日曜日の朝。
起きてきた羽織にお水を差し出す。今度は何も入れてないよ。
「具合はどう?」
「・・・あれ?なんで私ここに・・・。」
「昨日、急に熱が出て急遽お泊りさせたの。」
「そうなんだ。ごめんね迷惑掛けちゃって。」
「大丈夫。彼氏さんには絵里から電話しておいて貰ったからね。朝食の準備するからその間に元気な声聞かせてあげれば?」
「そうする。」
お水をサイドテーブルに置き、キッチンへ。
いちおう、熱出したってことになってるから、おかゆにしておこうかな。

ご飯を食べてるとチャイムが鳴った。
「おはよー。車取りに来たよ。」
オートロックを開けてやると程なくして、3人が玄関先に現れた。
「羽織、大丈夫?」
「うん。もう大丈夫。」
「しっかり看病したもん。」
「うむ、でかした。恭子には褒美を取らせる。」
「ははぁ。ありがとうございます。絵里様。」
あはは、と笑い声が上がる。
着替えが済むまで、部屋に上がってもらうことにした。

着替えが済んで、リビングに行くとTVでは中華街の映像が流れてた。
「・・・・こっから中華街ってどれくらいかかるかなぁ?」
と聞くと、絵里が
「1時間くらいじゃない?」
「そんなもんか。・・・・おもしろい?」
「まぁね。おいしいものいっぱいあるし。」
「ふぅん。・・・決めた!これから一緒に行こう!」
「「「「え――――!!!!」」」」
「いいじゃないですかぁ。皆で行こうよぉ。」
4人で顔を合わせながら視線で会話してるように見える。
「へぇ、皆、いやなんだぁ。」
目を細めてニヤリと笑顔を4人に向ける。
「さすがに、教師と生徒が遊びに行くのはまずいだろ。」
「そうですよね。マズイですよね。」
慌てる、先生達。
「ふぅ〜ん。じゃぁ羽織と絵里だけ貸してください。」
「貸してくださいって、ウチら物じゃないよ。」
「もちろん、物だなんて思ってないよ。早く言えば口止め料って所かな。」
皆を見回してからゆっくりと口を開く。
「昨日聞いちゃったんだよねぇ。うなされてる羽織がしゃべってるの。そこまで言えばわかるかにゃぁ?」
はっ!っと息を飲む4人。
「も、もしかして・・・・。」
おそるおそる私の顔を見る羽織。ん〜かわいい。
「そ、うわ言で何度も呼んでたよ。祐恭さんって。もちろん先生のことだよねぇ?」
「――――――!」
顔を真っ赤にして慌てる羽織。びっくりする瀬尋先生。
おかしそうに笑う絵里と田代先生。
「んふふ〜。そんなわけで皆で行こう!さぁ行こう!」
「俺らもかよ。」
「もちろん、田代先生と絵里が従兄ってゆうのもウソでしょ。」
「うっ。」
「やっぱしそーなんだ。カマかけ成功しちゃった。」
「――――――!」

皆の顔があんまりにもくるくるかわるので私一人で笑いころげる。
皆サイコ−だっ!


観念した4人は渋々了承したので、気が変わらないうちにさっさと下に行って車に乗り込む。
瀬尋先生のRX−8に田代先生。私のアコードに羽織と絵里を乗っける。
「なんでこの組み合わせなんだ?」
と田代先生。
「だって、先生達が各自で車出すと私だけあぶれるでしょ?1人で車運転しても楽しくないし。」
当たり前でしょ?って感じでいってやった。
まぁ、スポーツカーに男2人で乗ることほど悲しいものはないけど。
「じゃぁ、瀬尋先生、中華街の駐車場まで競争ね!」
「あ、おい、お前若葉だろ!安全運転で・・・。」
「お先でーす!」
先に車をだす。
慌ててRX−8も追いかけてくる。ふっふっふ、負けないわ。

車の中は楽しかった。
途中、高速で抜かされたけどそこは若葉マークの印籠を持つ私。前の車が道を開けてくれるのよ。
・・・・後ろから突っ込まれたくないんだろうな。ちぇ。
「ほら!恭子そこそこ!純也に負けちゃうじゃない!」
「ほいきた!」
「きゃぁっ。」
ごめんね羽織。うん、ちょっと反省してます。


駐車場にはかろうじて先に着いた。
「かったー!」
両手を挙げて絵里とハイタッチ。
後ろからペチッと瀬尋先生に叩かれた。
「もうすこし、安全運転しろよ。みててハラハラしてたんだぞ。」
「平気だったじゃないですか。」
「そうゆう問題じゃなくてなー。」
と、田代先生。すかさず横から絵里が
「なによ、純也よりは荒くなかったわよ。」
「なんだとー?!」
早速じゃれてるのかよぅ。
「羽織ちゃんはどうだったの?」
やさしく声を出してるけど有無を言わせない雰囲気。マズイここで負けられない。・・・ってなにに?
「えー羽織はこわかったのぅ?」
こっちは寂しそうな声を出す。
はさまれた羽織はえっとを繰り返す。
「高速は、先生より怖くなかったよ・・・。」
やっとでた答えに私が抱きつく。
「ほらね。安全運転だったでしょ?」
先生を見上げる。
「あ、そ。」
怒ったかな?いちおうフォローしとこかな。
「先生達ゴメンナサイ。先生達の大事な人を乗っけてたんだしね。反省してます!」
先生達は一応笑ってくれた・・・・のかな?
女2人はちょっと赤くなって下を向いた。


両手に花、後ろに従者の状態で中華街へ。
かわいい雑貨をみては3人ではしゃぎ、チャイナ服を真剣に選び、おいしいものをいっぱい食べた。


欲を言ったらきりがない。最後に女子高生の休日できたし、これでよしとしよう。
「よし!帰りましょう。」
やれやれって顔した先生たちと駐車場まで戻ってくる。
来る時と同じように羽織と絵里を乗っける。
「帰りもかよ。」
って小さく呟いた瀬尋先生の言葉は知らん振り。
帰りは競争せずに、おとなしく後ろを付いていった。

マンションに着くと絵里と田代先生は車に乗ってさっさと帰っていった。
羽織は荷物を部屋に置きっぱなしなので取りに戻ることになった。
先に、羽織をエレベ−タ−に向かわせて、先生にはメモを渡す。
「あぶり出しですよ。戻ってくるまでの暇つぶしにど−ぞ。」
にっこり笑って、羽織の待つエレベ−タ−へ。

部屋に入った羽織にお水を勧める。またもや睡眠薬入りのお水を。
へたりと座り込んだ羽織をベットに寝かせる。
「さて、準備しますか。」
先生が気づいて上がってくるまでにやっとかなくてはいけないことが、まだ少しあった。


「なにをくれたんだ。」
言われたとおりに待ってる間、渡されたメモをライターであぶる。
じんわり浮かんできた文字には俺を驚愕させた。
「羽織は預かりました。返して欲しければ私の家までいらしてください。」
「なっ!なんだ!!」
そのときタイミングよくオ−トロックが開いた。
「くっそっ!なんなんだよ!!」
俺は走り出していた。


「―――――さってと、こんなもんかな。」
リビングにどっさり持って着た人形にぬいぐるみ。大きいのから小さいのまで色々。
「・・・来たな。」
ドンドンドンとドアをたたく音。
カギは開いてるのに・・・。
よっぽど慌ててるのね。
ようやく気がついたのかドアを開けてバタバタを部屋を上がってくる音。
「・・・・っ、はっ、羽織!どこだっ。」
ガチャンと部屋の鍵をかける。ハッっとして瀬尋先生がこちらを振り向く。
ものすごい形相。
私はにっこりと微笑み、口を開く。
「いらっしゃい。瀬尋 祐恭さん。」
「羽織はどこだ!」
「まぁまぁ、慌てない。・・・っと、危ないじゃん。」
掴みかかってくる先生をヒラリとかわしリビングの方へ。
「羽織を返せ。」
「んもぅ。話くらい聞いてよ。羽織は無事だから。」
「当たり前だっ!羽織になんかあってみろ、殺してやる。」
「お〜こわ。殺される前にさっさと済まそうね。ぽちっとね。」
小さなリモコンを取り出し、スイッチを入れる。
部屋の風景が一変する。
「ようこそ、私の世界へ。」
「?!」
「1つ私とゲームしよ。商品は・・・・瀬那 羽織。」
「・・・っ!!」
怒ってるなぁ。戸惑ってるなぁ。怖いなぁ
「ルールは簡単。この世界に在(い)る、羽織を見つけるの。羽織にキスをすれば、それで元の世界に帰れる。」
「ただ、チャンスは1回。失敗すれば羽織は戻らない。でも、先生は元の世界へ。羽織の居ない世界へ1人で戻るの。」
「これは夢・・・か?」
周りを見渡している。無理もない。化学の教師だしね。
「そう思ってもいいよ。試してみる?・・・・・嘘か真か。」
「・・・・羽織を返せ。」
「ルールは説明したよ?時間はたっぷりあるから頑張って。あ、ギブアップは無しだからね。」
「おい、どこへ行く!羽織を返せ!!」
「じゃぁね、先生。頑張ってね。」
「緋月っ!」
すぅっと闇に溶け込んでいく私の姿。先生が手を伸ばした所はすでに闇の居場所。
頑張って、先生。羽織を見つけて・・・。


「くそっ、なんなんだよこれ。」
目の前にはぬいぐるみやら人形やらがふわふわ浮いている。
「・・・・・。」
これのどれかが羽織だって?なにを馬鹿な。人間が人形やぬいぐるみになれるのか?
それより、部屋に入ったのに俺は今どうしてこんなところに居るんだ?
「やっぱり夢か・・・。」
でも、緋月の言うとおり現実だとしたら?

・・・アレから時間はどれくらい経ったのだろう。腕時計をみるが、文字盤の針はグルグルと回っていて役に立たない。 人形やぬいぐるみを一通り見てみたが、羽織とはどれも、思えない。
「羽織・・・・。どこに居るんだよ・・・・。」

別の場所でモニターから先生見る。
「先生なら大丈夫。そうなんでしょ、おじぃちゃん・・・・。」

少しずつ意識が戻ってくる。ここはどこ?
体を動かそうとすると体が重い。声が出ない。でも、不思議と怖くない。
荷物を持って先生のところに走っていくはずだった。
先生とあの部屋に帰るはずだった。
部屋に入れば先生がいつものように お帰り って抱きしめてくれるはずだったのに。
先生に会いたいよ。先生、どこ・・・?


目の前に悪魔が現れた。
「苦労してるね、先生。」
「羽織を返せ。」
つかみ掛かる体力もない。何かに寄りかかって、睨む事しか出来ない。ただ、ただ、羽織に逢いたかった。
今頃、2人で眠っているはずだった。先週の分をしっかり取り返してから。
だが、今はどうだ?こんな女に、大事な女を取られ、いいように遊ばれてる。
「頼む、羽織を返してくれ。」
祈るように、この先のすべてを引き換えにしても、魂さえもくれてやる思いで言葉が出る。
だが、悪魔はイエスとは言わなかった。
「だめ。先生ならきっと、きっと気づくから。」
またも、悪魔は闇に溶けていった。
「羽織・・・。」
俺はいつの間にか目を閉じていた。

先生ごめんね。でも、先生なら大丈夫。だから頑張って。
見かねてヒントを出してしまったけど、それに気がついてくれるかな。
早く羽織を見つけてあげて。


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