん…!」
「見境なくなっても、イイって事?」
「だ、からそれはっ……んんっ…!!」
胸を揉みしだかれながら胸元を舐められ、空いた手がショーツに掛かる。
執拗に責められる弱い部分のせいで、身体から力が一層抜けていく。
…だから、自分でも彼に対して『弱っている』事を示す声しか出なかった。
抵抗をするだけの力は当然無い上に、抵抗するような……言葉も出ないんだから。
「っ!ああっ…ん!!」
するりとショーツを膝まで落とされると同時に、彼が太股の内側を柔らかく撫でた。
――…と。
「んぁっ…!?っや…ぁ……ふ…」
いきなり中を探るように指で探られ、びくっと身体が震える。
濡れたような音と、それを私に知らしめるかのように動く……指。
その動きがダイレクトに分かるからこそ、身体が火照る。
顔も、熱くなる。
…声が――…一層、高くなる。
でもそれは、彼が一番良く分かっている事だろう。
耳元で『勘弁してくれ』なんて声が聞こえたのは、間違いないんだから。
「っ…ん…ん……ぁふ…」
ちゅぷ、と音を立てて指を含ませてから、今度は弱い部分を撫でる。
それを何度も繰り返しながら、胸へと唇を寄せる。
……彼は、何かわざとやっているんじゃないだろうか。
まるで私の反応を伺っているような感じがして、やけに落ち着かない。
「せ…んせ…」
「…何?」
「……なんか…っ…んんっ!そ…ぁ、そこっ…ダ――」
「ダメ、なnて言葉は言わない約束だろ?」
「っ!…でも、それは――」
まるでつままれるかの様に人差し指と親指で突起を刺激され、自分でもどうする事も出来ずに足が震えた。
…弱いって、知ってるくせに…。
あまりに強い快感の刺激で、涙が浮かぶ。
だけど、彼は僅かに口元を緩めただけで、手は緩めようとしなかった。
「ここ?」
「!?っや…!!」
「嫌、じゃないだろ?…ンな声出して」
「け…どっ……はぁ、あ、や…っ…ぅん…っ…!」
蜜を絡めるようにした指が、幾度と無くそこを往復する。
…しかも、明らかに私の反応を見ながら、彼は指で触れているわけで。
「…ふあ……ぅ…も……やだ…っ…」
「あんまり『嫌』って言うと、ペナルティ付けるけど?」
「えぇ!?そん――…ひぁっ!?」
首を振って彼に手を伸ばそうとした時、いきなり膝を抑えるように手を当てられてから、彼が身体を割り込ませた。
「や…だぁ…!…こんな、こんな…っ……かっこ…!」
「…羽織ちゃんが悪いんだろ?俺が『ダメ』って言った事を、ちゃんと守らないんだから」
「…そんなぁ…!!」
先程までとは、立場が本当に逆。
今度は彼が膝で立ち、まじまじと私を見下ろした。
…うぅ。
こんな格好、やだぁ…。
いつもだったら、すぐに彼が来てくれるのに。
…なのに今は、まるで――…『自分で言わなきゃダメ』とでも言っているように見えてしまう。
………しかも、笑顔のままで。
だから、私はもう恥ずかしくてたまらないのに。
「悪いけど、楽しくてたまらないんだよね」
「っ…な…!」
「…だから、ごめん」
「え…?」
「今夜だけは、素直に聞いて?」
「っ…!んぁっ、あ…!!」
一気に変わった、声のトーン。
そして、瞳を見つめたまま言い切った彼は、ぐいっと秘所を押し広げるかのように、中へ這入って来た。
「んん、んっ…ぁ……や…」
「…は…。すご……熱い」
「やだ…ぁ、も…っ……言わないで…」
「……どうして?」
「だっ…!んんっ…っは…ぁ……だって…!」
ぎゅうっと抱き締めた彼が耳元で荒く息をしてから、身体を起こしてぐいっと奥まで突いた。
「っやぅ…!」
弱い部分を容赦なく責め立てられ、がくがくと足が震える。
背中が粟立つ。
でも、それでも彼は薄っすらと笑みを浮かべていた。
「……その顔見てると」
「…え…?」
「どうにかしてやりたくなる」
「っ…な…!?」
「――…って言ったら、どうする?」
瞳を丸くして彼を見つめると、すかさず彼が続けた。
…いじわる。
私の反応を、絶対に楽しんでるんだ。
でも、彼が言う言葉が『私を試しているモノ』だと言う確証なんて、当然どこにも無い。
……だから、困るのに。
いつだって彼が考えている通りの答えしか返せないから。
「あ、あっ…!」
びくびくと身体が震える程の悦を感じてシーツを掴むと、包み込むかのように彼が掌を重ねた。
先程までと違って、温かくて、優しい手。
だからつい、掌を返すように彼の手を握った。
「…こうして抱くの、好きなんだよ」
「……え…?」
動きを止めた彼が頬に触れ、優しいトーンで呟いた。
「肌に直接触れてるのが、凄く気持ちいい」
「っあ…」
頬に当てられていた掌が、首から肩へと滑って、腕を回すように腰へと回った。
愛撫してくれているように箇所箇所を撫でられ、つい声が漏れる。
情けなく、身体が反応する。
……でも、やっぱり…気持ちいい、から。
大好きな人だからこそ、特別な感じがぴりぴりと肌を刺激する。
「…それに」
「……え…?」
「俺で敏感に感じてるの、ダイレクトに分かるから」
「っ…ん!?」
囁くように告げられた言葉とは裏腹に、彼が大胆に動いた。
途端に彼を締め付けるのが分かって、自身が一層悦を得ようと動いてしまう。
…やらしい身体。
彼に触れて貰っているのが本当に嬉しくて、でも、それだけじゃなくて――…もっと、と思ってもいる。
もっと、触れて欲しい。
…もっと……愛して欲しい。
「んぁっ…あ…!」
中の弱い部分を角度を変えて責め立てる彼の腕に手を当てると、先程まで繋いでいた手と束ねるようにして頭の上へと追いやられてしまった。
当然それで胸が露になり、一層恥ずかしさが込み上げる。
「やっ…ん…!っはぁ、あ……っ…ふ……せんせ…!」
「…っく…。……凄い…気持ちい…」
はぁはぁと互いに荒く息をしながら、それでも尚責められる。
すぐそこにある彼の顔はとても色っぽくて、妙な魔法でも掛かっているかのように……えっちで。
……もぉ……困る…。
肩で息をしながら彼を見ると、一瞬瞳を細めて笑みを浮かべた。
――…途端。
「ッ…!?んっやぁあ…!だ、めっ…そん――…っふぁ…あ、っ…!」
ぞくぞくっと身体の奥から深くて強い快感が溢れ、しどけなく唇が開く。
当然声を抑える事なんて出来なくて、息をつく度に、声が漏れる。
「っは…ぁん…も……っや…!」
「…嫌とか、言わない…っ…」
「だ…っ…てぇ…ん…!!」
びくびくと足が震え、きゅっと身体の奥に這入っている彼を締め付けるのが分かる。
その度に彼が苦しそうに顔をしかめ、そして……すぐ近くで荒く息をつく。
……いじわる…。
こんな顔見せられて、容赦なく責められて。
…それで一体、どうやって私に我慢しろって言うんだろう。
「は…ぁ、あっ…んん…!…っく、ぅん…!」
ぐいっと突き上げられ、強い衝動で身体が痺れた。
高まり来る、悦の大きな波。
…そして、見えそうになる……果て。
「ああっ…ん…!」
「っ…はぁ…」
お互いの繋がりを絶え間なく示すような濡れた音が部屋全体に響き、頭にこびりついて離れないような気がした。
「あ、あっ…せんせ……せん…っ…せぇ…!」
「…羽織……っ…サイコ…っく…!!」
「っ!?や、あ、あ…!!んんっ…も…!だ、めぇ…ッ…!!!」
ぎゅうっと閉じたまぶたのはずなのに、やけに明るい光のようなモノが闇の中に見えた。
「っはぁん…!んん、っ…ふぁ…っ…!…ん…」
びくびくと彼を締め付ける自身をどうする事も出来ずに、ただただ快感の余韻に身体を任せるだけ。
…そうして、荒く息をつきながら彼に手を伸ばした時。
私よりも先に、彼が唇を塞いだ。
「………は…ぁ…」
「…可愛い」
「っ…か…わいくない…もん」
「可愛いよ。……ヤバい位」
ちゅ、と音を立てて唇を離した彼が、すぐ近くで笑みを浮かべた。
…その顔と、その声。
それらは余りにも優しくて、余りにも……色香があって。
赤くなった頬を押さえるように指を伸ばすと、やっぱり真っ直ぐ見れずに視線が落ちてしまった。
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