―――時の来訪者―――

今日は金曜日、そんな日にって思うかも。
「今日は転校生を紹介するよ〜」
担任の日永先生が声を上げると騒がしかった教室がシーンとなった。
「はじめまして。緋月 恭子(ひつき きょうこ)です。なかよくしてね」
「緋月は、ん〜・・・瀬那の横ね。」
カタンと椅子に座り横の瀬那 羽織に声をかけた。
「よろしくね。瀬那さん。」
やさしく笑って返事をしてくれる。
「こちらこそ。」
すると後ろから声をかけられた。
「私は皆瀬 絵里。絵里って呼んでね?私も恭子って呼ぶから。いいよね?」
屈託なく笑いながらそうゆう。明るくてはっきりしてる子だなっ、と、思う。
「いいよ〜。瀬那さんも恭子ってよんでね?」
「うん。じゃぁ私のことも羽織ってよんでね?」
笑顔がかわいいなっておもった。
「そこ、自己紹介は終わったのかい?授業してもいいかしら?」
「はぁ〜い」
っと絵里が言う。
羽織も恥ずかしそうに笑ってる。

休み時間になって、質問攻めに逢う。転校生の宿命?
「前の学校ってどこ?」
「んと、北の方かな。」
「ねね、彼氏は居る?」
「いないの。ここで!と思ったけど女子高なのよね。」
わいわいがやがやとさすがに賑やかだ。女子高だけあるなと思う。
質問にひとつひとつ答えるけど休み時間が終わる合図。みんな自分の席へと戻る。


お昼になって、3人でごはんを食べる。
「ねぇ、絵里と羽織は彼氏いる?」
「ぐっ・・・!?」
「むぐぅ!?」
「あれ、私そんなにすごいこと聞いた?」
ドンドンと胸をたたきながら絵里は
「ゴメ、・・・いるよ。羽織もね。」
「いいなぁ〜。どんな人?って聞いていい?」
「ん〜一言で言うとアホかな?」
と、絵里
「す、素敵な人・・・・」
と、羽織
言ってることは、ばらばらでも、2人のお顔は真っ赤っか。
「かわいいねぇ・・・」
とつぶやく。
「「そんなことないわよ(よ)!!」」
ケタケタと笑ってみる。
「まぁ、それは置いといて、突然だけど今日、家に泊まりに来ない?」
「今日、友達になったばっかりで誘うわけ?」
「だって−、スーパーとかだったらいいけど、かわいい雑貨屋さんとか、洋服屋さんとか教えて欲しいの。だから、今日泊まって、明日1日街案内して。」
「あ〜なるほど。羽織どーする?」
「え?あ、うん・・・。」
「ダメ?」
ちょっと寂しげな声を出してみる。
「うぅ〜ん。どーだろ。聞いてみないと・・・。」
「そっか〜。そーだよねぇ。2人とも彼氏持ちだもんね。突然ごめんね。実は初めての1人の夜だから誰かにいて欲しくて。気にしないで。街を案内して欲しいのはほんとだから、都合のいい日にでも付き合って?ね?」
とさらに寂しげに話してみる。
「え?1人って。」
「1人暮らしなの。」
「ご両親は?」
「いわゆる海外出張ってやつ?」
「「へぇ〜。」」
「この辺に親戚とか知り合いもいなくてさみしくて。」
「誰も居ないところに引っ越してくるなんて、どーして?」
「実は、七ヶ瀬大学に行きたくて、どうせなら今からこっちにって行ってればって言われたの。」
納得してくれたかな?
「ん―――。私は大丈夫!私、泊まるよ。んで明日、案内してあげるよ。」
と、絵里
「―――私も。うん、私も大丈夫。話しておくから。」
「でも、2人ともデートは?」
「大丈夫よ。そんな心根のちっちゃい男どもじゃないから。ね、羽織?」
「うん。」
「ありがと!すっごいうれしい。」
と明るく答えると笑って見せた。ちょっとゲンキンなやつって思われたかな?

そろそろご飯を食べ終わるころ。
「次ってなんだっけ?」
「あ、そーだった。私、先生のところ行ってくるね。」
「?」
「羽織は、係りだから授業前に今日何やるかを聞きにいくのよ。ちなみに次は化学で担当は副担任の瀬尋先生だよ。」
「へぇ。私も行っていい?副担任の先生とはまだ会ってないし。」
「じゃぁ3人でいこっか。」
と絵里

準備室に到着。
ドキドキしますな。んふふ
「失礼しマース。」
「失礼します。」
「失礼いたします。」
「お、今日は遅かったな。」
「いいでしょ別に。転校生と楽しくランチしてたんだから。面倒見いいでしょ?」
「「お?」」
「はじめまして。今日付けで転校してきました、緋月 恭子です。よろしくお願いします。」
と最後の〔よろしくお願いします。〕に別の意味も含めたのを気づく人は誰もいないだろうな。
「あ――日永先生いってた転校生な。朝は用事がHRでれなかったからな。こちらこそよろしく。副担任の瀬尋です。」
「じゃぁ今日、転校してきたばっかりなのにもう、絵里につかまったのか?緋月さんも災難だなー。」
「なんだと―――!」
「あはは、田代先生と絵里って仲いいですね。」
「そ、そんなことないよ。恭子ってばなにいってるのよ?!」
「あわてて、なんかあやしぃ〜」
「なっ、もぅ、馬鹿!?」
「んふふ〜、絵里ってば実はかわいいのねぇ。」
「―――――!!」
真っ赤になった絵里をクスクスと笑ってみせる
「お〜。やるな転校生。絵里に勝てるとは。恐れ入ったよ。」
「ど〜も。」
「純也!!」
「まぁまぁ、それくらいにしろよ?羽織ちゃん困ってるよ?」
瀬尋先生が仲裁にはいる。事の成り行きをハラハラと見守ってた羽織は突然話しを振られ、ピクっと反応した。
「え。あ、先生、次の授業は?」
「自習にするから、各自勉強道具持ってくるように。」
「やった――、転校初日でついてる。」
「ついてるとは?」
と瀬尋先生
「え、そのまんまですよ?私、基本的に勉強嫌いなんでぇ。」
「教師に面向かってすごいこと言うな。」
と田代先生
「私、自分に正直者なんで。」
「ま、悪いことじゃないけど、たてまえってのを勉強しろよ?」
「瀬尋先生やさしぃ。大丈夫、これでも人を見る目ってあるんですよ?先生達なら大丈夫そうだから本音を言ってるだけですよぉ。だってそーでしょ?ね、先生方。」
これには2人とも苦笑い。
横目で羽織と絵里を見ると寂しそうな顔。マズイ。ちょっと遊びすぎちゃったかな。
「さってと、2人とも戻ろうよ。」
「あ、うん。羽織いこう」
「うん。じゃぁ失礼します。」
2人をつれて準備室をでる。さてさて、思ったより楽しみになってきたぞっと。

「なぁ、瀬尋先生?俺の名前、転校生に言ったっけ?」
「そーいえば、言ってないですよね。」
「だろ?絵里たちが言ったのかな。」
2人の教師の間に???がしばらく流れてた。

5時間目。化学は自習
華やかな会話が教室を包む。
羽織と、絵里は私に各教科の進み具合を教えてくれてる。
「――――恭子って頭いいんだね。」
「そぉ?フツーじゃない?」
「ううん、いいよ。絵里がゆうなら間違いないよ。なんたって学年首席なんだから」
「ふむ。じゃぁ、自信もっちゃおっと」
なんて会話をしてると、見回りなんだろうか、瀬尋先生がやってきた。
「なんか盛り上がってるな。自習とはいえ少しは勉強してるのか?」
「してますよー。ね?羽織、絵里」
「うんうん」
「先生、恭子ってば絵里より頭いいかも。皆わからなかったこの前の問題とかスラスラ解いちゃうの。」
「ほぅ。じゃぁ実力試しで、これやってみて。」
と差し出されるプリント
「えー!せっかくの自習なのに私だけテストですか。」
「20分くらいで終わるから。実力試しって言ったろ?前の学校と開きがあったら困るの緋月だろ?」
「でもぉ〜。・・・じゃぁ、全問正解だったらジュース驕ってくれますか?」
「賭け事はよくないぞ?」
「私だけ自習じゃないんだし。これで釣り合いが取れるでしょ?」
「まぁ、いいだろ。」
「絵里、羽織聞いた?」
「「うん」」
「へへっ、驕らせてやる。」
と細く笑ってやった。
瀬尋先生はやれるもんならやってみろって顔してたけど。私にとっては高校の化学くらいならお茶の子さいさいさ!
8分後――――――
「――――全問正解。」
「いやったー。ジュースだ、ジュース!」
「これをたった5分足らずで・・・。」
いけね、本気だし過ぎちゃったかな。と心のうちで舌を出す。ほら、物がかかるとつい、ね?
「先生そんなに恭子すごかったの?」
「ん、まぁな。これとか、まだ授業でやってないだろ?」
「ほんとだー」
「ここの学校は全国でも授業の進み少し早いくらいなんだけど、それ以上だしな。前の学校ってどこ?」
うわぁ、やばい。なんとか取り繕わなきゃ。
「え、あ、えっとぉ〜北の方のぉ・・・」
終了の合図。助かった!
「あ!終わった!先生ジュース忘れないでね?放課後取りに来るから。いこ、絵里、羽織」
なかば、引きずるように2人を連れて行く。


6時間目も終わって化学室にジュースを貰いに行く。でも、先生達はいなくて、3人で雑談。
「そういえば、さっき先生が聞いてたけど、前の学校ってどこよ?」
と、絵里。
「えっとぉ、・・・ゴメン今は言えないや。事情があって。あんまり言えないの。」
「ふ〜ん、まぁ、いいけど。」
「ほんとごめんね?それより、どうしたらいい?」
「なにが?」
「うちに泊まりにきてくれるんでしょ?迎えに行ったほうがいい?」
あぁ、とうなずく2人
「地図かいてよ。そしたら羽織と2人でいくから」
「まだ、引っ越してきたばっかりで周辺わかんない。」
「あーなるほど。じゃぁどっかで待ち合わせる?」
「家まで迎えに行くよ?」
「迎えに行くよって、ちなみに恭子の家どこなのよ?」
「○○町□□番地△△マンション605号室」
「うわっ。」
っと絵里が声をあげる。
「なんかまずい?」
「ううん!なんでもない。」
気まずそうに絵里と羽織は顔を合わせてる。そりゃそーだよね。彼氏の家の近くだもんねぇ。
「△△マンションならわかるから、準備できたら行くよ。」
「そぅ?じゃぁ待ってるっ!」
待ってるっ!だって、われながら女子高生だな、おい。

なんて話をしてたら先生が戻ってきたみたい。
「瀬尋先生見っけ。ジュース!私たちにジュース買って。」
「わざわざ待ってたの?」
「あったり前でしょ。このまま土日挟んで、無かったことにされたら、損しちゃう。」
「今どきの転校生はすごいなぁ。初日から教師に物を驕らせるなんて。」
「それは、先生が約束してくれたことじゃないですか。それに転校生に今どきとか関係ないし」
それもそうだとその場にいた4人で笑う。
自販機のところまで行ってそれぞれジュースを買ってもらう。
「私、リンゴジュース!」
ガコン
「私、オレンジー」
カコン
「羽織ちゃんは紅茶でいいよね?」
「はい。」
ガコン
プシッっとプルトップを開けてゴクンと流し込む。
「ん〜驕ってもらったものはなんでもウマイねぇ。」
「恭子ってばおやじくさいぞ」
「ひっどーい。絵里だって似たようなもんじゃないの」
あははとまた笑い声。
田代先生もたまたま通りかかりこっちに気がつく。そうだ、1つ困った顔でも見てやるか。
「そうそう、先生、今日ね絵里と羽織がうちに泊まりに来てくれるの。」
「「えっ」」
もちろん、2人の先生から出た言葉。
その様子に羽織と絵里はちょっと慌ててるみたい。しめしめ。
でも、知らん顔して言葉を続ける。
「私って、1人暮らしなんですよ。それで、1人の夜は寂しいなぁって言ったら、泊まりに来てくれるって言ってくれたの。」
「へぇ。でも1人暮らしってご両親は?」
「海外出張ですよ。そんで、明日は2人に街を案内してもらうの。せっかくの週末だからデートあるでしょ?って聞いたらこの2人なんていったと思います?」
「さぁ、予想もつかないな。」
ちょっと声の質が変わった瀬尋先生が私に仮面の笑顔を向ける。羽織は明らかに困ってるみたい。でも、私は気にしない。
「彼氏さん達は、心根のちっちゃ人じゃないんだって。困ってる友達を優先させてくれる、すっごい優しい人なんだって。いっぱいロノケられちゃって。」
といって男2人の顔をちょっと見てからさらに続ける
「今どきそんな彼氏さんっていませんよね?大人ってゆうかぁ。あ、大人でもあんまりいないか。先生たちも彼女いるのか知らないけど、それくらい広い心持ったほうがいいですよ。」
4人はそれぞれ複雑な顔をしてる。仮面笑顔の瀬尋先生も困惑ぎみかしら。んふふ、たっのし〜。
ガランと飲み終ったジュースの缶をゴミ箱へ投げ込み、ぺこっと頭を下げる。
「じゃぁ、先生ご馳走様でした。絵里、羽織、私先に帰って掃除しとくね。また、夜にね。」
「ん。またねー」
ひらひらと手をふってしばしのお別れ。このあと2人のお姫様は2人の王子様にどうされるのかな?見れないのはちょっと残念かも。そんなことを思いながらパタパタと廊下を走って下駄箱に向かう。


「・・・ま、そーゆうことなんで、今日は夜お泊りに行って来るから。別にいいよね?」
「ん、まぁいいだろ。久々に1人か、せいせいする。」
「こっちのセリフだ!」
とまぁこちらは問題なし。
「で、羽織ちゃんも行くんだ。」
「え、あ、はい。あの、勝手に決めてごめんなさい。」
「別に、心根のちっちゃい彼氏じゃないですから。」
「先生怒ってるの?」
「・・・羽織ちゃんじゃなくて、緋月から聞かされたのがちょっと気に食わないかな。」
「何度も言おうとしたんですけど、タイミングが・・・。」
「1日中一緒だったみたいだしね。友達を大事にするのも大切だから。それに街を案内するのは土曜日だけでしょ。土曜日の夜においで」
「はいっ。」
こっちもまぁ、こんなもんでしょ。
「そういえば、恭子の家って先生たちの家の近くなのよ。」
「うそだろ?」
「マジ。△△マンションだって。」
「すぐ近くじゃないか。」
「そーなんですよ・・・。」
「いろいろと気をつけないとな。」
困ってるみたい。まぁ、当たり前かな。
ん?その場にいないのに私が納得してるのはおかしいって?まぁまぁ、「事情がある」のですよ。んふふ。


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