日曜日の朝。
羽織と絵里が朝食の支度をしてくれてた。
「怪我人はそこでおとなしく座ってなね」
「はーい」
「勝手に借りちゃうけどいい?」
「どんどん使って」
んふふ、いいね。誰かが自分のためにご飯作ってくれるって。
うちのお母さん料理下手だしねぇ。誰かさんに似て。
「おいしいー!」
「でしょー。」
「絵里は何もしてないでしょ?」
「切ったもん」
「はいはい。でも、羽織このジャーマンポテトおいしぃ。」
「ありがと。」
うん、ほんとにおいしぃ。しあわせ〜。
ご飯も食べ終わって、ガーゼ交換してもらう。
「うん、血は止まってるね。」
「ほんと?傷、けこう目立つ?」
「そうでもないよ?一応病院いく?」
「ううん。止まってるなら大丈夫でしょ。それより、2人にお礼したいんだけど。」
「気にしないでよ。友達なんでしょ。」
「だから、お礼がしたいんじゃない。もう少し、付き合ってね?」
半ば強引に2人に了承を取る。
車を出して、昨日行ったショッピングモールへ。
2人は、きっと少しでも早く逢いに行きたいんだろうなぁ。
「今週は、私のせいで2人の予定邪魔しちゃったから、来週に備えて2人にプレゼントね。」
「んで、どこに行くのよ。」
連れてきたのは下着屋さん。
「彼氏にもお詫びしなきゃだしね。」
「い、いいよ。大丈夫だから。こんなことじゃなくてお茶でいいから。」
恥ずかしそうに下を向いて一刻も早く店を出たくてしょうがなそうな羽織。
そんな羽織をみて、絵里に囁く。
「ねぇ、羽織の彼氏ってどんなのが趣味なのかな?」
「そうねぇ。下着かぁ、羽織が着てればなんでもよさそう。」
「なにそれ、答えになってないし。」
「だって、そうゆう人だもん。」
少し悩んでから、
「じゃぁ、羽織はこれね。絶対似合う。」
「えっ!ちょ、ちょっとそれはっ・・・?!」
「いいじゃん、羽織!たまにはそうゆーのも。恭子センスいいね。」
「でっしょー。んで、絵里はこっちね。」
「えぇ?こっちくらいが・・・」
「だめだめ、絶対こっち。すいませーん、これくださーい。」
お会計を済ませて、2人にプレゼント
「なんか、気を使わせてごめんね。」
「ううん。いいのお詫びのつもりだし。彼氏も気に入ってくれるといいけど。」
「大丈夫よ。羽織は生きて帰ってこれないかもしれないけど。」
「なっ、ばっ、・・・え、絵里!」
あははと声が上がる。
なんだかんだで、結局今日も一日遊んでもらった。
時間はすでに6時。
店を出ると突然の雨。
急いで駐車場に向かい車に乗り込む。
「うわぁ、びしょびしょ。車の中濡れちゃうよ。」
「車より体のほうが大事でしょ。後ろにタオル積んであるから使って。」
「準備いいのね。」
体をポンポンと軽く拭き髪の毛を拭いてる2人。
私もタオルを取ってもらって、簡単に拭く。
「じゃぁお家に帰りますか。順番に送っていくね。」
雨も降ってるせいか、2人から反論も出ず。
「そこの角まがって、・・・そう、そこ。」
まずは絵里を送っていく。
「絵里の家はウチから近いんだね。今度遊びに行ってもいい?」
ちょっと苦笑いの絵里。
「実は従兄の家なのよ。化学の田代先生ね。家の両親も海外出張で居候の身だから・・・。」
「そっかー。でもまぁ、近くてなんかラッキー。」
「ん、じゃぁ、また明日ね。2人ともおやすみ。」
ばいばいと手を振ってエントランスに消えていく絵里。それを見届けてから車を出す。
「じゃぁ、次は羽織ね。」
「うん。それじゃぁこの道を・・。」
羽織のナビを頼りに送り届ける。
家の前に着くと、人影が。
「あら、羽織お帰り。」
「ただいま。どうしたの?」
「回覧板置いてきただけよ。あら、そちらは?」
「はじめまして、先日転校してきました緋月 恭子と申します。週末、羽織ちゃんには大変お世話になってしまって。」
「あら、そうなの。丁度いいわ。上がっていってちょうだいな。夕飯まだでしょ?」
「え!いいんですか?!」
「そうだね、上がっていきなよ。車はそこで大丈夫だから。」
「あらまぁ、車なの?学生さんが車の運転なんていいの?」
「さぁ。とりあえず校則には書いてないので大丈夫かと。」
と苦笑い。さぁさぁと中に通される。
うれしいな、どきどきするな。
家の中に通されるとご飯のいい匂い。
「お帰り、羽織。」
と羽織のお父さん
「土産は?」
とお兄さん
私を視界に捉えると、
「えーと、そちらのお嬢さんは?」
「夜分にお邪魔します。先日冬瀬女子高校に転校してきました、緋月 恭子と申します。」
「挨拶は終わったかしら。さぁさ座ってちょうだいな。羽織、席つくってあげて。」
羽織が席を作ってくれ、ストンと座る。
なんか緊張するな。
夕食はすっごくおいしかった。
「おいしぃ。羽織の料理もおいしかったけど、おば様のお料理もすっごくおいし。」
「あら、ありがと。遠慮せずいっぱい食べてね。」
「ほぅ恭子ちゃんは1人暮らしなのか。女の子1人でご両親は心配じゃないのかね?」
「たぶん、心配はしてくれると思ってます。でも、どうしても日本にいたくて。」
「そうか、まぁ、ウチはいつでも来てくれてかまわないから。な、母さん」
「そうよ、1人でご飯なんて寂しいものね。車もあるみたいだし、いつでもいらっしゃいな。」
「お、車もってんの?」
と孝之さん。
「えぇ。1人暮らしだと買い物とか不便だろうからって。誕生日早かったのでさっさと免許取っちゃいました。」
「車はなに?」
「えっと、ホンダのアコードです。」
「しかも、恭子ってばギアの運転なんだよ?すごいよねぇ。」
「お、女の子なのに珍しいね。」
「だって、オートマじゃ運転してる気しなくて。」
「だよなー。」
しばらく孝之さんと車の話しで盛り上がる。
安いガソリンスタンドやカー用品のお店とかいろいろ教えてもらった。
途中、羽織が孝之さんの運転について話すと兄弟ゲンカ勃発。
すぐにおば様に止められたけど。
楽しい時間は過ぎるのがはやい。ってゆうけどホント。
帰る時間になって、羽織に見送りしてもらう。
「なんか、引き止めちゃってごめんね?」
「ううん。ステキな家族だね。」
「えへへ」
ん〜やっぱり笑うとかわいいな。
「じゃぁ、また、明日ね。おやすみ〜」
「おやすみ〜」
車を走らせる。ちょっぴりホームシックになっちゃったかな。うぅ、涙が出てきた。
その日の夜中の2人
電話中みたい。
一生懸命謝ってる羽織。不機嫌な瀬尋先生。不満を言う相手が違うでしょ?
明日、笑って会えるといいなぁ。
お風呂を済ませ、布団に入る前にパソコンに向かう
「―――――瀬那家のご飯はおいしかった。計画は順調デス。」
打ち終わると、さっさと布団にもぐりこんでそのまま寝る。
寂しさで涙が出るけどいつの間にか眠りについていた。
月曜日。
「おっはよ〜。」
教室に入っていくと元気のない羽織が目に止まる。
絵里はまだ、来てないみたい。
「羽織おはよ。どうしたの?元気ないね。」
「おはよう。ううん元気だよ?」
どう見ても、聞いても元気がないぞ。
瀬尋先生、いじめすぎなんじゃ・・・。
そこに絵里登場。
「おはよー。ん?羽織どうした?元気ないね。」
「絵里もそう思うでしょ。」
「んもぅ、元気だってば。」
絵里をちょっと廊下まで引っ張っていき耳打ちする。
「羽織が元気ないのってやっぱり彼氏のせい?」
「まぁね。羽織が元気ないってことはそうかも。」
「・・・・私のせいだね。」
わかってる。そう仕向けたのは自分。でも、実際目の当たりにすると心がすっごく痛む。
「まぁ、そのうち元気になるよ。あんまり自分のせいだと思わないほうがいいよ?恭子まで元気なかったら羽織、ますます元気なくしちゃう。」
そう?と笑いを返す。
結局その一週間羽織は元気がなかった。
そんなこんなで金曜日のお昼ごはん。
「ねぇ、羽織。今日おじ様と孝之さん夜いらっしゃるかな?」
「むぐ?」
パンをほおったばかりの羽織に声をかける。
「・・・ゴクン。夜は居ると思うよ。どうしたの?」
「先週、話してたお酒でも、持って行きながらまた、ご馳走になったら、図々しい?」
「ううん。そんなことないケド・・・・。」
「ケド?都合悪い?」
「羽織は今日の夜から彼氏のお家にお泊りなのよ。」
「そーなのか。じゃぁ、お酒だけ置きに行くね。」
「ごめんね?」
と、申し訳なさそうに羽織。
「ううん。先週のこともあるしね。こっちそこなんかごめんね。」
それからまた、他愛の無い話で盛り上がる。
しばらくして、突然思い出したかのように話をきりだす。
「そういえばさ、明日うちに家具が届くんだ。」
「へぇ、やっと部屋らしくなるんだ。」
「うん、そーなの。」
先週泊まりに来た時点では、ベッド・食器棚・ソファ等などの家具類が無かったのデス。
「んで、届くことは届くんだけど、どうやらそれだけらしいの。」
「と、ゆうと?」
「設置してくれないんだって。どうやら組み立て式のばっかり買っちゃったみたい。」
「まじ?どーするの?」
「どーするって、やっぱり何とかしなきゃだしね。」
「恭子1人じゃ無理じゃない?」
「羽織もそう思う?さすがの私でもちょっと厳しいかなって思ってた。」
「思う前に無理だから。」
絵里に突っ込まれる。すると羽織が笑う。うん、やっぱり笑顔の方がかわいい。
「こうゆうとき1人だと、困るね。」
お弁当も食べ終わって、ジュースで流し込む。
「そろそろ、先生の所行って来るね。」
羽織が立ち上がる。
「一緒に行こうか?」
と心配そうに絵里がいう。
「大丈夫だから。」
そうゆう羽織は元気がなくなってる。
それもそうだ、化学室に行くたびに元気がなくなってるんだもん。
「私も、授業前に聞きたいことあるし、一緒に行こう?」
ウソってバレバレだなぁ。もう少し上手につければいいのに。でも、羽織は、じゃぁ、とちぃさく呟く。
3人で化学室へ。
「失礼しマース。」
「失礼します。」
「お邪魔しマース」
ガチャっとドアを開けて入っていく。
「一週間前と挨拶が違うんじゃないか?緋月。」
と田代先生。
「そぅですか?気のせいですよ。」
と返す。
瀬尋先生の視線がものすっごく痛いけど、しらんぷり。
「先生、次の授業は。」
「実験するから。早めに教室にいってて。」
「・・・はぃ。」
んもぅ!もうちょっとなんか言い方ないわけ?瀬尋先生!かわいい彼女でしょうが!と心の中で怒り爆発。
でも、今週の計画発動!
「あ、そうだ!ねぇねぇ先生様方ぁ?」
「なんだ、気持ち悪い声出して。」
「そんな冷たいこと言わないで、田代先生。あのね、明日、ヒマ?」
「ヒマって、なんだ急に?」
怪訝そうに聞かなくたっていいんじゃない?
「じつは、明日家具が家に届くんですけど、設置までしてくれないみたいで、手伝ってほしぃなぁ、なんて。」
この言葉にまたまた4人それぞれに複雑な顔。面白いなぁ。
「ほら、親戚いないし、知り合いいないし、女1人じゃどうしようもないし。お願いしますっ!」
「ほ、ほら、でも、特定の生徒の家になんか行けないしなぁ。」
「え〜。だって、田代先生絵里の従兄なんでしょ?だったら、問題ないじゃないですか。瀬尋先生もその同僚ってことで、ね?」
「ね、ってなぁ。」
「ちぇっ、けちぃ。いいもん絵里と羽織のやさしい彼氏さんに頼むもん。」
といって2人に向き直る。
「と、ゆうことで頼んでくれる?もう予定組んじゃった?あ、もしかして先週の前科があるから私、嫌われたかな?」
どうだろうねぇって顔してる。当たり前だよね。だってその彼氏が目の前に居るんだし。
「そうだよね、先週、邪魔しちゃったんだもんね。そのせいで羽織今週1週間元気ないんだし。」
出来るだけ寂しそうに、なおかつ瀬尋先生に刺さるように声を出す。
ちらりと先生達の様子を見ると、どうやらそれは成功したようだ。
それを見た田代先生はふぅと息をひとつ吐いて、
「しょうがないな、まぁ、家も近いし手伝ってやるよ。な、瀬尋先生」
「・・・・・はい。」
「やったー!明日からベットで寝れる!床にお布団って厳しいんだよね。」
これはほんと。マジつらかった。おっと、羽織にフォロー入れなきゃ。
「絵里は来てくれるとして、羽織もこれたら来て欲しいな。」
なんで?って顔をしてる。その顔かわいいなぁ。
「だって、さすがに男2女2だったらご近所になに言われるか。彼氏がいいよって言ったらでいいからさ。無理だけはしちゃだめよ?また、来週元気ない羽織見るのやだし。」
笑顔が引きつってますよ?瀬尋先生。んふふ
「うん、わかった。聞いてみるね。」
「じゃぁ、明日の午前中に配送って言ってたので、お昼からでもお願いしますね。」
「労力に対しての報酬は?」
「田代先生、生徒から貰うつもりですか?」
「時間外労働だぜ?」
「・・・。何か用意しときます。」
「じゃぁそろそろ連絡してきたほうがいいんじゃないか?」
時計を指差す瀬尋先生。
あわてて、教室にもどる私たち。明日が楽しみ。
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