ふぅ。暖かいなぁ。先生とぎゅっとしてるみたい。
でも、先生の姿が見えないとものすごく心配。もう、ずっとあってない気がする。
先生?どこ?私はここだよ?
はっと手を伸ばすと闇を掴んでいた。
今のは夢?目の前に羽織が居た。きょろきょろと俺を探しまわってる。
声がでなくて、必死に追いかけてるのに距離が縮まらない。
捕まえたと思ったら、それは闇・・・。
・・・ふぅ、とても長い時間こうしている気がする。
羽織に逢いたい。羽織に触れたい。
闇を掴んだ手を見る。この手で羽織を抱きしめたい。
・・・・・手?・・・・・いつも、羽織を抱きしめる手・・・。
あいつはなんと言っていた?
>この世界に在る、羽織を見つけるの。
と、言っていた。次は
>先生ならきっと、きっと気づくから。
気づくから?見つけられるじゃなくて?
「―――――!!」
部屋のバーチャル空間が消えていく。
「先生、気がついたんだね。先生の手の中に在る羽織に。」
目の前には眠っている羽織を大事に、愛おしく抱きしめている先生がいた。
「先生ならきっと見つけてくれると思ってた。おじぃちゃんの言うとおりだった。」
冷たい視線でこちらに振り向く先生。
「こんなことをしてどういう・・・。」
言葉を遮るように羽織に手を伸ばす。
もちろん先生に、手を払われる。
「こんなことしてごめんなさい。今、説明します。でもその前に羽織をベットへ。」
羽織を抱きしめたまま、動かない先生。
「もう全部おわったから。何もしないから。羽織をベットに連れて行って休ませてあげて。」
不審の目を向ける先生。当たり前だろうけど。
「こんなところに寝かしていたら風邪を引いちゃう。ね?先生、信用してって言っても無理なのはわかるけど・・・。お願い。」
羽織を抱き上げると、寝室に羽織を寝かせに行く。
戻ってきた先生に訳を話す。うん、もともとそのつもり。
ガタンとダイニングの椅子の音。振り向くと先生が眼鏡の奥の目を細くして私を睨む。
「・・・・・。」
「そんなに怖い顔しないでよ。先生。」
「・・・・・。」
「んもぅ。まぁ、仕方ないか。紅茶でも入れますね。」
キッチンに行こうと体を向ける。が、
「そんなものはいらない。どういうことか説明してもらおう。」
うぅ、先生の顔見て話しづらいのでくるりと背中を向ける。
「私の名前は緋月 恭子。名字は偽名。名前はホント。おじぃちゃんから1文字もらってるんだよ。」
しばらくの沈黙。私はそのまま続ける。
「家族構成は、父・母・兄・私。それにおじぃちゃんとおばぁちゃん。」
さらに続ける。
「七ヶ瀬大学4年。年は18。いわゆる飛び級。誕生日は今から半世紀以上後の5/20。」
そこでくるりと先生に向き直る。
「私の正体は時間旅行者(タイムトラベラー)です。信じる?」
えへ。と笑う。
「・・・。」
相変わらずの沈黙。
「信じられないよね〜。まぁ、わかってもらえるとは思ってないけど。」
「俺は、羽織を危険な目に逢わせてどういうつもりだと、聞いたんだ。」
まっすぐに睨みつける。
「危険なことは何にもなかったよ。アレは携帯用バーチャル空間装置。人形とかは本物だけど。まぁ、詳しく説明できないけど、一種のゲームだったの。今回用に少し改造はしたけど。」
「羽織はどこに居たんだ?」
「体はベットに寝てたよ。意識は先生のすぐそばに在たけど。」
「もし、俺が間違っていたら羽織はどうなってた。」
「ん〜どーにもなってないよ。空間解除のときに先生の腕の中じゃなくて、そのままベットに寝てたかな。」
「ほんとに、危険はなかったんだな?」
「あたりまえでしょ!大好きなおばぁちゃんなのに、そんなひどいことするわけないでしょ!」
「おばあちゃん?」
「あっ!」
しまった。つぃ口が滑っちゃった。うぅ、怒られる・・・。
出てしまったものはしょうがない。
「そぅ。羽織は私のおばぁちゃん。ちなみにおじぃちゃんの名前は祐恭。私はあなたたちの孫。」
「!?」
ガタタンっと椅子から立ち上がろうとして床に座り込む先生。
「どっちのおじぃちゃん達かは内緒ね。自分たちの子どもの性別知りたくないでしょ?」
先生に手を伸ばす。受けてはくれないけど。これって結構傷つくな。
「私って科学者の中ではちょっと名が知られててね、時間旅行(タイムトラベル)を成功させちゃったわけ。それで、ある実験のために過去に来なくちゃいけなくて。本当はどの時間でもよかったんだけど・・・・・」
目が丸くなるっていうのがぴったりな顔してる。さっきとは大違いだ。
「この実験をするって決まったとき、おじぃちゃんに頼まれたの。おじぃちゃんがおばぁちゃんを見つけられるか。確かめてほしぃって。」
「だからこの時間にきたの。」
まっすぐ先生を見る。
少し長い沈黙が流れる。スッと頬を流れる雫。
私、泣いてる。自覚したときどっと溢れた。
「・・・っく、・・・ひっく・・・・ご、ごめんなさい。・・・・いくらおじぃちゃんの頼みだからって。」
「い、今の、・・・っく、あなたには余計なことなのに。」
「ごめんなさぃ・・・・・・。」
ぼろぼろと涙が止まらない。その場でペタリと床に座り込む。
目の前にハンカチ。それに、ついキョトンとしてしまう。それは先生が差し出してくれてるから。
「・・・・。全部を信じたわけじゃないが、羽織を危険な目に合わせてないのは信じるよ。」
ハンカチを受け取り涙を拭く。おじぃちゃんの言葉についつい笑顔になる。
「えへへ。ありがとぅ。」
寝室を覗くとまだ、気持ちよさそうに寝てる。
キッチンにいって紅茶を入れる。
先生の前にそっと差し出すと、今度は飲んでくれた。
それから、どうせバレちゃったし、おじぃちゃんの計画を全部先生に話す。
「おじぃちゃんは、若かった時、おばぁちゃんのこといぢめてたんだって。反応がかわいくてっていってた。」
ゴホッゴホッ。っとむせ込む先生。
「んふふ、やっぱりそーなんだ。それでね、私がこの実験をするって言ったとき、おじぃちゃんがこのバーチャル装置を持って、この時間に行ってくれって頼まれたの。」
「若いとき、よく悩んだんだって。このままおばぁちゃんを幸せに出来るんだろうかって。」
思い当たる節があるのか、考え込む先生
「実際仲がいいんだから、問題ないとおもうでしょ?それを言ったら、「こうしてわかってるから、悩んでた時間がもったいない。無駄に時間を使わないように、自信を持たせたい。」っていったの。さすがおじぃちゃんだよね。」
ふぃっとそっぽを向かれちゃった。きっと照れてるんだろうな。
「「わしなら絶対大丈夫だ。ばぁさんのことずっと愛してるからな。ふはははっ。」ってノロケ付きだったんだよ?おじぃちゃんのノロケ話、いっつも長いんだよね。」
ふぅー、とため息ついて紅茶を一口。
「さっさとすればよかったんだけど、余裕の無い状態のおじぃちゃんじゃなきゃ意味がないって言われたの。」
「それで、週末会えないようにしろって。若いから1ヶ月も逢えなかったらぶち切れるだろうからって。その上で原因のお前がこんなことすれば、怒りは頂点に達するだろうって。」
こっちを見てくれない。ズバリなのかな?
「そのつもりで1ヶ月邪魔する為に色々準備してあったんだけど、おばぁちゃん見てたらかわいそうで。たった1回、週末逢えなかっただけで、あんなに悲しませるんだもん。1ヶ月もやってたらおばぁちゃん自殺しちゃうよ。」
クスクスと笑い、コトンとテーブルにカップを置く。
「それで、だいぶ予定を早めたの。」
目を細めてにやりと笑ってあげる。
「おじぃちゃんに聞くより、もっとずっとヤキモチ焼きだったんだね。今のおじぃちゃんって。」
耳まで真っ赤かだ。
「あぁー、その、なんだ。」
「ん?」
「おじぃちゃんはやめてくれないか?」
「私にとってはおじぃちゃんだもん。」
「き、傷つくんだよ。」
「んふふ、わかった。」
「ん。」
けして、嫌じゃない沈黙がしばらく続く。
沈黙を破ったのは私。
「―――――私ね高校って行ったことなくてね、今回の計画で、高校生になれてすっごく楽しかったの。」
新しい紅茶をカップに注ぐ。
「同い年の女の子と騒ぐの楽しかったし、若いときのおばぁ・・・羽織と、それに絵里にも逢えたし、ひぃおじぃちゃんやおばぁちゃんとご飯を一緒に食べれたのもうれしかった。瀬那のじぃちゃんにもあえたし、この時代にこれてよかった。」
私の話をきちんと目を見て聞いてくれる。ここはずっと変わらないみたい。未来のおじぃちゃんと一緒だ。
「あ、あと、車も楽しかった!自分で運転できるんだもん。楽しいよねぇ。」
1人で盛り上がってる私の話についていけないって顔してる。ちぇ、いいじゃん。
そんなときボスンとリビングから音がした。
ソファの上には片手に収まるほどの黒い球状の物。私はそれが何かすぐわかったのでダイニングに持っていく。
脇にあるスイッチに触れると目の前で球状が組みかえられていき、しばらくすると長方形の箱になった。
その上に映像が浮かび上がる。
「・・・・恭子?元気かのぅ?」
「ん〜、ちょっと画像が悪いな。・・・・空気が悪いのかな。まぁいいや、ほらほら、先生。これがおじぃちゃんだよ?」
映像の主は今回の計画の主犯。未来のおじぃちゃん。
「実験は成功しておるみたいじゃ。どうやらワシは1週間しかもたなかったみたいだな。わしも若かったのぅ。」
しゃべっているおじぃちゃんに釘付けの先生。
「頼んだとはいえ悪役みたいなことをさせて悪かったのぅ。あとは無事に帰ってくることを祈っておるからの。それから帰ってきたら・・・・さんが・・・・・・・・・じゃ・・・・・ザァ――――。」
映像が消えてそれはただの黒い箱になった。
「あれ?あれ?動かなくなっちゃった。なんでぇ〜。」
「・・・今のはなんだ・・・・・・。」
箱をいじりながら答える。
「んっと、手紙だよ。私たちの時代はホログラム内臓音声メールが主流かな。・・・っと。・・・ん〜ダメだ動かない。研究課題が増えたな・・・。」
「仮に、お前が・・・」
「お前じゃなくて、恭子!」
「・・・恭子が、未来から来たとして、どうゆう原理なんだ?」
先生も分野は違えど研究者だもんね。気になるよねぇ。
「内緒。今の時代には無いものだから。」
「これだけ、色々話しておいてずるくないか?」
「んー、わからないと思うんだけど、微妙な定義ってゆうか、過去をいじれるのは、ほんの一部。それも、未来を変えないことが第一条件。―――今回の実験が、その定義の信憑性ってゆうか、まぁぶっちゃけ何処まで大丈夫なのか、だったんだけど。」
教師の顔じゃなくて純粋に研究者の顔の先生。
「それをラインを越えると、人や物の存在に影響が出るのね。いわゆるタイムパラドックスってやつ。」
「まぁ、今の時代じゃ仮説どころか空説の物だから説明しずらいや。」
「・・・・ん。聞いてもわからないな。」
「でしょ。」
クスクスと笑う。
外が明るくなってきた。
「もぅ朝かぁ。先生、眠くない?」
「大丈夫だ。そういえば羽織ちゃんは全然起きないな。」
「寝不足にさせてゴメンネ。眠くないみたいなら羽織をお家まで送ってあげて。それと羽織は起こさなきゃ起きないよ。」
「なんでだ?」
「睡眠薬飲ませちゃったから。」
「―――っ!」
「怒らないでよ。羽織が起きちゃったら計画台無しだったんだし。弱いのだから大丈夫。」
「それより、今日は月曜日だよ。早くしないと、学校遅れちゃうよ。」
先生は羽織と荷物を取りに寝室へ
私は、リビングに行ってカーテンを開ける。朝日が昇ってくるところだった。
「・・・・もうすこし、ここに居たかったな。」
ポツリと声が出る。
眠気覚ましのコーヒーを入れてると、寝室から「きゃぁ」って声。
慌てて行くと、先生が羽織を襲おうとしてるところだった。
私の存在わすれてる?そんなに余裕無かったの先生?
見かねて、コホンと咳払い。
2人は、ぱっと離れた。先生は、しまったって顔。羽織は真っ赤っか。・・・・おもしろい。
「私の家でえっちにゃことしないでねセンセ。」
ゴホゴホと空咳してそそくさと寝室を出て行った。にやっと笑って羽織に声をかける。
「早く起きてお家帰らないと学校遅刻するよ。」
2人にコーヒー飲ませてから玄関までお見送り。
「じゃぁ、学校でね。」
羽織に荷物を渡す。
「うん、色々ありがとう。恭子。」
「きにしない。先生も遅刻しないようにね。」
「きょ・・・緋月もな。」
「はぁ〜い。―――――――――――――・・・・さよなら先生、羽織。」
最後の声が聞こえたかどうかはわからない。
あれから、羽織ちゃんを家まで送り、自分も準備をして学校へ。何とか朝の職員会議に間に合った。
教室に行くと生徒がざわついていた。日永先生が一括して静かにさせる。
何事かと聞くとおずおずと誰かが聞いてくる。
「先生、転校生っている?」
そりゃ、この前来たばっかりのがいるだろう。だが―――
「いるわけないでしょ。」
日永先生の言葉にギョっとした。それから一斉に悲鳴が上がる。
「きゃぁ―――!!」
「つ、机が増えてる!」
「増えてるの!」
「誰も持ってきてないのに!」
おいおい、おまえら恭子を忘れたのか?
「し−ず−か−に!」
ピタっとおしゃべりが止まる。
「誰かのいたずらでしょ。まったく、タチが悪いったら。あとで、日直が片して置きなさい。」
どうゆうことだ?恭子が居ないことになってる。皆覚えてないのか?
こっそり羽織ちゃんと絵里ちゃんをよんで、聞いてみる。
「緋月は来てないのか?」
2人は顔を見合わせて驚くことを言った。
「「誰ですかそれ。」」
この2人まで忘れてる。一体どうゆうことなんだ?
2人を見送ったあと、スイッチを入れる。これで、学校の門に設置しといた装置から私の記憶だけを消す音波が出るはず。誰も私を覚えてない。
――――――たった1人を除いて。今頃びっくりしてるだろうな。
それから部屋のお片づけ。未来のアイテムを取り出して、部屋の中の家具を収納していく。
しばらくすると何にも無い部屋の出来上がり。
片づけが終わり、家具を収納した未来のアイテムと今までのデータを大事にカバンに入れる。
それから転送装置のスイッチをいれる。
もうすぐもとの時代へ帰れる。
家族に会えるのは嬉しい。研究仲間に会えるのも嬉しい。早く結果も知りたい。けど―――――
機械の音が変わる。
視界が薄れていく、何かに引っ張られてる感じがする。あぁ、帰れるんだ・・・・・。
学校の帰りにマンションへ行ってみたが、チャイムを鳴らしても誰も出ない。
煙のように消えてしまった。という感じだ。
仕方なく自分の部屋に帰ると、居た。
「先生おかえり〜。」
「・・・・・誰だ。」
「あれぇ、かわいいお孫様を忘れちゃった?」
「昨日と顔が違う。」
「―――ん、今の私は23才だもん。アレから更に未来から来たの。」
「皆、お前を忘れてる。」
「たしか、記憶消去装置使った気がする。その時代にもともと私はいないしね。」
「俺は覚えてる。」
「そりゃそうだよ。覚えててもらわなくちゃ実験にならないし。それに、おじぃちゃんの計画も台無しでしょ。」
優しい沈黙が流れる。
「いったん帰ったんだけど、忘れ物しちゃって。」
一枚の手紙を差し出された。
「じゃぁまたね。」
これは夢じゃないと思わせるように、今まであった手の辺りからヒラヒラと手紙が落ちた。
【羽織に見知らぬ包みがあるか聞いてみて。それ今度の金曜微に持ってくるようにね。私からのお詫びのプレゼントです。 あんまり羽織をいぢめないでね。瀬尋セ・ン・セ・イ 18才の恭子より】
後日、手紙の通りに聞いてみると羽織は驚いた顔になり、それから真っ赤になった。
いつものようになだめて、持ってこさせると、かわいい桜色のベビードールだった。
「私、買った覚えが無くて・・・・。それに、なんで・・・・・・なんで、先生が知ってるの?」
「天使に教えてもらったの。未来のかわいい天使にね。―――さぁ、着せて見せてよ。」
絵里ちゃんの言っていたアレとはこれだったのか。
真っ赤になってドアの向こうから可愛く睨みつける羽織に近づいていきながら笑みがこぼれる。
せっかくの孫のプレゼントだからな、きっちり堪能させてもらうことにしよう。
これから先は、また別のお話。
ちぃ花さんから頂いた、Beのお話ですv
不思議な能力が、何に基づいた物なんだろう・・・とずっと考えていたのですが、
まさか、祐恭たちのお孫様とは(笑
そりゃあ、似ているわけですよねぇ(*´▽`*)
そして!飛び級での、優秀な研究者。
・・・なんか嬉しい(笑
祐恭じーちゃんの姿に対する祐恭の反応が目に浮かぶようですわい。
羽織と祐恭だけでなく、瀬那両親や孝之、そして純也と絵里まで!!
本当に沢山のキャラを出して下さって、本当にありがとうございましたv
最後の『七不思議』オチに、思わず笑っちゃいました(笑
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