その日の夕方、いったん自宅に戻って、お酒を持って瀬那家に車を走らせる。
速く行きたいけれど、ここはガマンしてゆっくりと時間をかけて行かなきゃね。
玄関のチャイムを鳴らすと、中から羽織が出てきた。
「いらっしゃい。」
「ごめんね、遅くなっちゃった。さっさと置いて帰るから。」
少し困った笑顔を向ける羽織。そりゃぁ、早く逢いたいもんね。
リビングに通されると、おじ様がTVをみていた。
羽織は、孝之さんを呼びに2階に上がっていった。
「おじ様、こんばんは。お言葉に甘えてまた来ちゃいました。」
「やぁ、いらっしゃい。恭子ちゃんだったよね。」
「はい。」
「じゃぁ恭子ちゃん、立ってないでまぁ座りなさい。」
はい。と短く返事をして空いてるソファに座る。バタバタと足音がして孝之さんが入ってくる。
「いらっしゃい。恭子ちゃん。」
「こんばんは。お邪魔してます。」
そろったところで、お酒を取り出す。
「先週話してた勝駒(かちこま)です。」
取り出すと2人は嬉しそうに眺める。
「これかー。ありがとな。」
さっそく試飲だっ!といってキッチンの方へ姿を消す孝之さん。
「悪かったね。」
とおじ様。
「いいえ。私が持ってても仕方ないですし。じゃぁ、私はこれで。」
と席を立つとキッチンから声がした。
「ご飯食べていきなさいな。」
おば様が声をかけてくれる。すぐにでも返事したいけど、ここは遠慮がちにね。
「ありがとうございます。でも、これから羽織が彼氏の所に行くそうなので、この辺で失礼します。」
横から孝之さんが、
「平気、へーき。これ貰ったのにメシもご馳走しないで帰せるかよ。なぁ、親父。」
そうだな。と頷くおじ様。
「祐恭には俺から電話しとくから、明日行けよ。」
孝之さんが羽織に耳打ちする。私は聞こえない振りをする。
ちょっぴり悲しそうな顔をする羽織。ごめんね、わがままで。
瀬那家のご飯は嬉しいけれど、羽織を悲しませるのはやっぱりつらいかな。

結局、夕食をご馳走になって、車に乗り込んだのは夜中の12時を回ったところだった。

その夜
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
一生懸命謝る羽織。
「いや、羽織ちゃんが悪いわけじゃないし。」
「・・・・・・ごめんなさい。」
2人の間に沈黙が流れる。ふぅとため息をついて瀬尋先生が話しかける。
「明日は羽織ちゃんもおいで。そのあと家にくればいい。」
「はい。あの、先生・・・。」
「ん?なに。」
「怒ってます・・・?」
「うん。だから、明日はその償いしてもらうからね?」
「・・・・先生のえっち・・・。」
「ふーん、そうゆうこというんだ。明日が楽しみだ。」
「・・・ぅぅ・・・。」
・・・・・。逢えると思ったら機嫌が直ってる。けっこう単純な人だったのね。

「・・・計画は順調。」
電源落として、寝室へ。
ぱちんと部屋の電気を消して、明日に備える。


土曜日のお昼過ぎに荷物が届く。さすがにソファはリビングまで運んでくれたけど。
ベッドと食器棚とTVボードは玄関先に置いていかれちゃった。ほんとに届けるだけなのね。
お昼食べて、テレビ見てるとチャイムがなる。
オートロックを開けてやるとしばらくしてドアを開けて入ってくる見慣れた顔。
「相変わらずカギ閉めてないの?危ないって言ってるでしょ。」
「いいじゃん、開いてるほうが逃げやすいってこともあるでしょ。」
中に通しながらケラケラ笑う。
先生達はきょろきょろと室内を見回す。
「いいところに住んでるな。」
「そぅですか?まぁ、便利はいいですけどね。あ、それです。お願いしマース。」
壁に立ててあるベッド達を指差す。
やれやれと、作業に取り掛かってくれる。
女性陣には紅茶とお菓子を出してあげる。
「これ、恭子焼いたの?おいしー。」
「上手に膨らんでるし、焼き色もきれー」
お手製のシフォンケーキ。今回は3種類用意してみた。
プレーン・ジンジャー・ココア。お茶を出してあげたところで寝室から声がかかる。
パタパタと声のするほうへ。
「ここでいいの?」
「うん。壁にぴったりくっつけちゃってください。」
ベッドと食器棚・TVボードを組み立て設置してもらい、ついでに本棚も移動してもらった。
「ご苦労様です。」
と羽織が先生達に紅茶とケーキを持ってくる。
「俺は飲み物だけでいいや。」
「俺も。」
そんな2人を見て、
「ひっどーい。一生懸命作ったのに。」
「甘いものだめなんだよ。俺たち。」
「ジンジャーなら大丈夫だから。それにあわせて紅茶ブレンドしたし。甘くないよ?」
なかば無理やり食べさせる。
ウマイって顔してくれた。
それをみてふふんと鼻を鳴らす。
「それで、今日のお礼なんですが。」
と切り出す。
「冗談だから気にするな。」
「ん、でも、家にあっても困るものだし嫌いじゃなければいいんですけど。」
奥の部屋へ案内する。
部屋に入った先生達に棚を促す。
そこにはけっこうな数のお酒。
「両親が置いていったんですよ。引っ越すときに色々貰ったみたいだし。けど私、1人じゃ飲みきらないし。」
「未成年が飲酒するなよ」
と、いわれたけど、あんまり迫力なし。だって銘柄をみた先生達は大はしゃぎ。
そりゃそうだ、銘酒といわれるものを始め、希少品から幻の物までよりどりみどり。
「好きなの持ってってください。それとも利き酒大会でもします?」
この言葉に2人の目が輝いた・・・様な気がする。
遠慮されるかと思って、色々考えてたのに。ものの見事に裏切られちゃった。

女3人で夕飯の買出し。
わざと羽織に突っついてみる。
「付き合ってくれるのはすっごくうれしいけど、彼氏は大丈夫なの?」
「え、あ、うん。大丈夫。」
「幸せそうにしてたもんね。」
と絵里が羽織につぶやくのがしっかり聞こえた。でも、知らん振り。
夕飯の買い物終わって家に帰ると靴の数が増えてる。
「この靴・・・まさか!」
羽織が飛び込んでいく。
「・・・・お兄ちゃん!?なんでいるの!!」
「んぁ、おかえりー。いやぁ、この前、恭子ちゃんが欲しがってたやつ手に入ったから持ってきたんだ。」
孝之さんがいた。男3人で酒盛り始めてる。
「そしたら、祐恭がいるじゃん、んで、酒があるじゃん、こりゃぁお邪魔しなきゃと。」
「だからって、勝手に!」
「まぁまぁ、羽織。いいから、いいから。孝之さんいっぱい飲んでいってね。」
「サンキュー。それは店に持ってけば付けてもらえるように頼んでおいたから。」
「ありがとうございます。」
もぅ、と羽織が肩でため息をつく。それを見て、まぁまぁとキッチンへ促す。
羽織と絵里に手伝ってもらってとりあえずおつまみを作る。
そのあと、料理作り。

料理が出来上がったとき、男性陣もほぼ出来上がってた。
「おまたせー、出来たよ。」
絵里と羽織にリビングに持ってってもらい、テーブルセットしてもらう。
少量ずついろいろと作った。
「おー、うまそう。」
ひょいとローストビーフに手を伸ばして食べる孝之さん。
「お行儀悪いよ、お兄ちゃん。」
「んー、ウマイ。これ恭子ちゃん作ったの?」
「簡単なものでゴメンネ。」
「羽織もそこそこやれると思ってたけど、恭子ちゃんもやるなぁ。」
と褒めてくれる孝之さん。うちのお兄ちゃんもこんな風だったらいいのに。
「おい緋月、高校生が車を運転しちゃいけないぞ。」
と田代先生
「えーでも、校則には書いてないじゃないですか。」
「・・・そうだったか?あれって暗黙のルールってやつじゃないのか?」
「どうなんでしょうね。それにしてもマニュアル車だって?」
と瀬尋先生
「渋いよなぁ。オートマ全盛期でよ。」
と孝之さん。
酔っ払い3人を見て羽織と絵里は苦笑い。私は大いに楽しいぞ。

せっかく作った料理もほぼ女性陣の胃の中へ。でも、男性陣だけ楽しかったらつまらないでしょ?
ダイニングのテーブルで女3人でおしゃべり。
「男らばっかり盛り上がってつまらないね。」
「ん〜、じゃぁゲームでもする?」
2人を別の部屋に案内する。
「うわぁ、パソコンが2台もある。」
「本がいっぱい。何の部屋?」
崩れた本の山を足で一箇所にまとめ、その下からノートパソコン2台を探し出し電源を入れる。
「んと、趣味部屋ってとこかなぁ。」
ノートパソコンの片方のキーボードをカタカタと叩くと、もう1つのノートパソコンのほうにもゲームのオープニング画面が流れる。
簡単に操作の説明する。
「マウスで移動&ダーゲット確定。キーボードのA=パンチS=キックD=防御ね。」
次にゲームの説明。
「フィールドに散らばってる宝箱から王冠を見つけた方が勝ち。モンスターが出たら戦う。モンスターに負けちゃったら相手の勝ち。」
とりあえずやってみせる。いちおう納得したのか、
「よし!羽織勝負だ!」
「負けないからね!」
のめり込む2人。

しばらくして外を見るとすでに月も昇りきってる。時計を見ると夜の11時過ぎ。
男性陣をみるとまだ飲んでる。女性陣をみるとまだ対戦中。
おぃおぃ。お互いの存在忘れてない?仕向けたの私だけど、これからの計画、不安になっちゃうよ。
リビングにいって男性陣に時計を見せる。
「ぬぁ、もうこんな時間かよ。恭子ちゃんご馳走様。部品代は今夜のお酒でチャラね。」
「あはは。いいですよ。助かりました。代行頼んだから使ってくださいね。」
「ん〜。じゃ、おやすみ〜」
「お兄ちゃん、気をつけて帰ってね。」
別室から声をかける羽織。
「ん〜なにやってるんだ?お前ら。」
覗き込む3人はちょっと足元フラフラ。
「「ゲーム」」
画面から目を離さず、声をそろえる2人。
「私が作ったゲームで遊んでもらってるんです。」
「これって、恭子が作ったの?!」
やっぱり画面から目を離さない絵里。
孝之さんが画面を覗き込む。
「へぇ、結構本格的じゃね。」
「そーですか?暇つぶしに作ったんですけどね。」
えへへ。褒められちゃった。
「お、代行が来たみたいだな。じゃぁ、おやすみな。それとご馳走様でした。」
「いえいえ。おやすみなさい。」
孝之さんを送り出す。
さて、こっちはどーだ。
「絵里そろそろお開きだよ?」
「もうちょい。」
「羽織ぃ?」
「うん。これで最後。」
「んもぅ。」
やれやれと先生達のほうを振り返り、
「先生達は家近いでしょ?車は置いていってね。明日にでも取りに来てもらって大丈夫なんで。タクシーで帰ってくださいね。」
「いや、そんなわけにも・・・。」
「それだけ飲んで、車、運転するきですか。」
リビングの方を指差して、周りに転がるお酒の空き瓶を見せる。
「「・・・・・。」」
「わかればよろしい。お茶入れますから、もう少し待ってあげてくださいね。」
キッチンへ行ってお湯を沸かす。
濃い目に緑茶を入れて2人に差し出す。
ソファに座っててもらい、片付け始める。
しばらくして、ゲームの終わった絵里と羽織が片付けを手伝ってい始めた。
「いいよ。後ちょっとだし、明日ゆっくり片付けるから。そのままにしといて。」
「近いんだから気にしなくていいよ。いっぱいご馳走になったしね。」
「そうだよ。手伝っていくから。」
「ありがと。じゃぁ、片付け終わったら羽織は私が送っていくね。」
「え、あ、・・・んと。」
「羽織ちゃんなら俺と同じ方向だから、一緒にタクシー乗っていけばいいよ。」
横から瀬尋先生が助け舟。そうですか。って言ってあげたいのはやまやまだけど、
「だめです!羽織は彼氏のところに行くんですよ?ほかの男の人と一緒にいるところなんて見られたら、大変じゃないですか。」
絵里と田代先生は苦笑い。
瀬尋先生は仮面笑顔に、羽織はハラハラしてるみたい。
きっと先生はいっそのことバラしちゃおうとか思ってるんだろうな。
「・・・・・。それもそうだな。悪かったね羽織ちゃん。」
「あ、・・・・はぃ。大丈夫です。」
テキパキと残りを片付けて、エントランスへ。もちろんタクシーを待つために。
「今日は本当にありがとうございました。おかげで助かりました。」
「いやいや、こっちこそご馳走様。お土産までもらって。」
先生達の手の中には飲みきらなかったお酒。
「また、飲みたくなったらいらして下さい。なんならお届けしますから。」
「瀬尋先生も今日はありがとうございました。」
「あぁ。」
あらあら怒ってるわね。
丁度タクシーが来たので3人を押し込む。
「じゃぁ、月曜日に。おやすみなさい。」
絵里だけがひらひらと手を振ってくれた。
「じゃぁ羽織も送っていこうか。」
「うん。その前にお水飲ませて?」
「ん。じゃぁ部屋いこっか。」
パタパタと走ってエレベーターに乗り込む。時間ずらさなきゃいけないもんねぇ。
部屋に上がって、羽織にお水を飲ませる。ただし、睡眠薬いりのね。
なにも知らない羽織はそれを飲み干す。
「じゃぁ行こうか。」
と、玄関へ。
靴を履こうとすると羽織がへたりと座り込んだ。薬が効いてきたみたい。
そ知らぬ顔で羽織に声を掛ける。
「どうしたの?」
「ん、なんか体がだるい・・・・。」
おでこに手を当てる。
「羽織、熱があるよ?!」
うわぁ、白々しいかなぁ。
「でも、行かなく・・・ちゃ・・・・・・。」
言うが早いか、倒れるのがはやいかで、羽織は夢の中へ。
・・・・・羽織ごめんね、本当にごめんね。
携帯を取り出して、絵里に電話を掛ける。
「もしもし、絵里?ねぇ、羽織の彼氏の電話番号わかる?」
『どうしたの?』
「羽織、熱出て倒れちゃったの。それで、今日はもう遅いし、ウチに泊まらせようと思うんだけど。」
『さっきまで元気だったじゃん。羽織大丈夫なの?』
「うん、熱だけみたいだから風邪だと思うのよ。ゆっくり寝れば治ると思うけど。」
『そっかぁ。・・・・・彼氏には私が電話しとくよ。羽織お願いね。』
「うん。まかせて。彼氏さんにも大丈夫ですからって言っといて。」
『ん、じゃぁほんとによろしく。』
「おやすみ。」
携帯電話をテーブルに放り投げ、羽織をベットへ運ぶ。
頼まれごととはいえ、やりすぎたかなぁと少し反省してみる。

そのころの瀬尋先生
『・・・と、ゆうことで羽織は恭子に看病されてます。』
「ん、わかった。わざわざありがとう。絵里ちゃん。」
『いーんですよ。それとも私が迎えに行って先生のところ連れて行こうか?』
「いや、きっと看病するのは女の子の方がいいだろうし、緋月に任せるよ。」
『そうですね。・・・ねぇ先生、恭子のことあんまり好きじゃないでしょ。』
「どうゆう意味かな。」
『だって、恭子が転校して来てから邪魔ばっかりされてるもんね。』
「・・・・・。」
『あはは。恭子に悪気は無いからさ。それにアレみたら先生も恭子のこと好きになるだろうから。』
「アレ?」
『まぁ、そのうちのお楽しみですよ。じゃぁ、恭子に電話しときますね。おやすみなさい。』
「ん、よろしくな。」
切れた電話を見つめながら、深いため息が出る。
「悪気があったら、たまったもんじゃないよなぁ・・・・・。」

先生ごめん。悪気ありまくりです。
「・・・・・・・・計画変更。明日決行。」
ベットでスヤスヤと寝息を立てる羽織。明日でお終いだから。あと少し、ほんの少し付き合ってね。


1つ戻る  トップへ  次へ