彼女に告白されてから暫く経った時。 
美術室に入ると、こそこそと何やら羽織と話しこんでいる千春の姿が見えた。 
その途端、つい物陰に身を潜めてしまった。 
別に、聞き耳を立てようと思ったわけじゃない。 
ないのだが、話題が自分の事となるとつい…隠れた方がいいのではないか、そんな気がしたのだ。 
「そっかぁ…。でも、まだ分からないよ?」 
「…そうかなぁ…。なんか、先生いつまで経っても態度変わらないし…」 
「けど、男の人ってそういうモンなんじゃないのかな?」 
「……そうですか?」 
「うん。…結構っていうか…うーん、まぁ、ね」 
「そっかぁ…」 
……態度…変わってないかな。 
ふと思い起こしてみると、そういえば変わっていないような気がする。 
告白される前と同じ、いたって普通の接し方。 
ぎこちなくなる訳でもなく、かといってベタベタとするわけでもなく…。 
…というか、その前に自分は彼女に対してどう思っているのか。 
それが、いまいちハッキリしないで居た。 
「…やっぱり、教え子だからなんですかね…」 
寂しそうに千春が呟くと、羽織が声を上げる。 
「そんな事無いよっ!年は、関係ないと思う」 
「…先輩…」 
「あ。…あの、ごめん。でも、そうだと思うよ?例え、好きになった人が先生だとしても…生徒だから恋愛対象じゃないなんて事、無いと思うんだ」 
どこか慌てたように訂正した彼女を見ると、頬を染めて苦笑を浮かべていた。 
そんな羽織に笑みを見せると、千春が小さく笑う。 
「そうですね。…うん!そうですよねっ!あはは、なんか弱気になっちゃってたみたい」 
「もー、千春ちゃんらしくないよー?ぶつかってみなきゃ、結果は分からないよ?」 
「はいっ」 
……思わず、喉が鳴った。 
頷いた千春の顔が、本当に嬉しそうだったから。 
…本気…なんだ。 
それはそれで、少し悩む。 
だが……嬉しかった。 
物事を冷めて捉えていた自分を、真っ向から否定してくれた彼女が。 
無理かもしれないと悩みながらも、自分の気持ちをぶつけてくれた彼女が。 
この時。 
自分の気持ちが変わっていたのに、今頃になって気がついた。 
14も年下の彼女を。 
自分の教え子であるという彼女を。 
………僅かながらに、意識してしまっている事に。 
 
翌日の4時限目の授業。 
いつも通りに選択授業で、3年の生徒達の授業を進めていく。 
とはいえ、美術は主に実習であるから、自分がこれといって話しかける事は少ないのだが。 
ぼーっと机に肘をつき、絵を進めていく彼女らを見つめる。 
だが、そこには千春の事を考えてしまっている自分が居た。 
教員として中途採用される前。 
自分はそれなりのキャリアのある社会人だった。 
だからこそ、新聞で良く目にする『教師の実態』なる物には、嫌悪感すら抱いていたのだ。 
教師が教え子に手を出すなど、もってのほか。 
そう考えていたのに、まさか、自分がそんな立場になってしまうとは……。 
思わず、ため息が漏れた。 
4時限目終了のチャイムが響くと同時に、弾かれるように席を立つ。 
「じゃあ、次の授業までに各自仕上げて置いて下さい」 
生徒達が振り返り、返事をする。 
全員を見送ってから美術室に鍵を閉めると、自分も準備室へと後にした。 
ぼーっと、画材の本をめくる。 
だが、頭には一向に入ってこない。 
どれ位経っただろうか。 
……珍しく、来ないなぁ。 
そう。 
今日はまだ、千春がここに来ていないのだ。 
昨日は、いつもと変わらず笑顔で弁当を持ってきてくれていた。 
だからこそ、余計に気に掛かるわけで…。 
もう暫く待ってみる事にした。 
…のだが…。 
昼休みの半分を過ぎても、一向に来る気配は無い。 
今日は来ないのかも。 
小さくため息をついて立ち上がると、購買へ向かう事にした。 
……何だかんだ言って、楽しみにしているんだなぁ。 
ドアに手をかけた時、改めてそんな事を思う。 
それと同時に、つい自然に苦笑が漏れたのだった。 
「…休み…なの?」 
「ええ。千春、具合悪いって帰ったんです」 
「……そうなんだ」 
放課後。 
同じクラスの子にそれとなく尋ねると、意外な答えが返ってきた。 
いつも元気で、病気知らず…そんな印象を与えてくれていた千春。 
そんな彼女が早退とは…。 
どんな具合なんだろう。 
ふとそんな事が頭をよぎる。 
…重いのかな……。 
眉を寄せて椅子に腰掛けていると、生徒から声が掛かった。 
「あ、ごめん。今行くよ」 
慌てて立ち上がり、その子の元へ。 
だが、今日は一日正直言って、身が入らなかった。 
それ程までに彼女の存在が大きくなっていた。 
それに気付いたものの、もう否定はしない。 
彼女が居ない日が、これ程自分にとって苦痛だとは…思いもしなかったから。 
 
「失礼しまーす」 
「……あれ?」 
翌日の昼休み。 
元気に声をかけて準備室に入ってきたのは、紛れも無く千春本人だった。 
思わず立ち上がって瞬きをすると、おかしそうにくすくすと笑う。 
「もー、どうしたんですか?先生。何か顔についてます?」 
「いや、そうじゃないんだけど…。具合…もういいの?」 
「具合?…あ、うんっ。もう、全然平気ですよ」 
一瞬表情を曇らせたものの、すぐにいつもの笑みを見せる。 
…だが、やはり少しどこかおぼつかないような…。 
「今日は炊き込みご飯にしたんですよー。おいしいといいんですけど」 
にこやかに弁当箱を机に置くと、ぽんぽんそれを軽く叩いた。 
そんな彼女の姿に軽く笑みを浮かべるものの、やはりどこか気になるわけで…。 
「せ…んせいっ…!?」 
気付くと、彼女の額に手を伸ばしていた。 
「っ…!まだ良くなってないじゃないか。無理したら駄目でしょ?」 
「……けど…」 
「けど、じゃなくて。保健室に行って、休ませて貰った方がいいよ」 
「だ、だって…!」 
熱い感触。 
明らかに、まだ熱がある事を示しているものだった。 
空元気を見せてまで自分の所に来てくれた彼女。 
それは、正直に嬉しい。 
だが、無理をされて、そのせいで暫く彼女を見れなくなるのではという危惧からか、つい口調が強くなった。 
「ね?今日も帰って――」 
「イヤっ!」 
「…千春ちゃん…」 
たしなめるように彼女と視線の高さをあわせると、今にも泣きそうな顔で首を振られた。 
思わず喉が鳴る。 
不謹慎かもしれないが、その瞳が潤んでいたから。 
「昨日だって先生に会えなかったんですよ?なのに、今日も会えないなんて…そんなの、絶対イヤだったんだもん!」 
「…でも、元気になればまたすぐに会えるでしょ?それに、僕はどこにも――」 
「けどっ…けど……先生に会いたかったんだもん…」 
ぽつりぽつりと俯きながら呟いた彼女の頬に、つ…と一筋涙が流れた。 
それを見た途端、自制がうまく働いてくれなかった。 
「……せんせ…」 
丁度髪に口元が当たる高さ。 
こうしていざ抱きしめてみると、彼女はとても細くて、柔らかかった。 
ふわっと漂う甘い匂いに瞳を閉じ、小さくため息をつく。 
「…倒れられたら…困るよ。無理はしないで欲しい」 
「……けどっ…」 
「会いたかったのは、僕も一緒。…でも、具合が悪いんじゃ仕方ないでしょ?だから、早く良くなって、そうしたらまたおいで」 
「………うん」 
ね?と瞳をあわせて微笑むと、少し頬を染めて頷いてくれた。 
そして、一瞬瞳を逸らしてから、再び合わせてくる。 
おずおずと唇を開くと、ぎゅっと白衣を掴んだ。 
「…先生…これって……どういう事…?」 
「え?これ、って…?」 
「だ、だからっ!…こうして…抱きしめてくれた事…」 
ぽやっと聞き返すと、眉を寄せて首を振った。 
…それかぁ。 
思わず、笑みが漏れる。 
彼女の反応が、可愛かった。 
「…そのままだよ?」 
「そのままって…。わかんないっ!ちゃんと、言葉で言ってくれなきゃ!」 
「……好きなんだけど」 
「………ホント…?ホントに!?」 
「うん。ホントだよ」 
「やったぁーー!!」 
「わぁっ!?」 
いきなり彼女が飛びつくように跳ね、バランスを崩して机にそのまま当たってしまった。 
「…ち…千春ちゃん…」 
「もー、凄い嬉しいーっ!」 
軽く彼女に押し倒されている格好。 
……なんだが…。 
それはそれは嬉しそうに笑う彼女を見ていると、文句など言えないわけで…。 
思わずこちらも笑みが漏れた。 
「…だから、今日は保健室いきなよ」 
「尚更行けないっ!」 
「こらー」 
「もう治ったもん」 
「…しょうがないなぁ」 
えへへ、と可愛く笑う彼女を見ていると、ついつい強く言えなくなってしまう。 
…って、それじゃあ駄目なんだけど。 
「早く良くなってね」 
「うんっ!」 
髪を撫でてやると、心底嬉しそうに笑みを漏らした。 
この時の彼女の顔は、きっといつまで経っても忘れないと思う。 
それ程、深く、強く、自分の中に刻み込まれる物になったから。 
 
「…ヤダ」 
「嫌?どうして?」 
「だって!ここ、学校だよ!?そんな…恥ずかしいもん…」 
準備室に置かれているソファにもたれながら笑みを見せると、照れながら千春が首を振った。 
とある昼休み。 
いつものように弁当を持って来てくれた彼女を引き留め、こうして彼女を抱きしめている現在の状況。 
「だって、千春が言ったんじゃないか。たまには違う所でエッチしたい、って」 
「あれは…!だ、だって…」 
「だもん、学校なんてまたとないチャンスだよ?」 
「そうだけど……」 
髪を撫でてやると、困ったように眉を寄せた。 
とはいえ、彼女からは明らかに拒否という物が感じられない。 
…もう少しで落ちるかも。 
そんな事を考えながら首筋に手を当ててやると、くすぐったそうに瞳を閉じた。 
「…けど…隣に……瀬那先輩居るんでしょ?」 
「うん。もうすぐ七ヶ瀬の入試だしね」 
「だからっ!尚更…出来ないよぉ…」 
「何で?ちゃんと鍵掛かってるし、大丈夫だよ。…千春が声出さなければ平気」 
「っ…!…そんなの…無理って知ってるじゃない…」 
「そう?人間、やる気があれば何でも出来るよ?」 
くすくすと笑いながら呟くと、頬を染めて俯いてしまう。 
そんな彼女の髪をすくってやると、くすぐったそうに瞳をあわせた。 
「嫌?」 
「……先生、意地悪じゃない?」 
「そうかなぁ。自分じゃそうは思わないけど」 
「…うー…」 
「千春」 
ぶちぶちと文句を言いそうな彼女の頬に手を当て、そっと上を向かせる。 
困ったように揺れる瞳も、やっぱり綺麗なわけで…。 
「…ん」 
小さく漏れる声を聞きながら、唇を塞いでやる。 
『先生がしてくれるキスは好き』 
以前、彼女がそう漏らした。 
だからこそ、最終手段はこれに限る。 
角度を変え、そっとついばむように何度も重ねる。 
それだけで彼女に入っていた力はすんなりと抜け落ち、もたれるように身体を預けてきた。 
「…や…っ」 
「…嫌ならやめるけど」 
「……意地悪だよぉ…」 
「千春にだけだよ」 
ちゅ、と頬に口づけをしてやってから微笑むと、うっとりとしたいい瞳を見せてくれる。 
そんな彼女に笑みを見せると、小さくため息をついてから悪戯っぽい笑みを浮かべた。 
「…じゃあ、今度は私の番ね」 
「え?何が?」 
「えへへー」 
にまっと笑みを浮かべると、ネクタイに手をかける。 
……えーと…。 
「…何をするのかな?千春くんは」 
「内緒」 
「……千春こそ意地悪じゃない?」 
「そうかなぁ。あ、あれだよー。先生の意地悪がうつったんじゃないかな」 
おかしそうに笑いながら、ネクタイをするっと外し、そのままワイシャツのボタンを外し始めた。 
「…何か、手つきがエッチですけど」 
「エッチな事してるんだもん」 
あっけらかんと呟くと、そっと首に両腕を絡めてくる。 
ふわっと漂う、彼女の甘い匂い。 
相変わらず、好きだった。 
「……っ」 
ちゅ、と首筋に当たる小さな柔らかい唇。 
思わず喉を鳴らすと、器用に舌を這わせて舐めてきた。 
「…千春…」 
「……今度は、私の番なの」 
手を伸ばそうとすると、軽く睨まれてしまう。 
苦笑を浮かべて仕方なくその手を髪に伸ばすと、満足げな笑みを見せてくれた。 
ワイシャツのボタンを全て外し終え、胸元を撫でるようにして手を這わせると、次に唇が降りてきた。 
滑らかな感触。 
思わずこちらの声が漏れそうになる。 
「…っん…」 
子猫のような舌で胸の先を含まれ、思わず反応してしまう。 
それを満足げに上目遣いで見上げながら、可愛く千春が笑った。 
「…やらしいってば」 
「先生がここでエッチしたいって言ったんでしょ?」 
「……そうだけど」 
彼女には敵わない。 
ソファに身を預ける形で彼女の髪を撫でていると、指先で円を描くように胸をなぞりながら、もう片方をベルトにかけた。 
「……あれ…?」 
小さく漏れる声。 
瞳を開けて見ると、困ったようにベルトのバックル部分を弄っていた。 
「……お手伝いしましょうか?」 
「うん。…お願いします」 
あっさりと頷いた千春に苦笑を漏らしながら、ベルトを外してやると、急に手でさえぎられた。 
「いいのっ!先生のお仕事はここまで!」 
「…そうなの?」 
「そうですよー。ここからは、私がやるんだもん」 
「はいはい」 
まるで子供を叱るように小さく眉を寄せたかと思うと、頬を染めて唇を結んだ。 
…はっきり言って、この仕草はとてもヤラシイと思う。 
何を考えてるかまでは掴みきれないものの、これから何をしようとしているかは分かるわけで…。 
意を決したようにズボンのチャックを下ろすと、手を伸ばしかけてこちらを見上げた。 
「ん?」 
「…そんな…見られてたら出来ない…」 
「どうして?」 
「恥ずかしいのっ」 
「こんな昼間からする事自体、恥ずかしいと思うけど」 
「っ…うー…!じゃあ、やらないっ!」 
そっぽを向いてしまった彼女の頬に手を当てて、再びこちらを向かせてやる。 
だが、やっぱり機嫌は芳しく無さそうだった。 
「…ごめんってば」 
「……他に言葉は?」 
「他に?…そうだなぁ。…じゃあ、して下さい」 
「……ん。まぁ、いいでしょ」 
「それはどうも」 
首をかしげてにっこり笑った彼女に笑みを見せると、意を決したようにそっと手をあてがった。 
それだけでも、結構な反応があるわけで…。 
まさか学校でしてくれるとは思っても居なかった。 
それだけに、こう、なんていうか……独特の興奮を得るわけで。 
しかも、自分の彼女が…制服姿で、だし。 
口元に手を当てると、思わず喉が鳴った。 
頬を染め、潤んだ瞳でゆっくりと下着を下ろす。 
「…はぁ」 
小さくため息にも似た吐息を吐き出すと、そっと唇をそれに当てた。 
「っ…」 
たまらず、快感が身体を走る。 
別にこれまでしてもらった事が無いわけじゃない。 
だが、14も年下のまだ女子高生である彼女にされるなど、初めての経験。 
制服姿でこうされる物ほど、視覚的にクル物は無く…。 
それに、恐らく千春にとっては自分が初めての男だと思う。 
初めてこれを教えた時の反応も物凄かったし…。 
そんな彼女が、今では文句を言いながらも従ってくれている。 
それは、男としてだけではなく素直に嬉しくもあった。 
おずおずと舌を這わせ、瞳を閉じて口に含む。 
お世辞にも上手とは言えない、それ。 
だが、彼女に対する愛しさと彼女のその格好は、どうしても自然にヤバい位の刺激となってしまう。 
「……は…っ」 
添えられた両手の動きと、可愛らしい彼女の舌。 
…ヤバい。 
このまま続けられると、結構果てが近いかも。 
冬馬瞬、31歳。 
ちょっとした危機感と戦いつつあった。 
ちらりと見える彼女の舌は、いつもの彼女の物とは別の物にすら見えてくる。 
時折苦しげに息をつき、漏れる小さな声。 
悩ましげに寄せられた眉。 
……これはマズいよなぁ。 
そんな事を考えながらも、つい笑みが漏れてしまった。 
「っ…は…ぁ、もう、いいっ」 
「……え…?」 
たまらず、彼女の肩に手を伸ばしていた。 
彼女の舌が離れると同時に、大きく息を漏らす。 
「千春…いいよ、もう」 
「…でもっ…!まだ、ちゃんと――」 
「…それ以上されたら、千春が困るよ…?」 
「私が?」 
きょとん、とした顔で唇を閉じると、光を艶っぽく受けた。 
17歳には見えないよなぁ。 
…って、自分のせいか。 
息を整えてから彼女を呼ぶと、肩に手を当てて見下ろす形になる。 
「…どうして?」 
「ん?…千春も待ってたんでしょ?」 
「っ…あ」 
にっこりと笑って太腿に手を伸ばすと、ぴくっと身体を震わせて手に力を込めた。 
そのまま太腿の内側を撫でるようにしてやると、耐えられずもたれてくる。 
「…相変わらず、敏感だなぁ」 
「…や…だぁっ…せんせ…」 
吐息混じりに耳元で囁かれ、思わず笑みが漏れる。 
「んっ…やぁ…!」 
ショーツをずらして指を這わせると、思った通り…いや、それ以上に自分を待ち受けるだけの準備が整っていた。 
「…ほら…。こんなに濡れてるじゃないか」 
「…やっ…いじわる…」 
くちゅ、と音を立てて指をあっさりと飲み込んだ彼女。 
ゆるゆると動かしながら奥に進めると、ある1点で背中をそらせた。 
「あっ…や、…だめっ」 
「…ん?駄目じゃなくて、ここがいいんでしょ?」 
「いじわるぅ…」 
何度も撫でるように指をそわせると、びくびくと快感に飲み込まれるいい顔を見せてくれた。 
手の甲を伝う彼女の蜜を感じて指を抜くと、大きく息を吐いて潤んだ瞳を向ける。 
「…おいで」 
「ん…」 
ショーツを下ろしてやってから呟くと、こくんと頷いてから困ったように瞳をあわせた。 
「ん?」 
「…どうやって…?」 
「ああ、そうか」 
いつものように向き合って座るのは、ソファだとなかなか厳しい。 
彼女の身体を寄せて後ろ向きにしてやると、そのまま腰に手を当ててやる。 
「どうぞ」 
「…座る…の?」 
「うん」 
頬を染めた彼女の腰を引いてやると、大人しく膝の上へと腰を下ろした。 
「…っ…ん…ぁ」 
ゆるゆると彼女に這入る自身。 
もちろん、彼女がわたわたとしている間に、しっかり避妊具はつけてある。 
「…っく…」 
既に熱く、縛られてしまいそうな彼女の胎内。 
この格好だからか、結構奥まで届いている。 
「…はぁ」 
しっかり入りきると同時に彼女を抱きしめ、息を吐く。 
びくびくと脈打つ自身を落ち着かせるようにしてやってから、彼女のシャツの下へと手を這わせた。 
「やっ…ん」 
彼女が声を上げるたびに締め付けられる自身。 
…ヤバ。 
くらつく頭を軽く振ってやってから、ブラをずらして胸に手を伸ばした。 
「はぁっ…あ…ん」 
しっとりと汗ばんだ彼女の肌が、掌に心地よく吸い付いてくる。 
やんわりと揉んでやってから先端に指を伸ばすと、ぴくんと身体を震わせて軽く首を振った。 
「嫌なの?」 
「だっ…てぇ…あぁ、も、…んっ」 
「…凄い可愛い…」 
「やだぁ…いじわるっ…」 
わざと意地悪く言葉をかけてやる度に、感じる彼女。 
やらしく自身を締め付ける度、淫らに蜜が漏れる。 
「…っくぅ…ん……はぁ」 
両手で揉みしだきながら、その背中に唇を寄せる。 
滑らかな肌が、心地よかった。 
「っ…や、あっ…ん!」 
「…千春」 
「あ、せ、……せんせっ…ぇ」 
そのままで突き上げるようにしてやると、鋭く反応を返した。 
奥まで締め付けられる、快感。 
「…っく…」 
「もぉっ、や……あぁ先生っ…い、っちゃう…」 
「ん…いいよっ」 
「だめっ…はぁ…っ…んっ、ん…あぁ、せんせっ…!」 
「……っ…!」 
途端に強烈な締め付けに襲われ、思わず彼女を抱きしめる。 
「あぁっん…ん!」 
びくびくと何度と無くひくつく、彼女。 
耐え切れずに自身も果てると、ぐったりと身体をもたれさせてきた。 
「…はぁ…」 
大きく息をつき、彼女の髪を撫でるように手を這わせる。 
「……もぉ…えっちぃ」 
「千春が敏感なんだよ」 
「…違うもん」 
うっすらと瞳の端を滲ませてこちらを振り返る彼女に笑みを浮かべてやると、照れながら小さく笑った。 
「…声、聞こえてるんじゃないかなぁ」 
「っ…わ、忘れてた…」 
そう。 
現在は昼休み。 
それゆえに、もうすぐ大学入試がある羽織は隣の部屋で絵を描いているのだ。 
「…知らないよ?」 
「えぇっ!?そんなっ…先生、ずるいよぉ」 
「千春があんなにイイ声出すから」 
「……もぅ」 
とはいえ、本気で嫌がっている様子は無く…。 
照れながらも、どこか嬉しそうだった。 
処理をしてやってから彼女を正面に抱きしめると、屈託無く千春が笑みを浮かべた。 
「…先生」 
「ん?」 
「……大好き」 
「…僕もだけど?」 
「えへへ」 
あぁもう、可愛いなぁっ。 
この年にして、なんだか久しぶりに純愛と言うものをしているような気がしてきた。 
千春の笑みは、相変わらず可愛くて、純粋で…。 
……次はどうしようかなぁ。 
ついつい、そんな事を考えてしまうようになっていた。 
 
「……はぁ」 
一方。場所は変わって、化学準備室前のドア。 
羽織は、頬を染めてドアにもたれていた。 
途中から耳に届くようになった、千春の甘い声。 
彼女が瞬を好きだという事は以前から聞いていたものの、まさか学校でそんな事になっているとは思いもせず……つい逃げ出してきたのだ。 
とはいえ、こんな顔で祐恭に会えるはずも無く。 
ただただ、やって来てしまっただけなのだが。 
 
ごん 
 
「いっ…!」 
「…ごん…?」 
いきなりドアが開き、額にドアが当たってきた。 
それ程勢いが無かったからいいようなものの、激しく当たっていたらひとたまりも無い。 
「…いたぁ……」 
額を押さえて後ずさると、ドアからいぶかしげに覗いている祐恭と目が合った。 
「…何してたの?こんなとこで」 
「……痛い…」 
じんじんと痛みを放つ額をさすりながら窓にもたれると、眉を寄せたままの祐恭がドアを閉めてこちらにやってきた。 
「…あーあ。赤くなってるよ」 
「誰のせいですかっ」 
「まさか、そんな所に居るなんて思わないだろ?」 
「……うぅ」 
よしよし、と撫でてくれるのはいいものの、やっぱり痛いものは痛い。 
涙を堪えながら彼を見ると、小さく肩をすくめて見せた。 
「ごめんって。あ、ほら、痛いのとんでけー」 
「…とんでかない…」 
「そう?まぁ、コブにはならないって」 
「……うん」 
小さくため息をついて頷くと、顔を上げて彼を見つめる。 
「……何?」 
「…なんか…私、美術室行けないかも」 
「何で?」 
「…だって……あの…」 
『人様のえっちぃトコ見ちゃったんだもん』 
……なんて事、言えるはずも無く。 
ただただ、ため息を漏らすだけだった。 
「何だよ…。気になるだろ?」 
「…うん。…あの、後で話す」 
「えー?気になる。今じゃ駄目なわけ?」 
「……駄目…じゃないけど…」 
しどろもどろに呟いていると、ペタペタというサンダルの足音が聞こえてきた。 
「あ、羽織ちゃん」 
「はいっ!!?」 
思わず姿勢を正してそちらを見ると、案の定声の主は瞬だった。 
物凄い反応を返された為に苦笑を浮かべると、そのままこちらに歩いてくる。 
いつもと変わりない、瞬の姿。 
……夢…? 
それとも、気のせいだったのかなぁ。 
まじまじと彼を見つめていると、不思議そうな顔をしてから笑みを見せてくれた。 
「絵、結構いい感じに仕上がってるね。このままなら、試験までに十分間に合うと思うよ」 
「…あ、ホントですか?」 
「うん。放課後だけで足りるかも」 
「ありがとうございます」 
何度も頷いてくれた彼に笑みを見せると、にこやかに笑ってくれた。 
…そう。 
きっと、気のせいだ。 
うん。 
そう自分の中で結論付けてから、ぺこっと瞬に頭を下げる。 
「あ、そうそう。瀬尋先生」 
「…はい?」 
いきなり名前を呼ばれて少し瞳を丸くした祐恭に、そっと瞬が耳打ちをする。 
一言二言。 
それを終えると、にっこり笑みを見せてその場を去っていった。 
「……えぇ…?」 
眉を寄せたのは、祐恭。 
まじまじと瞬の背中を見つめていた。 
「…先生?」 
「え?」 
「冬馬先生、何って?」 
「……あ…。うん、まぁ、大人の事情」 
「…はい?」 
「いや、だから、今度やってあげるから」 
「……何を?」 
教えてあげる、ではなく、やってあげるという言葉に、思わず眉を寄せてしまう。 
…なんだろう。 
物凄く気になったものの、彼は決して教えてくれなかった。 
のちにこの出来事は『羽織ノウハウ』として、しっかり祐恭に刻まれる事になったとかならなかったとか。 
「…冬馬先生、凄いなぁ」 
思わず漏らしたこの言葉。 
彼がどう凄いのかは、この二人だけの秘密となる事になった。 
  
  
 
 
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